2007年01月10日

高校選手権の将来

 高円宮杯が非常に充実した大会になり、各地域でユース年代のサッカーでリーグ戦が定着している現状で、正月の風物詩でもある高校サッカー選手権はどうあるべきか。もちろんサッカー界の都合だけで事は運ばず、日本テレビや高体連の思惑もあるのだが、いくつか考えてみた。



 まず誰でも考える事は、連戦を無くし、45分ハーフ、延長戦ありに変更する事だろう。

 連戦を無くすのは、各高校が冬休みに入った26日あたりから大会を始めれば何とかなるし、TV局が毎日試合が無いと困るならば、1日ずらしで大会を進行させる手もある。数年前にやったように決勝戦を1週ずらした1月中旬にする手段もとれる。

 45分ハーフにするのは、放映枠との絡みが出てくるが、延長戦よりは導入しやすいので、サッカー協会は早々にでも主張をすべきだろう。

 問題は延長戦だ。日本テレビに納得させるよい知恵が浮かばない。録画による時差中継にしても、延長に入る試合だけ後半から放送が始めるようなバレーボールみたいな見え見えの放送をする訳にもいかないし難しいところ。毎日の試合後に、高校サッカーダイジェストみたいな枠を準備してもらえればよいのだが、そう考えると新たなスポンサ開拓が必要になるような大騒動になりかねない。このような問題にこそ、日本協会会長に頑張って欲しいのだが(以下略)。



 次にトーナメントでよいのかと言う話。各県1校が本大会に登場する事は必須なのだから、長期に渡るリーグ戦にするのは難しい。この件については、友人がユニークな4チームのグループリーグ案を提示しているので紹介しておく。確かに大会期間は伸びるが、各チームが3試合できるのは、各地方局にとっても悪くないので、TV局の賛同も得やすいのではないか。大会日程の長期化対応は、上記の連戦を無くす方案で解消可能と考える。真剣に検討するに値する方案だと思う。



 さらにはクラブチームを参加させられないかと言う件。

 一方で「高校生活最後の1月のこの時期に高円宮杯を持ってこられないか」と言う正論が多い。しかし、私はそうは思わない。高円宮杯はエリート選手達が覇を競う、言わばユース世代のJリーグ。一方、高校選手権は多くの選手、チームが決勝大会にまで進出可能な、言わばユース世代の天皇杯だ。ユース世代は高校だろうがクラブだろうが、日本の学校制度の関係で3月で1つの切れ目を迎える。その切れ目にできるだけ近い正月に、多くのユース世代選手の夢がつながる大会を置いておきたい。これは約30年前に、その夢(正確には錯覚と言うべきかもしれないが)目指して、毎日グラウンドで走り回り削り合っていた元サッカー少年のノスタルジーかもしれないけれど。

 したがって、むしろ私はこの高校選手権を本当の意味でも「天皇杯」化するために、クラブチーム(ちなみにクラブチームと言うのはJのユースクラブだけではない)にも参加の道を開いて欲しい。

 TV局からすれば「朝練のために早朝起きて弁当を作るお母さん」がいればよいし(これは高校の部活だろうが、クラブユースだろうが同じ)、「苦節何十年の高校の先生」の代わりは「負傷に悩まされたかつての名選手だったユース監督」が使えるので、クラブユースを参加させる事にそれほど文句は言わないだろう。むしろ、「ユース代表だ」、「来期からはJ入りだ」とアナウンサが絶叫しやすくなるし、同じ高校に所属する選手が高校チームとクラブに分かれて戦うなどは格好のネタになるから、賛同は得られやすいのではないか。唯一問題は「負けている試合終盤に涙を流す美少女」の確保だが、Jクラブのユースならば、サポータが大挙して応援に来るだろうからそこから探していただこう。ただし「美少女」ではなく「美女」になるかもしれないが。

 もっとも、真面目な話、クラブチームの高校選手権出場実現は大変障害のある構想なのだ。高校サイドからはクラブユースとの選手勧誘合戦に「高校選手権の存在」が貴重な要素になっている部分もあるので強烈な反論が相当出てくるだろう。また、予選にしても、クラブチームを地域予選から加えるとなると、Jクラブがいる県の高校からは相当の反論が渦巻くのは間違いない。一方で、クラブチームを別枠で高校選手権本大会に出場させるとなると、「別な意味での不公平感」も高まり、これはこれで反論を生むだろう。しかし、サッカー界は常にこの事を考え、ユースサッカー界の発展を考えて行く必要があると思う。



 最後に全く視点を変えた話。これだけ多くのチームに優秀な選手が多数いるのだから凄い。そして、ここまで日本全体の選手層が厚くなった以上は、この裾野の広さをもっと有効に活かしたい。Jリーグのスカウトのお眼鏡に叶わずとも、優秀な素材は多数いるはずだ。さらに言えば選手権に出場できたタレントすら、氷山の一角と言ってもよいだろう。意欲ある優秀な選手がユース世代以降も(高校卒業後も)真剣にサッカーを続け、潜在力を磨ける環境を作っていきたいところだ。今年高校を卒業する無名選手の中に、かつての中澤や中村憲剛と同等の素質を持った若者が多数いるかもしれないではないか。

