試合終了後、しばらく呆然として、突っ立ったまま、ピッチを眺めているだけだった。涙が出た訳でもない。呆然としていたのだ。
52歳になった。サッカーをちゃんと見るようになって、約40年。過去、幾度も幾度も負けてきた。勝った事の方が少ない。たいてい、期待の成績を収める前に負けてきた。
そして、昨期、今期のベガルタは、私の期待を遥かに上回ってくれいた。40年サッカーに身も心も浸ってきたが、こんな事は始めてだった。昨期、4位を獲得した際に、「将来、こんなよい思いをするシーズンはないだろう、でき過ぎのシーズンだった」と、しみじみ思ったものだった。それが、ずっと優勝を争っていたのだ。昨期でさえ「夢のようなシーズン」だったのだ。今期を私はどう形容したらよいのか。
そして、後一歩だったのだ。後一歩。「後一歩足りない」のだけは、今までと同じだった。
冒険が終わった。頭の中に入っている40年分の何かが、グルグルと回り続けていた。結果、呆然としていたのだ。
昨期から今期にかけて、ベガルタがJ1で上位進出に成功した要因は、J2時代からの継続強化が、一定の成果を挙げた事が大きい。梁勇基、菅井、関口、富田、中原、渡辺広大と言ったタレントを、丹念に育て、J1でも十二分に通用する選手に仕立ててきた。加えて、彼らに適性な評価をする事で(言い換えれば、適切な給与を提供する事で)、他クラブに奪われる事を阻止できたのも重要だった。
さらに、トレードでの補強に成功。林、朴柱成、鎌田、太田、松下、角田、上本らが、ベガルタに加入し、それぞれが「ベガルタ時代が最盛期」と言っても過言ではないプレイを見せてくれている(ちょっと太田の獲得方法が怪しかったのは否定しませんが)。
手倉森監督就任の5年間、いやその1年前の望月監督時代から、丁寧に丁寧に石ころを積み上げるように、チームを作り上げてきたのだ。
外的要因もある。日本サッカー界の実力が、世界中に評価された事もあり、日本代表選手の多くがJを去り、欧州でプレイしている。そのため、個人能力で圧倒する選手がJに少なくなっている。その結果、「組織で勝負」するベガルタのようなチームの相対位置が上がりやすくなっている。どんなに組織が機能したサッカーで攻勢をとっても、たった1人のスタアの存在で勝負がひっくり返るのがサッカー(1日前のプレイオフもその典型だった)なのだから。ただし、誤解して欲しくないが、「だからJのレベルが下がっている」とは全く思っていないが、これは別な機会に講釈を垂れたい。
また、いわゆる強豪クラブが、様々な不運や短期的な施策の失敗から、思うように勝ち点を積み上げられなかったのも幸いした。レッズは昨年の、ガンバは今年の、それぞれ監督人事が痛かったはずだ。グランパスは負傷者が続出した。アントラーズは若返りのタイミングだった。
ここまでの積み上げの大成功と、いくばくかの幸運が積み重なり、今期の好成績につながったのだ。それにしても、優勝をギリギリまで争える事は、今年の夏場過ぎまでは思ってもいなかったのだが。
ベガルタのレギュラ選手の平均年齢は、かなり高い。上記の通り、様々に経験を積んだ選手を並べているから。しかも、中々有効な若手選手が登場してこない。これは、ベガルタのサッカーのよさと表裏一体の問題だ。ベガルタのサッカーは極めて高度な連係を軸に、全選手が90分間知恵を働かせながらファイトを継続する事を要求する(朴柱成は例外だが)。そして、そのファイトが欠けると、天皇杯でロアッソ熊本にやられたように馬脚を現してしまう。我々の選手たちは、そうやってファイトしている時は、みなアジア屈指の名手だ。しかし、一度ファイトが途切れてしまうと…そして、若い選手にとって、90分間知恵を働かせながら、ファイトするのは、相当難しい課題だ。だから、今のベガルタは構造的に若い選手を非常に試し、育てづらいのだ。
来期はACLに出場するが、現状選手層の薄さを考えると、リーグ戦は相当厳しい戦いを覚悟しなければならないだろう。ただでさえ、タフな運動量を重視したサッカーで、水曜日に試合がある時のパフォーマンスは落ちる傾向があるベガルタなのだ。まして、ACLは海外遠征での死闘となる。
では、補強で層を厚くできるか、となると何とも難しい。確かに2位となって、1億円の賞金を獲得した。しかし、これらは現有戦力のサラリーアップにあっと言う間に消えてしまう事だろう。さらに賞金と言うのは、「この1年だけの収入」に過ぎないから、その前提で選手の人件費を予算化するのは、中期的には非常に危険な経営となる。比較的高い報酬を提供している選手を他クラブに販売し、それを原資に伸び盛りの即戦力タレントを複数獲得するのは比較的現実的な手段だが、ACLを控えて中心選手を売りに出すのは、相当勇気のある決断となる。
次第に平均年齢が上がり、ACLを含めた厳しい日程の戦い、そして補強もままならない。来期はJ2落ちも覚悟する必要があるかもしれない。私ははそれはそれで構わないと思っている。J2に落ちたって、また上がれば済む事だ。しばらく上がれずに苦しんだって、それはそれで経験だ。そして、今年はこのチームの一つのピークだったはずだ。
