2012年07月29日

スペイン戦勝利を喜ぶ

 女子は、キッチリと1勝1分けのスタート。2試合とも、90分間のスタミナが続かなかったのは、準々決勝以降に合わせているからの好材料と見る。ただ、スウェーデン戦の終盤、全体がエネルギ切れになっていたにもかかわらず、前線の選手が無理に「前に前に」行ってしまった事は不安材料。結果が欲しい大儀見と岩渕が、よい意味での欲を出したと前向きに捉えておこうか。
 いずれにしても、カナダ戦の前半にしっかりと2点奪ったところで、1次リーグは完了し、準々決勝以降の調整を始める事ができたようなもの。
 1次ラウンドは1位でも2位でも、対戦相手的にはあまり影響はない。ほぼ間違いなく合衆国が1抜けするので、決勝までの同ブロックになるのは、英国、ブラジルのいずれかと、フランス、スウェーデンとなる。
 この中で戦闘能力が落ちそうなのは英国だが、地元と言う利点があるので、厄介な事は変わりない。ただ、歴史的な経緯からチームとしてのまとまりは疑問なところ。
 フランスは直前の準備試合でやられたが、あの試合のあたりが、先方のピークだったのではないか。北朝鮮への大差の勝利も、フランスが早いところにピークを合わせている証左となる。こちらは準々決勝に合わせているし、タイトルマッチの経験を含め、常識的には日本有利。
 もちろん、この中ではブラジルが一番難しい敵となろう。澤がFIFA最優秀選手に選ばれた時の、マルタの悔しそうな顔は忘れ難いし。当方として一番ありがたいのは、ブラジルが1抜けであちら側のブロックに行き、準決勝で合衆国と死闘を演じてくれる事ではあるが(そして、ブラジルが来る事か)。
 ただし、もしブラジルが2抜けで、こちら側のブロックに来たとしても、上記の4国中3国と日本の勝ち抜き戦を考えれば、最終的に勝ち残る確率は日本が一番高いだろう(もちろん、だからと言って、決定的な差はないのも確かで、苦しい試合が続くのも間違いないが)。
 つい1年前、我々は難しい本番で、ドイツも合衆国も振り切った経験を持つのだ。何ら、楽観的な事を言うつもりはないが、コンディショニングと言う視点からは。昨日のスタミナ切れはよい兆候と見る。期待しよう。

 と言う事で、スペイン戦。いや、気持のよい勝利でした。
 ピークとすべきこの試合にしっかり合わせ込んで来た関塚氏はさすがだ。このように、「大事な試合に合わせる」のは、監督としての能力の重要な1つ。ここまで氏には、かなり厳しい事を書いてきたが、さすがJ屈指の実績の持ち主。以前も語ったが、我々は関塚氏を超えるカードはそう多くは持っていない。そう考えても、ここに関塚氏が合わせてくれて来た事は、嬉しかったし、やや安堵の気持がある事も否定しない。

 オーバエージの2人が、戦略的にチームの中軸となり精神的支柱となるのみならず、予選段階の弱点に対する人材的な補強となっているのも、結構な事だ。これは、関塚監督と原技術委員長の適切な連携を、大いに讃えるべきだろう。
 徳永の堅実な守備と、効果的な押し上げは、ブラジルを目指す伊野波や今野や駒野にとって、大いなる脅威と言える。しかも、本業とは言い難い左サイドを如才なくこなしたのだから。
 そして麻也の堂々たる君臨振りはもう最高。終盤、スペインの攻撃が、ことごとく麻也の守備範囲に収まる場面は、かつての井原や中澤を彷彿させる感もあった。大会初戦にして、ザッケローニ氏の高笑いが聞こえてくるかのように感じたのは私だけだろうか。

 そして、全選手が、敵の喉元に食い付きながら、丁寧にボールを大事にして、几帳面に修正を繰り返してくれた。正に「日本のサッカー」だった。
 ただ、このスペイン戦で重要だったのは、やはり永井の存在だろう。従来日本が世界大会で戦う時の1つの課題は、ある程度後方を固めた際に、長駆型の速攻を仕掛けるための最前線で少人数突破が可能なタレントに乏しい事だった。そのため、ある程度攻めの形を作るためには、相当数の人数が前線に入る必要があり、そこがリードした時の試合運びの難しさだった。唯一の例外は、2003年後半から2004年半ばまでの、久保竜彦が君臨したほんの短い期間だったのだが。しかし、この日は永井の長駆俊足が、スペインの守備ラインを悩まし続けた。
 終盤、永井が幾度も長駆し好機を演出し、スペインに攻め返されて、トコトコとオフサイドを警戒しながら疲労をこらえながら戻る場面は、美しかった。このやり方は、一昨年のアジア大会を制した際のものだったが、永井は1年グランパスで経験を積み、ボールの受け方が格段にうまくなった点が大きな進歩。これまた、ザッケローニ氏のニヤケ顔が目に浮かぶな。さらに、後方のチームメートも、予選の悪い時期に見せた無計画な縦パスではなく、東を軸に丁寧につないで、フリーになった選手が高精度のロングボールを通したのがよかった。
 関塚氏も、さすがにこの難敵はリスペクトしたと言う事だろう。つまり、安易な縦パスではダメで、後方から組み立てなければならないと理解していたのだろう。予選から、このような組み立てをしていれば、シリアにあそこまで苦しむ事はなかったのだが。

