残留が決まった今だから正直な胸の内を吐露する。私は今期のJ1残留は、奇跡に近い事態だと思っている。
元々平均年齢が高い選手を集め連係を作り込む事で、2011年、12年と望外の好成績を残したチーム。ために、貢献した選手の多くに比較的高給を提供し、良好な若手が少なくなっていた(ここ最近、ユース育ちはもちろん新卒選手を成長させ損ねているのも痛い)。さらに、昨シーズンオフに、GK林が移籍、後継となった関も守備範囲の広いよいGKだが、小柄ゆえクロスへの対応、読みが外れた際の跳躍距離の限界もあり、穴を埋め切れなかった感がある。さらに同じくオフに獲得したマグリンティ、武井、二見も、不運も負傷もからみ、3人とも従来の選手は凌駕するには至らなかった。
さらにアーノルド前監督の失敗。私はこの氏を新監督に選択した判断は適切だと今でも考えている。しかし、残念な事に氏は豪州外で采配を振るうのは初めてで、Jリーグそのものへの解釈違いがあり、残念な結果しか残せなかった。上記したようにただでさえ、平均年齢が高く新陳代謝に乏しいチームが、序盤に連敗を重ねてしまったのだ。加えて、我が軍は元々夏場はあまり強くない(これは活動量と連係を主体にするチームのやり方の宿命みたいなもの)。
そうこう考えれば、渡邉晋氏が監督に就任した時点で、J1残留は絶望的に近い状態だったのだ。
それでも、我々は残留に成功した。渡邉晋監督の功績は言葉にするも難しい。
もちろん、幸運もあった。サッカーの勝敗は常に相対的なもの。より状態の悪いチームが多いほど、順位が上がる可能性は高まると言うもの。確かに、アルディージャの低迷はこのクラブの宿唖のようなものかもしれない。しかし、エスパルスのゴトビ氏更迭と、セレッソのポポビッチ氏採用などは、およそ常人には思いつかない悪手。さらにヴォルティスに出資している製薬メーカ殿が、名将小林伸二氏に良好な補強を提供しなかったのも幸いした。
しかし、だからと言って渡邉氏の功績が差し引かれるものではない。
ここで、いかに我々の戦闘能力が低かったか、いくつかデータで語っておこう。まず今期ベガルタが先制されて、逆転勝ちは前期のヴィッセル戦、点の取り合いに持ち込んだバカ試合のみ。いや、先制されて引き分けに持ち込んだのも、先日のガンバ戦だけ。先制しなければ勝利はおろか、勝ち点1もままならかったのだ。さらに、ワールドカップ中断後、ベガルタが11人相手のチームに勝ち点3を獲得したのは、先般のヴォルティス戦が初めてだったのを皆様お気づきだろうか。8月のエスパルス戦、10月のFC東京、レッズへの連勝、いずれもかなり幸運な判定で敵選手が退場し最後は10人との戦いとなっていた。相手が11人そろった他の試合では、先制しても逃げ切れなかったのだ。ベガルタサポータならご承知の通り、いずれの試合も選手は組織的に忠実に戦い続けたにもかかわらず。
以前も述べたが、ベガルタは老齢化してすり減っていたのだ。老齢化した守備ラインは、終盤押し上げられなくなる。では前線の赤嶺とウィルソンは、序盤から猛烈なプレスに走り回っており、終盤は引いた味方に合わせて動き回りボールを引き出すのは相当きつい。スタメンの中盤のうち3人は30を過ぎた梁、野沢、太田だ。試合終盤に押し込まれ、崩されるのも当然ではないか。
それでも渡邉氏が就任した第7節の26試合で、「これはどうしようもありません、完敗でした」と言う試合は、前期のサンガ戦、FC東京線、後期のマリノス戦、アントラーズ戦の4試合だけ。後の試合は、負けようが、分けようが、相当な抵抗をしながら、僅かの差で悔しい思いをする試合ばかりだった。
渡邉氏は、ベテラン選手の成熟を存分に活かし、現有戦闘能力から考えられる最上の引き出しを発揮してくれたのだ。
まず、きわめて短い時間で、崩壊していた守備組織を回復させるのに成功した事。「去年までのやり方に戻す」と言ってしまえば簡単だし、老獪で経験豊富な選手が揃っていた事も確かだ。だからと言って、あのレッズに0対4でズタズタにされたチームを短期間で立て直した手腕は鮮やかだった。
今思えば、ワールドカップ休暇前の4連勝が大きかった。特にその後半2試合、監督選考の誤りで崩壊しつつあったセレッソと、ACLの敵地戦で苦杯し疲労困憊のサンフレッチェに、それぞれきっちりと1対0で連勝した渡邉氏の勝負勘は中々だった。長いシーズン、敵の戦闘能力が揃わない時があるものだ。そこで対決できた幸運を、しっかり掴めるかどうかが、長いリーグ戦の成績を左右するのだ。
8月から9月にかけての、あの重苦しい5連敗を耐え抜いたのも見事だった。ベテランの多いチームは、大崩れはしないものだが、一方で負けが込むと「仕方がないな」的な感覚に陥りがちなもの。ところが、当時のベガルタは、あの苦しい期間も、いずれのベテラン選手も前向きに試合に取り組み、ついには連敗の悪循環を脱してくれた。これは、渡邉氏が選手達に的確にモチベーションを吹き込み続けるのに成功した事の証左と言えよう。
梁勇基と野沢拓也の美しい連係を堪能できたのも、渡邉氏の功績だろう。選手同士の邂逅は偶然の賜物。たまたま、編成の都合で共にプレイする機会を得た複数の選手がどのような連係を見せてくれるかどうかは、永遠のサッカーの愉しみ。そして、アジア屈指の判断力と知性に恵まれた2人のベテランMFが、仙台の地で出会ってくれた。そして、梁をボランチに、野沢を左サイドMFに起用する事で、この2人は鮮やかな芸術を再三見せてくれた。FC東京戦の梁の突破からのラストパスを、どう形容したらよいのだ!!!
