2005年10月13日

最高の準備試合

 ジーコとブロヒンは同世代。この2人のスーパースターが直接試合で相見えたと言えば、82年スペイン大会の1次リーグ初戦。ジーコを軸とするブラジルは、言うまでも無く黄金の中盤のチーム。一方、ブロヒンを中心としたソ連は、70年代から精強を誇ったディナモ・キエフを軸にした好チームで、大会前に連勝を続けた事もあり、ダークホース的存在と予想された。この試合は、トニーニョセレーゾが予選の警告累積で出場停止だった事もあり、ブラジルは苦戦。GKペレスのミスもあり、ソ連に先制を許すが、終盤ソクラテスとエデルが強シュートを決め、見事な逆転勝利で快進撃をスタートさせた。

 この2人の戦いは、あれ以来なのだろうか。そうだとすると、23年振りか。

 と、ノンビリした想いで見ていた試合だが、アジア人を髣髴させる主審の大活躍で、日本にとっては格好の準備試合となった。



 ウクライナとの試合は、02年大会の準備試合(於長居)以来2試合目。あの試合はCKから見事な崩しで最後に戸田が決める美しい得点で1−0の勝利。しかし、独特のショートパスを巧みにつながれ、思うようにプレスがかからず苦戦した記憶が強かった。



 そして、今日も前半から素早いパスワークで次々にサイドに拠点を作られる難しい試合となった。もっとも、敵地でもあるし、これだけの難敵、中盤で回されるのは仕方ない。実際、日本は見事な守備を見せる。中村、中田、稲本の3人が振り回されながらも献身的に敵のパス回しを追い続け、何とかコースを限定。4DFの前に位置取る中田浩二のところでしっかりと絡め取る。同じ4人がMFを務め、グジャグジャだったホンジュラス戦とはえらい違いだ。さらに嬉しいのは坪井の好調、先日の東アジア選手権では「もうお終い、評価完了」と言う雰囲気だったが、この日の粘り強さには驚嘆、恐れ入りました。

 もっとも、しっかり守っていたが、少しつながれ過ぎだろう。これは、アレックスと稲本の左サイドに相当問題があったからと見た。

 やはり、アレックスは敵がこのレベルになると、組み立てに全く参加できなくなる。よくアレックスの守備を問題視する人がいる。あれはあれで確かに論外。しかし、敵のプレスが激しくなるとタイミングや強弱を全く考慮しないつなぎを始める事は、もっと問題に思える。もっとも、周囲の選手がそれに慣れており、織込み済みであるかのような守備をするのがまた凄いが。

 また、稲本の出来はそれほど悪くなかったが、この選手に左サイドのMFが無理な事が発覚した。アレックスのカバーを含めて、左向きに向いた状態で左足のキープができないため、右足に持ち替えたり、向きを都度右に代えなければならないため、球離れが極端に遅くなるのだ。中田が左サイドに回ってくると、急に日本のつなぎが円滑になるのが、面白かった(面白がっている場合かどうかはさておき)。最初から右で使ってやればよかったのだが。

 無論、中田と中村に対するラフタックルに対する主審の温かい許容心が、日本の苦戦に一層の彩りを添えたのは言うまでも無い。



 苦しい試合だったが、前半半ば頃、中田?が左サイドからクリアを右オープンフリーの中村につないだ場面から、日本の逆襲が始まる。この場面あたりから、主審の癖を完全に覚えた中村は、冷静な間合いを取ったドリブルでウクライナを翻弄し始める。確かにウクライナペースの試合だったが、この場面以降の中村は素晴らしかった。前を向いた中村は見事な技巧でチャンスを作り出す。

 前半終了間際にアレックスが安易にポストプレイを許し、茂庭と坪井の背後をつかれる決定的ピンチがあったが、敵がシュート失敗。松木よ、あれで坪井を責めるのは酷だろう。ともあれ、前半終了。ラトビア戦とは逆に、後半敵の攻め疲れが期待できるので、終盤に大久保、松井の投入で、勝つ目が相当出てきた感を抱く前半だった。



