2005年10月09日

適切なマッチメーク、不適切な準備体制

 開始早々、いきなり高原の超ロングシュートが決まる。中盤で中田がヘッドでつなぎ、中村と高原が前後に交錯する動きから、高原が完全にフリー、GKが前目のポジションなのを見て思い切りよくシュートしたのがよかった。

 ラトビアは序盤からMFが相当引いており、4DFの前のポジションを取る稲本が常時フリー。そこからの展開で、日本は中盤を制圧する。中田と中村に加え、松井が独特のリズムで貢献する。松井の良さは、トラップの瞬間にボールを大きくしかも正確に動かし、そのままドリブルに移れる事。そして、無理をすべきではない時は早めにさばき、ここぞと言う時にだけドリブル突破を狙う、プレイの選択も適切。ドイツの23人入りの可能性は相当高いのではないか。ルマンでの今期のプレイ振りからすれば、この活躍は当然と言えば当然かもしれない。しかし、中田、中村、小野、小笠原と20代後半に偏在していた想像的なMFが、より若い世代に登場してきた事は、日本サッカーの近い将来を非常に明るいものにする。

 この3人によるパス交換と、右サイド駒野の積極的なオーバラップによる攻撃で、再三好機を掴むものの追加点はなかなか奪えない。敵の最終ラインが強く固かったこともあるし、2トップの飛び出しにもう一工夫足りなかった事もある。とは言え、いくらペースを掴んでいたとは言え、守備の強いチームと敵地で戦っているのだから、守り切られた事は仕方が無かろう。

 一方で、ラトビアの逆襲速攻の鋭さもなかなか。カウンタ時の約束ごとがしっかりしており、味方の動きをよく信頼して思い切り良く展開され、CK崩れなどから何回か好機を許す。それでも、田中誠と茂庭が粘り強い対応でよく押さえ、土肥が再三好セーブ。また駒野が守備面での1対1の強さを発揮したのも明るい材料。

 守備の強さとカウンタの巧さ、ドイツに向けて格好の強化試合だ。

 

 後半に入っても、日本ペースは継続。PKを生む攻撃は、高原の持ちこたえから中田と柳沢が非常に質の高い個人技で中央突破を狙ったもの。改めて柳沢の潜在力には感心。



 日本ペースだった試合が、一転するのは大久保の交代から。この日の柳沢は上記のPK奪取や、前半の正面ジャンプボレーなど、無難な出来ではあったが、ホンジュラス戦での強引さが見られなかった。後半半ばから大久保にチャンスを与えると言う意味を含め、この交代は非常に妥当なものだった。

 ところが、ホームのラトビアがこの時間帯から前掛りに出てくる(ホームで2点差にされたのだから当然)。そして、稲本と中田の運動量が落ち始める(稲本はここのところ試合から遠ざかっているので不思議ではないが、中田の失速は不思議)。結果として、ラトビアに攻勢を許す。このような時間帯は、チーム全体で我慢すべきところ。しかし、大久保はこの時間帯でも強引な前進を狙ってしまった。

 大久保からすれば、ドイツに向けて数少ない機会。そこでアピールするためには「とにかく点を取るしかない」と考えざるを得ない。とすれば、ボールを受けたら強引に前に行くしかない。ところが、不運にも大久保が投入された時間帯は、リードされた敵が強引に前掛りになると共に、中盤がガス欠になっていたため、無理をすべきではなかったのだ。大久保は極めて不運だったと思う。



 ここでジーコ氏はドイスボランチの3DFへ切り替え、守り切ろうとした。ところが、スタメン起用されていない守備的MFは皆大分にいるので、左サイドバックを務めていた中田浩二をボランチに。そして、中村に代えて坪井を入れてストッパを増やし、左サイドは松井に代えてアレックス。狙いはわかるが、結果的にMFには疲労している稲本と中田が残る。さらに、サイドバックをやっていた中田浩二とてフレッシュでは決して無い。かえって中盤は苦しくなってしまった。ただし、これはジーコ氏の罪では無い、この貴重な遠征にこのようなメンバ構成を強いた日本協会の問題である(もっとも、それを甘んじて受け入れた責任は、ジーコ氏の問題かもしれないが)。

 さらに、アレックスに守備固めの仕事を要求するのは、あまりに酷。アレックス自身はナビスコ準決勝の疲労もあまり無い模様で、巧みなドリブル突破を見せたりはしていた。相変わらず敵のクロスに尻を向けたり、難しい体勢からサイドチェンジを狙いボールを奪われるなど、守備固めとはほど遠い出来だった。どうして、ジーコ氏はアレックスに不得手なプレイを要求し続けるのだろうか。丁寧なボールキープを継続していた松井を、このまま左サイドに残せばよかった事だと思うのだが(この日の松井のプレイを見ていると、3DFの左サイドも十分に任せる事ができるように思えた)。

 それでも日本守備陣は粘り強く対応、鈴木と本山が投入され前線の活動量が復活した事もあり、一時ほどのラトビアペースでは無くなり、試合は終盤に向かった。そこで、中田浩二があのようなミスを犯すとは...



