決勝点直前、今野がズドドドドドドドと前進し、右後方から今野を追い抜いた長友にパスを出した瞬間、「長友決勝ゴ〜〜〜ル!」と喜ぶ準備をしたら、センタリングを選択したので「あ〜〜〜、こりゃ、いか」と「か」くらいまで思った瞬間に、香川のシュートがネットを揺らした。
長友の、あの場面のセンタリング、その後終了間際の焼け気味?のシュートっぽい一撃、それぞれの選択を考えると味わい深い。ともあれ、後半に頻繁に見せてくれた左サイド突破と合わせ、この男の縦に出る早さと速さは正にワールドクラス。香川の格段のボールコントロールと合わせ、世界のトップクラスから個人技で得点できる時代の到来を素直に喜ぼう。もちろん、ズドドドドドドドに加えて、超フリーだった事を正確に把握して、落ちついて周囲を見た今野も最高さ。
決勝点直後、今野があまりに嬉しそうにガッツポーズをしながら疾走するので、カメラマンが勘違いして今野を執拗に追いかけていたが、(本気でサッカーをやっていた時代に)ディフェンダだった身としては、あの今野の気持ちがよくわかる。あれは嬉しいよね。
マンオブザマッチは、やはり川島だろうか。「GKが活躍するのは、ロクな試合ではない」とは言うけれど、頼りになるゴールキーパがいて悪い事はない。川島が好セーブをする度に、テレビのテロップに「スタンダール・リェージュ」と出てくる。若い方々からすると、最近のベルギーのクラブはマイナーな存在かもしれない。でも、私のような年齢の人間には、日本の選手がその国の代表的なクラブで定位置を確保している事そのものが本当に嬉しい。
前半、内容は非常に悪かった。
前田、本田、岡崎が不在なため、縦パスが収まらない。3人のうち、1人でもいてくれれば、状況は違っただろうけれど。だからこそ、いつものように縦を狙わず、守備的に戦う事を前提に、もう少しゆっくり回してもよいと思ったのだが。
ただ、前半の最大の問題は攻めが機能しなかった事よりも、ボールを奪われてから、シュートあるいはコーナキックに持ち込まれる頻度が非常に多かった事だ。完全に崩し切られる事はなかったし、ボールを奪われて速攻を食らっても数的不利となる局面もほとんどなかった(一番危なそうだった時は、長谷部が警告タックルで防いだ)。これは日本の組織守備が存分に機能していたからだが、 あれだけコーナキックを与えたり、シュートを打たれれば、交通事故で入るリスクもある。そう言う意味では、ペナルティエリア前で、もう少し守備を厳しくしたいところだった。
後半、ザッケローニ氏は見事にこの苦境を修正した。
いわゆるトップ下、ハーフナーの横でプレイしていた憲剛の位置取りを後方に下げ、遠藤との距離を短くして、この2人につながせる事で拠点を作ったのだ。たちまち、憲剛が2回好機を掴むなど、状況は好転した。
ところが、ザッケローニ氏はさらに驚きの采配を見せる。せっかくペースを掴むポイントとなっていた憲剛を交代させたのだ。ザッケローニ氏はブンデスリーガでたくさん得点している乾を試したかったのだろう。そして、香川を憲剛のポジションに置き、乾を左サイドに配す。同時に、前半から(いや、ここ数ヶ月と言う感もあるが)今一歩の出来の長谷部に代えて細貝を起用。細貝のボール奪取力で遠藤が楽になる。また、乾は落ち着いた引き出しで、長友の前進も促す。特に前半の香川は、チーム全体の苦境を打開しようとするあまり、少々強引な仕掛けが目立ち、そのため長友も上がれず、かえって状況を悪くしていた。しかし、この交代でバランスが取れ、中央の遠藤と香川のところから攻め込みの頻度も増え始める。結果、フランスの猛攻にさらされる時間も少なくなっていった。
ただし、決勝点直前の75分過ぎの守備はいただけなかった。ジルーのオーバヘッドからのゴミスの一撃はオフサイドに救われたが、まあこれはパスを出したヴァルブエナとジルーが見事だったから仕方がない。しかし、その後のリベリー、ジルー、ヴァルブエナらの強シュートを許し、川島が救ってくれたあたりの場面は相当問題があった。最後のところで、身体を張ったスライディングがしっかりしており(これはこれでJリーグ以前からの好調時の日本代表の伝統なのだが)、それが川島の好セーブと相まっての無失点ではあったが、やはりその前につぶさなければいけない。この時間帯、こぼれ球への意識が明らかに悪くなっていたからだ。ここの几帳面さの継続は、ワールドカップで勝ちを続けるのには非常に重要、猛省が必要だろう。
いつもの事だけど、こうやって強国に日本が勝つ度に、「フランスの戦い方が緩かった」と論じる方が出てくる。そりゃ、緩かっただろう。4日後にワールドカップ予選のスペイン戦を控えた準備試合、ローテーション的に多くの選手を起用していたし。だから、どうだと言うのだ。当方だって、前田、本田、岡崎不在の苦しい状況、そう言う中で内容を修正しながらの勝利なのだ。強化と言う視点でも、実績と言う視点でも、「勝った、やった、嬉しい」と言う視点でも、とても満足ができる勝利だった。まあ、ワールドカップでしっかりと勝っても、文句を言う方もいるのだから、それはそれで仕方がないか。
