セレッソの扇原貴宏が、グランパスに移籍したと言う。色々なことを考えさせてくれる移籍劇だ。
扇原は、ロンドン五輪代表選手。正確なパスを武器にチームの中核として活躍した。しかも、184cmの大柄な体躯、左利きと言う特長も備えている。ロンドン大会準決勝のメキシコ戦で決定的な失点につながるミスをしたものの、そのような失敗経験をプラスに活かし、大成するのではないかとの期待も大きい選手だった。
その後、2013年の東アジア選手権ではA代表にも選考されたこともあったが(海外クラブ所属選手不在のタイミングだったが)、自クラブのJ2陥落を止めることはできず、もう一つ明確な活躍が見受けられずに、今日に至っている。上記のメキシコ戦のように、時々いわゆる「抜けた」プレイをする悪癖が、なかなか改善されないのが課題に思える。たとえば、昨シーズン肝心かなめのJ1昇格決定戦のアビスパ戦では、ベテランの橋本にスタメンを譲ったのも残念だった。さらには、この大一番の終盤、セレッソがリードした時間帯に、扇原は橋本と交替して起用された。ところが、セレッソはその時間帯にアビスパに同点とされ、J1昇格を逸することになる。その失点の要因の1つが、中盤を老獪に引き締めていた橋本の不在だった印象もあり、いっそう扇原の伸び悩みを印象づけるものとなった。
今シーズンは、セレッソでもロンドン五輪代表でも、ボランチでコンビを組んでいた山口蛍が、欧州に移籍。扇原にとっても、チームの中核としての自立が期待されたシーズンにもかかわらず、定位置を失ってしまった。
扇原にとって、新たな場を求めて移籍は、有効な選択と言えよう。グランパスは勝ち点勘定、チーム作りいずれの面でも、苦しい状況にあるようだ。不運にも、加入早々に負傷離脱となってしまったようだが、新加入の扇原にかかる期待は大きいはず。ここで活躍することで、まだ24歳のこのタレントが、再度A代表を目指す道が開かれるかもしれない。活躍を期待したい。
その扇原がポジションを奪ったのが、山村和也。これまた186pと言う身長に加え、技巧も運動量も優れたタレント。しかも、扇原と同じロンドン五輪代表選手だ。その山村は、前所属のアントラーズでは定位置を獲得できず、セレッソに移籍してきた。
山村は、ロンドン五輪代表チームがスタートした際は、主将を務め、中核として期待されていた。けれども、傍から見ていて、「気持ちが前面に出てこない」 タイプと言うこともあり、活躍の印象は薄い。結果的に、予選半ばから、扇原に定位置を奪われた形となった。ロンドン本大会でもメンバには入ったものの、中盤の控え選手として、やはり「気持ちが出てこない」プレイに終始。結果的に、同じポジションの山口蛍と扇原を休ませづらい状況となり、大会終盤に勝ち切れなかった要因の1つとなった。正直なところ、「ほかの選手を連れていくべきだったのではないか」と言う印象だった。
その後、アントラーズでも、思うような活躍ができずにいた山村。昨シーズンオフにセレッソに移籍、シーズン序盤から、扇原からポジションを奪い、そこそこの活躍をしていた。「この好素材が、ようやく本物になってきたか」と雰囲気が出てきている。もっとも、山村は山村で、山口蛍がセレッソに復帰するや否や、 定位置を奪われてしまったのだが。
選手の成長と言うのは難しいものだと思う。
そもそも五輪代表の最終メンバに入ることのできる選手は、正にエリート中のエリート。しかも、五輪本大会と言う修羅場を経験することで、一層の成長(すなわちA代表)が期待される存在だ。
けれども、そのように順調に成長する選手もいるが、伸び悩む選手も少なくない。アトランタ五輪後の前園真聖と中田英寿の明暗がその典型。そこまで極端ではないが、ロンドン五倫のボランチも、山口蛍は代表に定着し(ここに来て、やや壁に当たった感もあるが)、一方で扇原と山村はもがいている。
選手の成長は、その環境(所属チーム)に左右されるとよく言われる。出場機会がどの くらい得られるか、戦術的にその選手の特長が活かせるか、などが重要だからだ。けれども、扇原と山村については、従来の所属チームが、その成長に不適切な環境だったとは考えづらい。扇原はセレッソユース育ちでそのままセレッソでプレイしていた、チームとの相性が悪いなどの、外部環境問題は少なかったはずだ(もちろん、フォルラン騒動など、チームそのものの不安定感はあったのは確かだが)。山村は、新人選手や移籍選手のスカウト、その後の成長に定評があるアントラーズに所属していた。これまたチームコンセプトと、山村のプレイが合わなかったとは思えない(もちろん、アントラーズにはチーム内の激烈な競争はあるのだが)。
そもそも、我が国は、180cmを超える中盤でプレイする代表選手を、ほとんど輩出していない。メキシコ五輪の英雄、小城得達は、大柄で技巧に優れていたが178cm(釜本と同じサイズ、180cm未満ではあったが、当時は超大型選手と言う印象はあった)。70年代後半に大器として期待された西野朗は、とうとう代表には定着できなかった。そして、日本サッカーの質が格段に上がった90年代以降も、180cmを超える代表に定着した中盤選手は数えるほどしかいない。90年代前半の浅野哲也、2000年代の福西崇史と稲本潤一、そして本田圭佑くらいだろう。
世界的に見ても、GK、CB、ストライカ以外でも、185cmを超えるタレントが当たり前になってきている。これは、アフリカ系の選手が各国の代表に増えていること、トレーニング技術が発達し体格のよい少年への技術指導が定着したことなどが要因に思える。中盤の選手に高さがあるのは、セットプレイや敵の放り込みへの対処に有効なだけではない。偶然巻き起こる中盤でのちょっとした空中戦を制することで、思わぬ好機が演出されることもあるのだ。日本協会にしてもJの各クラブにしても、積極的に大柄な少年選手の育成に力を入れているようだが、中々結果に結びついていないのが現実だ。リオ五輪世代を考えてみても、遠藤航でさえ178cm。180cmを超えるタレントはGK、CB、最前線に留まっている。そう考えると、扇原と山村の「タッパ」は、それだけで魅力なのだ。
扇原も山村も20代半ばとなった、けれども選手の成長曲線はまちまちだ。特に大柄な選手は、20歳を超えたあたりで、身体が大人になったところで、少年時代にできていた動きができなくなるケースが、よくあると言う。2人がそれにあたるかどうかは別な議論となるが、いずれにしても、丹念にコンディショニングを高め、経験を活かして判断力を磨けば、まだまだ「化けられる」可能性はあるはず。粛々と努力を積み、成長を期待したいところだ。
2016年07月18日
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