だから、勝ちたかったのだよ。今期、何があってもJ1を制覇したかったのだよ。
こうやって、リーグ制覇を狙う機会は、もう訪れないかもしれないのだから。冗談抜きで、この2012年が最初で最後の機会だったかもしれないから。
アルビレックス戦。ベガルタ各選手のプレイは、残念ながら、これまでの試合と比較して、「よい」とは言い難いものが多かった。2部落ちを回避すべく戦っているアルビレックスの方がファイトしているのではないかと言う時間帯も少なくなかった。
しかし、ではベガルタイレブンにこれ以上のプレイを望んでよいのか。(拙ブログで随分とからかってきたが)手倉森氏の采配を非難できるのか。手倉森氏も選手たちも、年間を通して、あきらめずにファイトしてくれていたではないか。皆、優勝争いと言うプレッシャあふれる中で、常に頭を働かせながらファイトしていたではないか。この1試合のある時間帯でファイトで負けていたかもしれないが、これまではほとんどのチームに対して、ファイトで圧倒していたのだ。
俺たちのベガルタは、自らの能力の限界ギリギリまで戦ってくれたのだ。とてもではないが、これ以上望めないくらい、戦ってくれたのだ。
同じように呆然としていた友人が声をかけてくれた。「今の戦力では、これが一杯なのではないか。」と。「そうですねえ。手倉森さんも、選手達も、できる事はすべてやってくれたと思います。これがいっぱい…」と、言いかけたその瞬間だけ、言葉に詰まってしまったのは秘密だ。
手倉森氏と梁勇基の仲間たちに感謝。
2012年11月25日
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昨年来各所で話題になってて最後もアレ。
ご自身では如何ともし難いだけに、これ以上聞いてやりなさんな。
これはサンフレッチェも同じ気がしますが、野次馬の私としては、サンフレッチェの方がチャンピオンにふさわしいチームでしたし、昨日の試合もアルビレックスが勝つべくして勝ったと思います。
でもスカパーで昨日の試合を観て、会場の熱気がとても羨ましく、ベガルタのファンは本当に幸せだと思いました。
まずはACLを舞台に戦い、世界(アジア)への門戸を開いて苦闘することからコツコツやっていくべきなのだろう、と。
J1優勝とCWC出場は、クラブとしてある程度の熟成がなされてから、と。いつ頃になるかはわかりませんが(苦笑)
本当に今年は総括しづらいですね。ほんの少し前まではJ2でドタバタしていたのですから。
来年の目標はどう設定したらよいのでしょうか。
最終節はFC東京と味スタで戦いますが、たくさんのベガサポで熱く&厚く後押ししたいですね。
私も師と同じく「千載一遇のチャンス」と心得、応援してきました。心底残念です。2位がこんなに悔しいなんてこれまで想像もつかないことでした。
私は師とは高校の同窓に当たりますが(私が後輩です),母校の甲子園とベガルタの優勝が生きているうちに実現すればと思い、地元のチームと母校を応援したいと思っています。
まあ、ライフワークですね。
今回のことは、「まあ、楽しみが伸びたわい」と思いこれからも愛するチームを応援していきます。
それがわかっただけ、応援人生大人になりました。
これは20世紀末のおらほのプロサッカーチームが関東の大学生チームにも見せ場なく敗れる姿に嘆息していたという歴史を持つ者にとってはよくぞここまで積み上げてくれたものだという思いを
しみじみいだかせてくれる光景でありました。
しかしやはりまだ早かったのでしょう。確かにはえぬきの選手は育ってはいるけれどまだ千葉直樹だけではだめだよということではないでしょうか。下部組織からの選手が屋台骨を背負って立ったり、海外で活躍したりする歴史を積み上げなければオリジナル10やそれに続くジュビロやレイソルに並んでシャーレを掲げるのはまだはえーのだということで納得してオフを向かえましょう。
ttp://yakuq.blog116.fc2.com/blog-entry-1354.html
サポティスタ(笑)岡田康宏「地域密着を今、一番ちゃんとやっているのは、プロ野球のパ・リーグ」。
わたしも、半世紀とまではいかないまでも、20年に一回あるかないかのチャンスであると、思い今シーズンの優勝を夢見ていました。思えばエジマールのゴールに歓喜し、JFL昇格に涙した時代(鈴木淳氏もいましたね、私は彼にサッカーの指導をしてもらった事があり、感慨深いのですが・・・)
それだけに、試合終了後は悔しくて、何をどうしたらよいのか、まったくもって思考停止状態でした。優勝の可能性を信じてFC東京戦を応援予定にしておりましたが、彼らの今シーズン最後の勇姿を目に焼き付けるべく、参戦したいと思います。
来シーズンは、苦しい戦いになると、私も思っています。だけど、サポーターに出来ることは選手や監督、おらがチームを信じて応援することのみと思っています!!!
失礼しました。
わかっているかとは思いますが、武藤さんが思っている以上に仙台は強いですよ。
うちの地元のチームは、JFLに昇格するために挑戦しているところです。
いつかは二位で悔しがってみたいです。