もちろん、渡邉氏にも失態もあった。最近では、前節のセレッソ戦。2対1でリードしている時間帯、敵よりも早く動き、太田に代えて武藤を起用。前掛かりで来るセレッソの裏を狙う魂胆だったのだろうが、武藤は相変わらずの判断の悪さを発揮してしまい機能しなかった。また先般のヴォルティス戦、アディショナルタイムのパワープレイでの無理攻めを食らった時間帯、アディショナルタイムに梁と武井を交代させたのも疑問。あそこまで煮詰まった時間に選手交代をしても、主審は残り時間を延長するから、あまり意味がないはずなのだが。このあたりは、若さと言うものか。
ただでさえ、老齢化が進み、来期の目鼻は立っていない。
いかに鬼に笑われようとも、来シーズンは今年以上の艱難辛苦となりそうだ。他チームで経験を積んだ奥埜、山本の復帰を含め、いよいよ若手の起用が重要視されるだろうが、ここ最近ベテランに頼ったチームだけに、本当にうまく行くものなのか。
それでも、上記したように、今期の渡邉氏の監督として手腕は最高のものがある。苦しい来シーズンを、ここまで大きな期待をいだける優秀な若手監督と戦えることそのものに感謝したい。
そして、丹治強化部長との別れが近づいている。ベガルタ仙台と言う小さなクラブは、歴史も浅く財政的に豊かでもないが、一昨シーズンのJ1での2位獲得それに伴うACL出場と言う、信じ難い成功体験を積む事ができた。以前も述べたが、この成功は日本サッカーの歴史でも屈指のものだ。その成功を現場指揮したのが手倉森前々監督であり、後方でプロデュースしたのが丹治氏だった。言い換えれば、丹治氏は日本サッカー屈指の実績を挙げた強化責任者と言える。他の財政的余裕があるクラブからの引き抜きの声がかかってもおかしくないし、丹治氏自身が新たなな経歴を積もうとするのも不思議ではない。
改めて、丹治氏に感謝すると共に、氏の今後の成功を祈りたい、ただしベガルタとの試合以外で。
アーニー氏の能力がまさに想定外だっただけに、本当に奇跡的です。
一時は私もJ2降格を覚悟していました。
改めて、ナベさんの胆力に敬意を表したいです。
来年は世代交代も進めつつ勝ち点を獲得していくという難題への挑戦となります。
今から気が引き締まりますね。
鹿島でさえ随分苦労していましたから。
渡邊監督の失敗例として挙げられてるセレッソ戦の武藤投入ですが、私はあの采配は渡邊監督の好手だったと思っています。
代えられた太田はサイドに引っ張られすぎていて、富田との間にスペースを作ってしまっていました。おそらく前半の楠神に菅井が突破されたシーンから積極的に菅井のヘルプにいこうとしていたことからうまれた現象だと思いますが、徐々にセレッソの選手もその守備の穴に気づいていて交代の直前には扇原がそのスペースに侵入して永井の決定機を演出しています。その被決定機をうけて渡邊監督は交代の準備を始めていますので守備の修正が目的の交代だったと思います。
たしかに攻撃面ではほとんど何もできませんでしたが、ゾーン守備の修正は武藤投入によって成されたと思いますので渡邊監督の決断は正しいものだったのではないでしょうか。
長文失礼いたしました。
ん?と一瞬考えましたけど、サンガじゃなくてサガンですねw
アーノルド氏最後の試合のレッズ戦で正直完全に終わったと思いました。
そこからスポンサーの撤退やら何やらが重なって最悪の最悪の場面まで行くんじゃないかと酷い被害妄想をしたのも今ではいい思い出です。
アーノルド氏が結局どういうサッカーをしようとしたのか未だに分かってないですけど、今回のこの失敗はきっちり総括してほしいです。
原因をしっかり突き詰めないと外部から監督呼べなくなっちゃいますからね。
うちは決戦の日曜日です。成就したらまた訪問します。