まるっきり2週間遅れですが、現地参戦した敵地ベルギー戦について。
第4審判がアディショナルタイムを「4分」と出した時、嬉しかった。いや、もっとこの試合を観ていたかった。終わって欲しくなかった。本当に幸せな試合だった。
まずは味わい深い失点から始まった。麻也が置いていかれ、川島が軽率に飛び出し、高徳がまったく集中していなかった。これだけ無様な失点を、じっくりとゴール裏から堪能できたのだから、これだけでも現地に行った甲斐があろうと言うもの。しかもこの失点は、それぞれの失敗が異なる階層で議論されるべきものだったのだから。
麻也は実力。麻也がこのような状況で高速FWに置いていかれるのは見慣れた光景。しかし、いい加減もっと意識したプレイはできないものだろうか。足が遅い事はセンタバックとしては致命傷ではない事は、井原正巳や中澤佑二のような偉大な先輩達が証明している。それなのに、いつもいつも、同じ過ちを繰り返す選手を見るのはもどかしい。まあ、井原や中澤と比較する事そのものが気の毒なのはわかるけれども。それにしても、何回失敗経験を積めばよいのだろうか。ともあれ、後日ワールドカップ予選、スウェーデン対ポルトガルの映像を堪能したが、クリスチャン・ロナウドと対する麻也を想像するのは恐ろしい。週末は抽選会か。
川島は焦り。ゴール裏2階席は、この失点を俯瞰するのに最高だった。川島がダッシュで飛び出した瞬間、間に合わない事がよくわかったからだ。思わず頭を抱える事になったけれど。ただ、間に合わないないと自覚した川島が、「私はプレイに関与していません」とオフサイドポジションにいるラグビー選手ばりのアピールで、両手を上げたのには笑ったが。この落ち着きのないプレイは、オランダ戦で西川が堅実なプレイを見せた事に対する焦りから来るものだったのではないか。元々、川島はビックリするようなセービングをするが、呆れるようなミスのリスクもある選手。安定性とロングフィードを武器とする西川とは好対照。適切な競争が行なわれる事を期待したい。
と言う事で、酒井高徳である。酒井は試合に集中できていなかったのだから、論評以前。後方から入ってくるミララスにまったく気がつかなかった訳だが、ミスにしても、もっとやりようがあるだろうと言う無様さだった。ゴール裏2階席は、ボーッとした高徳がミララスに置いていかれるのを味わうのに最高の席だった。うん、現地参戦は応えられない。川島のミスも同情の余地はないものだが、高徳のミスは即交代させられても仕方がないレベル。高徳はその後奮起し上々のプレイを見せてくれたけれどねえ。現実的に長友がいるのだから、堅実な駒野や徳永を選考すべきではないのかな。
そして、この大間抜け以降に、状況が一転するのだから、堪えられない。
失点直後は、さすがに出足がにぶり、押し込まれる時間帯が継続した。
しかし、螢の粘り強いボール奪取と、長谷部の豊富な運動量が奏功し、次第に日本のキープ時間が増えてくる。そして、幾度かの揺さぶりの後、後方に下がった清武の適切なスペースメークに呼応して、酒井宏樹が鮮やかなクロス。これを適切な動き出しを見せた柿谷が決めてくれた。だいぶ古いが、酒井宏樹のクロスは80年代前半に西ドイツで活躍したマンフレッド・カルツを彷彿させた。ちなみに、五輪代表で全く連係を取る事ができなかった清武と酒井宏樹が、見事な連係を見せてくれたのも嬉しかった。そして、そのクロスが飛ぶ空間僅かな敵DFの狭間に、トップスピードでパオロ・ロッシ、じゃなかった柿谷が飛び込んだ。酒井宏樹のクロスの直前にちょっと溜めて、ピュピュ〜〜ンと。天才と呼ぶのは簡単なのだけれど、なぜこの天才が「あのスペース」に飛び込む判断ができるのか?今後、この天才を解題し続ける事ができるのが、何とも嬉しい。
ハーフタイム、こんなすばらしい得点を見る事ができる幸せを噛み締めた。そして気がついた。スターティングメンバの半分以上がロンドン世代である事、遠藤爺も岡崎も長友もいないのに、このような鮮やかな得点を見る事ができた事。
後半、遠藤爺と岡崎が投入される。そりゃ、格段にチームが強化されるのは当然の事。