 この時点でJクラブから声がかからなかった若者の多くは大学で自らの限界に挑戦していくのだろう。これも有力なキャリアパスである事は間違いない。しかし、それ以外にもJFLや地域リーグの強チームで、有為な若者が力を蓄えられる機会が増えるのならばそれに越した事もない。重要な事は、トップへの夢をあきらめない若者が生計を立てながら球を蹴る事のできる環境が多様にある事なのだ。このような多様な環境を準備するための制度設計こそ、日本協会が真剣に考えるべきことのはずだ。以前にもも述べた事があるが、今の日本協会の財力があれば、そのような制度設計を検討する人材を雇用する事は可能なはず。その構想を、各地域協会やJクラブを通じて実現するだけの社会的なパワーも、今のサッカー界にはあるあはずだ。

 毎回毎回陳腐な事を述べていると言われようが、福島に中学生を集めるよりも、もっと重要で高邁な事を今の日本協会ならばやれると思うのだが。
posted by 武藤文雄 at 23:59| Comment(5) | TrackBack(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「90分ハーフ」だと、『1試合=180分』になってしまいますよっ(^∧^)
Posted by 19番ゲート at 2007年01月12日 01:21
18歳以降の選手の育成については毎日使える芝のグラウンドをもっと増やさないと難しい気がします。<br />
フットサルコートはけっこう増えましたが運営の難しい芝のグラウンドはけっこう敬遠されているような。<br />
協会が地域から土地を借りて職員を派遣して運営するような形は作れないんですかね。<br />
それで球場のボランティアになると安く借りられるようにするとか。<br />
芝のグラウンドを自分たちで作っている人もいるし<br />
お金をあまりかけない運営方法を考えた方が<br />
たくさんお金をかける運営より長持ちすると思う。<br />
芝を植えるのはたいへんみたいだけど。
Posted by Unknown at 2007年01月13日 07:39
数年前から決勝戦は成人の日(1月第2月曜日)に固定されてますよ。だから、来年の決勝戦は1月14日。今年は考えうる最速の日になっただけです。おかげで日程がタイトになりましたが、まぁ高校総体やクラブ選手権も8日間で6試合やるわけですから。涼しい分だけマシではないかと。<br />
開会式を前にずらすのは可能ではないかと。ただ、12月末は大学選手権と高円宮杯(U15)もあるので、会場が足りないかも。<br />
<br />
ここ数年高円宮杯を観てるのですが、高校側の態度が変わってきたのですね。前は、「高円宮杯はあくまでも前座。本番は選手権だぜ」だったのが、「Jユースと競える貴重な場。全身全霊をかけて戦いを挑む」になってきた。まぁ、プリンスリーグに出てくるような高校生は皆Jユースを目指してたでしょうから、自然とそうなるのでしょうな。<br />
当の高校生の中では「Jユース>高校」の格付けは出来ちゃってるわけで、高校選手権は「高校年代の大多数を占めるエリートじゃない選手のための大会」なのですね。「天皇杯」ですらないのですよ。エリートが出てくるのは多くの高校にとって迷惑なだけでしょう。<br />
<br />
武藤氏の提案は高校選手権の格式を上げようとしているものですが、既に格付けは出来ている以上無理して上げようとしなくてもいいんじゃないかと思います。それに、最高峰の大会が1月(サッカーで進学・就職できない人にとっては大事な時期です)にあるのもどうかと。高校選手権は今のままでも機能しているので、プリンスリーグの下部組織をどう整備していくかの方が大事じゃないかな。<br />
<br />
あ、高校選手権が高円宮杯に比べて格下の大会になってることに日本テレビが納得してるかは知りませんよ。
Posted by masuda at 2007年01月13日 09:51
選手権への憧れでJrユースから名門校に行く選手が激減して、今以上に完全にエリート(ユース)VS雑草(高校)という図式の対決になってそれはそれで面白いかもしれませんね。<br />
しかし、長い目で見ると高校側は不利になって負けがこんで、学校サイドの熱意も予算も減り続け・・・というスパイラルも当然予想出来ます。<br />
<br />
となると結局は選手権自体の魅力も人気も無くなってしまう気がします。<br />
<br />
でも他のサッカー強国ではプロのユースが世代最強ということが当り前の姿なんですよね。<br />
だから日本蹴球の未来のためには選手権は不要なのかもしれません。<br />
Posted by 永久追放 at 2007年01月14日 20:46
今の選手権は敗者復活戦なんだな。<br />
15歳の段階で何らかの事情でJユースに昇格できなかった選手たちが<br />
「どうだ」ってユース関係者に見せつける大会だと思う。<br />
かつての俊輔や本田のように・・。<br />
だから、いまのままで選手権は良いと思う。<br />
ただ、お馬鹿な高校サッカーの指導者たちは、<br />
「守備的」に戦いすぎるから、引き分けは両者負けにすればよい。<br />
だったらトーナメントの上にいけなくなるから<br />
最初からPK狙いの馬鹿チームがなくなる。<br />
ただ3回戦で残るチームが1チームになってしまうかも知れない(笑)<br />
Posted by 天邪鬼 at 2007年01月16日 20:29
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