2005年06月22日

平山の特長

 直情的に語らせていただく。

 やはり監督の責任としか言いようがない。

 大熊氏は、FC東京をJ1に定着させ、(そのチーム作りや采配に多大な疑問はあったものの)前回のワールドユースでベスト8進出を果たした、評価すべき実績を上げた監督だ。しかし、今回のワールドユースのチーム作りでは、致命的な過ちを犯してしまった。

 ただし、私が大熊氏を批判するのは、水野に代えて兵藤を起用したとか、事前にマスコミに120分勝負と宣言した事で終了間際選手たちが集中を欠いたのではないかとか、等の戦術的な理由からではない。

 水野の交代だが、兵藤も活動量豊富な悪くない選手だ(今大会の出来は今一歩だったが)。また守備面で水野が時々1対1に負けていたのも確か。私自身は水野の交代は絶対すべきではなかったと確信しているが、延長を見据えて守備のよい選手を起用すると言う考え方もあるのかもしれない。また、終盤の兵藤の精度を欠いた(しかしミスと言うほどではない)バックパスを敗因とまで言うのは論理の飛躍だろう(失点はその後のスローインからなのだし)。

 粘り強く戦い抜いてきたチームに、あの時間帯であんなに集中が切れたプレイが出てしまうとは皮肉な事だ。出来の悪い試合を辛抱強く拾い続けてきたチームが、久々に出来の良い試合をして、肝心要の時間帯のまとめでウッカリしたと言う事か。本当にサッカーと言うものは難しいスポーツだ。



 私が不満なのは、チーム作りのベースとなった平山の起用法だ。誤解されては困るが、私は平山を中核にしたチーム作りを否定はしない。どのようなチームでも中心的な選手の個人能力を存分に発揮できるようにチーム作りは行われるべきだと思う。そして、平山ほどの逸材であれば、ユース代表チームを彼を中核として作っていく事自体は適切な選択の1つだと思う。

 私が気に入らないのは、大熊氏が平山を「ポストプレイヤ」として評価してチーム作りをした事だ(アテネ五輪代表監督の山本氏も同じ間違いを犯した)。私は平山を「ストライカ」として評価してチーム作りをすべきだったと思っている。

 平山の「ポストプレイ」を軸にチームを作ろうとするから、あそこまで不正確なロングボールが増えてしまったのだ。さらに、あれだけ頻繁に長いボールを使えば、敵DFだって予想して待っている。そうなれば、どんなにヘディングの強い選手でも、空中戦に勝つのは簡単ではない。さらに、せっかく競り勝っても適切な位置の味方のサポートがなければ、ボールはキープできずルーズボールになってしまう。さらに悪い事に、味方のサポートが薄い場合、そのサポートに来た選手からのパスを受けなければならないから、平山は敵陣から離れたところにウロウロする事になる。すると、平山は自分が最も仕事をすべき場所である敵陣から、遠いところでのプレイを継続する事になる。以前から述べている事だが、平山がタッチ沿いに開いても、中盤でボールを受けても、敵は怖くない。敵は自陣近傍の平山が怖いのだ。前回のワールドユースで活躍した平山は、この2年間山本氏と大熊氏の指示の下、敵陣から離れた場所でウロウロする事を続け、結果として思うように成長できなかったのではないかとすら思える。



 平山を軸にチームを作るのであれば、いかに「平山に点を取らせるか」と言う考え方で目的志向のチーム作りが可能になったはず。例えば、両翼を深くえぐって精度の高いボールを入れるためには、誰と誰を組み合わせるのがよいのか。敵が両翼攻撃を恐れて守備を固めた場合、平山をおとりにしたクロスを入れるためには、どのようなセカンドストライカやパッサーが適切か。そのような選手同士の組み合わせを作り上げて、チーム作りをして欲しかった。

 ちなみに「いかに平山に点を取らせるか」を具現化して見せたのが水野である。オランダ戦のFKは、平山の高さを気にしている敵DFに対し、平山を横に走らせてフリーにさせ点を取らせた。豪州戦、強引に左サイドをえぐり、ゴールラインと平行に高くて速いボールを蹴り、平山に合わせようとした(合せ損ねた平山の「申し訳ない」と言う表情)。モロッコ戦、右サイドで高いボールを蹴る振りをして小さなスイングで低いセンタリングを入れ、平山に足で狙わせた(反転した平山の左足シュートが枠を外れた際に、ロングショットで水野が本当に悔しそうな素振りをしたのが写ったのが印象的)。

