2014年05月06日

8人制少年サッカーの是非

 最近、多忙を言い訳にベガルタの苦闘を嘆き愉しむ文章ばかりになっているな。もうちょっと様々なサッカーネタに関しても、できるだけ講釈を垂れたいと思てってはいます。と、言う事で、今日は少年サッカーの8人制定着に対するイヤミを。

 少年サッカーにすっかり8人制が定着してきた。神奈川県はチーム数に対してグラウンドの数が少ないため、他県と比較して8人制の導入が遅れていたと聞いているが、今シーズン(2014年シーズン)からは、ほとんどの公式戦が8人制に代わろうとしている。
 本件については、過去幾度か述べたが「総論賛成、各論反対」的な意見だ。それは変わっていない。特に「総論賛成」と言い切るのは、ここで述べたように少人数ボールタッチの利点を評価しているからだ(本件については後述するが)。しかしながら、「現場への落とし込み」が結構進んだ現況において、弱小サッカー少年団指導者の私は「各論反対」を強く唱えたい。


 上述したが、8人制のよさは、出場している選手がボールに触る機会が増える事。人数が少なければ、1人1人がボールを触る頻度は高まるのは自明だ。だから、11人制に比べて、全選手がプレイに関与する事ができる。

 ただし、試合に出場できればだが。

 当たり前の事だが、同じ試合時間で11人制だった試合が、8人制になれば選手の出場機会は8÷11=0.72、つまり72%に減ってしまう。日本協会は「だから試合数を増やせ、審判は3人揃える必要ない」と主張しているようだが、同じ試合時間で試合数を増やすためには、チームの拘束時間とグラウンドの使用時間を増やさなければならない。いずれにしても、相当難しい事は、少年サッカーの現場をちょっと考えればわかる事だ。
 多くの公式戦で8人制が定着し、間違いなく子供達の試合出場時間は減ってしまった。どんなに美辞麗句を重ねても、数字は冷徹なのだ。繰り返すが、8人制導入により、子供達は公式戦の出場機会が少なくなってしまった。



 8人制のメリットはもう1つある。いずれの選手も前進後退を執拗に継続する必要がある事だ。人数をかけて一斉に攻撃を仕掛けたものの、ボールを奪われ敵の速攻にさらされる。そうなると、人数が少ないため、前進していた選手は必死に戻らなければならない。攻め込まれたところで、うまくボールを奪えれば、その瞬間いかに前線に勇気をもって飛び出せるか。それが、攻撃の成功を左右する。かくして、「各選手達は攻守の切り替えに敏感となる」とは思う。
 実際、レベルの高いチーム同士での8人制の試合は、僅かなミスからの攻守の切り替えが頻繁に起こる。そのため、各選手には相当な集中が求められ、オールラウンドな能力向上が期待できる。

 ただし、選手がそのようなレベルにまで到達していればなのだが。

 攻守両面で機能し、常に集中を切らさない選手の選手育成と言うと聞こえはよい。しかし、現場でサッカーを愉しむ少年の多くは、6年生になってもそこまでのレベルに至っていない。多くの少年は、サッカーと言う「とにかくやれば愉しいが、上達するには長年の努力が必要な競技」の一端に触れたレベルに留まっているのだ。
 例えば、利き足でボールを強く蹴る事だけは得意な子がいる。敵のボールを厳しいタックルで奪い取るのだけは得意な子がいる。このような得意技を持っているが、オールラウンドな能力に欠ける子は、8人制では中々活躍できない。これが11人制ならば状況は一変する。利き足キック力は、11人制のウィングに起用すれば、守備の負担に悩まされる事なく、前線で一発を狙ったり、セットプレイのキッカーでチームに貢献できる。タックル屋は、チームのエース格の中盤選手と並べてボランチにおけば、「殺し屋」として敵の中盤からの攻撃を刈り取る役目でチームに貢献できる。ところが、彼らは8人制だと思うような働き場がない(もちろん、働き場がなくとも、8人制でも彼らを試合には使いますよ、練習にちゃんと来ている子供は全員)。
 そして、そう言った得意技少年達は、11人制の時代ならば起用すれば相応にチームの勝利に貢献してくれてきた。そして、そのような貢献から自信をつけ、必ずしも得意ではないプレイも段々と身につけ、バランスのとれた選手に成長してくれるのだ。完成するのは高校生くらいになってからかもしれないが。
 私は真剣に心配しているのだ。活躍しづらい環境の公式戦しかない状況で、得意技少年達がその特長を活かしながら順調に成長してくれるのかどうかと。



 まあ、いいでしょう。日本協会の8人制推進の目的は、我々がやっている底辺の選手育成ではなく、超エリートの育成なのだろうから。
 
 でも、8人制で「ボールタッチを増やし、攻守の切り替えの早い選手を多数作る事」が、本当の超エリートの育成につながるのだろうか。
 今の日本代表選手を考えてみよう。中核選手のほとんどは、オールラウンドの能力を持ちながら、一芸あるいは二芸に超越するほど秀でている選手ばかりだ。今野、長友、内田、酒井宏樹、遠藤爺、蛍、細貝、岡崎、本田、香川、柿谷...一芸タイプでないレギュラクラスは、大迫と長谷部くらいではないか。でも、大迫はすべての能力に卓越しているストライカだし、長谷部の鋼の精神力はみなさんご存じの通り。
 そして、日本代表に選ばれるような選手は、幼少時から「神童」のレベルで「チームの大黒柱」だったはずだ。そう言った日本代表の定位置を狙うような逸材は、小学生時代には8人制だろうが11人制だろうがチームの大エースとして、ピッチ中すべてに君臨していたはずだ。さらに言えば、彼らが小学生時代に、8人制の大会で育っていれば、現状より格段の選手になったとはとても思えない。
 そうこう考えると、8人制の推進により、新しいスーパーな日本代表選手が登場するのは、全くイメージがわかないのだ。超エリートの育成を目指すと言いながら、結果的に国体などの県選抜に引っかかる選手よりも、もう1つランクが下のそこそこ上手な選手達に、オールラウンドな能力をつける事しか意味がないように思えてくるのだ。

 私の杞憂ならばよいのですが。
posted by 武藤文雄 at 01:41| Comment(2) | TrackBack(0) | 底辺 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
何年か振りに書かせていただきます。武藤さんのおっしゃる通り。うちのチームには6年が25人います。ベンチ入り16人の全日少ではベンチ入りすらできない子が9人。昨年度までは、クラブ名を変えて2チーム出してましたが、レギュレーションが厳しくなってそれも無理。JFAのお偉方は、なぜベンチ外の子ども達を増やしたいのか、納得できない。日本サッカーの未来には、Jリーガーだけでなく、サッカー好きの普通の大人を育てるのも大事なはず。誤審審判をリスペクトするための一人審判というアイディアも現実的でなく稚拙。8人制自体は悪くない。でも、全ての公式戦に強制するのは今一。できれば再考して欲しい。子どもなんだから、せめて全員ベンチ入り可にさせて欲しい。長文すみません。(送る場所を間違えた方は削除をお願いします。すみません)
Posted by 子育てパパ at 2014年06月07日 23:48
小学生年代の少人数サッカーは欧州や南米では多くの国で採用されているから導入したのでは
また補欠や勝利至上主義を減らすため2015年から小学生もリーグ戦導入が始まりました。
日本協会もちゃんと考えているのではないでしょうか
Posted by 通りすがり at 2014年06月29日 21:50
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