ちょっとした私用があり、お休みをいただき欧州を旅する機会を得た。そして、5月29日金曜日、バーゼルFCの2014-15年シーズン最終戦を観に行った。既に優勝を決めているバーゼルが、リーグ最終戦でザンクトカレンをホームに迎えた試合だった。
バーゼルFCのホームスタジアム、ザンクトヤコブパルクは旧市街の中心地からトラムで15分程度。スイス鉄道のバーゼル駅からも臨時電車で一駅に位置する。20時半キックオフに向けて、夕刻から青赤のウェアを着たサポータ達が、街中で愉しそうに怪気炎を上げており、彼らと共に競技場に向かう。
余談。幾度も語ってきたが、ユアテックスタジアムは、そのロケーションと言い、構造と言い、そこで演じられるドラマと言い、間違いなく日本最高のスタジアムだと確信している。(ここから思い切りローカルネタですが、仙台市民の方以外で興味あれば、Google Mapでも参考についてきてください)しかし、ユアテックは所詮泉中央駅近傍。仙台の旧市街(笑)からはほど遠い地下鉄の終点。便利な場所ではあるが、街中とは言い難い。しかし、ザンクトヤコブパルクは、仙台で言えば、北仙台や長町に建っている。仙台駅からJRで一駅の場所に、ショッピングモール付きの4万人近くを収容できる競技場がそびえているのだ。仙台市民以外の方々にもわかりやすく言うと、ニッパツ三ツ沢やNACK5大宮のあたりに4万人スタジアムが立っていると、イメージしてもらえばよいか。
バーゼルはスイス第3の都市と言っても、人口は20万人足らずと言う。そのような街でも、このような超一等地にこれだけの大競技場を持っている。サッカー観戦が文化として定着したのがここ20年の日本と、100年近い歴史がある西欧の都市の差なのだろうか。現在の日本の都市事情を考慮すると、将来に渡りどのような都市でも、このような立地の競技場を持つ事はできないように思う。仕方がない事だが、素直に羨望した。
ちなみに試合終了後、トラムの大混雑を心配したのだが、対策は十分。数十台のトラムが待機しており、それらが皆バーゼル駅に向かう。旧市街の一角ゆえ歩いて帰る人、スイス鉄道を利用する人などを含め、競技場からの撤退対応もよく準備されている訳だ。
個人的に、スイスのサッカー界には強烈なライバル意識を感じている。単なる横恋慕と言ってしまえばそれまでだが。何故ならば、この国は、常にワールドカップにせよ、欧州選手権にせよ、たいがい予選は勝ち抜き、本大会で2次ラウンドまで何とか進む(あるいは進めない)。実質的な世界の相対ランキングで非常に近いところにいると思えてならないからだ。たとえ、先方のFIFAランキングが非常に高い現状があるにせよ。
ついでに言うと、2006年ワールドカップ。1次ラウンドで我々が木端微塵にやられた後、ドイツに残った私は当時小学生だった坊主と1/16ファイナルのスイス対ウクライナを観戦、0対0のPK戦で全員が外すと言う凄絶なスイスの敗戦を堪能させていただたいた。隣に必死に声を枯らして戦い続けたスイス国旗をかたどった服を着ていた60歳過ぎのオッサンがいた。試合終了後、(シェフチェンコへの想いも持ちながら)何となく勢いでスイスを声援していた極東から来た親子2人が席を立つ。オッサンはボロボロと涙を流しながら「Thank you, Thank you 」と握手をしてくれた。本当に本当に羨ましかった。そして、その羨望は4年後にかなえられるのだが。
スイスとの試合は唯一2007年にオシム爺さん時代に戦っている。PK大乱発のバカ試合は面白かったな。こう言うライバルと、もっと交流を深めたいところだ。
言うまでもなく、柿谷を見たかった。今期、中々定位置を掴めなかった柿谷だが、(優勝が決まった事もあったのだろう)前節に久々に起用され、何とも美しいループシュートを決めていた。最終節も起用され、眼前で得点する事を期待していた。大体、私が欧州で生観戦すれば、柿谷は点をとる事になっているのだ。と、考えていたが、柿谷は敢えなくベンチ外。
リーグ最終戦のホームゲーム。さらにこの試合は、クラブのレジェンド、マルコ・シュトレーラの引退試合だった。パウロ・ソウザ監督は、ベストに近いメンバでシュトレーラの最終試合を飾ろうとしたのだろうか。ちなみに、シュトレーラは上記のウクライナ戦でPKを外したのだっけな。
試合前のウォーミングアップ。柿谷を見られない事がわかって落胆していた私の眼前で、引退するシュトレーラを称えるイベントが始まった。30,000を超える観衆からの暖かい拍手。おもしろかったのは、敵のザンクトカレンの選手達が、そのイベントに全く同調しない事。ザンクトカレンの選手は淡々とアップを続け、ゴール裏2階席に隔離されている敵地から来訪したサポータも、ホームチームのイベントを全く無視し、自クラブへの声援を継続する。1つの作法だな。
ちなみに、選手紹介やバーゼルの得点時に、スタジアムのアナウンサは選手のファーストネームを大声で叫び、それに続いてサポータ達が姓をコールするのが、このクラブのやり方らしい。たとえばアナウンサが「マルコ〜〜〜〜」と叫び、サポータが一斉に「シュトレ〜〜〜ラ」とコールする。これで日本人選手を応援できたら最高だったが、まあ贅沢は禁物と言うものだ。