 引き分けた事、守り切れなかった事、それぞれは相手だって必死なのだし、公式戦でもないのだし、仕方の無い事だ。しかし、ドイツに向けての準備を考えると、今回の変則メンバがつらい。敵地での強豪との試合なのだから、守備のオプション作りを行いたいのだが、守備的MFが決定的に足りないため、やりようがないのだ。

 ドイツに向けては、適切なマッチメーク。しかし、あまりに不適切な準備体制。まあ、理不尽なのがサッカーの世の常とは言え。
posted by 武藤文雄 at 02:19| Comment(11) | TrackBack(2) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
中田ヒデは中田ヒデで怪我明けから久々にボルトンで<br />
リーグ戦でスタメン起用されだして、更にUEFAカップで<br />
ミッドリーグの試合も出てますしね。特に今週は遠征試合でした。<br />
まだまだコンディションを上げている期間と言えるのかもしれません。
Posted by orobi at 2005年10月09日 05:26
武藤さんの分析は本当にわかりやすい。後半日本の中盤がボロボロになった理由がよくわかりました。<br />
松井のプレー見ててワクワクしました。
Posted by ロンドン at 2005年10月09日 09:30
武藤さんの分析は本当にわかりやすい。後半日本の中盤がボロボロになった理由がよくわかりました。<br />
松井のプレー見ててワクワクしました。
Posted by ロンドン at 2005年10月09日 09:30
>それを甘んじて受け入れた責任は、ジーコ氏の問題かもしれないが<br />
ジーコさんにはこういう時に反発する姿勢を見せて欲しかった。<br />
ところで箕輪選手はウクライナ戦ででれるんでしょうか・・・。
Posted by Unknown at 2005年10月09日 13:46
まあ来年協力してもらうことになりますからなあJリーグ側には。<br />
ここで譲歩したことはよかったと思いますよ。
Posted by Unknown at 2005年10月09日 19:29
いや、「ジーコなら(トルシエと違って)大人だから喧嘩にならないだろ」というのが監督選考の理由のひとつだった訳で。内心怒ってるんだろうけどさ。
Posted by masuda at 2005年10月09日 23:52
協会を責めてますが、ジーコの采配もかなり疑問が残りませんか。<br />
たいして結果が求められる試合ではないのに、箕輪や村井をベンチに残したままというのはどうなんでしょう。<br />
<br />
特に坪井は頭での競り合いは下手糞で、そういう意味でも箕輪が適切だったと思いますし、<br />
ナビスコを経て時差も克服してない三都主を使うなら、折角呼んだ村井を使ってあげてもいいじゃないですか。<br />
<br />
鈴木や本山を入れたのも意味不明。松井をもう少し見たかったですよ。<br />
<br />
結局は、余計な親善試合をいれまくってJに迷惑をかけまくった協会側の責任とは思いますけどね<br />
<br />
どっちにしろオールスターという行事大切にするのはいいんですけど、それならもっと普段のJも大切にしてよと思います。<br />
<br />
HOT6なんて洒落になってなかった。みんな鈍いし。
Posted by あ at 2005年10月10日 00:35
アレックスや坪井が入った時点で、ヤバイなあ、と感じました。鈴木や本山を使うのも?です。<br />
松井をもっと見たかった。彼のプレイは安心して見ることができました。次のウクライナ戦にもっと期待します。
Posted by 狂会落第生 at 2005年10月10日 22:39
最後の失点、誰がどう考えても中田浩二のミス(本人も認めてますが)。にもかかわらず、まるで失点が交代で入った選手たちの仕業であるかのような論調が多いのは何故?中田浩二の人徳ですかね。
Posted by 不思議 at 2005年10月11日 12:25
サッカーファンとしての良心に従い……<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
……F1を見ました。<br />
Posted by 五反田西口 at 2005年10月11日 23:42
>論調が多いのは何故?<br />
中田浩二選手のミスは言及する必要も無いほど明確なミスであるのが一番かもし。それに、ミスへの布石を作った交代だったと考えてる方もいるのでしょう。<br />
<br />
そして、交代で入った選手たちは最近否定的な評価で語られることが多い選手で、アンチが多い(ここに書いておられる特定の方を指したものではありません)のもひとつでしょうし、新しい選手への期待が今非常に高いというのも大きいでしょう。<br />
<br />
采配そのものに関しては、?マークが付く部分も多々ありましたが、武藤さんが書いておられるように駒不足の感が否めません。正直、AS出場のあの選手がいればと3人ほど頭をよぎりました。溜め息と共に・・・。
Posted by トン太 at 2005年10月12日 07:45
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Weblog: 自記公開書
Tracked: 2005-01-01 00:00

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Excerpt: ――あの時間帯で3バックにした理由は  中盤でボールを取られる場面が見られて形成が悪かったので(中盤を)1枚増やした。センターバックについても、かなり負担が大きくなっていたので、これも1枚増やそうとい..
Weblog: doroguba〜football column〜
Tracked: 2005-01-01 00:00