うん、嬉しかった。でも、もうこの勝利は驚きでもない。このレベルで、いつもいつも勝てるとは言わないが、勝つ事はいくらでもある。そう言うレベルまでは到達したのだ。もう、驚きではないのだ。
とは言え、フランスはやはり強かった。さすがデシャン氏、皆がしっかりとハードワーク。まあ、たくさん攻めても得点が入らないのは、この国の伝統なんだな。70年代から思い起こしても、点をとるのがうまかった選手って、パパンとアンリくらいではないか。いや、この2人だって、すごい時はすごかったが、入らなくなると全然入らなくなってたな。だから、結局プラティニとジダンは全部やらなきゃいけなかったと言う事か。とは言え、トップのジルーを中心に(もっともこの選手もうまいが点が入らないフランスらしい選手に見えたな)、ベンゼマ、メネス、ヴァルブエナ、リベリーと、前線に知性と技巧を具備したタレントが多数。個人的にはヴァルブエナが大好き。長い距離を走っても、精度あるボールが蹴れる。ジレスをやや無骨にして無理が利くように力強さを加えたようなプレイ。もちろん、デシャン氏はこれだけのタレントをいかに選び、並べるかと言う嬉しい悩みがありそう。でも、これがもうそんなに羨ましくない。ザッケローニ氏だって、いかに選び並べるかを悩んでいるのだから。
清武は今日はすばらしかった。前半、難しい展開ながら酒井の前進も引き出していた(五輪代表ではこの2人の連係は今一歩だったのに、A代表ではうまく行くのがおもしろい)。守備面でもしっかり貢献、つなぎも上々だった。ザッケローニ氏のチームで、攻撃的MFのポジションが3枚あるとすると、控えを含めてワールドカップに行かれる人数は6人、あるいは他ポジションとの絡みで7人。そして、そのうち3枚は既に岡崎、本田、香川でほぼ決定済み。憲剛も、その万能性と豊富な経験から、よほどの事がなければ確定だろう。すると、清武でさえ、その残り枠を争う事になるのだ。そう考えると、清武が守備面を含めた総合力でこの日チームを支えたのはとても重要に思う。そして、清武の台頭はとても大切なのだ。4年前の今頃、北京世代のいずれの選手も(長友も、岡崎も、本田も、内田も、香川も)、A代表でここまで機能してなかった。南アフリカ前後以降の北京世代の活躍を思い起こせば、日本が本当の意味でのサッカー強国になっていくためには、ブラジル本大会前後までのロンドン世代の多数の台頭は必須なのだから(たとえ、香川のように「間に合わなくとも」)。
乾は、ザッケローニ氏の起用意図をよく理解して、左サイドで落ち着いてボールをキープ、長友の前進を引き出し、自らも丁寧にボールをさばいていた。過日私が酷評したウズベク戦では、交代で起用されながら状況を悪くするばかりの独善的なプレイが目立ったが、この日は落ち着いてバランスをとっていた。乾自身、さすがブンデスリーガで活躍して自信もつけたのだろうし、ザッケローニ氏も(試合前の準備を含めた)指示も(ウズベク戦と異なり)適切だったのだろう。結果的に香川と長友がよりよいプレイができるようになったのは大成功だった。
上記した攻撃的MFの残り枠の争いだが、ここには宮市、大津、永井、宇佐美、大前ら、代表経験は皆無に近いが、ロンドン世代の多彩なライバルがいる(上記のように彼らの台頭は、日本代表にとってとても大切だ)。状況によっては、寿人の動向がこのポジションに影響を与える可能性もあるだろう。清武も乾も、この代表チームでの実績面でのリードはある。ただ2人とも、自分のチームでは「最も創造的で技巧に富んだ攻撃選手」としてのシゴトが要求されるだろうが、代表での要求は異なる。時には黒子に徹したり得意技を封印したりしながら、自らを輝かせる必要がある。強い代表チームとはそう言うものなのだ。94年のジーニョ、02年のエジウソンを思い起こせばよい。そして、この日の2人それぞれの動きは、ちょっとその息吹を感じさせてくれた。
ハーフナーは今日は残念なプレイ振りだった。しかし、彼の持ち味は今日のような試合で前線に持ちこたえる事ではなく、よいクロスを叩き込む事。その特長を磨く事が、ブラジルでのメンバ入りにつながる事になる。つまり、清武や乾と異なり、この選手への要求は、種々雑多な難しいシゴトが代表でできるかどうかよりも、自分のクラブでいかにパフォーマンスを磨けるかにかかっている。たとえ、前田が一層完成度を高めようが、寿人が代表で機能しようが(寿人については別に論じます)、李忠成がイングランドでボコボコ点をとろうが、永井がその俊足を安定して活かせるようになろうが、大迫が半端なく成長したとしても、ハーフナーは淡々と空中を制するシゴトに専念すればよいし、そこにしか道はない。
前半の打たれ過ぎ、後半終盤の几帳面さの欠如は問題だったが、総じて守備ラインは落ち着いていた。酒井の起用はテストと考えれば当たり前。長友が盤石だと考えると、駒野と内田にない「高さ」をザッケローニ氏は評価しているのかもしれない。ブンデスリーガでは中々出場機会を得られていないとの事だが、敵への応対、カバーリング、攻撃参加、上々の内容だった。もちろん、麻也と今野も冷静にプレイを継続、守備を固めてくれていた。
やはり長谷部は難しい状況にある。前半、崩されないまでもあれだけシュートを打たれた要因の1つは、長谷部が中盤で刈り取り切れない事にあった。とにかく現状を打開しなければ。ただ、細貝が控えている以上(もっともこちらも現状では定位置をつかんでいないようだが、長谷部よりは出場機会もあるようだし)、短期的には代表としては致命的な問題ではないのだけれども。実際、細貝はミスもあったが、しつこい守備と丁寧な展開でしっかりシゴトをしてくれた。終盤起用された高橋と併せ、復調するまで長谷部に拘泥する必要はないのではないか。五輪で活躍したホタルや扇原、大谷や角田など、Jにはたくさんよい選手がいるのだし。
日本のよさが発揮された試合だった。敵の身体を傷付けるようなラフプレイは皆無ながら、組織的でしつこい守備。遠藤や憲剛を軸にした、丁寧で理にかなった展開。香川、長友、本田に代表される、世界トップレベルの個人技。この試合により、世界中のサッカー強国が、「準備試合の相手に日本は最適だ」と、気がついてくれるのではないか。
本番まで、あと2年足らず。ザッケローニ氏とデシャン氏が、いかにチームをまとめあげるか、ブラジル大会の準々決勝あたりで再戦できると嬉しいのだが。
2012年10月14日
この記事へのトラックバック
ザックJAPAN欧州遠征第1戦 香川の値千金ゴールでフランスに歴史的勝利!
Excerpt: サッカー国際親善試合・フランス代表VS日本代表戦が、日本時間13日未明、フランスのパリ近郊・サンドニにある「スタッド・ド・フランス」で行われました。今回の欧州遠征はザックJAPANの実力が問われる2..
Weblog: 日刊魔胃蹴
Tracked: 2012-10-15 22:44
李忠成「日本代表に入りたい」
Excerpt: 1 :番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2013/03/30(土) 17:02:55.80 ID:RX5sFKti0 ?PLT(20721) ポイント特典代表復帰アピール弾だ!李忠成 ト..
Weblog: 【2chまとめ】ニュース速報嫌儲版
Tracked: 2013-03-30 21:02
清武はほとんどボールロストせずにキープできてましたねえ(一方憲剛は何度簡単にボール失ってたことか・・・)。FWは昨日ナビスコで鹿島の試合見ましたが、大迫は半端なく成長してましたw。代表に入れるレベルにはあると思います。
ガンバサポとしては倉田と宇佐美に代表入ってほしいですね。
マイクがかなり悪いのはしょうがないかな、と思いましたけど、清武がその次ぐらいに悪い評価だったのが意外です。
本人も言っていたようですが、確かに攻撃参加ができていたとは言い難いので、そのあたりが低評価につながったのかな、と。
同じポジションを評価しようとしても、求めているものが違うとこうも差が出るものか、と興味深かったです。
>ワールドカップでしっかりと勝っても、文句を言う方もいるのだから
笑。
こちらのご講釈を知ったのは、恥ずかしながら、つい最近。南アフリカW杯の辺りは今読んでも味がございます。
そういえば当時の岡田監督擁護のウエブ上のコラムはどこもコメント欄が荒れてましたねぇ。。
これからも、楽しくて為になる(?)、ご講釈楽しみにしております。
10-0でもおかしくなかった。
この10年でどれだけ成長したのかと。
やはり香川や本田という最後に決められる選手が現れたことが大きいと思います。
昔の代表だったら、あのカウンターは、結局最後に外して、惜しかったなで終わりでした。
まさしく、『ズドドドドドドド』でしたね。
この擬音で映像が浮かんできて、思わず笑っちゃいましたw
次は只今決定力全開中のブラジル。
どこまで戦えるか、非常に楽しみにしてます。
中盤を逆三角形にしたシステムを相手にした時、縦パスが収まらない・ターンできない状況が増えたことで、CBやSBからのパスの重要性が注目されていると仮定して。
是非、講釈をお願いします。
二列目の特に中央の選手があまりに下がってしまうと孤立した3人が各個撃破されてしまう。せっかくCBにもビルドアップ能力の高い選手を置いているのだからある程度信頼したほうが良かったと思う。というか、やっぱり憲剛はボランチの選手だと思います…遠藤のスペアとしてはこれ以上ないぐらい頼りになる選手だと思うしね…なんだったら長谷部の代わりにry