2005年11月09日

カズについて書きました

 先日のエントリで伏線を打ったのだが、7日発売のEL・GOLAZOに「カズ」について書かせていただいた。

 今回の掲載にあたっては、編集の方から非常に具体的に「シドニーに行くカズについて前向きな文章を、過去のカズを絡めて書け」と提案をいただいた。編集の方の意図と、自分の書きたい事のリズムと言うかイメージがピタリ合っていたので、自分でもそこそこの文章が書けたのではないかと思っている(本当はもう少しユーモアと言うかを入れたかったのだが、そのあたりは修行不足か)。さらに、誌上ではとてもカッコいいレイアウト(カズの印象的な写真がたくさんあり、しかも黒地に白抜きの縦書きで、う〜ん言葉で説明しようがないが、カッコよかったのだ)にまとめていただいたので、書いた自分でも嬉しくなってしまった。

 以下転載する。ただ、こうやってblogに転載するのは簡単なのだが、レイアウトまで再現できないのは残念。ともあれ、読んで下され。



<以下転載>



 我々はカズの何に惹かれるのだろうか。カズがシドニーFCへ移籍し、世界クラブ選手権に挑戦する機会に、カズの経歴を振り返りながら、改めて考えてみた。

 カズは名門静岡学園を中退しブラジルに単身留学、サントスなどのトップクラブでレギュラを確保した後、1990年に読売クラブに加入。「ブラジルのトップチームでレギュラだった男」として大変に期待されての帰国だった。帰国するや「自分が日本をワールドカップに連れて行く」と堂々と発言するふてぶてしさも頼もしかった。

 しかし残念ながら、帰国当時のカズは、それほど強力なFWとは言えなかった。確かにボール扱いは正確だったが、足が遅い事もあり必ずしも突破力は優れていなかったし、無駄なフェイントで攻撃のリズムをしばしば壊してしまう判断の悪さも目立っていた。

 しかし、カズは只者ではなかった。帰国後約2年間で、上半身を見違えるほど鍛え上げ、敵DFにフィジカルで負けなくなる。それによって、最もプレッシャがきつい敵ペナルティエリア内でも、持ち味のボール扱いの良さを活かし、正確なトラップとシュートを見せるようになる。さらに、ふてぶてしい程の度胸は、敵ゴール前での冷静さとして発揮される。結果として、カズは非常に精度の高いシュート力を持つ選手に成長した。

 そして迎えたのが、92年秋に広島で行われたアジアカップ。4チームで行われた1次リーグ、日本は初戦UAE、第2戦の北朝鮮それぞれと引き分けてしまった。特に北朝鮮戦は、福田のドリブルから獲得したPKをカズが失敗したのが痛かった。しかし、カズはこの失敗を貴重な経験として糧とする事に成功する。第3戦のイラン戦、準決勝進出のためには、日本は勝たなければならなかったが、0−0のまま時計は進む。ロスタイム、井原のスルーパスから抜け出したカズは、「足に魂を込めた」シュートを決め、奇跡を演出する。これこそ、カズが一介の好FWから、「キング」に化けた瞬間だったのだ。

 そのまま、日本は初めてのアジアチャンピオンへ駆け上がることになる。そして、アジアカップ以降、カズはその抜群の得点力を前面に押し出して、アジア屈指の大スターとして君臨する。翌93年の米国ワールドカップ予選では、カズは得点を重ね、日本は、次々と難敵を倒し続け、後1歩で初出場と言うところまで勝ち進むのだが...

 その後もカズは代表チームで得点を重ね続け、97年にフランスワールドカップ予選に挑戦。ところが、2次予選初戦のウズベキスタン戦に4得点を上げる活躍の後、全く点を取れなくなり、日本は苦戦に陥る。結局、予選終了までカズの調子は戻らなかったが、日本は井原を軸に若き将軍中田の大活躍もあり、初出場を決める。

 フランスワールドカップ直前に最終メンバから外れた悲劇。当時カズが不調だったのは事実だし、岡田監督の判断は説得力のあるものだった。しかし感傷的な愚痴も言いたくなる(結果論だけれども)。日本は大会を通じて得点力不足に苦しみ続けた。一方、日本と1次リーグを戦ったクロアチアは、不調に苦しんでいたエースのシュケルを我慢して使い続けた。そして、シュケルは日本戦で巧妙な得点を上げた事で復活、最終的に得点王を獲得し、母国の3位入賞に貢献した。もしかしてカズを残していたならば、我々だって...