 水野はベナン戦後のインタビューで「平山が点を取らないのが問題点」と語ったと言うが、評価すべきはその強心臓ではなく、勝利のための明確な目的意識であろう。

 ここまで見事なコンビネーションが、(おそらく2人の自覚と反復練習のみで)できていたのだから、続いて、平山のウラから飛び出す前田俊介と、水野に前を向いてボールを持たせるカレンの献身と梶山の正確な展開と...かように次々に発展させた組み合わせを考えていれば、同じメンバだとしても、一層素敵なチームになったのではないかと思えてならない。



 大熊氏はスタートのところで間違えていたとしか思えないのだ。平山は大熊氏に難しい仕事を要求され、肝心のゴール前で力を発揮できずに終えたように思えてならないのだ。ワールドユースベスト16止まり云々よりも、選手の素質を有効活用できなかった責任は重い。平山の復調を節に祈りたい。

 北京五輪に向けたチーム作りが近々始まるのだろう。私はその監督としては、ここまで述べた理由で、大熊氏は不適だと思う(そもそも五輪代表を、あまり長期的に作り上げる事も最近問題視しているのだが、それは別な機会に)。



 まだ若く情熱的な大熊氏が、野に下った上での復讐戦に期待したい。
posted by 武藤文雄 at 19:46| Comment(17) | TrackBack(5) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なるほど。<br />
ネットの大熊監督非難の中でも、最もロジカルだと思います。
Posted by ザッキ at 2005年06月22日 23:17
全く同感です。<br />
平山を批判するのに、「平山がいるからロングボールが多くなるのだ!平山を外せ!」という論調が一部にありますが、辟易とします。<br />
ロングボールが多いのはそういうチーム作りをしてきた監督の責任の筈です。<br />
<br />
今大会の平山のパフォーマンスには全く納得していませんが、それでも期待値の高い選手であることに変わりありません。<br />
何とか復調し、成長して欲しいと思います。
Posted by いつもはROM・・・だったけど at 2005年06月22日 23:40
言いたいことはタイトルにしました。<br />
柳沢を想起する人が多いかもしれませんが、私は城を思い出します。城の場合、当人がそれに喜びを見出してしまったから、タチが悪かった。素直そうな平山が城の後を追わないことを祈ります。<br />
久保は何を考えているのか分からないつかみどころのなさで、そうした罠に落とされるのを免れているのかもしれません。A代表は久保に点を取らせることに最適化したチーム作りをしてもいいぐらいだと思いますが、ああ怪我がちではリスキーですね。
Posted by にゃん at 2005年06月23日 00:34
いつも楽しく読ませてもらっています。小生、九州出身です。ですから、九州出身のプレーヤーが伸び悩んでいるのを見て心を痛めています。平山、兵藤のこれからの更なる奮起を願ってやみません。ただ、身びいきするわけではありませんが、彼らが大学に進学したことに対する無責任な論調には辟易しています。彼らが決めた将来設計なのだから尊重すべきでしょう。アマチュアの選手に対するこのような表面に現れるような非難は他のスポーツでは余り考えられないような気もしますが・・・<br />
ただ、これも期待の裏返しと受け止めるくらいのおおらかさがないと、彼ら二人は本当に消えていくのではと心配してしまいます。大熊監督の復讐劇もいつか堪能できることを期待したいですね。皆さん、前を向いて頑張ってください。<br />
Posted by 荒尾です at 2005年06月23日 01:15
大熊監督は今日のブラジル戦を見たでしょうか?<br />
これが日本のサッカーですよね。ジーコは凄いチームに<br />
仕上げてきたんじゃないですかね。
Posted by ぽく at 2005年06月23日 06:59
さすが、適格なご指摘に納得、感心致しました。<br />
「ポストプレイヤがいなければサイド攻撃が出来ない」なんていう定義が日本サッカー指導者の常識になっているんでしょうかね?<br />
…考え方の方向が違っていると思うのですが。<br />
ポストプレイが出来ずアテネ五輪代表から外された中山悟志(現グラ)が悔しく思い出されます…。
Posted by だいかんぶ at 2005年06月23日 09:49
山本氏大熊氏双方とも同じような「ポストプレイができるFW中心のチーム作り。」こうなると田嶋氏の方針という事でしょうねえ。<br />
<br />
ところでぼく様。<br />
フル代表の方はいい試合をしていますがこれは選手が決めた戦い方なので選手が2−3人変わったらこのサッカーができないと思うし、それがジーコ監督の限界だと思いますがいかがでしょうか。<br />
