市街地南西部のモスクワ川に囲まれる形の、いわゆるオリンピック公園。その中央部に位置する、モスクワ五輪の主会場だったレーニンスタジアム。いや、今はレーニンスタジアムではなく、ルジニキスタジアムと言うらしいが。でも、入退場したバックスタンド側の入口には、高さ10mもあろうかと言うレーニン像があるのだから、ここはレーニンスタジアムと呼ばせていただこう。
競技場は、ベージュ色の長方形の大理石の組み合わせで覆われており、多数の細い正方形角の柱がそれを支えるような形態。30年以上前に作られた(改装されたが、正しいのか)建造物だが、外観はとても美しい。ちょっと上部のすりガラスが、デザイン的には興ざめだが、これは好みの問題だろう(デザイナだって、まさか極東のサッカー狂の注文は気にしないだろうし)。少なくともモスクワ五輪当時、この国は世界最強を競っており、国の威信を賭けてこの競技場を改装したはずだ。その歴史は重い。
モスクワ五輪と言う単語に、私の世代の人間は何とも言えない重苦しさを感じてしまう。「政治とスポーツ」と言う陳腐な単語を使いたくはない。でも少なくともあのボイコットにより、山下泰裕、高田裕司、瀬古利彦と言った当時世界最高級の実力を誇った私たちのスーパースタアが、栄冠を狙う前にその機会を奪われた。
何のためにいるのかわからない警官が無数に周囲を固めているが、いずれも(当たり前だが)英語を使えないし、案内をする気もない。皆、いかにもロシア人らしい彫の深い顔つきをしており、実に恰好いい迷彩の制服を着ているのだが、ただ、私たちを威圧しているだけだ。この威圧がなければ危険が高まるほど、サポータたちの振る舞いは「危ない」とは思えなかったのだが。それとも集団による「無言威圧」が危険を未然に防ぐ効果をしていると言うのだろうか。
警官10人に対し、1人くらいの割合で「steward」と言う英語を表記した蛍光色のビブスを付けた人々がいるのだが、彼らが一生懸命我々観客を、案内してくれて、重層に囲んだ制服警官を突破し、ようやくスタンドに入ることができた。
CSKAモスクワは、この日はアンジと言うクラブをレーニンスタジアムに迎えた。CSKAが2位で、アンジは7位、リーグ戦では典型的な中位のチームの模様。調べてみたら、このクラブはいわゆるロシアの南端のダゲスタン共和国のカスピ海に面したマハチカラと言う都市のクラブとの事だ。このダゲスタン地方、西にはチェチェン、南にはアゼルバイジャン、南西にはグルジアと言う位置。
旧ソ連のサッカーを支えた地域と言えば、誰もがキエフを軸にしたウクライナを思い浮かべる。しかし今日のグルジアの首都でもあるトビリシのクラブ、ディナモ・トビリシは、ソ連リーグやカップウィナーズカップを制した事もある。そして、グルジア出身の名手と言えば80年代(オレグ・ブロヒンを後方から支えた)ダビド・キピアニあるいは、最近のカハ・カラーゼなどが思い起こされる。その、グルジアのすぐそばの、カスピ海沿岸都市と言われれば、サッカー的見地からすれば、何となく期待できるのではないかと言うものだ。
観衆は熱狂的だが、8万人は入ろうかと言う競技場に観衆は2万人くらいだったのだろうか。観客席を完全に屋根が覆っているため、数千人のCSKA、千人足らずのアンジ、それぞれのサポータの声援はよく反響し、雰囲気はよい。ただ、あれだけスカスカだと、日産スタジアム現象は否めず、もう1つ盛り上がりに欠けたのも確か。でかい入れ物と言うのは、いずこの国でも難しいものだ。
本田圭佑は、今節もベンチ外。諦めてはいたが、せっかくレーニンスタジアムまで来たのだ。「本田圭佑に会いたかった」のは確かだ。でも仕方がない。まずは、じっくりと負傷を直す事だ。
ホームのCSKAは、全く攻勢をとれない。
CSKAは、センタバックのイグナシェビッチとアレクセイ・ベネヅキーのロシア代表コンビの強さは格段で、右バックのナバブキンは堅実なタレント、左バックのシュチェンニコフは左足でのサイドチェンジを狙う。ボランチのアルドニンの配球は巧みで、リトアニア代表と言うシェンベラスはよく動いて穴を埋める。GKのチェプチュゴフを含め、シェンベラスを除いては後方は、皆ロシア籍の選手だ。守備面におけるこの後方の7人の連携、個人的な守備の対応のうまさは、やはり相当なレベルだ。特にイグナシェビッチの、とっさの読みは格段。これだけでも、長旅の疲れが癒されると言うもの。
