2004年04月01日

2人の戦士に感動して

 昨日取り上げた試合終了後の中田のインタビュー。疲労しきった男が絞り出すような発言。同点に追いつかれた以降の中田のプレイ振りは悲壮感あふれるものだった。全く動けなくなっている稲本と小野をカバーして後方に下がり、必死に藤田と鈴木にボールをつないだ。先週、ラツィオとローマとフルタイム戦い、長時間飛行機に乗りシンガポールに登場し、高温多湿化で戦うと言う常識では考えられない状況下で。

 一体、何のために中田はこのような厳しい努力をするのだろうか。既に大いなる栄光と多額の現金を、自らの能力で獲得した男が、どうしてこのような厳しい状況に身を置くのだろうか。

 もし、ボローニャの医者が、「中田は××で負傷、プレイする事は不可能」と言う文書を作り、TVカメラを通して中田自らが真っ青な顔でもして「日本のサポータの皆さん、代表チームの選手諸君、大変申し訳ない、でも足が動かないのだ。シンガポールには行かれない。でも、ドイツに行くために、何としても勝ってくれ」と語って、イタリアに留まっても何もおかしくなかったのだ。

 どうして、彼はシンガポールに降り立ち、あそこまで戦ってくれたのか。



 昨日の決勝ゴール。起用直後から藤田の運動量は際立っていた。解説のセルジオ越後氏は、中田と藤田に「もっと前に、もっと前に」と騒いでいたが、ボランチが死んでいるのだから、藤田の挙動開始点も後方になる。それでも、藤田はすさまじい運動量で中盤後方から最前線に駆け抜ける。そして、CKからのこぼれ球を見事に叩き込んだ決勝ゴール。その直後の藤田の表情は感動的だった。

 私たちサポータにとって、何とありがたい事だろう。代表チームのあまりのいい加減さに、一部のサポータからは、冗談半分で「藤田が余計な得点を決めてしまったから、ジーコ氏をクビにできなくなった」とコメントが寄せられた。やけ気味にそのような発言をするサポータの気持ちはわからなくもない。しかし、私は、藤田のあの表情を思い出すたびに、ただただ感謝の気持ちしか出てこない。昨日も述べたが、本当に本当に本当にありがとう。貴兄は日本を救ってくれた。

 藤田が90年代後半から2000年代前半にかけて、日本サッカーの記録にも、我々の記憶にも、それぞれ明確に残る偉大な選手である事は論を待たない。しかし、藤田は本当に代表チーム運のない男だった。加茂氏時代から代表に呼ばれつつも、森島、前園、名波、中田に押し出されるように定着できず。さらにトルシェ氏時代には、より若い小野、中村、小笠原の台頭に、機会を失ってしまった。

 その藤田が、昨年のオランダ行き以降、再び代表での活躍の機会が与えれてはいた。しかし、ジーコ氏の構想ではあくまでも控え。今回の選考にしても、果たしてベンチ入りの18人に選べれるかどうかは、全く不明なところだった。下手をすれば、リーグ戦の最中、合宿に召集されシンガポール旅行までさせられて、何もせずに疲労だけを残してチームに戻る可能性もあった。

 もしジュビロの医者が「藤田は○○で負傷、プレイする事は不可能」と言う文書を作り、TVカメラを通して藤田自らが真っ青な顔でもして「サポータの皆さん、代表チームの選手諸君、せっかくのチャンスなのに悔しくて仕方がない、でも足が動かないのだ。シンガポールには行かれない。でも、ドイツに行くために、何としても勝ってくれ」と語って、磐田に留まっても何もおかしくなかったのだ。

 どうして、彼はシンガポールに降り立ち、あそこまで戦ってくれたのか。

 

 理由は2つあると思う。1つ目は自らの戦士としてのプライド、誇り。この2人の勇者には、打算以前に戦士として戦う本能があるのだろう。そして2つ目は、代表チームの名誉。中田にも藤田にも、青いユニフォームは、極めて神々しいものなのだ。この2点はいずれも我々サポータを、本当に幸せな気持ちにしてくれる。



 戦士がこれだけの想いで闘ってくれているのだ。闘う環境を、是が非でも整えなければならない。もう、明確な結論は出ているのだ。心ある日本中のサッカー人が、心を1つにすべき時が来ているのだ。
posted by 武藤文雄 at 23:45| Comment(4) | TrackBack(1) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
我々も動かなくてはいけないですね。<br />
UGさんはやってくれるようですし、<br />
できるかぎりの協力をしたいですね。
Posted by カネヅカ。 at 2004年04月02日 01:17
私も藤田選手の活躍には、「日本を救ってくれた」そして、「やっと報われるんだな」という感謝と安堵の気持ちで一杯でした。<br />
中田選手も同様です。なんでそこまで頑張ってくれるのかと。<br />
私はここ数試合、A代表の試合をまともに見ようとしませんでした。理由はお察しのとおりですが、中田選手の孤軍奮闘振りを見て、いつも戒められます。日本にはこんな素晴らしい選手が頑張っているではないか、と。<br />
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しかし、監督の問題は別。<br />
ただの賑やかしで終わらないように(前回のデモのことではなく)、私も微力ながら力になりたいと本気で思っています。
Posted by エリック・ナントカ at 2004年04月02日 03:47
最近、A代表の試合で1週間ぐらい勝利の余韻に浸るって事が無いなぁ。うれしいのは其の日の晩だけ。次の日からは、不満がどんどん湧き出るわ、湧き出るわ。<br />
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一次予選からこんなにスリリングな試合を見せてくれるとは。見事としかいいようがないです、ジーコ監督。相手のレベル、JAPANのスタメンに対する様々な問題、を考えなきゃ、すばらしい采配ですよ、本当に。代えた選手がしっかり活躍するなんて。<br />
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Posted by 笹 at 2004年04月02日 23:47
中田にせよ、藤田にせよ、いや他の選手たちにせよ、プレイ振りは本当に頭が下がるし、素晴らしいわけです。まずは、これだけの選手を保有している喜びを感じたいですよね。<br />
<br />
その上で、「これだけよい選手を抱えながら、クソゥ」と言うところでしょうか。
Posted by 武藤 at 2004年04月06日 00:47
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[サッカー] シンガポール戦感想&コメント集
Excerpt: 前回同様、もう次の日はそんなに増えません。 &gt;&gt; ・昨日のはこちら。 ・ジーコが監督に就任した時、リバウドやロベルト・カルロスがインタビューに答えて、「日本は得点力が上昇するだろう」など..
Weblog: 昨日の風はどんなのだっけ?
Tracked: 2005-01-01 00:00