感心したのは、チケットが日本で購入できる事。クラブのWEBサイトのチケット購入ページで、席を指定し、クレジットカード番号を入力するだけでよい。送られてきたメールに添付されたファイルのプリントアウト(バーコードが含まれている)が、チケットとして機能するのだ。これはとても便利だ。手数料の問題はあろうが、国内の試合でスポットの試合を観戦するのも、海外を含めた広い範囲の観客を集めるのにも有効だ。最近の報道で、「FC東京やマリノスが海外からのチケット購入を可能にする」との記事を読んだが、多くのJクラブが真剣に検討すべきだと思う。
少々驚いたのは、周辺の観客の観戦姿勢。試合の真っ最中に、ビールなどを買うために席を外す観客が非常に多いのだ。今まで、世界中でサッカーを愉しんできたが、トップレベルの試合で、このような経験は初めて。合衆国で野球を観た際が、こんな感じだった事を思い出した(同じ野球でも、日本ではここまで席を外す観客は多くない)。サッカーの愉しみ方は、人それぞれではあるが、ピッチでの熱戦との対比に考え込んでしまった。
ちなみに、この日の観衆は32,000人くらいだった。バーゼルはスイスで最も人気があると聞いている。観客動員力を日本のクラブと比較するとすれば、やはり浦和レッズと言う事になろう。そして、リーグ最終戦と言うハレの舞台で八分の入りで30,000人越えとすれば、レッズの動員力が上と見るべきか。もちろん、曜日(この日はスイスの祝日でかつ金曜日と言う特殊な日だった)、当該地域の人口、競技場へのアクセス容易性、天候など、多くの比較障害があるのだけれども。
ついでに言うと、私の席はバックスタンド3階席、スタンドはかなりの急勾配で、3階席でもとても見やすかった。ちなみにチケット価格は、日本円で約7,500円だった。Jリーグでこのあたりと同じ指定席を購入すると、4,000円程度か、つまり倍近い価格となる。もっとも、スイスと言う国は物価が非常に高く、何を買うにせよ、日本の倍以上の値段がかかる感覚だった。まあ、こんなものか。
さて試合。これが結構微妙な内容だった。ミスが多いのだ。それも、後方でボールを回す際に、コントロールミスが目立ち、それを引っ掛けられる場面が続出。守備陣の奪われた瞬間の切り替えの早さはさすがで、厳しいボディアタックで奪い返すのは見事だったが。乱暴で抽象的な比較だが、厳しいプレスがかかっても回す能力はJリーグが上で、奪われたボールを奪い返す能力はスイスリーグが上、って言う感じだな。
しかし、自陣でミスを繰り返せばいつか崩れる。実際、そう言ったミスから、バーゼルは引退するシュトレーラが先制。ところが、バーゼルDFも同様のミスを連発し、敢え無く失点を重ね前半は1対2で終了。後半ようやく追いつくが、またもDFのミスから失点し、突き放され2対3。点がたくさん入れば、スタジアムの雰囲気は盛り上がるけれども。
ホーム最終戦と言う事もあり、バーゼルはメンバ変更で猛攻を仕掛けるが空回りが続く。ザンクトカレンが分厚く守ってくるので、丁寧にサイドチェンジを交えたビルドアップから仕掛けるのだが、最前線の精度に欠けるのだ。この空回りを見ると、「この攻撃ラインにもかかわらず、柿谷は定位置を掴めなていないのか」と複雑な気持ちにはなった。僅かなスペースでも正確にボールをコントロールできる柿谷は、このような事態に最適なストライカだと思ったのだが。
ともあれ、バーゼルは交代で起用された選手も皆よい選手で、サイドチェンジを繰り返して揺さぶりと圧迫を継続する。このあたりは、両チームの持てる資源の絶対量の差だ。そして、圧力に耐えられなかったザンクトパウリの守備陣が左右の修正が利かなくなった終盤2得点を決め逆転に成功。見事に最終節を飾った。多くのライバルクラブと戦闘能力差がある以上、パウロ・ソウザ氏もわざわざ使い道の難しい柿谷をはめ込む必要がないと考えたのかもしれない。
外国でのサッカー観戦は愉しい。
まず選手との出会い。たとえばバーゼルのCBにリーダシップに優れ、前線へのフィードが巧みな選手がいた。よく調べてみたら、あのサムエルだった。こう言う再会は何とも言えず嬉しいものだ。またバーゼルのトップ下のマティアス・デルガドと言う選手は、私にとっては初見だったが32歳のアルゼンチン人。いかにも、アルゼンチンのこのポジションの選手らしい技巧と判断力に富むタレントだった。このような邂逅は堪えられない。
そして上記クドクドと書き連ねた様々な環境相違の発見。ピッチ上のサッカーを囲む周囲環境は国によって色々異なる。それは、極端に言えば文化の相違によるもの。愛するサッカーを通して観察できる文化相違体験は、とても愉しい。
言うまでもなく、ピッチ上のサッカーでの発見。この日は優勝決定後の試合と言う事で、少々緊張感に欠けた感もあり、守備のミスからのゴールが多く、大味な試合となった。しかし、サッカーはサッカー。そのような試合でも、スイス独特のスタイルは垣間見え、そこに加わる外国人選手による変化は、常に新しい発見がある。まして、世界のトップを目指そうとする(当方から見ての)ライバル国のトップゲーム故の比較感覚も面白い。
改めてサッカーの愉しさを堪能する1日だった。
2015年06月30日
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