私の感覚からすると、五輪でフル代表チームの野球が豪州に敗れたと言うのは、我が国にとって驚天動地の屈辱であり、野球界の根底を覆す大事件ではないかと思うのだが、どうもそうではないらしい。選手たちは無事?帰国し、単独チームでの試合に復帰し始めているし、現場監督の重責を担った中畑氏に対して(サッカー五輪監督の山本氏に対して頻出している)「人格否定」までの厳しい批判もあまり聞かれない(もっとも、ほとんどのファンは、中畑氏に対する期待など最初から全く持っていなかったのかもしれないが)。さらに驚いたのは、銅メダルに終わった事にさえ「よくやった」的な報道がある事。さらに一部の選手に至っては「最低限の仕事はできた」との発言(サッカーの日本代表選手が格下の代表チームに敗れた後、その種の発言をしたとしたら大変な事になるだろう(笑))。
私などは単なるサッカー狂に過ぎないから、野球が負けたとしても「だからケシカラン」と言うつもりはない。「もう少しやりようがあったのではないか」と思う程度だ。しかし、野球の熱心なファンの方々は、このような現況に我慢できるのだろうか。
以下は邪推である。
おそらく、スポーツとしての成り立ちそのものが野球とサッカーでは根底から異なっているのではないか。
考えてみれば日本サッカー界は昔から「日本代表が勝った、負けた」と大騒ぎし、他国との相対関係に一喜一憂する日々を送ってきた。そして、日本代表強化のために、強国である先達(欧州だったり南米だったり韓国だったり)に学び続けてきた。結果として、日本代表をピラミッドの頂点に、日本中津々浦々に少年サッカーを普及させる分厚い強化システムを作り上げ、ようやくの事世界の列強と伍する実力をつけてきた(だから、たとえ相手がイタリアやパラグアイのような強豪だろうが、負ければ本当に悔しくて悔しくて仕方が無いのだ)。
代表チームだけではない。日本サッカー界は、組織化された欧州のプロリーグやクラブ運営などを熱心に吸収してきた。それにより先進国同様に、多くの人がサッカーそのものを蹴ったり観たり語ったりする事で愉しめるからだ。結果的に、現在の日本サッカー界は、女性や子供でも安心してサッカーを愉しめる環境、日本代表やJリーグのチームを敵地まで追いかけて熱心に応援するサポータ、日本中で行われるフットサルや草サッカーなど、様々な側面でサッカーを普及させる事に成功している。
つまり、日本サッカー界は、あらかじめ壮大な目標、つまり「日本代表の強化、そのためのサッカーの普及」と言うわかりやすい方向性が共通認識としてあるのだ。だから、議論は目的ではなく、方法論に絞る事ができる。「監督はジーコ氏でよいのか」、「Jリーグと代表強化の兼ね合いはどうすべきか」、「女子サッカーの普及をどうしたらよいか」、「少年サッカーのあるべき姿は」などの議論も、意見は百出でまとまりはしないかもしれないが、最終目標は明確なのだ。
ところが、野球はサッカーと比較して普及の度合いも歴史も深いためか、目標そのものがハッキリしないのだろう。昔、正力松太郎氏が語ったと言う「日米決戦の勝利」は少なくとも、現時点での野球界の目標になっているようには思えない。話は飛ぶが、昨今のプロ野球合併問題にしても、「どの方向に進むべきか」が全くないところで、合併の是非、リーグ統合の良し悪し、選手会の立場、アマ球界とプロ球界の関係など、方法論の議論になるので隘路に嵌ってしまう。少なくとも、意見を言う前に「自らが考える目標」も発言すべきだと思うのだが。
今回の野球の代表チームが「優勝を目指していた」事は確かだ。一部の選手たちが感じていたプレッシャは相当なものだったようだし(例えば、一塁へのヘッドスライディングは、巧くない方法だと言うのは子供だって知っている事だ)。しかし、野球界そのものが、どちらに行くべきかの結論や方向性が出ていない以上、代表チームの位置づけが曖昧なものになるのは仕方が無い事なのだろう。
ただし、私はだから「サッカーが野球より優れている」と言う気は毛頭ない。目標が明確であれば行動はしやすい事は確かだが、目標が不明確であるのはそれだけ物事が成熟していると言う事でもある。また、サッカー関係者が皆共通の目標のみを考えているのが本当に健全なのかも、よくわからない。ただ、たまに野球の事を考えてみるのも、サッカーの役に立つかなと想い考察した次第。
2004年08月28日
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野球日本代表
Excerpt: 日本プロ野球が威信をかけて送り出した 本当の意味での野球の日本代表のアテネの戦いは 残念ながら銅メダルに終わった あえて、残念ながら、といったが 野球好きの素直なとこではないだろうか? 今回..