本題と違う内容ですみません。<br />
Posted by inmylife at 2005年06月23日 13:47
いつも適切な分析、楽しませていただいておいます。<br />
<br />
「平山起用法のミス」に全く同感です。ついでにこのメンバーで「オリンピックへ行く」云々の発言にはがっかりでした。<br />
<br />
そもそも、世界レベルでの戦いの場合、個対個では日本はサッカーにならないので、コレクティブなサッカーをやろう、と、いうことだったのだと思います。<br />
<br />
にもかかわらず、平山の高さという「個」の力に頼ったサッカーをしてしまうというのは何たる矛盾、と思いながらワールドユースの試合を見ていました。<br />
<br />
中盤を省略して飛んでいくボールが平山付近でルースボールとなり、そこには日本選手の駒が間に合っていないために、相手に拾われて一気に攻め込まれる。そして相手の個人技に振り回される、そんな連続であったような気がしました。<br />
<br />
そこにはサッカーがなかったように思えました。と、いうのは酷すぎるでしょうか。
Posted by divinghead at 2005年06月23日 15:09
選手を選び、戦い方のコンセプトを指導したのはジーコですね。個々の選手の主張を<br />
許すというのも監督の重要なコンセプトですし。選手が23人変われば<br />
それに応じて最良の選択をするのは当然でしょう。そうでなければ違う特長の選手が<br />
出る意味がありませんし。しかし、押し込まれる時間帯に慌てないことや、<br />
無理なフィードに逃げずにつなぐことや、試合に課せられた様々な条件に<br />
応じて個々が判断力を持つ、等、最初から今まで変わらない部分があって今の<br />
Aのサッカーがあるとおもいますよ。F3などという気の利いたフレーズは<br />
ありませんけど。いずれにしても今朝のサッカーのレベルを予想できな<br />
かった人達は簡単に限界などと言って批判することはできないでしょう。スレ違い失礼します。
Posted by ぽく at 2005年06月23日 15:18
いつも楽しく読ませていただいています。<br />
今回感じたのはモロッコ戦はもう少しで勝てそうだったゲームに見えました。<br />
これはチーム作りの失敗ではなく、単純に監督が試合中にチームを壊したってことではないでしょうか?<br />
武藤さんは<br />
>兵藤も活動量豊富な悪くない選手だ<br />
と仰いますが、アジアユースのころから有効なプレーをしたことを一度も見たことがありません。今回も集中力を欠くプレーの連発、本人の試合後の「自信が持てなかった・・・」というコメントを見ても、<br />
"戦う準備の出来ていない選手"<br />
を出してしまったとしか思えません。<br />
まさに10人の戦士と1人の愚者。<br />
そしてそれを指揮する大愚者。<br />
私自身の総括としては2002トルコ戦以来の、監督がチームを破壊した典型的な試合です。<br />
>彼らが決めた将来設計なのだから尊重すべき<br />
という意見もありましたが、本人の選択というより、"国見高校の都合"でしょう。彼らの先輩、徳永も五輪チームメイトとあまりの差に「大学を辞めたい・・・」と言っていたそうです。<br />
平山が照会のあったバレンシアに行っていたら今頃どうなっていたか・・・。<br />
大学サッカーという環境が選手の成長を阻害しているのはまごうことなき事実。<br />
世界の有力国で有望選手が大学に行くのは韓国、米、日本だけ!<br />
”大学進学者は基本的にユースにも五輪にも選ぶべきではない”という意見には賛成です。強くなるために。<br />
Posted by 永久追放 at 2005年06月23日 18:36
大熊氏には、どこかのJ2の監督でもしてもらいましょう。<br />
はっきりいって、育成期の監督には不適です。<br />
私は、平山はストライカーとして使用することは無理だと思います。<br />
何故なら、彼は前を向けない。高校時代よりポストプレイ、落とすことにを<br />
基本に育成されたからです。<br />
ストライカーはまず前を向く。コースがあけばゴールを狙う。<br />
ゴール前でボールを持ち帰るような選手はどうあがいてもストライカーにはなれない。<br />
少年期(3種4種)の指導者の責任はとても重いのである。<br />
トゥキックは否定するようでは、世界的なストライカーの養成は無理である。<br />
Posted by 天邪鬼 at 2005年06月23日 21:00
むしろ高校時代のストライカー平山を見ているからこそ、期待をしているのではないすか。<br />
彼は高校時代に最高峰の大会で今までの誰よりもたくさん点をとっているわけで。
