2014年06月07日

素敵なおもちゃ箱

 ひどい試合だった。 

 この日、日本が繰り返した失点は、既視感の連続。
 敵の攻め込みをはね返し損ね、押し込まれた形でボールを回され、DF、MFのほとんどが中央に集まってしまい、逆のサイドを使われ、そのクロスを押し込まれた1点目。ファウルを怖れて敵のボール保持者への対応が遅れ、簡単にサイドに展開され、ライン際の選手をフリーにしてしまう。幾度、このような失点を見せられた事か。ああも遅攻からのサイドチェンジに簡単にやられ続けると、「サンフレッチェに練習試合をしてもらって対策を練りなさい!」と怒鳴りつけたくなるではないか。サンフレッチェの両翼に開くパスワークを止めるために、Jの各チームが青山や森崎和に厳しいプレスをかける工夫を、少しくらい学んで欲しい。うん、先日の我がベガルタのように。
 2点目も、おなじみの光景だった。押し込まれて、ボール保持者への対応が遅れて、深く攻め込まれてCKを与え、そこから失点。セットプレイからの失点が多いから、無理なボール奪取を怖れ、そのためゴールライン近くまでの攻め込みを許し、結局CKを提供する悪循環。セットプレイからの失点は、防ぎようないところもあるが、ゴール前のゴチャゴチャでの粘り強い守備対応をやり損ねるのを修正できずに、とうとう本大会を迎える事になった。
 前線でボールを奪われ、あるいは集中守備をかわされ、速攻を許す。何とか人数が足りているのだが、寄せやタックルが甘く失点を許した3点目。これまた、何度も繰り返された失点パタンだった。前線のせまいところで人を集中させるのは、日本の攻撃のストロングポイントの1つだから、このような速攻を許すのは表裏一体。しかし、そこからの切り替えが遅れるのみならず、当たる事を躊躇し、突破やシュートを許す頻度が多いのは、何とかならないものか。

 こう言った守備の課題は、ずっとわかっていた事だ。そして、それが修正されていない。おそらく、本大会でも同じ光景を幾度か目にする事だろう。
 何故ならば、このような守備の課題を解決する手段は、一種の天性の守備感覚(言わば危機管理能力)で敵を止める選手の存在しかないからだ。過去を思い出してほしい。井原や中澤がいた時は、最後の最後、理屈抜きに一番危ない所を予期してつぶしに言ってくれたではないか。これはもう素質の問題だ。
 そして、今そのようなセンタバックを我々は所有していない。森重や今野よりも危機管理能力に優れるセンタバックは、どこを探してもいない。せいぜい、思い当たるのは中澤と闘莉王くらいだろう。そして、この2人が中4日の試合を5試合以上戦い抜く事は相当難しい。ここはむしろ「過去、井原や中澤のようなセンタバックを所有できた事が幸せだった」と考えるべきなのだろう。あのクラスのセンタバックをコンスタントに供給可能な国は、ワールドカップ優勝経験のあるほんの限られた国しか過ぎない。そう考えれば、これは今の我々の限界なのだ。

 しかし、改善の余地はいくらでもある。
 各選手の体調はまだまだベストにほど遠かったからだ。だから、出足の一歩目が遅れ、普通なら確保できるボールが競り合いになる。競り合いになっても、身体の利きが悪いので、瞬発力が高くプレイイングディスタンスが大きいザンビア選手に当たられて、粘り切れずキープできない。それがわかっているから、腰が引けた当たりになってしまう。だから、各選手の体調がベストになれば、状況は飛躍的に改善されるはずだ。各選手が、勝負どころでしっかりボールを奪いに行く勇気を持ち、実際に厳しく当たってくれれば。相応に強力な守備網を構築できるはずだ。
 もう1つ。この日失点の最終場面に絡んだのは内田と蛍。これは偶然ではない。この2人はセンタバックではないが、今の代表チームで、上記の危機管理能力を最も所有している選手だ。だから、一番危ない場面に絡む事となる。内田が絡む失点が多いのは、内田が振り切られずに、敵の攻撃の一番危ないところを予測してそこに位置取りするからだ。ただ、体勢の悪さと体幹の弱さでやられてしまう。体調が整っていれば、あそこで粘り強く止め切ってくれるはずだ。3点目の山口も(その直前に同様にミドルシュートを許した場面も)身体の利きが悪く、寄せきれなかった。これも体調がよければ、詰め切れたはずだ。そして、蛍自身、ブラックアフリカの大人のチームとの対戦経験は、昨年のガーナ戦くらいのものではないか。そのような意味では今日の失敗経験は、コートジボワール戦に向け、恰好のものとなったはずだ。

 などと、「ああでもない、こうでもない」と、思うに任せない現実を憂慮するのは、とても愉しい事だ。

 しかし、今私はそのような愉しみを、格段に超えた愉しみを保有している。
 この私の豪華絢爛な攻撃陣は、どんな相手をも崩し切り、どんな相手からも大量点を奪う事ができる。分厚い守備で中南米予選を戦い抜いたコスタリカ相手でも、組織的な攻守を展開した(しかもよく日本を研究していた)ザンビア相手でも、終盤に至り自在にボールを回せるようになり、守備網を完全に粉砕する事に成功した。我々の攻撃を止める唯一の手段は、守備ラインにカンナヴァーロを装備する事くらいだろう。
 このような美しい代表チームを世界中の人々に見せびらかす事ができるのだ。これ以上の喜びがあろうか。

 確かに守備は甘い、本大会で、その甘さに涙する事もあるかもしれない。しかし、それがどうしたと言うのだ。82年のセレソンだってそうだった。そして、あの「組織化された混乱」による攻撃は、32年の月日が経った今なお、我々に甘美な記憶を提供してくれているではないか。
 我々は世界中の人々に美を提供できるチームを所有するに至ったのだ。

 齢53歳で、とうとう、こんな素敵なおもちゃ箱を入手できました。ありがとう、ザッケローニ。ありがとう、原博実
posted by 武藤文雄 at 14:16| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
早速のご講釈ありがとうございました。
楽しく読ませていただきました。

本番も、現地に行かれるのですね?、期待しております。
聞くところによると、かの地の会場ネット状況ではツイートのほうは厳しいようですが。。

お気をつけていってらっしゃいませ。
Posted by かず at 2014年06月07日 14:39
旅人曰く、日本のサッカースタイル確立の橋頭堡になるかもしれない2014日本代表。その勇姿を、歴史を観戦なさるとは羨ましいかぎりです。

あと一週間・一試合あれば、守備以外は万全の体制で闘えたのですが…。(大久保あのやろー。右サイドでハマるんなら早く言ってよ!そうすれば岡崎1トップとか大迫トップ下とか試せたのに!)

ともあれ、ブラジルの地で1982年のセレソンを彷彿させるサッカーを披露してほしいですね。そして「ブラジルのパクリじゃねーか」と言われたら、それが日本のスタイルだとドヤ顔してやってください。


お気をつけて。

Posted by すが at 2014年06月08日 15:59
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック