2013年05月23日

レッズ対アントラーズ、誤審の謎

 先週話題沸騰した、レッズ対アントラーズにおける興梠慎三の得点時の誤審問題。私も参加させていただきます。明らかな周回遅れ申し訳ありません。

 最初に状況をおさらいしておく。1対1の好ゲーム、75分過ぎとなり双方に疲労が目立ち、お互いの守備がやや甘くなった時間帯。アントラーズのクリアを中盤でうまく拾った鈴木啓太が、中央に絞り過ぎたアントラーズ守備陣を見て、左サイドでフリーになった梅崎に展開。梅崎が内側に仕掛けながらゴールに向かうクロスを入れ、興梠が頭で合わせたもの。ところが、梅崎がクロスを入れる直前に、アントラーズのオフサイドラインを形成していた青木が前進し、興梠は明らかなオフサイド。けれども、審判団は得点を認めたと言う流れだった。
 本件については、日本協会審判委員長の上川氏が誤審と認めたとか、ホームのレッズの疑惑の得点だったにもかかわらずオーロラビジョンに丁寧にその誤審ぶりが映されたとか、たまたま20周年記念試合で注目が集まった場だったとか、主審の佐藤隆治氏が「興梠は触っていない」とアントラーズ選手に説明したらしいとか、GKの曽ヶ端はオフサイドのアピールする暇があったら反応すべきとか、色々な付帯事項があった。
 また、これだけ明々白々な誤審が明らかになっただけに、ビデオを利用した再発防止策などが議論されている。

 既に様々に論じられているこの誤審だが、私はどうして発生してしまったかが全く理解ができないでいる。今日はその疑問について、延々と講釈を垂れたい。

 報道によると、上川審判委員長は、「佐藤氏は『(竹田氏が旗を上げなかったために)興梠がオフサイドポジションにはいなかった』と判断し、一方竹田氏は『興梠がオフサイドポジションにいたが、ボールには触らずプレイに関与していない』と判断した、双方がそこの意見交換を適切にできなかったための誤審」と説明したらしい。しかし、私はこれを信じる事はできない。
 まず、あれだけアントラーズが猛抗議をしているのだ。その状況で、主審と副審がお互いの判断について意見交換を適切に行わない事があり得るだろうか。少なくとも、佐藤氏と竹田氏は共に日本語を母国語としているはず。選手達が判定にはっきりと不満を表明しているのだから、相互の意識の擦り合わせくらいはしっかりと行ったはずだ。あの状況で2人の間に、上川氏が説明したような齟齬が生まれたとは、とても思い難い。

 とは言え、五百歩くらいゆずって、上記の上川解釈通りだと理解し、お2人の間に極めて不運なコミュケーションの失敗があったと仮定しよう。
 すると、問題は「竹田氏が『興梠がボールには触らなかった』と見誤った上で、『興梠はプレイに関与せず』と判断した事」となる。けれども、竹田氏が「興梠はプレイに関与せず」と判断するに至った理屈が、私には思い浮かばないのだ。なぜならば、興梠は明らかに上半身をしっかりとひねりヘディングシュートを狙っていた。GKの曽ヶ端がその興梠の動作に明らかに影響されていたのは言うまでもない。とすれば、竹田氏は、「興梠のヘッドの瞬間」はおろか、「興梠の身体のひねり」も、「曽ヶ端の挙動」も、すべて見誤った上で、自信満々「興梠がオフサイドポジションにいたが、ボールには触らずプレイに関与していない」と判断した事になる。
 ここで私は「見誤る」と言う日本語を用いたが、「見誤る」要因には「他の選手と重なり、見えなかった」とか「見えていたが、他のプレイや離れた場面も同時に見なければならず、しっかり見られなかった」などが考えられる(「集中を欠いて見落とす」ケースについては、日本のトップレベルの審判の場合、考える必要はなかろう)。ただし、その要因がいずれのケースでも、これだけの連続したプレイを見誤ったとしたら、自信満々に判定する事は難しいはずだ。とすれば、竹田氏は佐藤氏に丁寧に状況を説明し、相談したはずだ。そこで、コミュニケーションの失敗が起こったとは、とてもではないが考えづらい。

