ユース代表は、2次ラウンド1回戦ベネズエラ戦、0対0で迎えた延長後半、CKから失点し悔しい敗退。
今大会は、冨安のミスで敗退した大会と記憶すべきだろう。
煮詰まった延長後半立ち上がりの敵CK、冨安は目測を誤り、ベネズエラ主将エレーラにフリーでヘディングシュートを許してしまった。110分間これだけタフな試合を繰り広げた上での判断ミス。集中力の欠如ゆえのミスだったが、冨安を攻める気持ちは一切ない。また、冨安がいなければ、我々はここまで勝ち残ることはできなかった。冨安の魅力は、1対1の強さ。特に、加速に乗って仕掛けてくる敵FWへの対応のうまさは格段で、順調に成長してくれれば、日本サッカー史最高の守備者にまで成長する可能性を持たせてくれた。つまり、現在の師匠である井原正巳を超える存在になるのではないかと。
しかし、この悔しい試合では、肝心要の場面で、目測ミスから痛恨の失点を許してしまった。これだけの逸材なのだ。「冨安のミス」と、皆で明確に記憶し、捲土重来を期してもらうべきだろう。
悔しいけれど、戦闘能力に僅かだが明確な差があった。一方で、このチームは、日本のの伝統的強さに新たな要素が加わった魅力があった。
まず、悔しいが明確な差について。ベネズエラとの差は、歴史的に幾度も見てきた、典型的な南米強豪国との間に見られるものだった。
元々我々は、南米勢とは、相性が非常に悪い。90年代半ば、日本が世界大会に常時出場するようになった以降、ワールドカップ、五輪、ワールドユースで、日本は南米のチームにほとんど勝っていない。アトランタ五輪のブラジル戦と、ナイジェリアワールドユー ス準決勝のウルグアイくらいではないか。この要因には、「絡みキープ力?」とでも呼ぶべきか南米独特の各選手の1対1のうまさと、勝負どころを見極める集中力の二つがあると思っている。
まず前者の「絡みキープ力」。
0対0で迎えた後半、ベネズエラはフォアチェックで日本DF陣に厳しいプレスをかけてきた。日本はこれを抜け出すことができず、ベネズエラに攻勢を許した。それでも、中山と冨安を軸に丁寧にしのぎ、それなりに意図的な逆襲を狙ってはいたが、有効な攻撃頻度は少なかった。
少々乱暴な総論で語る。この日もそうだったのだが、南米の選手達は単純な1対1の競り合い、それも粘り強く身体を絡めてのキープがうまい。そして、その「絡みキープ力」と対すると、日本は持ち前のパスワークの精度が落ち、ペースをつかめなくなる傾向がある。
欧州やアフリカが相手だと、南米ほど絡みキープが執拗でないため、よりパワフルな選手がいても、日本はパスワークで圧倒できることも多いのだが。ちなみに南米勢は、欧州勢との対戦では、欧州の単純なパワーの前に、絡みキープがうまくいかず苦戦することもある。まあ、このあたりは、ジャンケンと言うか、相性と言うものなだろう。
南米勢と互角以上に戦うためには、こう言った絡みキープ力を高める必要がある。そのためには、はやり言葉で言うデュエルとかインテンシティとかだけではなく、純粋なボール扱いの技術、身体の使い方、ボールを受ける前の準備、競り合う中での判断など、多面的な強化が必要に思う。そして、そのためには、1対1で勝つための執着、創意工夫を必死に考える習慣付けが必要。これは、指導の現場と言うよりは、サッカーを語る我々が、「絡みキープ力」で勝てる選手を称え続けることが重要に思う。
次に後者の勝負どころを見極める能力。
後半、日本は粘り強くしのぎ続け、延長まで持ち込む。そして、延長に入るや、さすがにベネズエラに疲労が目立ち、日本も押し返せる時間帯が増えてきて、シメシメと思っていた。ところが、延長後半、キックオフから攻め込まれ、FKを奪われ、その流れからの連続CKから失点してしまった。しかも、悔しいことに、敵の精神的支柱のマークを当方の守備の大黒柱がし損ねての失点である。それにしても、ここでのキックオフ直後のベネズエラ各選手の集中力には感心した。
南米勢との試合で、勝負どころで見事な集中や変化を付けられて、やられることは多い。この大会のウルグアイ戦の失点時もそうだった。昨年のリオ五輪でも、コロンビアに許した先制点は、当方の僅かな守備陣のミスを活かされたものだった。
この感覚を、いかに若年層の選手たちに身につけてもらうか。陳腐な考えだが、若い頃から厳しい試合を経験してもらうしかないのではないか。具体的には、Jユース所属時代から、J2なりJ3のクラブにレンタルに出し、毎週末サポータに後押しされながら(場合によっては罵倒されながら)、勝ち点を1つでも積み上げる(多くのクラブでは、下位に近づかないようにもがく)経験だ。プリンスリーグや、U23でのJ3の試合では、このような経験は難しい。一番似ているのは、高校選手権になるが、これは勝ち抜き戦と言う構造から、多くの選手が経験できない欠点がある(もっとも、そのような欠点があるから、格段の難しさとなり、貴重な経験となるのだが)。
一方で、今回のチームは、過去のユース代表と比較しても、実に魅力的だった。日本の伝統である、細かなパスワークも、粘り強い集団守備も高いレベルだった。いずれの試合でも、ペースを握った時間帯は、素早いパスワークが奏功し、変化あふれる攻撃を見せてくれた。特に市丸と三好は判断力と技術に優れたMF、この2人が遠藤保仁と中村憲剛の配下として、Jを戦っていることは非常に意味があると思っている。中山も非常に優れたCBで、落ち着いたカバーリングと精度の高いフィードは魅力的だった。久保については、色々な意味で標準外のところもあり、別に検討してみたい。
ともあれ、今回のチームを魅力的にしていたのは、冨安と堂安だろう。
冨安については、冒頭に述べた通り。この手の若年層大会で、ここまで格段の素材力を見せてくれたタレントはほとんど記憶にない。師匠の井原正巳は、当時に日本の戦闘能力の低さもあり、世界のトップレベルと対峙する権利を得ることができたのは20代後半になってからだった。対して、冨安は18歳でこれだけ鮮やかな失敗経験を積むことができた。前途洋々たる未来である。もちろん、ここから、大人の身体に育つときに今の強さと速さが維持できるか、ちょっと猫背気味の体型など、気になることもあるが、これだけのタレントがこれだけの経験を詰めたことを素直に喜びたい。
そして堂安、あのイタリア戦の2得点で十分。日本サッカー史上最高の攻撃創造主と言えば、やはり中村俊輔と言うことなるだろう。そして堂安は、俊輔があれだけ気の遠くなるような努力を積んでもどうしてもできなかった、屈強な守備者をボールタッチと緩急の変化で突破する能力を18歳で身につけている。もちろん、贅沢を言えばキリがない。特に押し込まれたベネズエラ戦の後半に、ちょっと引いて市丸あたりとボールをキープして、試合を落ち着けて欲しかった。今の堂安の年齢で、A代表マッチでそのようなプレイを見せてくれたタレントは少なくない。ディエゴ・マラドーナとか、ミッシェル・プラティニとか、ネイマールとか。
冨安にせよ、堂安にせよ、最大の課題は、いかに早く自分のクラブで絶対的な存在になるかだろう。自分のクラブで、いかに研鑽を積み続けられるか、期待していきたい。
我々が多数の好素材を保有していることを再確認できる大会だった。そして、公式国際試合と言うものは楽しいものだと、再確認できた。よい時代はまだまだ続く。
2017年06月03日
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