わが故郷代表の聖和がドリブル主体の独特のサッカーをする事は前もって聞いていた。しかし、正直言って観るまでは、どのようなサッカーなのか想像できなかった。そして、そのサッカーは...
本当に素晴らしいものだった。
センタバックがドリブルで持ち上がる。サイドバックがドリブルで逆サイドに進出する。中盤選手がドリブルで前進しヒールで落とし、それを受けた別な中盤選手がまたドリブルで前身しまたヒールで落とし、それを受けたFWがドリブルで最終ライン突破を狙う。確かに執拗に皆がドリブルするのは確かだ。
けれども、その執拗なドリブルは、明らかに敵を崩すための手段なのだ。全員が奔放にポジションチェンジをして、自由自在な場所に飛び出す。そして、執拗なドリブルで香川守備陣がバランスを崩した瞬間に、時にロングパスが、時にスルーパスが、時にクサビが入る。
1人1人が皆独特の持ち方、間合いを持っているのはもちろんだが、この手のドリブル主体のチームにありがちなドリブルが目的化する事がない。執拗なドリブルは敵を崩すための手段なのだ。
対する香川西がまた見事だった。フラットな4−4−2で、しっかりブロックを作り、丁寧に守る。簡単にボールを奪えないだけに、身体を当てて丹念に粘る。そして、ボールを奪うや、最前線にボールを当てて速攻を仕掛ける。聖和のポジションチェンジは奔放過ぎるので、ボールを奪われた瞬間はポジションが滅茶苦茶になっているので、香川の押し上げが素早いと、すぐに聖和の最終ライン勝負に持ち込む事が可能になる(これで、聖和がボールが奪われたところで、すぐに守備に切り換えてプレスかければバルセロナだが、さすがにそこまでは...)。そして、香川の各選手の技巧も十分に鋭く、かつプレイ選択の判断も的確。
かくして、全くやり方、コンセプトが異なる2つの鍛え抜かれたチームが、がっぷり四つに組んだ好試合が展開され、前半40分はあっと言う間に終了した。
全くの余談。聖和学園は、昔は女子校だった。女子サッカーの強豪として知っている方も多いだろう。
個人的な思い出。聖和の女子サッカーを育てたのは国井先生と言う監督。実は国井先生は私の高校が聖和から比較的近くだった事もあり、一時我々の指導をしてくれた事があった(当時は聖和はまだ女子サッカーに取り組んでいなかった事もあり)。当時日体大を出たばかりの国井先生の指導は激烈そのもの。短期間ながら、質量ともに厳しい練習により勝利への執念を我々に叩き込んで下さった。はるか30数年前の思い出。だから、聖和と聞くと、私は、何とも言えない想いになるのだ。
後半。香川は実に見事な意図的な守備で、聖和を苦しめる。
前半終盤あたりから、2トップは聖和のDFにプレスをかけるのを止めた。聖和のCBに当たりに行き、そこで外されて攻撃にスイッチが入ってしまうのを防ぐためだろう。聖和CBが、ボールリフティングで、香川2トップを挑発するのはおもしろかったが。
さらに、香川は聖和の引き球や横への揺さぶりにじっと我慢して、抜きに出た縦への動きにのみ足を出す事を徹底。これで、聖和は簡単には抜けなくなってしまった。こうやって書いてしまうと簡単だが、あれだけ聖和の選手が素早くボールを横に動かすのに対して我慢できたのは、香川の選手の「守備の1対1能力」が格段だから。
加えて、当たりに行かなくなった2トップを下げて、最終ラインから前線までを30m程度にコンパクトにして、聖和の横パスを狙う。それも、パスの受け手がトラップした瞬間を狙う。このトラップの瞬間を狙うのは守備の基本だが、あれだけの個人技の相手にそれを実現できたのは、香川の選手の「守備の基本能力」が格段だから。
そして、そのような的確な守備で、聖和ペナルティエリア近傍でボール奪取に再三成功、ショートカウンタからの揺さぶりで、後半序盤に香川が先制に成功した。
先制以降も香川の上記守備は的確に機能し、聖和は前半のように攻め込めなくなる。さらに香川は、ボールを奪うや、全選手の整然とした連動性のある速攻で幾度も聖和陣を襲う。中盤選手がラフタックルで2回目の警告で退場になり、10人になっても、フラットな4−4−1を継続。香川ペースは変わらない。
しかし、後半半ば過ぎ、聖和は見事なアイデアで、ペースを取り戻す。中盤後方のややプレスの緩い地点から、香川の浅い守備ラインの裏へのロングボールを使ったのだ。これは効果的だった。1度、これでGKと1対1の絶好機を掴むや、香川の守備ラインが下がり、それにより聖和のドリブルが再び有効になったのだ。
以降は、聖和の猛攻を香川が耐える時間帯が続く。時にロングボールで後方を狙い、守備ラインが下がると、バイタルにクサビを差し込む。クサビを受けた選手は、振り向き様にいやらしいスルーパスを通す。両翼に飛び出した選手の存在をフェイントにして、強引な切り返しと独特のヒールで、中央突破を狙う。しかし、香川GKは飛び出しのタイミングがうまく、聖和の決定機をはばみ続ける。聖和も、ドリブルが得意のチームにありがちなのだが、ややシュートが遅い事もあり、崩し切れない。それでも、聖和は終了間際、交代出場したFWが、左サイドから強引に持ち出し強シュート、やや幸運気味にアウトサイドに当たったボールは、不規則なカーブがかかりネットを揺らした。同点。ドリブルで崩す意図を持ったチームが、最後の最後に単独ドリブルで崩す事に成功したのだ。
PK戦。1人ずつ外した5人目。香川は大活躍のGKに蹴らせたが、宇宙開発。後攻の聖和は、この日大活躍の150cmの高橋が冷静に決めた。
両軍の若者達が叡智の限りを尽くしたすばらしい試合だった。
聖和のサッカーはあまりに魅惑的だ。聖和を観て、私が思い出したのは、89年李国秀氏が率いた桐蔭学園。長谷部、林、戸倉、栗原、福永を擁して見せてくれた魅惑的攻撃的サッカー。それに匹敵する魅力を感じたのだ。聖和の次の試合は、2日Nack5での近大附属戦。首都圏在住の方は(そうでない方も)可能ならば、観戦して欲しい。絶対観る価値のあるサッカーです。個人的事情で今年はどうしても仙台に帰省しなければならないのが、悔しいくらいだ。
近大附はこの日、盛岡商に5−1で完勝している(盛岡はベガルタ入りが決まっている主将藤村が故障で欠場、大黒柱不在のためか、近大附の3トップを全く押さえる事ができず失点を重ねた)。聖和にとって、非常に難しい試合となるだろう。また、この魅惑的なサッカーは、現実的に勝ち抜き戦向きではないかもしれない。けれども、仙台出身者としての出身地愛とは別に、この魅惑的サッカーが全国の場で1試合でも多く観られる事を祈らずにはいられないのだ。
2日も追っかけてみようと思っております(浦和在住で大宮は近いですし)。
箱根は視聴率とれるけど、高校サッカーなんか視聴率とれないんだからやる必要なし。反論ありますか?
たまたま拝見いたしました
今年2014年の聖和学園は私たちは期待しております。おっしゃる通り聖和の魅力は受け継がれていると思います。