 カズの足跡を振り返り、改めて全盛期の得点力の素晴らしさ、そして当時の「カズさえいれば点は取れる、代表で得点の心配はいらない」と考える事のできた時代を思い出した。

 カズの選手としての経歴は終わりに近づいてきている。そして、カズは我々の夢を再三叶えてくれてきた。カズが輝かしい経歴の終幕近くで、リバプールなりサンパウロなりから見事な得点を奪う夢を抱いても罰は当るまい。
posted by 武藤文雄 at 23:06| Comment(9) | TrackBack(3) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
しかし、いまいちシドニーFCのカズを応援する気になれないんですよね。<br />
カズに関しては、これまでサッカーファンが自発的にこの功労者を称えてきた感じなのに、今回に関しては、それを協会側が商業的に利用したというかなんというか…。「カズ、欧州王者相手にゴール」という報道がされても仕掛けられたイベントって感じで歓喜できないんですよね。そもそもリヴァプールもあまり参加したくないみたいだし。
Posted by てるぷ at 2005年11月11日 01:48
「引退する相馬直樹について前向きな文章を、過去の相馬直樹を絡めて書け」
Posted by スレイヴ at 2005年11月11日 09:02
あらためてカズの偉大さに触れた気分です。<br />
ちょっとだけ、目がウルっと曇りました。<br />
今回の件、カズを利用して・・とか、周囲の思惑はアレですけど、<br />
カズの偉さは、そんな思惑もぶっとばして、<br />
サッカーそのものをしている、ってことじゃないかな?<br />
なんて思ってしまいます。<br />
この偉大な選手の晩年に栄光あれ!
Posted by ベガルタファン at 2005年11月11日 09:26
どもです。<br />
掲載記事で読みました。<br />
<br />
武藤さんの名前を見て目が飛び出るほどびっくりしました・・・。カッコいい記事でしたね。<br />
<br />
確かに、ここをいつも読んでいる身としては、もう少し遊び心があったほうが武藤さんらしいかなと思いました。<br />
<br />
ともあれ、感動しました。
Posted by 総さん−ソウサン− at 2005年11月11日 11:44
点とって変なダンスして欲しい。
Posted by カドゥー at 2005年11月11日 14:16
今回の移籍に付いては 色んな所で色んな人が ああじゃこうじゃ!言っていたりするけれど!物事考え次第だし<br />
キングだからこそ出来る離れ業!だとも言えると私は思います。<br />
でなきゃ?余にも無理強いなトヨタカップの発展的消滅?ギリギリ冠は残って日本で開催 しかしながらのやる気ない乗り気無い参加チーム<br />
国内チームも居無い。 普通の人には聞き覚えも無い様なチーム?<br />
国際大会で在りながら・・・ガラガラスタンドも日本人としても切ない。<br />
衛星中継とかに成るんでしょ?期待を良い意味裏切って素敵な試合を見せてくれたら 嬉しいけど?でなきゃ!<br />
キングが居て 夢の一つでも見せて欲しいし 期待もしたい!増してKAZUファンにしてみれば何でもOKです<br />
この1回目の大会の礎にでも成れれば<br />
少なくても 良いんじゃないのでしょうか? と 私 個人的には思っております。
Posted by ウンテル at 2005年11月12日 21:40
確かにこのコラムは読んだのに、署名を見なかった僕は負け組です。
Posted by おぢさん。 at 2005年11月13日 10:29
「シドニーに行くカズについて前向きな文章を、過去のカズを絡めて書け」...よい言葉ですね!<br />
カズのこれまでの貢献は皆が知っているところです。<br />
もし、世界セカイクラブ選手権でカズがリバプールなりサンパウロからゴールを奪ったら...きっと私はTVの前で泣きますよ
Posted by helon at 2005年11月14日 17:00
フランス大会最終予選のウズベキスタン戦以降、動きが悪くなったのは、韓国戦で尾てい骨骨折(だったと思う、ヒビだったかもしれない)となったため。あの怪我は本当に残念だった。
Posted by 街路樹 at 2005年12月01日 03:02
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カズ
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Tracked: 2005-01-01 00:00