後半の2得点をどう表現したらよいのだろうか。
左サイドで香川と酒井高徳が連係、そこにヨタヨタと遠藤爺が近づき、「どっこらしょ」とグラウンダーのクロスを流し込み、本田がフリーで待ち構える。
右サイドを岡崎の切れ味で切り裂き、ボールを受けた長谷部がシュートを打ち切れず、ちょっと溜めてジェニオに(いや、現地ではすっかり本田と勘違いしていたのだが)。チップで浮かしたボールが、トップスピードで全くのフリーの岡崎にピタリと。
何かもう、すべてがどうでもよくなるのですよね。この3得点を、直接見る事ができたのですから。
確かに課題は解決していない。
あり得ないおバカな先制失点。せっかく2点差なのに、簡単にCKから失点する悪癖。終盤の森重の考えられないミスパス。
しかし、この試合はコンフェデ杯イタリア戦とは決定的に違った。サッカーと言う競技のルールは単純だ。敵よりもたくさん点をとった方が勝つのだ。この日、日本はベルギーよりたくさん点をとって90分間を終える事ができたのだ。これは、とてもとても重要だ。我々はベルギーに勝ったのだ。
解決していない課題が多いが、サッカーで何が一番難しいかと言えば、創造的な攻撃で敵守備ラインを崩し、ゴールネットを揺らす事。そして今、我々は世界のどこが来ても、それを可能とする選手群を所有している。得点力?岡崎、大迫、柿谷、これだけ強力なストライカを並べる事ができる国が、他に世界にいくつあると言うのだろうか(いや、工藤も寿人も大久保も前田もいますけれど)。既に我々は、一番厄介な課題をほぼ解決できているのだ。
最後、ザッケローニ氏がこれをうまくまとめ上げてくれる事だろう。氏は、アジアカップで一回それを見せてくれた。あの短い準備期間で。残り半年、氏には十二分な時間だろう。ここまで魅力的なサッカーを演出してくれているのだ。私は全幅の信頼と共に、氏とブラジル大会を戦うつもりだ。
もちろん、このようなサッカーを見ると常に恐怖も感じるのは否定しない。このサッカー、この試合が、日本サッカーのピークなのではないか。これ以上の美しいサッカーを見る事は、もう一生ないのではないかと。もしかしたら、そうかもしれない。でも、それならそれで、仕方がないとも思っている。これだけのサッカーを見せてもらったら、後はそう贅沢を言ってはバチが当たるとも思っているし。
2013年12月03日
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確かに史上最強の日本代表だと思いますが、その下の世代には吉武監督によって磨き上げられた原石から、高くジャプするために堪え忍んで努力を続けている若き長友のようなひな鳥まで、たくさん揃っている上に、指導者のレベルも上がっていると思いますので、代表監督を選び間違えなければ、日本サッカー協会が腐敗しなければ(これが心配)、もっと素晴らしい代表が見られると信じています。
柿谷が浮かして裏を取って岡崎の3点目。
これらはどちらも事前のスカウティングから狙っていたプレイのようですね。
(ザッケローニ SAMURAI BLUE監督手記より)
事前のプランを確実に実行できる選手が素晴らしいのはもちろんです。それに加えて、マッチメイク、スカウティング、作戦の絞り込み、選手選考、選手育成等、日本サッカーの総合力に敬意を表すべき一戦だったと評価しています。
でもいい試合は、時間がある程度経った後に読むものもいいものですね。
遠藤選手の、「後出しじゃんけん」起用 (C)日経新聞/武智幸徳。
山口蛍選手の輝き。
得点シーン、失点シーン。
書きどころ、満載でしたね。
ともあれ。
現地観戦を満喫されたようで何よりです。
週末、組み合わせ抽選後の講釈も勝手に期待しております。
ザックがこれから、DF陣をどうするのでしょう……。
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「ワールドカップサッカー組み合わせ決まる」
サッカージャーナリスト 後藤健生
加齢で夜更かしが苦手なら、早起きでラジオを聞けばいい。