一昨日、「まっとうに正面からぶつかれば、ミランが圧倒的優位なのは間違いないが、ビアンキ氏がどのような陰謀を仕込んでくるのか」と述べた。そして、期待通り、氏の手腕を3時間堪能した。
まず、GKアボンダンシエリのボールを受けるや否やの素早いキック、速さと早さも相当だが、精度も絶品(独特のハーフボレイキックとPKストップの巧さに、90年ワールドカップ決勝進出の立役者ゴイコチェアを思い出した)。実に正確に両翼いずれかの、タッチラインとハーフウェイラインの交点近傍を襲う。
次に両翼での見事なボールキープ。上記の高精度フィードに、サイドバック、片方のボランチ、サイドMF,片方のトップが近づき、その3,4人がそれぞれ約10〜15m程度の綺麗なトライアングルを多数作り、見事なつなぎを見せる。突破できそうな時は、逆サイドのトップが裏を突き、このトライアングルの誰かがスルーパスを狙う(この日の同点ゴールはまさにその動きの賜物)。突破が困難と見るや、サイドチェンジ(前半このサイドチェンジが巧く決まらず、ボカ苦戦の要因となるが、後半からは修正に成功)か、守備ラインにボールを落としつなぎ直し、逆のタッチライン沿いに起点を作ろうとする。
フィールド全体を使ってのつなぎ合いを演ずれば、個々の能力差でカットされるリスクは高いが、局所のつなぎ合いならば、トライアングルを作る早さと足技、つまりフィジカル以外の判断力と技術の勝負に持ち込める。アルゼンチンのトッププレイヤならば、お手の物である(下手なチームがこれをやると、プレスに押し込まれボールを奪われてしまう)。しかも局所戦の連続は、たとえ好機を作れなくても、ボールキープの時間を上げる事ができるので、実質的な試合時間を短くする事につながり、少しずつ失点のリスクの低減につながっていく。
そして4DFの基本守備技術の高さ。具体的には、オフサイドラインを保ちながら、ボールのコースを正確に判断し後方へ下がりながらのヘディングが非常に巧い。特に両サイドバックは決して大柄ではないが、再三裏を狙うパスをヘディングで止めたのはお見事。現在の日本代表の左サイドバックには全く期待できない技術だ(笑)。ヘディングの技術には、高さなり競り合いも確かに重要だが、まずコースに正しく入る事、と言う基本の重要性を改めて感じた。子供たちにも教えよう。
さらに、終盤テベスを投入するや、ボランチのバタグリア(前半は負傷の影響か冴えなかったが、終盤になるに連れ、調子を上げた、私が選ぶMVPだな)の巧みな縦パスで、アルゼンチン伝統の中央突破まで見せてくれた。
元々、ビアンキ氏は0−0の引き分けを狙っていた可能性が高い。1点目の失点は、カフーのミスを拾ってボカがカウンタに出ようとした場面で、つなぎにミスが出て逆カウンタを食らったもの。一番、やってはいけないミスをついたピルロにお見事としか言いようのないものだった。それに対して、上記の両翼キープから同点に追いつき、以降びびったミランを完全に引かせてしまったのだから、ビアンキ氏としては、ほぼ狙い通りの試合と言えただろう。この日のボカのやり方は、日本代表が守備が強い強豪チーム(イタリア、アルゼンチン、フランスなど)と戦う時にも、非常に参考になるようにも思えたが、それについては別途。
また、この日のボカについては、ビアンキ氏の責任では全く無いが、ほんの少し不満もあった。その事を説明するには、別途ミランを語る必要があるので、こちらも明日以降。
2003年12月15日
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