 しかし、主審もさるもの。日本の守り勝ちになりそうな試合展開をよく読み、中田浩二のやや軽率なタックルにしっかりと対応した。さすがの中田浩二も油断したのだろう。ここはフランスリーグではなく、アジアカップのつもりでプレイすべきであった。



 ここからジーコ氏の采配が冴え渡る。まず箕輪を投入し守備ラインの数を増やし様子を見る。そして、最大の懸案である左サイドに村井を投入。これは画期的な采配。過去、ジーコ氏が勝つために能動的にアレックスを交代したのは、初めてではなかろうか。長きに渡った日本代表の問題点が、この画期的采配を最後に消滅する事を期待する(が、裏切られるような気もする)。そして、疲労の色が顕著な中村に代えて、松井を投入(中村は中田浩二事件直後から極端に運動量が落ちていた、キエフ入りしてから発熱したと言う情報もあったので、そのためだろうか)。

 この松井投入で、日本は息を吹き返す。駒野と村井の前進時間も増え、好機をつかめるようになる。さらに嬉しかったのは、このあたりの時間帯で鈴木が復調の兆しを見せた事。アジアカップの準決勝でもそうだったが、1人少なくて厳しい状況になると、この男は一層機能し始めるのかもしれない。そして、このように苦しくなると、中田の「格」が顕著になる。主審の献身的な妨害をもってしても、いずれのウクライナの選手よりも「格」を見せつけてくれた。

 あれで村井のCKを箕輪が決めていれば、美しいドラマになったのだが。



 とは言え、敵地で10人。終盤になると、駒野、茂庭に疲労の色が濃く、再三敵に決定機をつかまれるが、箕輪の強さと坪井のスピードで何とか無失点が継続する。主審の最後の手段は防ぎようがない。中田浩二の退場は「やや軽率」のレベルだったが、箕輪のPKは「通り魔に会った」に過ぎない。そして、サッカーにおいては、黒服が通り魔の場合打つ手は無い。



 ドイツに向けての準備試合としては、最高の経験を積めた試合だった。技巧に優れた敵の攻撃を辛抱して守った事。坪井が充実していた事。少ない時間帯ながら、前半は中村、後半は松井を軸によく逆襲できた事。箕輪、村井も、計算できる戦力だとわかった事。アレックスと別離できた事。鈴木に復調の兆しが伺えた事。そして、中田が圧倒的な存在感を見せた事。

 そして何より、ドイツにおいてウクライナと対戦した場合、相当な自信を持って望めそうな事がもっとも大きい。無論、シェフチェンコを押さえるのは苦しいだろう。しかし、我々とて中澤も小野も福西も遠藤も今野も阿部も大黒も達也も、そして久保もいなかったのだ。戦力の上積みは勝るとも劣らない。そして、ブロヒン氏とウクライナの関係者は、明確に「『主審のアレ』で勝った試合」としか記憶できないだろう。ドイツで対戦した際に、精神的に優位に立てるのは当方なのだ。