 もちろん、前半終盤の退場劇が、事実上勝負を決めたのは間違いない。前半半ばから、日本の組織守備がほぼ完璧に機能していたが、前半立ち上がりに(日本から見て)左から右に短いパスを回され崩されかけた場面があった。マタを軸にしたあの高精度パスの連続を考えると、やはり11人揃っていたら、相当苦しい試合になっていたと思う。ただし、あの退場は、永井の突破力が生んだものなので、スペインが10人になってしまったのは、幸運と言うよりは必然と言うべきものだろうが。
 そして、スペインは人数が減ったにもかかわらず、11人いる時と同じサッカーを狙って来た。このスペインの柔軟性のなさには驚いた。前半から、日本がブロックを固めた際に、思うようにラストパスを通せなかった。したがって、人数が減って同じ事をしていたら、苦しむのは自明。せめて、サイドチェンジを増やすとか、片方のサイドに偏在するとか、何か工夫をしてくるかと思ったのだが。かくして、1人少ないスペインの攻撃は、ことごとく麻也の餌食となった。危なそうな場面は、アルバに裏を突かれたくらいだったが、権田が冷静にさばいた。

 ただし、今後の試合が余談を許さないのは間違いない。最大の課題は、敵が守りを固めて来た時に、崩せるかどうか。初戦がスペインだった幸運を活かし、守備組織はある程度完成した。ここから、どう攻撃を積み上げるか。モロッコもホンジュラスも、そして準々決勝以降の相手も、永井の脅威は理解しているだけに、後方を分厚くしてくる事だろう。そうなった場合に、どうするか。遺憾ながら、スペイン戦後半で、どうにもシュート力に課題がある事を露呈してしまった。また、予選段階で、このチームの攻撃連係が拙い事も示されている。だからこそ、戦いながら、連係をを築き上げて行く必要がある。
 カギになるのは、ずばり、扇原、東、そして宇佐美だと思う。
 扇原の重要性は言うまでもない。つなぐ場面、ためる場面、縦を急ぐ場面、それぞれをいかに使い分けるか。予選段階で相当苦しく追い込まれたこのチームを救ったのは、敵地マレーシア戦で冷静にボールを回した扇原だった。今度は格段にレベルの高い相手に、同じ事ができるか。期待されるのはこのチームの遠藤的存在である事を自覚して、頭を働かせて欲しいのだが。
 スペイン戦の東はもちろんよかった。すばらしいファイトで戦い続け、よく攻撃を展開した。しかし、今後東はもっと難しい責務を果たしてもらう必要がある。スペイン戦では、多くは速攻の担い手だったが、今後の試合では、遅攻の軸となってもらわなければならないのだ。永井はもちろん、大津も清武も齋藤も、前線で技巧と工夫の粋を尽くして、敵を崩そうと努力する。彼らを組織化して、攻撃を操るのは東の役目なのだ。急の中にいかに緩を加えて、攻撃を組み立ててくれるか。
 そして宇佐美。最後の最後、敵を崩すためには、切れ味鋭い個人技が必要。そして、その可能性を一番持っているのはやはりこの男だろう。宇佐美の「素材」を疑うものではないが、ガンバでそこそこの活躍をした後に、よりによってバイエルンと言う超トップレベルのクラブに加入した事もあり、試合での実績をほとんど積む事ができていない(まあ、それを言うと大津も、ボルシアMGで出場機会を、あまり得られていないようだが)。そのためもあるのか、とにかく「タフではない」と言う印象が強い。しかし、五輪で上位進出するために、彼の力が必要な事を否定する人も少ないだろう。
 