 そう考えると、やはり五百歩ゆずった事が間違いで、コミュニケーション失敗はなかったと考えるのが自然に思える。つまり、竹田氏は「興梠はオンサイドの位置にいた」と誤った判断をして、それを堂々と佐藤氏に伝えたと言う仮説だ。副審が堂々とオンサイドと判断すれば、主審がそれを尊重するのは、ある意味で当然の事である。
 けれども、あの状況でJの副審(を務める程の経験を持つ審判員)が、そのような誤審をするだろうか。
 もちろん、優秀な副審だとしても、オフサイドをとり損ねる(判断を過つ)ような、難しい状況はいくつか考えられる。箇条書きにしてみよう。
○ゴールキーパが前に出た状態で、後方より2人目のフィールドプレイヤがオフサイドラインを形成する場合(習慣で最後方のフィールドプレイヤがオフサイドラインと勘違いしがち)
○オフサイドラインを形成する守備者とギリギリを狙う攻撃者とは、全く無関係な位置に別な守備者が登場(後退してきて)し、オフサイドラインが崩れた場合
○相当後方よりロングボールが入り、かつ前線に残った選手が戻りオフサイドだった場合(副審が相当広い視野を要求されると言う意味で)
○後方の選手が、意表をつく方向、強さのパスを送ったため(ミスパスのケースを含む)、副審がパスの受け手の位置とパスが出たタイミングを、同時に見切れなかった場合。
○何がしかの理由で、当該守備者がオフサイドを消す方向の動きをした場合、たとえば南アフリカワールドカップの、アルゼンチン対メキシコにおけるテベスの先制点がその典型例。テベスがオフサイドポジションに残っていたのは明らかだった。しかし、ゴールをカバーしようとDF2人が全力疾走で(オフサイドを消す方向に)戻った事もあり、副審が勘違いをしてしまった。
 けれども、今回の状況は、これらのように副審にとって厄介な場面ではなかった。いや、それどころか、梅崎が中に切れ込んでいる瞬間に、クロスを呼び込もうとしている興梠に対し、その背後にいてオフサイドラインを形成していた青木がラインを上げて、意図的に興梠をオフサイドポジションに追い込んでいたのだ。興梠は背後のこの青木の好判断には全く気がつかず、完全に取り残されてしまっていた。真横で見ている副審にとって、見誤る可能性は非常に低い状況だったのだ。
 ただし、外乱はあった。かなり後方から、マルシオ・リシャルデスがファーサイド(つまり、興梠を見る竹田氏の視線を遮る位置)に走り込んできたのだ。けれども、マルシオが「興梠と竹田氏を結ぶ直線上」に到達したのは、興梠がヘディングをした後だった。つまり、この外乱は竹田氏の判断を誤らせるものではなかった(全くの余談だが、そう考えると、このマルシオのフリーランは、敵のオフサイドラインを破るすばらしいものだった事になる)。
 そうこう考えると、竹田氏が「興梠はオンサイドの位置にいた」と誤った判断をしたとは、とても思えないのだ。

 では、一体何が起こったのだろうか。

 唯一、合理的な解がある。
 佐藤氏も竹田氏も揃って「(興梠のヘッドを見落とした上で)興梠はプレイに関与せず」と判断したケースだ。つまり、「竹田氏のみならず佐藤氏も、『興梠のヘッドの瞬間』はおろか、『興梠の身体のひねり』も、『曽ヶ端の挙動』まで、すべてを見誤り、『梅崎のキックがそのままゴールインした』と判断した」とすれば説明はつく。上記したが、このように見誤りが続けば、審判だって自信はないはずだ。けれども、相談してみて2人の判断が揃ったとしたら、2人共安心できた事だろう。一部に見受けられた「佐藤氏はアントラーズ選手に『興梠は触っていない』と説明した」との報道とも整合する。
 ね、合理的でしょ。でも、まさかねえ。
 この段落で以下述べる事は冗談ですよ。もしこの仮説通りだとしたら、事情聴取した上川氏が「これは、あまりにみっともない」と考え、「2人のコミュニケーションのミス」と発表したとか。
 誤解されては困るが、私はこの仮説通りの事が起こったとは思っていない。この仮説は合理的だが、現実的に起こり得るかと言うと、Jで笛を吹いたり旗を降ったりする実績がある審判2人が、揃ってこのような信じ難い見誤りをするなんてあり得ない、と思うからだ。

 絵に描いたような「真相は藪の中」である。

 アントラーズ関係者の憤慨は、さぞ大きな事だろう。とは言え、誤審と言う困った問題でさえも、このようにあれやこれやと考える事ができるのだから、やはりサッカーはおもしろい。
posted by 武藤文雄 at 23:56| Comment(2) | TrackBack(0) | 審判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大変ご無沙汰しております。
鹿島ファンのgontaです。
私はこの試合テレビ観戦でしたが、観戦時より上川さんの発言のほうに憤りを感じておりました。
まさに武藤さんと同じように「コミュニケーション」の問題にするのは納得出来ないシチュエーションでしたから。

武藤さんの丁寧な分析で合点がいきました。
主審、副審とも「梅崎のゴール」と判定した、です。
で、ビデオ見て「あれ?」と思ったが、ビデオ判定は認められていないので判定は覆せない、という。

間違いなく身びいきだと思いますが、鹿島は大きな試合で判定に泣かされていた過去が一杯あり、
それを糧に現在がある、と思うようにこれまでしてきました。
だから「次」に向こうとしたところ、あの談話がでたので、より納得出来ず、あげくにリプレーの自粛要請
するとは。
少なくとも試合会場はいざ知らず、テレビ放送はリプレー、特に微妙な判定のスローはやめず、今以上に流してほしいです。

せっかくの好ゲームがあの判定で崩れてしまい、さらには後日の「誤審報道」で試合の内容までも
語られなくなってしまう、という状況、悲しいです。
またこれも「サッカー」なのですね。

なかなか審判のレベル向上を実感出来ませんが、このことがせめて審判のレベル向上に繋がることを切に祈ります。
Posted by gonta at 2013年05月24日 11:39
簡単な話や。
ラグビーみたいに重要な試合で得点に絡む部分はビデオ判定にすればいいだけや。
19世紀から意識が変わっていない年寄りライター何か無視すればいいだけや。
Posted by フェラーリをデザインできる宮城県の西隣のDNA at 2013年05月24日 23:17
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