 かほどの経験を提供してくれたラユックスと言う男を、俺は絶対に許さない。
posted by 武藤文雄 at 02:31| Comment(21) | TrackBack(3) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
更新おつかれさまです。<br />
<br />
三都主を目の敵にしてますが、彼は4バックのSBとして定着していますから、WBしかできない村井が三都主を追い出す事はできないと思いますよ。<br />
<br />
唯一可能性があったのは中蛸ですけども、彼と三都主はやっぱどっこいどっこいじゃないですか?<br />
<br />
中蛸の方がまだ無難なプレイに終始する一方で、三都主もたまーに良いプレイを見せる事がありますしね。<br />
<br />
あと、最近ではアウエーのシンガポール戦は鈴木のキーパーチャージ、ホームのバーレーン戦なんて中澤のPKが見逃されて勝ったんですけど、<br />
これらの試合を「審判が味方してくれたから勝った」と記憶している人間はいないと思いますよ。<br />
もっと凄い例では、下の世代のオランダWYオーストラリア戦。前田のもろオフサイドでゴールして引き分けましたけど、あれすら後ろめたい気持ちで捉えている人間も見たことないですね。<br />
<br />
国が違えば文化も違うんです。某半島なんて本気でW杯ベスト4を自分たちの殊勲に捉えているし、必ずしも今回のことが精神的に有利に働くとは限りませんよ。<br />
<br />
ヨーロッパでやる以上、そして前回大会で同胞がやらかしたことで、日本は相当厳しいジャッジを受ける可能性も高いと私は思いますね。<br />
<br />
よく調べてませんが、ウクライナはシェパだけでなく抜けてるメンバーも結構多いらしいとか。<br />
<br />
まあ、それでも特に前半はよくやったと思いますね。面白い試合でした。それだけに、一部、代表レベルにとても満たない人間が出ているのが残念でした。<br />
<br />
武藤さんは鈴木が好きらしいですが、あそこで鈴木の1トップになったことでむしろ絶望した人間も多いと思いますよ。<br />
<br />
松木か誰かが「裏をつくのが得意」とか言ってましたけど、嘘つけ!と心の底で思いましたもん。<br />
<br />
チェイスも甘いし、キープもいい加減だし、後半投入の割には歩いている時間が多いし、あれなら大久保にひたすらロングボール渡したほうがよかったですね。
Posted by ぽこたん at 2005年10月13日 03:10
内容と関係無い事で申し訳ないが<br />
試合後、わずか2時間でこれだけクオリティの高い文章を書ける武藤さんに驚嘆しました。<br />
<br />
この才能をNETだけに留めておくのは日本サッカーにとって物凄い勿体無い損害(?)のような気がします。
Posted by U at 2005年10月13日 03:13
ウクライナ戦のことで何か言ってやろうと思ったら、武藤さんにぜーんぶ言われてることに気付く。今回の試合はさすがにジーコ含む日本代表の頑張りを批判する人はいないでしょう。<br />
久々にこのようなすばらしい試合を見た気がします。アジアカップ準決勝以来ですかね。
Posted by スレイヴ at 2005年10月13日 03:25
>ぽこたんさん <br />
細々と異を唱えることは避けますが、前俊のは本人もそう危惧しつつシュートしたようですが、彼の見えないところで一人残っててオフサイドじゃないですよ。<br />
<br />
とりあえず、私は武藤さんの分析と中田ヒデの終盤の格の違いを見せ付けるプレイに感動してしまいました。<br />
<br />
変な言い方ですが、負けてもいいからあの試合を最後まで、審判介入無しに見届けたかったです。
Posted by Unknown at 2005年10月13日 03:31
主審はアフターに非常に厳しい判定だったので、中田浩二のレッドは仕方が無いと思います。PKはまさに通り魔というのは的を射た言い方。<br />
<br />
さてこの試合で得た経験、選手は存分に今後に生かすであろうと思います。<br />
監督は主審への怒りで全て忘れかねないのが残念ですが。
Posted by HR at 2005年10月13日 07:23
主審は、差し入れのウォッカに酔いしれていたのでしょうね。そのウォッカは元は同じ国だった、わが国の審判に怒り狂っていたであろう、本当に試合が取り消されてしまったウズベキスタンから。(プレーOFFとこの試合どっちが先?)
Posted by Mario at 2005年10月13日 08:12
意図的に宮本を外してるのでしょうか?
Posted by ぐひ at 2005年10月13日 09:06
監督さんは本当に忘れようとしてるみたいですよ(笑)。<br />
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/kaiken/200510/at00006315.html
