昨日、新潟スタジアムにて、ガンバがアルビレックスの注文相撲に完敗した事について講釈を垂れた。つらつら考えてみれば、第9節マリノスがヴァンフォーレに試合終了間際のロスタイムに失点し敗れたのも、同様に強豪クラブが地方クラブにしてやられたと言う意味では同じ展開。ただし、こちらの試合内容は、随分と異なっていた。
凡庸なクラブは(例えば4年前のベガルタのように)いくつかの幸運に恵まれて、計画より早くJ1に昇格してしまった場合、まず残留を考える。その方策は多々考えられるが、4年前のベガルタは即戦力選手を大量補強し、一種の自転車操業の継続でJ1残留、定着を狙った。その発想そのものは間違っていなかったと思うが、結果は伴わずベガルタはあえなく2シーズン目にJ2落ちしてしまった。予算なり伝統なりに恵まれないクラブの多くは、J1残留と言う決して楽ではない目的を実現するために戦いながら、もがくのが常なのだ。
ところが、ヴァンフォーレの凄さは、社長が「予算第1、勝負第2」具体的に言い換えれば「予算破綻しない事がJ1残留よりも優先される」と明言している事。優秀な経営者の条件の1つに、部下に優先順位を明確に伝える事があるとよく言われる。そして、サッカークラブのトップが、ここまで物事の優先順位を明確に宣言できるとは、見事に尽きるではないか。
したがって、ヴァンフォーレの今シーズンの狙いは、単純に勝ち点を積上げる事、あるいはその結果としてJ1残留を果たす事ではない。むしろ、経営をより順調にする事、つまり多くの観客を集める事になる。そのためには、観客、とくに「そうかJ1に上がったのか、今日の相手は久保のいるマリノスか、観に行ってみようかな」と言う一見の観客を、いかにリピート客するか(それも未来永劫の)が、重要となる。
とすれば、現場の目標も明確になり、大木監督は「勝負に拘らず、見て面白いサッカー」を実施している。ただし、重要なのは、いくら腹が座ったとしても、他クラブと比較して決して戦闘能力に恵まれているとは言えないヴァンフォーレが、「勝負に拘泥せず」とも魅力的な攻撃サッカーを展開する事は相当難しいと言う事。下手くそな監督ならば、「勝負に拘泥せず」につまらないサッカーをする事に陥りがちになのだが。
そのヴァンフォーレのよさが全て出たのが、第9節のマリノス戦だったと思う。
あの試合のロスタイムの決勝点を振り返ってみよう。0−0で終盤を迎えたマリノスは、怒涛の攻撃、再三狩野と久保の個人技から好機をつかんだ。
そして、マリノスのCK崩れ、こぼれ球を拾ったビジュが右タッチ際を強引に持ち上がる。「引き分けでいい」と言う感覚であれば、ボールを拾ったビジュは無理をせずタッチ際でキープに入ったはず。万が一逆にボールを奪われたら、即失点の危機となるから。ところが、ビジュは明らかに逆襲を狙って強引に前進した。無理攻めに出ていたマリノスは後方の人数が足りない、追走したマグロンはやむを得ずファウルで止めてイエローカード。そして、このFKからビジュがタッチ沿いに素早く展開し走りこんだ石原へ、石原がアーリークロスを狙おうとすると、その外側に中盤の将軍藤田が走りこむ、それにより石原をチェックしていた那須?のマークが緩くなり、石原は狙い済ましたクロスを上げる。その好クロスにヴァンフォーレは3人が飛び込み、ニアに合わせた秋本?のシュートがファー側に流れたところにバレーがいた。バレーをマークしたいた中澤は、最初の秋本のヘッドへの対応でゴールカバーに入っており、バレーは全くのフリーでヘディングを叩き込んだ。
小瀬は満員熱狂、阿鼻叫喚になった次第。
マリノスはこの試合、決して悪くなかった。丁寧に攻め込み、終盤幾度か好機を作った。ただ、ヴァンフォーレの異様な踏ん張りに、どうしても最後の一枚が破りきれなかった。負ける時はこういうものだ。このような敗戦パタンを脱するには、勝ち味を早くすると言うか、前半頭からある程度攻勢を取る事が必要。しかし、マリノスの強みは前半は無理せずに後半の勝負どころで確実に点を取って勝ち切るところにある。このあたりの矛盾を岡田氏がどう捉え、解決を図るか。
それにしても、ヴァンフォーレ。あの煮詰まった終盤、J屈指の強豪をホームに迎え、引き分けでの終了をよしとせずに、強引に前に進んだ攻撃敢闘精神。ビジュがFKを蹴ったタイミングで少なくとも、5人が得点を上げるべく前進した訳だ。恐るべき勇気である。そして、その勇気「ここぞと言う攻撃時に多数の選手が攻めあがる」はこの場面のみならず、試合中も再三観る事ができた。正に大木氏が狙っている「勝負に拘らず、見て面白いサッカー」だった。
もうこの試合を観た大観衆は、サッカーの魔力の虜だろう。
問題は勝ち点勘定が盛んになるリーグ終盤にも、この攻撃サッカーを継続できるかどうかだが、この際そのような野暮を言うのはやめておこう。老舗のサッカーどころであるこの地域の名門クラブがトップリーグを心底愉しんでいる現状そのものが、日本サッカーの豊かさを示しているのだから。
2006年05月02日
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予算的には、J上位にもなろうかというのに・・・
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TVで見ていてバレーの得点のシーンでは絶叫しました。<br />
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戦術的意図を持った豊富な運動量、勝とうという選手の強い気持ち、それを支える監督、コーチ、フロント、サポーターなど・・・地方のクラブチームかくあるべき、というのを見せ付けてくれたのがこの日のヴァンフォーレ甲府でした。<br />
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昨年12月の感動の入れ替え戦以後、このチームが気になって仕方ないです。