2007年06月04日

腕章を巻いた遠藤

 モンテネグロ戦選手入場。腕章を巻き、先頭を切って入場したのは遠藤保仁だった。
 試合前のウォーミングアップの時点で、川口が控えに回るのはわかっていた。しかし、フィールドプレイヤがアップのために入場してきた時に先頭は中澤だったから、主将は中澤が務めるものだと思っていたので、ちょっと驚いた。そして、この飄々としたプレイを見せてくれるミッドフィルダがとうとう代表の主将を務める事になったのかと感慨を持った。
 しかも、試合後のインタビューを読むと、オシム氏は「遠藤か阿部のいずれか」に主将を務める事を具申してきて遠藤が受けた、と言う経緯があったらしい。元々この選手は「やる気があるのだかないのだかわからない風情」で、鋭いプレイを見せるところが魅力。しかし、「自ら腕章」と言う態度を見せたのは、よい意味での「欲」の表われだろう。
 そしてモンテネグロ戦、中盤やや前方に位置取りした遠藤は、憲剛からのクサビを厳しいプレッシャの中で実に正確にさばき、前半の猛攻を演出。元々、パスの出し手、さばき手としての能力は格段のものがある選手だったが、受け手としても実力を発揮した。腕章も中々似合っていたし、激しいポジション争いが続く日本の中盤において、今後も重要な地位を占めていく事だろう。

 遠藤はフリューゲルス最後のシーズンに鹿児島実業から加入。春先からレシャック監督に抜擢された。レシャック氏は、現役時代も指導者時代も、かのヨハン・クライフの弟子筋にあたる男。そのため、何とあのクライフ監督時代のバルセロナそのままの3−4−3で、フリューゲルスも戦った。遠藤はこの難しいフォーメーションのチームで、いきなり大抜擢されたのだ。もっとも、新人の遠藤に限らずこの難しいフォーメーションは皆が消化不良になり、レシャック氏は早々に更迭される。そして後任監督に就任したゲルト・エンゲルス氏を監督にしたクラブはあの悲しい結末に向かっていくのだが。
 翌99年のワールドユース、日本が準優勝するこの大会、トルシェ監督は多くの候補選手の中から遠藤をワンボランチに起用した。同じポジションのライバルである稲本がこの大会中不振だったが、遠藤の非常に冷静なボールさばきと安定した守備が日本を決勝まで進出させたとも言える活躍振りだった。五輪代表に昇格後は、復調してきた稲本とドイスボランチを務め、年長の明神が右サイドに回る布陣が基本となった。ところが、結果的に五輪出場を決める事になった国立カザフスタン戦、押し気味の日本はオフサイドトラップのかけ損ねから先制を許す。これでパニックに陥ってしまったのか、遠藤はらしからぬミスを連発、前半で交代させられてしまう。以降、トルシェ氏の信頼を失ったのかこの五輪代表の基本布陣は明神、稲本のドイスボランチとなり、遠藤の登場頻度は極端に減ってしまう。結局遠藤は、シドニー五輪でもメンバ外。もっとも、この大会遠藤がベンチにいればリードした試合終盤トルシェ氏の采配は随分ラクになっていたと思ったのだが。以降A代表に専念するトルシェ氏から遠藤に声がかかる事はなかった。明神、稲本、福西、戸田らと比較して、遠藤はまだ経験不足だっと言う事だろう。
 しかし、遠藤は消滅したフリューゲルスからサンガに移籍し順調に成長。01年にサンガが2部落ちしてガンバに移籍するのだが、その時遠藤獲得の意思を示したクラブは相当数だったと言う。02年シーズンガンバの遠藤は通年に渡り素晴らしいプレイを見せ、ジーコ氏によりA代表にも選考された。以降「海外組」不在時はレギュラとして活躍する。遠藤にとって不運だったのは、中盤後方で長いボールで組立を行なうライバルが、中田英寿と小野だった事。この2人のいずれかが出場すると、プレイのタイプが似ている遠藤は起用される機会が少なくなってしまった。またレギュラとして活躍していた04年のアジア大会では、準決勝で敵にファウルされバランスを崩しただけで、退場処分を食らうと言う珍しい体験までしてしまう。それでも、ジーコ氏の遠藤への信頼は厚く、ドイツ行きのメンバにも選考された。けれども、遠藤はフィールドプレイヤでただ1人試合出場する機会がない選手になってしまったが、これはジーコ氏独特の「序列方式」によるものだったためか。
 ところで昨シーズンあたりから、ピッチ上の遠藤の仕事場が少し前方に変わってきた。ガンバが明神を獲得し橋本とのドイスボランチで戦う事が増えてきたので、遠藤は少し前のトップ下近傍でプレイする機会が増えてきたのだ。代表でも、オシム氏はジーコ氏以上に遠藤を重要視し、攻撃の要として期待しているようだが、与えられるポジションは中盤の比較的前の方。中盤後方は、阿部、啓太、今野らの運動量、守備力、多様性に富んだ知的労働者が担当している。モンテネグロ戦でも、憲剛、啓太との上下間のポジションチェンジもあったが、基本的には攻撃的MFでよく機能していた。

 さてコロンビア戦。一部報道によると、遠藤、憲剛に加えて、中田、稲本、中村もスタメン起用されるとの情報が流れている。これでは11人に収まらないのではないかとの懸念はさておき、モンテネグロ以上の難敵を、彼らの技巧と知性で圧倒する試合を期待したい。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
遠藤のプレーエリアの変化について

昨年途中から4バックに転換したガンバでは、明確に前目のポジションでプレーしていたが、3バック時代のガンバでもボランチと言うよりは2.5列目で攻撃を重視したプレーをしていたと思うが。

4バックでサイドを上げる戦術で戦う(ガンバも代表も
)以上、ボランチは守備力を重視せざるを得ない。
西野もそれを考えて、橋本・明神のコンビをボランチに据えている。攻撃の部分は少し橋本がやっている感じ。

しかし、代表ではボランチの攻撃面が最大の問題点だと思う。展開力が明らかに欠けている。阿部・鈴木・今野、いずれも守備型のボランチで、攻撃につながるようなパス出しが出来ていないように感じられる。
Posted by at 2007年06月05日 20:11
今野が代表でボランチに入ったことはほぼ無いと思うのですが
Posted by at 2007年06月05日 23:34
遠藤と憲剛がタテに並ぶ関係とてもいい感じです。

これが2010年の屋台骨ですね。
Posted by ふるたけ at 2007年06月06日 00:14
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック