天皇杯決勝、前半終了間際。FC東京の逆襲、左サイドでボールを受けたルーカスが、逆サイドに開いた石川直宏に正確なサイドチェンジを通す。見事にボールを止めた石川は、この選手独特の間合いを取った上で、縦に行くと見せて鋭く中に切り返し、強烈なシュート。しかし、ボールはバーをたたいた。
いずれのサポータでもない私は、このシュートが外れ、3−1のまま前半が終了したのに安堵した。これが入っていれば、前半終了時点で4−1になってしまう。いくら何でも、そうなったら勝負は決まりだ。それでは、「あまりにつまらない」ではないか。
でも一方で、石川の鮮やかな突破にも快哉を上げた。さらに「ああ、2年半前だったならば、絶対入っていたのに」と。でも...
2年半前。石川は冴えわたっていた。
元々、瞬間的な加速で敵を置き去りにするドリブル、ちょっと一泊おいてから出す出すスルーパスの精度とタイミングは格段のこの選手。ただ、負傷が多い事もあって、なかなかその活躍が安定しないまま20代後半を迎えていた。
ところが、あの2009年シーズン、石川は化けた。もちろん、ドリブルもパスも見事だったが、色々な形からゴール前に進出してからの、シュートの精度が格段に上がったのだ。そして、石川はおもしろいように、美しい得点を重ねてくれた。今なお、目を閉じるだけで、思い起こされる得点1つ1つの美しかった事!
石川は、当然のように代表にも再召集され、順調に活躍。南アフリカでの攻撃の中核を担うのではないかとの雰囲気もかもし出していた。
元々、その瞬間的な加速力から、サイドプレイヤとして評価されていたこのタレント。しかし、一方での持ち味は、その正確なボール扱いにあった。だから、独特のタイミングと精度のスルーパスも冴えていたのだ。そして、この頃の石川は、シュート前のアプローチからシュートそのものにかけて、身体の力をうまく抜くコツをつかんだのだろう。その加速力から来る敵DFの追随を許さないボールへの接近と、正確なボール扱いから来るシュート力が、いかんなく発揮されるようになっていた。
しかし...
同年10月17日レイソル戦、見事なすり抜けから鮮やかなシュートを決めた直後の事だった。石川は敵と交錯してしまった。重傷だった。
それでも、石川はワールドカップ前に帰ってきた。私自身としては、その潜在力を考えると、23人枠に入る事を期待していた。しかし、岡田氏の考えは違っていた。
あの、パラグアイ戦、最後のカードが石川だったら...延長後半終盤、憲剛のパスから抜け出したのが石川だったら...と、言う全く無意味な「if」を愉しんだのは、私だけではあるまい。
天皇杯決勝に戻ろう。「ああ、2年半前だったならば...」の後に思ったのだ。「でも、ここまで戻ってきてくれたのだから、トレーニングを積めば、あの2年半に戻ってくれるのではないか」と。
生石川を堪能したのは、この決勝戦からさかのぼる事、約2ヶ月、ベルマーレ戦だった。この日腕章を巻いてプレした。相変わらず負傷に悩まされ続けていた石川は、この試合で久々にスタメンに復帰したと言う。このベルマーレ戦でも、石川は上々のプレイを見せてくれていたが、いわゆる「切れ」はまだまだだった。しかし、シーズンが深まると共に調子は上がり、テレビ桟敷で愉しんだ準決勝のセレッソ戦の迫力は、なかなかのものがあった。そして、この決勝戦での動きは、あの2年半前に近づきつつあるものだった。
石川の瞬発力はピークを過ぎたかもしれない。けれども、その技巧と間合いの巧さは衰えるものではない。そして、石川は若い頃から、単純なスピードではなく、加速のタイミングで相手を突破してきた(だから、あの俊足にもかかわらず、長駆してサイドをぶち破るような突破は見せられなかったのだが)。だから、瞬発力が衰えても、タイミングをよりきめ細かに制御できれば、十分に突破力を維持できるはずだ。そして、パスのタイミングと精度は益々研ぎ澄まされて行くはず。だから、あのシュート能力さえ戻ってく来てくれれば。そう、あのバーに当たった一撃を、もう少し修正できれば。
我々は、世界のどこに出しても誇りに思える最高級のドイスボランチを所有している。そして、その前に幾多のカードを持っている。ペナルティエリア内の僅かなスペースから挙動を開始して、高精度のシュートを決められる男。フィールドの全域を見回して、長短の正確なパスを操れる男。世界のどんな守備者にもフィジカルで負けず、強さと芸術を具備した左足を持つ男。フィールド全域で攻守に献身し、最後の最後に敵ゴールエリアに進出しボールを敵陣にねじ込める男。
ザッケローニ氏にしても、それらの豊富なカードに、独特の間合いから突破とパスが選択できて、シュートが格段にうまい男、が加わる事を拒絶する事はあるまい。
2014年、石川はまだ33歳なのだから。
2012年01月20日
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ナオの2年前を思い返すと、高揚感が沸き立ちます。
ナオが代表のシャツを着た2009年の試合を思い返すと、不安と心配と期待と、きっとやってくれるという希望を胸に感じたのを思い出します。
ナオがザッケローニ監督に招集され、W杯のメンバーに選ばれるなんて、そんなことを想像だにしなかったので、今回のエントリを読んで、涙が出ました。
2014年、楽しみに、応援していきたいと思います。
無事に迎えられる様に、祈ります。
今でもアテネ五輪で惨敗し、当時の監督が本番でほとんど使わなかったため、
試合後涙目で「悔しい…」とインタビューに答えていた姿を、おぼろげですが今でも思い出します。
よもや2014年のブラジルW杯で石川ナオが観られたらと思うだけで胸の鼓動がちょっとヤバイです。
同じく復活を願います。
もし復活したら、アテネ世代は今野と阿部、石川の三人ですよね?
うーむー、あの世代、好きだったので想像するだけで感無量です。
あと文章かっちょよす(笑)
大久保、松井、駒野、前田もアテネ世代ですよ。
五輪ごとの区切りでいえば川島、長谷部という
代表の柱もこの世代。
トラップから一瞬で敵陣を寸々に切り裂くスピード、まだまだ健在です。ザックの代表で見たいなぁと思います。