2014年04月05日

リトルなでしこ世界制覇

 気持ちよい世界制覇でした。

 何とも日本らしい、判断力と技巧を活かしたボール回し。組織的な守備。よいチームだった。
 ただこのチームが従前のチームと異なっていたのは、いつもいつも特に若年層で日本の欠点とされているGK、CBの中央が、非常に強かった事。ベストGKに選考された松本の安定感、大熊と市瀬の的確な読みと位置取り、様々な世代、様々なレベルのチームでよく見られた「自陣前における不測の事態」が、ほとんどなかったのが、このチームの強みだった。
 一方で、敵陣近くでの変化あふれる攻撃もまた見事。トップから降りてくる小林の受けの巧さを軸に、長谷川と杉田が技巧あふれる展開を見せる。
 とても、とても、よいチームだった。

 先制弾は、小林が1度裏に抜け出し打ちきれずに戻したボールを、トップ下の長谷川が巧みに落とし、右MFの松原が狙い澄ましたシュート、バーに当たって跳ね返ったところを、左MFの西田が詰めたものだった。ゆるやかなパス回しで敵DFを前に引出し裏を突く。そこからさらに執拗に丁寧なつなぎと崩し。よい攻撃だった。
 以降も、日本は小林を軸に幾度も攻め込むが、スペインの4DFが粘り強い守備を見せ、隙を見せず前半は1-0で終了。
 スペインの4DFの守備の見事さにも感心した。日本は素早いパス回しでスペインDFを引き出しておいて、小林なり長谷川が裏を狙うやり方。しかし、スペインのCBは身体を後方に向きながらも粘り強く、日本の裏を狙うバスに対処。さらに両サイドバックが的確な絞りから、さらにその後を的確にカバー。中盤で劣勢となるチームとしては、この守り方は非常に有効。早々に先制を許しながらも、粘り強く点差を開かせない献身は実に見事だった。スペイン代表と言うと、最近のシャビとイニエスタの攻撃芸術がよく取沙汰されるが、20年から30年前はイエロとかカマーチョみたいな選手の献身的な守備が魅力だったのを思い出したりして。

 一方でスペインの攻撃は、さほどの脅威を感じなかった。日本の素早い切り替えによるプレスも適切な事に加え、アンカーの長野の適切な位置取りが有効。パス回しで中盤を抜け出せないので、後方から頑健なトップに長いボールを入れ強引な突破を狙う事になった。しかし、そこには上記の通り、大熊と市瀬が待ち構えている。
 男子の代表は色々な世代で、スペインや中南米の所謂ラテン系の国を苦手としている。理由は簡単で、日本の持ち味である判断力と技巧によるパス回しで、先方を上回れない状況に陥るから。余談ながら、よく「ブラックアフリカや北欧のチームのパワーにやられる」と大騒ぎする人がいるが、日本がしっかりと準備する時間的余裕があった試合でフィジカル負けした試合はほとんどない。やられるのは、いつも先方の高度な技巧からなのだ。
 そして、この日のリトルなでしこは、技巧でスペインを完全に圧倒。まあ、女子サッカーのランキングを考えれば、当たり前の事かもしれないが。

 65分過ぎには両軍とも疲労からガクッと運動量が落ちてしまい、試合は一層単調なものとなり、正直見ている方がつらくなる展開。決勝含めて7試合の過負荷と言う事もあったかもしれないが、この世代の女子選手に90分試合が適切なのかどうか、議論が必要かもしれない(あ、審判については...)。
 ただ、日本は負傷退場した遠藤に代わってトップに起用された児野が豊富な運動量で攻撃を引っ張り、攻撃を活性化させる。そして、77分には児野が鮮やかな2点目を決め突き放しに成功した。
 疲労困憊で迎えた後半30分過ぎ、2点差になったら、普通のサッカー選手なら諦めるよな。けれども、この日のスペインの娘さん達は諦めないのだから恐れいった。ボール回しでも崩せない、裏を狙ってもカバーされる。「もう君達には攻め手はないだろ!」とテレビ桟敷で思ったのだが、その状況でも、アディショナルタイムの48分まで、諦める事なく闘い続けた。正直、感動しました。おかげ様で、日本の優勝は一層感動的なものになったのも確かです。本当に、本当にスペインの選手たちの気持ちは、素晴らしかった。

 何が嬉しかったって、高倉麻子さんの笑顔だな。
 50過ぎのおじさんにとって、「シニアなでしこ」の歓喜は堪えられないのだよ。児野が2点目を決めた瞬間、そして優勝直後のインタビューの高倉氏の笑顔。高倉氏を支えた大部氏の満面の笑み。解説を務めた、酒井氏じゃなかった加藤氏の、優しくも厳しい一言、一言。
 この日珠玉のプレイを見せてくれた若者達の存在もすばらしい。しかし、高倉氏、大部氏、加藤氏、彼女たちの存在が、日本の女子サッカーをこれまで以上のレベルに高めるために重要なのは言うまでもない。
 資源は着々と増強されている。じっくりと、精悍な若き女性のプレイを愉しんでいけるのがありがたい。
 
 おめでとうございます。ありがとうございました。
posted by 武藤文雄 at 22:49| Comment(4) | TrackBack(0) | 女子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>前半は0-0で終了。
>決勝まで7試合

武藤さん、前半は日本1-0スペインで終了ですよー!
そして決勝を含めても6試合です!(><

このコラムのおかげで、彼女たち(シニアなでしこ含む)の勝利をもう一度噛みしめることができました。
ありがとうございます。
Posted by むさきち at 2014年04月05日 23:33
──
何が嬉しかったって、高倉麻子さんの笑顔だな。
 50過ぎのおじさんにとって、「シニアなでしこ」の歓喜は堪えられないのだよ。児野が2点目を決めた瞬間、そして優勝直後のインタビューの高倉氏の笑顔。高倉氏を支えた大部氏の満面の笑み。解説を務めた、酒井氏じゃなかった加藤氏の、優しくも厳しい一言、一言。
──

このくだりを読んで、同じ50歳代のぼくも泣けてきて涙が止まらなくなりました。
Posted by ありんこ at 2014年04月06日 09:53
むさきち様
修正いたしました。ご指摘ありがとうございました。
もう年齢のせいか、情けない限りです。
Posted by 武藤 at 2014年04月06日 15:08
仙台に住む五十過ぎのおっさんです。
小林、市瀬とも常磐木学園の新二年生です。
彼女たちが帰ってきてチームで活躍してくれることを期待しています。
Posted by いさく at 2014年04月07日 12:57
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