Weblog: 親方の虹
Tracked: 2005-01-01 00:00
一応、あっちでもしっかりこのHPをチェックしてました(笑)
「デポルティボが去年のCLでグループリーグとトーナメントの両方でモナコに負けた」<br />
くらいの喩えになるかと思います。オーストラリアの抑え投手は日本プロ野球のこのカテゴリで5指に入る存在ですので、これがモリエンテス辺りになぞらえられるでしょうか(笑)。<br />
個人的には、トーナメントの方の敗戦はある程度仕方ない面があるというか、サッカーでもノックアウト・ラウンドの番狂わせは結構ありますので、その範疇から外れるものではないだろうなと考えてます。
あと,サッカーなどに比べると,強者が弱者に負ける確立が圧倒的に高いこともあるでしょう。<br />
極端な例で言えば,凄いバッテリーと一人のホームランバッターがいれば,他の選手が並のレベルでも勝つことができるのが野球です。<br />
例えば,セリーグ最下位の広島でと首位の中日との対戦成績は14勝6敗。勝率7割なんてJリーグの上位と下位との対戦ではありえない数字だと思います。<br />
実際にはリーグ戦とトーナメント戦を直接比較するのは乱暴だと思います。<br />
でも,そういうことがあるのも野球だということをみんな知っているのだと思います。
「1チーム2人ずつの選手派遣枠」、「監督不在」、「再編問題」などなど。<br />
金メダルが史上命題と言われている割には、協力体制がなってなかったですし。オーナー諸氏はカネにならないことには興味がないようで。<br />
そもそも、ピラミッド型にFIFAがすべてを統括しているサッカーと違って、野球は各国それぞれですからね。たかが一国のチャンピオン決定戦が「ワールドシリーズ」ですから(まぁ、それがアメリカのプライドでしょうけど)<br />
国際ルールと日本のプロ野球でジャッジ基準が違うなんてのも、サッカー好きからしたら理解不能な話。本当に世界で勝ちたいならそのへんも考えるべきでは?と思うのですがね。<br />
日本のプロ野球は「江戸末期」って感じがしますね…。
巨人対中日がぶつけられている時点で<br />
日本側の思い入れの程もたかが知れたものだと思います。
<br />
1億円以上稼いでいる高給取りがトラックの運転手に2度続けて負けたのですから弁解の余地はないでしょう。モナコとかアルゼンチンの男子バスケ代表に例えるのは失礼ってもの。彼らは一応プロなんだから。<br />
<br />
長嶋氏が監督続けてればもう少し何とかなったんだろうけどなぁ。
日本のJリーグは、南米や欧州の中堅国の下くらい(ベルギー、ギリシャなど)の位置付けを目指してがんばってほしい。
豪代表は事前に日本やキューバを徹底的に調べて弱点を洗い上げて臨んだらしいですよ。<br />
さて、日本はなにかしたんですかね?アメリカが出ない、って決った時点で「これでキューバとの一騎打ち」と勝手に決めてかかり、相手を舐めてはいませんでしたかね?<br />
豪も自分達がやってること…しっかり相手をチェックして次の相手の特徴をつかみ、長所を押さえ、短所をつくなどしてれば勝てたと思うので、この結果は思い出すだけで腹立たしくなります。うちの松坂を負け投手にしやがって!!
さて・・・、<br />
<br />
土曜朝のNHKのニュース番組で、<br />
日本が負けて(野球)悔しがっている伊藤博英アナ(伊藤博文の子孫らしい)に、<br />
解説委員になった、我らが山本浩アナが、<br />
「日本の敗因は国際経験の不足」「ただし、日本球界の構造では国際経験が難しい」<br />
と、解説していました。<br />
<br />
「ベースボール」が「野球」になってしまったから?<br />
・・・違う。 問題なのは「ベースボール」の方だ。<br />
<br />
台湾戦だったか、解説の星野仙一が、<br />
「メジャーリーグは勝手過ぎる」<br />
と、愚痴っていて面白かった。<br />
<br />
日本の野球人から、米球界への批判的言葉が出たのは<br />
おそらく初めて。<br />
<br />
実際、米球界はワガママ勝手なのだが、<br />
逆に、日本球界は卑屈に過ぎたのだ。<br />
<br />
一応、野球協約には<br />
「世界選手権を争う」ことを理念として掲げているのですがね。<br />
<br />
Jリーグから10年たっても<br />
この程度の啓蒙すらできなかった、ということか。