日本1対1シリア。
前半はひどかった。ボールがしっかりと回らず、およそ中盤が機能しない。 思うようにボールを保持できない故、無理な縦パスが多く、ボールを失う悪循環。さらに、ハリルホジッチ氏が「デュエル」を要求するからだろう、敵のボール保持時間が多いのに、無理に強く当たりに行くから、かわされピンチを増やす。
それでも、今の日本はFWの個人能力が高い。前線で大迫はしっかりと持ちこたえるし、原口は幾度もシュートまで持ち込む。前半終了間際の久保のシュートも惜しかった。しかし、シリアのDFも強い。特に主将のアルサリフは、ロンドン五輪予選から、我々に立ち塞がっていた名手(大迫との丁々発止は当時も今も見事な戦いだ)で、今日もすばらしいプレイを見せてくれた。と言うことで、前半日本がリードしてもおかしくはなかった。もちろん、リードされても不思議はなかったが、充実の川島と麻也を軸に、何とか守り切る。
後半開始早々も同じ展開。そして、押し込まれた展開から許したCK、ショートコーナへの緩慢な対応、期待のCB昌子の目測ミスから、あえ無く先制を許した。
元々、この試合はとても難しい試合だ。
何よりアウェイ(と言っても中立地だが)イラク戦に勝ち点3を確保するのが最重要事項。そのための準備となるこのシリア戦は、体調のピークを合わせるわけにはいかない。しかし、ビジネス上の理由で、満員の大観衆を集めて仰々しい試合としなければならないのがつらいところ(いつもいつも語っているが、カスミを食うだけでは生きられないのだから、しかたがない)。そうなると、そうひどい試合を見せると勢いが出ない。
さらに、以下の特殊条件が重なる。今回の代表強化セッションは、欧州のシーズンが終了し、選手達は休暇前にもうひと頑張りと言うタイミング。加えて、久々にハリルホジッチ氏が、欧州クラブ所属選手を集中強化(あるいは観察)できる貴重な機会。
そうこう考えると、何とも焦点の絞りづらい試合なのだが、このままでは、内容は悪いは、結果も出ないと言うことになる。その状況でイラク戦に臨むのでは、何とも重苦しい雰囲気になってしまう。
内容が悪いと言えば、タイ戦もそうだった。中盤でのボール回しが明らかに劣勢にもかかわらず、香川、岡崎、久保の見事なシュート力で点差を広げ、麻也を軸に最終ラインでしのぎ続け、あげくは川島のPKストップ。チームとしての機能は褒められたものではなかったが、気が付いてみれば、スコアだけ見ると4対0の完勝だった。悪いなりに拾った試合ではなく、すごく悪かったけれど完勝だったのだ。日本代表を40余年見続けているが、あれほど内容が悪い中で、結果だけがすばらしかった試合はなかった。また、その前のUAE戦は、アウェイゲームで、序盤に久保が先制したこともあり、守備的にペースを握ればよい試合だったが、中盤から崩した好機は少なかった。つまり、今年に入って能動的に中盤が機能した試合はなかったのだ。これは長谷部の負傷離脱の影響もあったのだが。
言ってみれば、今年に入っての日本代表は、モドリッチのいないレアル・マドリード、イニエスタがいないバルセロナのようなサッカーを見せていたのだ。これでは、安定した試合は望めないし、何より相手DFが当方のFWより能力が高ければ、点はとれない。そして、残念ながら、大迫も原口も、クリスチャン・ロナウドやメッシの域には達していない。
さらに振り返れば、日本にとって貴重な強化期間だった1次予選で、ハリルホジッチ氏は先を見据えた準備をあまり行わなかった。必ずしも本調子でなかった本田、香川を軸にした攻撃ラインを拘泥、組織守備が崩壊しても試合結果がよければ、それでよしとの態度だった。
そして、最終予選でいきなりUAEに苦杯し、イラクに苦戦して、慌てて組織守備を整備。原口、大迫を抜擢し、攻守を建て直した。平行して、吉田麻也が格段の成長を遂げたのが大きかった。このあたり、ハリルホジッチ氏の追い込まれたときの手腕はさすが、と言うべきだろう。
ただし、上記の通り、スコア的に完勝だった敵地UAE戦にしても、ホームタイ戦にしても、中盤でのボール回しは褒められたものではなかった。そして、このシリア戦の前半、これが3試合続くと言うことは偶然ではない。長谷部がいないと、中盤の展開力が激減するのだ。そして、イラクはアジアの中では、日本、ウズベキスタンと並び、中盤の展開力が高い国だ。この状態で、この厄介な相手と戦うのか。いや、それでも予選は勝ち抜ける確率は高かろうが、33歳の長谷部を頼りに、ロシアに向かおうと言うのか。さすがに楽観的な私も、イヤな気分にとらわれ始めた。
しかし、答えは簡単に見つかった。
本田圭佑のインサイドハーフ起用だった。
ザッケローニ氏時代の本田は、年齢的にも全盛期、トップ下で圧倒的な存在ではあった。しかし、細かすぎる崩しに拘泥したり、強引な持ち出しを狙い過ぎる傾向があった。そして、その本田の自己過剰評価と共に、ブラジルで日本は沈んで行った記憶は新しい。
けれども、この日の本田は違った。
交代時間が前後したが、アンカーに入った井手口の、早くて速い展開のサポートを受け、本田が長短のパスを繰り出し、中盤をリードした。そこに乾が加わり、溜めを作りつつ突然得意のドリブルで突破も狙う。こうなると、倉田も持ち味が出て来て、中盤で落ち着いてバランスがとれる。
この日の本田は、自己過剰評価などみじんも感じさせず、よい意味で自己顕示欲を発揮しつつ、落ち着いて中盤を構成した。試合を積んで、大迫との位置関係が整理されれば、いっそう変化あふれる中盤が作れるようになるだろう。こうして軸ができれば、周囲の選手も役割が決まってくるはずだ。
我々は、本田圭佑と共に、1人のトッププレイヤの登場、成長、飛躍、停滞を愉しんできた。そして、そのドラマに、成熟と言う新たな章が、刻まれようとしている。代表サポータならではの人生の贅沢である。
遠藤保仁の後継者は、すぐそばにいたのだ。
川島−麻也−本田−大迫と、縦のラインがしっかりと固まった。これにより、ロシアのベスト8以上に向けてチームの中軸がようやく整理された。本大会まで約1年、ちょうど、タフなイラク戦、豪州戦、サウジ戦を控える。準備状況としては最適なタイミングなのではないか。
本田が、このシリア戦と同じポジションで常時出場できる的確なクラブを選択することを期待したい。そうすれば、このシリア戦は、ロシアに向けた準備が整った試合と記憶されることだろう。
2017年06月10日
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