一方の前線は、おなじみドゥンビア(同時期にJ2にいた友人がこうやって出世したのを観るのは何とも嬉しい、コートジボワール)、ネツィド(チェコ)、トシッチ(セルビア)、ムサ(ナイジェリア)そして後半ムサに代わって起用されたオリセー(リベリア、あのナイジェリアのオリセーの甥御さんらしい)と、まあ多国籍の代表選手がズラリ。そして、この前線の「個人能力系」のタレントの連携がひどい。と言うか、これらのタレントのほとんどは「連携意識」に欠如を感じるのだ。乱暴な例えだが、どこかの国の五輪代表チームに似ている。
だから、ボランチのアルドニンが苦労して前線に好配球しても、前線の彼らが強引な突破を狙うところを、アンジの組織守備に刈り取られてしまう。そのボールを、イグナシェビッチが落ち着いて跳ね返し、アルドニンが苦労して...(以下同文)。たまに、アンジの多人数攻撃をかけてきた時に、シェンベラスあたりが見事にボールを奪い、速攻を仕掛けるのだが、そこでも連携不備が目立つ。最前線のドゥンビアが適切な位置取りで敵DFの薄いところを狙うのだが、それに呼応したパスは出ずに、せっかくの速攻も生きない。かくして、逆にまたアンジの速攻を食らい、それをイグナシェビッチが...まあ、イグナシェビッチがいるところが、どこかの国の五輪代表と異なるところとも言えるのだが。
ちなみに、ヴォルティス&レイソルOBについて。完全なエースのようで、周囲のサポータも彼がボールを持つと「どぅんびあああ」と大騒ぎになる。日本時代とはややプレイスタイルが変わったように見えて、あまり強引には行かない。ボールを1回引き出しておいて、丁寧にはたいて、敵DFの隙を狙い裏を突く。ここで、裏を突いたところで、よいパスが出ればよいのだが...
一方のアンジ。
これが期待以上の内容。トップ下に位置するブスファと言う選手がすばらしい。小柄だが、技巧的で、ボールを受ける動きもよく、パスもうまい。中村憲剛の視野を少し狭くして、清武の前進意欲を加えたような選手だ。後から調べたらアヤックスの下部組織出身のモロッコ代表との事、「なるほどね」と言いたくなるような選手だった。イグナシェビッチに加えて、このブスファを堪能できたのだから、長旅した甲斐があると言うものだ。
ボランチの大柄なムハンマド(アフガニスタン系ロシア人らしい、この選手がまたいい)のボール奪取から、ブラジル人のジュシレイが展開、ブスファがさばいて、両翼からロシア代表のジルコフと、我々を過去幾度も悩ましてきたウズベク代表のアフメドフ(アフメドフがこのクラブにいるなんて全然知らなかった、不勉強を反省すると共に、再会を喜ぶ)が攻め込む。これらの攻撃の連携と洗練は、CSKAを格段に上回っている。
またアンジの守備もよい。ムハンマドの読みのよさは格段だし、コンゴ代表のサンバの高さは抜群(ブスファのボールに合わせるセットプレイも脅威だった)。コンビを組むガジベコフも位置取りがすぐれたCB、両サイドバックのタギルベコフとロガショフも堅実で4DFのラインは非常に安定している。GKのガブロフも守備範囲の広さが目立つ。
結果的に、試合は完全にアンジペースで進んだ。上記したように、CSKAの非組織的な攻撃をアンジがスマートに奪い、ブスファを軸にした攻撃を、イグナシェビッチが跳ね返す。この展開が試合中ずっと継続した。どちらがホームかわからない内容だが、野次馬として面白いのだから、文句を言う筋合いではない。
すると、注目はアンジのフィニッシュと言う事になるが、アンジのトップは技巧は抜群だが、やや運動量が少ないストライカだった。
ちょっと話題飛びます。
本業で幸運が重なり、この日モスクワに降り立てた訳です。ところが、ここの所本業が忙しく、せっかくの生観戦ですが、ロシア訪問前に両チームの予習をする時間は全くなかったのです。だから、事前におさらいしたのは、上記した対戦相手のアンジの概要と、本田圭佑の動向くらい。だから、本田との再会は「難しそうだな」とは覚悟しての観戦となりました。
初めてのチームの試合観戦は、その程度の前知識だけ持っておいて、後は実際の試合で選手の背番号とプレイの特徴や勝負どころをしっかり押さえ、試合後に各種のサイトでそれらの選手を復習する方が、時間的に各段に効率がよいのです。もちろん、時間をかけて予習してから観るのがベストなのですがで、今回も、そのような(サボる)やり方を採用した訳です。
だから、ここまで述べてきた内容も、選手名などの多くは(ドゥンビアを除いては)、すべてこのやり方でホテルに戻ってから勉強したものです。上記したように勉強不足で恥ずかしく、アフメドフがこのクラブにいる事すら、試合後に確認し、「ほお、あのボールの持ち方は」と思い起こした次第です。
話を戻します。
そのトップの技巧派、ホテルで名前を調べたら...この人だったのだ。「でえぇぇぇぇ!」とこのクラブを調べてみると、監督はこちら、選手兼コーチにはこんな方まで。いや、参ったね。
後悔もちょっとある。このストライカの事を前もってわかって観ていれば、もっとボールの受け方や挙動を丁寧に観察できたのではないかと思ったりする。たとえば、終了間際にペナルティエリアぎりぎりで倒されながらも、審判が笛を吹かなかった場面(これはその直後の写真と思われる)を、もっと味わえたのではないかと悔しいのだ。
でも、監督の存在を知ってこの試合を観ていたら、「何か」を期待して観てしまった事だろう。そうすると、逆にブスファの能力への感動や、ムハンマドとジュシレイの連動の観察が逆におざなりになってしまったような気もする。監督そのもののインパクトが大きすぎるから。今思えば、ムスタファが削られて動きが鈍くなった場面、ムスタファに変えてシャトフと言うウィングを起用。ブスファを後方に下げて、大きな展開から決勝点を狙った采配など、「ああ、ナルホド」感が一層強かったりして。まあ、そう思って不勉強を反省しつつ、事後のホテルでの新たな感動を堪能しつつ作文している次第。
さてCSKAに話を戻そう。
ホームでの苦闘は続くが、終盤になっても攻勢をとろうとしない。とれなかった、と言うのがより正しい表現だろう。
アディショナルタイムに入る頃、つい先日36歳になったボスニアヘルツェゴビナ代表でもあるラヒミッチを投入、過去このクラブに多大な貢献をした大ベテランらしく、サポータの声援は最高潮となった。実際、ラヒミッチは闘志あふれるプレイで再三ボールを奪い、攻撃の起点ともなって、オリセーの突破から決定機も作られた。けれども、その交代はあまりに遅いものだった。
上記したように、ドゥンビアにパスが出ないのだ。
本田圭佑の復帰を心待ちにしているのは、我々だけではない。
2012年04月08日
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【サッカー】日本代表MFの本田圭佑が、移籍を志願する趣旨の発言!ロシアから離れる準備があると示唆
Excerpt: 1 :お歳暮はウンコ100トンφ ★:2012/05/24(木) 12:20:46.83 ID:???0 CSKAモスクワに所属する日本代表MFの本田圭佑が、移籍を志願する趣旨の発言をしたと、ロシア..
Weblog: 【豆β】芸スポ速報+
Tracked: 2012-05-24 20:09









ちなみにコーチには去年まで赤チームを指揮していた人が就任し、こちらも話題になりましたよ。
> 当時世界最高級の実力を誇った私たちのスーパースタアが、
> 栄冠を狙う前にその機会を奪われた。
政府・自民党の意を受けて、岡野俊一郎さんが日本をボイコットに追い込むために、JOCや体協で画策したって噂は本当なんですかね?(ニヤニヤ)
彼に戦々恐々としていた2年前が懐かしいですね。
遠いモスクワでいつも講釈楽しく拝見してます。ベガルタ強くて羨ましいです…。またぜひ当地にお越しください。冬も終わり本田も復帰?見込みですし。