 初戦に難敵に勝利した事ものの、アトランタのようにその後の失速を心配する向きも多いようだ。しかし、当時のチームのこのチームは、選手のプロフェッショナリズムは全く違う。自ペナルティエリア内で敵の反則と勘違いしボールを手で扱ったり、もっと点差を広げなければならないのに自らの得点を喜ぶパフォーマンスを重視するような選手はいないはずだ。油断してはいけないが、常識的には上記の攻撃連係を積み上げる事で、準々決勝進出は十分可能なはず。スペインに勝利した事で、ブラジルと準々決勝で戦う事も回避できる可能性も高い。各選手には、誇りをもって、より高みを目指す努力を積み重ねてくれる事だろう。
posted by 武藤文雄 at 19:02| Comment(11) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おおむね同感です。これからの成熟に期待したいです。

ところで最後の段落の2行目

「当時のチームのこのチームは、」

当時のチーム【と】このチームは、

の誤記では?
Posted by at 2012年07月29日 20:35
ラマダンの影響がどこまであったのか?
モロッコ選手が水飲んでたかどうかまで気が回らなかった。
Posted by at 2012年07月30日 03:31
武藤さんのおっしゃる通り、アトランタの時とは
隔世の感がありますね、プロフェッショナリズムという点で。
当時も選手たちは精一杯やってたとは思いますが。
Jリーグを土台に日本が経験を蓄積してきている
のを実感します。
Posted by at 2012年07月30日 04:22
ハーフタイムで選手がロッカーに引き上げるとき、モロッコのGKが抱えてたタオルのなかにはペットボトルが見え隠れしてたよ。
Posted by at 2012年07月30日 06:27
関塚さんはずっとこのサッカーをやってきた。川崎時代からw
おっしゃるように敵が守りを固めて来たときをどうするか。
まあでも、世界の決勝トーナメントでそこまで日本をリスペクトしてくる国があるかというと…韓国ぐらい?
だから頑張れジュニーニョ、じゃなくて永井。

ボロカスに言われながらも、若さを信じてOAを最小限度に留め、
かつ絶妙な塩加減に仕上げた原氏も素晴らしいと思います。
A代表でいまいち手薄だったボランチから後ろの若者にしっかりとした経験を積ませることができました。
Posted by at 2012年07月30日 11:32
やはり南アW杯の経験が大きいのでしょう。
コンディショニングや疲労回復なども含め、協会での蓄積が活かされているように思います。
過去のオリンピック代表日本人監督のうち、西野・山本両人はクラブチームでの監督経験がない、いわば初心者。
関塚氏は年齢もいちばん上だし、優勝争いを経験している監督ですから、いちばん実績を残して当然だろうとは思います。
Posted by mmi at 2012年07月30日 12:19
>このように、「大事な試合に合わせる」のは、監督としての能力の重要な1つ。

「大事な試合に合わせる」という概念のないブラジル人はイラクから遁走を計画中。

>当時のチームのこのチームは、選手のプロフェッショナリズムは全く違う。

ハーフタイムに監督に文句を言ってチームを崩壊させたような人はもういない。
Posted by at 2012年07月30日 20:16
ここ2試合の山口蛍は最高のデキですね。きっと、ドルトムントあたりが涎を垂らしてますよ。

扇原はキックの種類が少ない印象です。裏に出す場合はバックスピンをかけるか、滞空時間があるボールをお願いしたい。あと、ダバダバ走るランニングフォーム。
桜に戻ったら取り組んで欲しいと、つい欲張ってしまいたくなる。逸材だけに。
Posted by at 2012年07月30日 20:34
武藤さま

最近お仕事がお忙しいのか、更新少なく残念に思っております。
日本代表がいい試合をしたあとは、武藤さんの文章で再度ニヤニヤするのがいつからか楽しみになっているのです。
お忙しいとは思いますが、短文で良いので毎試合の更新を期待します。

と、ここまで書いて「短文」にピンと来てtwitterを覗くと、しっかりツイートされていたのですね。
でも「ブログ記事」でニヤニヤしたいのです。
数年後も読み返してニヤニヤしたいと思うのです。

追伸
もし僕がむとうふみお君の担任ならば、毎試合ごとに1500文字程度の感想文を夏休みの課題として命じるのに。(冗談です、許して下さい)
Posted by あら at 2012年07月31日 12:35
ミトコンドリアの「DNA」は女にだけ受け継がれるみたい。
イタリアみたいななでしこジャパン。
Posted by at 2012年08月04日 03:18
U-23に限らず,ここ2年くらい,日本サッカーの国際試合の成績はすごいですね.
オリンピック男子は,ナショナルトレセンが本格的に稼働し始めたときにU-12やU-14だった年代ですね.高校でサッカーをしていた選手が極端に少なくなっているのも今回のチームの特徴です.
試合に出ていないとは言え,欧州でプレーしている選手が増えていることも大きいのでしょう.
監督の違い以上に,選手のレベルが確実に高まっているのでしょう.

Posted by at 2012年08月04日 10:53
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック