2012年05月11日

1986年3月22日西ヶ丘競技場

 1986年3月22日土曜日。85−86年JSL最終節、三菱対全日空戦。私にとって、シーズン最後の観戦となる試合だった。

 このシーズンはとてもよいシーズンだった。
 日本があと一歩でワールドカップに到達するところまで行った(「メキシコの青い空」、あの「木村和司の直接フリーキック」)。清雲栄純監督が率い岡田武史が主将を務めた古河が、ゾーンディフェンス、前線からのハイプレス、サイドを使った高速カウンタと、今日でも通用しそうな組織的なサッカーを見せJSLを制した(翌年古河はアジアチャンピオンズカップも制覇する)。元日には、木村和司がリーグでの不振のうっぷんを晴らすようなプレイを見せ、日産が技巧あふれるサッカーで若きMF鈴木淳を軸としたフジタを圧倒、天皇杯を高々と上げた。
 このシーズンはとてもよいシーズンだった。
 
 けれども...

 試合開始前の整列。我が目を疑った。全日空の選手が足りないのだ。キックオフ直後は選手は8人しかいなかった。開始直後には、控えのGKがフィールドプレイヤとして入り、最終的には11対9で試合は行われた。観戦していた我々には、何が何だかわからなかった。
 自分達が行う草サッカーにおいては、このように人数不足での試合はいくらでも経験した事があった。けれども、トップレベル、有料で行われている試合で、このような事があるのは許されない。
 
 後日、段々と状況がわかってきた。
 全日空は、今シーズンJSL1部に昇格した。横浜のサッカークラブに70年代後半から全日空が出資。プロフェッショナリズムを志向したクラブとして、読売、日産に次ぐ存在になるのではないかと期待されていた。けれども、開幕当時の期待に反し、チームは不振を極め、最下位を独走。シーズン当初のメンバとは随分異なる陣容で連戦連敗、早々に2部降格となってしまっていた。
 その背景に、元々のクラブに所属していた人々と、全日空経営参画以降の人々の対立があったらしい。そして、財布を握っている後者が優位となり、結果的に前者の人々が排斥されたとの事。そして、最終節において、監督(派閥としては後者らしい)がシーズン最後と言う事もあり、前者の選手6名をスタメンおよびベンチ入りさせた。監督しては、チームを去る6人に対するせめてもの配慮だったのだろう。
 ところが、その6人が試合直前にボイコット、会場を去ったと言う。JSL1部の公式戦と言う日本最高峰の試合に泥を塗る事で、恨みのあるチームに迷惑をかけようと言う魂胆だったのだろう。彼らは己の恨みを晴らすために、サッカーを売ったのだ。

 私は彼ら6人を許せない。
 サッカーを売った人間を許す事はできない。
 したがい、直後に日本協会が下した「6人を永久追放(クラブは3カ月活動停止)」と言う処分は妥当なものだと思っている。
 当時彼らの敵であった全日空は、12年後に私たちに対して本当に許し難い行為をしている。彼らは鋭敏にそれを察していたとも言えなくはないだろう。だけど、それと日本最高峰の試合を汚したのは別な話だ。
 そして、あの試合を観戦した人間として(それを自慢に思う気持ちは否定しませんがね)、この6人は「本当に永久追放」となって欲しかったとは思っているが、「罪を恨んで人を恨まず」も大事な事はわかっている。何人かが処分解除され、そのうちの1人がサッカー界の中枢で偉そうに活動しているのを見て、苦々しく思いつつも、仕方がないかとも感じていた。
 今回の報道。当時の主犯格?の2人も免責となるらしい。それはそれでよいだろう。もう26年経ったのだから。

 あの試合。三菱が6対1で勝利した。この日も堅実にプレイし、しっかりと得点を決めた原博実。私は原が得点を決めた直後に見せる笑顔が大好きだった。この日、原は笑顔を一切見せなかった。
 26年経った。私は今回の日本協会の判断を評価したいと思う。しかし、私は彼ら6人を許さない。
posted by 武藤文雄 at 00:55| Comment(4) | TrackBack(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今朝15日の朝日新聞スポーツ欄に唐井氏の記事がありますね。当時の僕は軒を借りて母屋を乗っ取った全日空の方が許せなかった。
協会は検察と被告弁護士と裁判官を兼ねた存在であり、その裁定を公平とは思えなかった。将来のスポンサーの顔色をうかがった灰色裁定だと思っていた。今もその思いは消えない。
当時はまだ観戦者はプレイヤーのお客様では無かった時代だった。プレイヤーは観戦者に義務を負ってはいなかった。
Posted by くまおま at 2012年05月15日 08:29
それと「売った」って・・・彼らは金銭を受け取っていないので、その表現はちがいますよね。揚げ足取りでは有りませんよ。
Posted by くまおま at 2012年05月15日 08:39
くまおま様

あなたにとっては、当時のJSL(日本のすべてのサッカー人が目標としていて、加藤久、木村和司、岡田武史、原博実らが、心血注いで戦っていた、私たちのトップリーグ)は、大した存在ではなかったのでしょう。
だから、意見が異なるのは仕方がありません。

有償のイベントですから、観戦者に義務を負うのは当然で、貴兄の認識間違い。しかし、私は観戦者への義務を果たさなかった事のみに怒っているのではありません。すべての日本のサッカー人を愚弄した彼らを許さないと、言っているのです。

「スポンサの顔色云々」は、本件の典型的な「論理のすり替え」です。

「売った」は、正確な表現だと思っています。トップリーグを貶める事を、自らの主張のために選択したのですから。
Posted by 武藤 at 2012年05月20日 17:31
僕が真実を知る人ではありませんので、事実を書いているのでは無く「思った」と書いています。何しろ当時全くの部外者が真実を知ることなどほぼ不可能でしたから。ただ、なぜこんな事件を起こしたのか?については非常に興味がありました。ちなみに僕のコメントに武藤氏の人格を攻撃する様な記述はしていないつもりです。
なお「スポンサーの顔色云々」は訂正します。不要な一文でした。これについてはお詫びいたします。

以下ウィキペディアから抜粋
1964年に横浜市中区スポーツ少年団として創設、当初は小学生から社会人の各年代のチームを擁する市民クラブであった。
1975年に横浜サッカークラブに改称。1979年から全日空が資金援助を行い名称も横浜トライスターサッカークラブと変更された。1984年に日本サッカーリーグ(JSL)1部昇格を決めた事を契機に、全日空は完全出資会社「全日空スポーツ株式会社」を設立し、全日空横浜サッカークラブに改称、本格的な経営に乗り出した。
しかし1985年シーズンのJSL1部では最下位と低迷を続け、来期に向けた選手との契約問題のもつれからボイコット事件(後述)が発生し選手や関係者が処分される事態に発展した。 (抜粋終わり)

70年代後半から、僕らは欧州型のサッカークラブの様子を、例えばサッカーマガジンやイレブンで、あるいは少年団の指導者のドイツ研修旅行の土産話などで、多少なりとも知っていたし、憧れてもいました。その中でこの横浜のクラブのささやかな成功物語は、●●郡●●町サッカークラブでも欧州型クラブになれるんじゃないか?って言う夢にさえなりました。当時の現状では日本リーグなんかじゃダメで、横浜成功物語が増えて行くしかこの国のサッカー界の未来は無いとも思っていました。
当時の日本代表は、きらびやかな名手がそろっていたと語られるにも関わらず、アジアでさえ勝てなかったのです。海外から来た指導者も、高校サッカーの方がクリエイティブでハイレベルだと指摘していたと聞いた事があります。なぜ彼らがトップリーグでレベルダウンするのだと。もちろんその年代で海外と比べての話なのですけどね。ダイヤモンドサッカーを見てた世代ですからね。日本サッカーを僕なりに愛していただけに現状が許せなかったし、晴れない心で何度か見ていました。
当時、町クラブのステップアップが、いつの間に、変節して行く様がどうにも耐えられなかったものです。日本のサッカー界を、僕らの夢のなれの果てを忸怩たる思いで見ていたのです。人ごとでなく日本のサッカー愛好者として!ですよ。
だけど今振り返るなら、当時プロのサッカーチームなんか無かった時代ですよ。プロ選手が生まれてきていたと言ったところで、何をもってプロと言えるんだ?っていう状況だったと捉えています。
チーム運営も、理想と現実をどうシンクロさせるのか、選手とチームの関係、運営、お金などなど
有償のイベントだとしても、当時、そこにどこまでプロがいたのか、それをどれだけ意識していた選手がいたのか?
Jリーグが出来てからでも、プロを勘違いしてとらえていた選手が続出し、チームも試行錯誤事した事を考えると、ボイコットやむなしと考える選手が当時いたとしても不思議じゃない。

そうい中で起きた不幸な出来事と僕はとらえています。やった事が悪いことなのは当たり前。でもそれを引き起こした環境もあるんですよ。

武藤さんが余りに厳しいコラムをアップさらたがゆえに、僕は違和感を感じたのです。



どうで良いことですが、僕は商売に携わっています。「売って」生計を立てています。「貶める事」を「売る」と表現されることに違和感を感じます。江戸時代の「士農工商」の身分制度が今も生きていると言うことなのでしょうか。私にはそう読めます。まあ西洋は階級社会だと言いますし、ベニスの商人の物語もありますから、咎めだてするつもりは有りませんが、違和感は残ります。分けて書いたのは本件主題と別の事でしたので。

以上、言い訳しておきます。シカトでも削除でもなさってください。恨むことも根に持つこともありませんから。






Posted by くまおま at 2012年05月26日 12:13
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