Posted by kats222 at 2005年10月13日 10:05
これほど「良い」経験はなかったと思う。しかし、いかんせんガラガラのスタンドといい、何がしか貰っているとしか思えない黒服といい、かの国の印象を地に貶めるに十分な試合でしたね。ほどほどいいチーム持ってるのにね、残念だ。<br />
Posted by sillywalk at 2005年10月13日 11:05
トラックバックを2件送ってしまいました、サーバ上のエラーと思われます、出来ましたら1件分削除お願いします。<br />
Posted by MASA at 2005年10月13日 13:25
むかつく試合でしたが、この2試合で確実にオプションを増やし、それぞれの選手の使い道も<br />
見極められてきたようです。<br />
うろ覚えでうがジーコはフライデイのインタビューで、ポンとパソコンのスイッチを押せば<br />
日本のボールの動かし方はすぐに出て来る時代だからそれを越えるオプションが必要だと。<br />
ジーコは、少し慎重な361といつもの352、勝ちにいくコンフェデ442、少し守備的なダイヤモンド型442、<br />
試合の流れによっての途中からの4バックへの変化、3バックへの変化、と着実にオプションを<br />
増やしてますね。材料は揃ってきたと思います。
Posted by もろこし at 2005年10月13日 14:28
審判がラトビア人てところでもうすでに怪しいことに気付けよ(笑)まっ、これくらいキビシイ笛吹かれた方が練習にはなるな。しかし突発的に痛いミスをする中田浩二の印象はついてしまったかも。サントスは笑かし担当だからあれでいいのかもね。ジーコの怒り狂いパフォーマンスも評価できる、日本人なら「仕方がないな」で終わってなめられたままになるからね。ああいうところはジーコ上手いな。
Posted by Romans Lajuks at 2005年10月13日 17:50
ただの親善試合で平日午後4時キックオフだったら客が入るわけないですよ。キックオフ時刻は日本側の都合で決まったものだろうし、文句をつけちゃ遺憾でしょう。
Posted by masuda at 2005年10月13日 18:30
レフェリーにあれだけ怒り狂ったジーコ氏は、オールスターを優先させた日本側になぜ怒らなかったのか?
Posted by 五反田西口 at 2005年10月13日 21:21
>ただの親善試合で平日午後4時キックオフだったら客が入るわけないですよ。<br />
そうですねー、冷たい雨も降ってたし、2軍だし。でも、あの値段でも入らんもんかねー。4時っつったら余裕で仕事も終わっ(ry
Posted by sillywalk at 2005年10月13日 23:06
キエフで昨日何かあったのですか?<br />
てか、ウクライナってあの程度なの。<br />
違うはずだ、だって欧州予選と全然ちゃうぞ・・・・。<br />
<br />
でも日本ってあの程度だよね。<br />
オールスター組みがいてもたいして変わらない。<br />
だって「監督」が同じだから・・・・。<br />
<br />
<br />
Posted by 天邪鬼 at 2005年10月13日 23:12
最初にコメントしている輩に一言。<br />
>同胞?<br />
お前、日本語、ネイティブじゃないだろ?<br />
市ね。アフォ。
Posted by Unknown at 2005年10月14日 00:00
>我々とて中澤も小野も福西も遠藤も今野も阿部も大黒も達也も、そして久保もいなかったのだ。<br />
<br />
宮本の名前を挙げてないのは「わざと」ですね?
Posted by Unknown at 2005年10月14日 05:56
>レフェリーにあれだけ怒り狂ったジーコ氏は、オールスターを優先させた日本側になぜ怒らなかったのか?<br />
<br />
そもそもジーコが「オールスターは外しちゃならんお祭りだから・・」見たいな事を言って、容認したんじゃなかったっけ?
Posted by Unknown at 2005年10月14日 09:56
最近でこそバカの見本みたいに言われてますけど、ジーコは深謀遠慮の人ですよ。<br />
オールスターを優先させてディフェンスラインのリザーブをテストしてるんですよ。<br />
コンフェデ後に、メンバーは固定するような談話がありましたが、フレンドリーマッチでやってることはメンバーのテストなのは明白です。<br />
選手交代もコンフェデ以降はきっちり本番モードになってきています。<br />
我々は監督ジーコを再評価しなければなりません。
Posted by 深読み at 2005年10月14日 11:48
皆様宮本はいなくていいのかってツッコミは入っても加地はってツッコミがないのが寂しい…駒野を見ていて、個人的に彼のスタミナとフリーランニングの質の高さを感じたのですが。確かに技術は駒野ですけど
Posted by Unknown at 2005年10月18日 11:42
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