Posted by Unknown at 2005年06月23日 22:42
平山の使用法についての武藤さんのご意見は論理的ではあると思います。<br />
<br />
しかし、平山をポストプレーヤーとして使わざるを得ない、あるいは育てざるを得ない事情もあったのではないかと思います。<br />
<br />
ストライカーは多いけれどポストプレーヤーとして使える日本人選手は鈴木と西澤しか思いつかない現状、山本さんや大熊さんに課せられた使命だったかも知れません。
Posted by ボヘミアン at 2005年06月23日 22:47
むしろ大熊監督は梶山がいなかったためにポストプレー一本槍のチームになったのではないでしょうか?
Posted by uuu at 2005年06月24日 00:11
 私はサッカーという競技の一傍観者で中側から競技としてのサッカーを見た事がないのでよくわからないのですが、FWの資質というのはいかなるものなのでしょうか。<br />
 私のような素人にも分かりやすいのは『ネズミを穫る猫はいい猫』みたいな『ゴールを決められるFWがいいFW』というものですが、どうやら玄人集にとってはそれだけではないようで、その辺が顕著なのが柳沢への評価だとおもいます。<br />
 それ以外に私などは一生懸命、とか必死に、とかガツガツとかいうなんとも抽象的な表現でしか言えないような角度で見ているわけですが、逆にいうと、トロトロ、ダラダラ、ヘラヘラ、オドオドやっているのを目にすると頭にきます。<br />
 ポストプレー云々だったり、ボールのないところでの巧みな動きだったり以前の問題として、私にはトロトロ、オドオドに見えて仕方ありませんでした。昨日のブラジル戦の玉田もオドオドに見えましたし、柳沢は相変わらずヘラヘラでした。<br />
 それに引き換え大黒はガリガリ、ガツガツで彼が外して悔しそうな表情をしているのを見ると、一緒に悔しく思えます。<br />
 別に選手が国だったりサポーターだったりを背負って試合をする必要ないと思いますが、カズだったり中山だったり久保だったり大黒だったりには、勝手にこちらで感情移入をして負けても一緒に悔しく思えているような気になり消化できるのですが、これが城や柳沢や今回の平山では、感情移入ができないのです。<br />
 こんないい加減な判断基準では中側から関わる人には問題かもしれませんが、でも、世界を見渡してスターとなっている人たちは多くの場合、見ている側からシンパシーと驚嘆を獲得できている人々の要なきがします。<br />
 柳沢も海外に行って苦労することで、変わりつつあるようですが、では何故国内ではそうはならなかったのか。野球でもそうですが、どこからか玄人集が現れ、自分の達見をひけらかすように、『ボールのない所の動きは超一流で』などと持ち上げるから、本人もいい気になって『ゴールすることだけがFWの仕事じゃない』などと嘯くようになってしまうのではないでしょうか。<br />
 海外の情報に詳しい訳ではありませんが、ブラジルやイギリスでそういう評価が通るとはあまり思えないのですが。<br />
 だんだん横へ逸れていきますが、ガンガンだのガシガシではないFW、ひいてはサッカー選手の資質に関する評価の軸のようなものを教えていただければ、ありがたいです。<br />
<br />
 よろしくお願いいたします。
Posted by じい at 2005年06月24日 01:58
得点という目的からそこに繋がる方法を導きだすのと、ボール奪取やビルドアップなどの要素を組上げていくことで、最終的に得点に至るというのと、2つの論理の方向性をどうすれば高次元で擦り合わせられるか、というのは深い命題だと思います。日本でも長らく続いた後者の偏重から、近年ようやく脱する兆候が見え始めている気がしますが…
Posted by FWに得点させる事と思考の起点 at 2005年06月24日 04:10
長身、いわゆる電柱型FWが育っていないという現状から考えると、大熊氏、山本氏に限らず、日本人は長身FWの使い方(あるいは育て方)を知らない、といえるのではないか。<br />
むかしマリノスにフリオ・サリナスという長身FWがいたけれども、高さはあまり印象には残っておらず、懐の深さを生かしたドリブルが怖かった印象がある。<br />
思えば平山も高校選手権の頃はシュートがうまいFWという評価であったはずで、やはり前を向いてナンボの選手だと思う。<br />
背が高いというだけで、じゃあポストプレーやってみよう、アタマ目掛けてロングボールいれようになってるように思えるのだが。<br />
”高木だ〜”とか”利き足はアタマ”とかいってた頃とは時代が違っていると思った次第。
Posted by kim at 2005年06月25日 01:31
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