2018年09月02日

西村拓真CSKAモスクワに移籍

 ベガルタの若き中心選手、西村拓真がCSKAモスクワに移籍した。まずは、3年半の間、我がクラブのために献身的なプレイを継続し、時に大きな歓喜を提供してくれたこの若者に、感謝の言葉をささげたい。ありがとうございました。

 西村不在となる初めての試合、ベガルタは苦労しながら、エスパルスを下し勝ち点3を獲得、暫定順位を5位まで上げ、試合後挨拶をした西村を心地よく送り出すことに成功した。これで、3位までに与えられるACL出場も視野に入ってきたのだから、結構なことだ。
 ただし、試合内容は苦しいものだった。前半から、ここ1か月の間フル回転してきた富田、奥埜の動きに切れがなく、1対1の競り合い(いわゆるデュエル)で後手を踏むことが多い。そのため、チーム全体として、ボールを奪われた後のボール奪取に失敗し、幾度も速攻や連続攻撃を許す苦しい展開が続いた。それでも、復帰初戦となる野津田のCKを大岩が決めて先制に成功。
 しかし、後半も類似の展開が継続、ベガルタ守備陣がはね返したボールを、負傷上がりの阿部が落ち着けられずに許した連続攻撃から、ドゥグラスに打点の高いヘディングで決められてしまう(ここはマークしていた椎橋にもう一工夫欲しいところだったのだが、まああれだけよいボールが来てしまうと仕方がないか)。
 その後、中野を投入し、攻勢をとる。エスパルスは日程の不運もあり、中2日ゆえ、次第に各選手が明らかに消耗しているのが目につき始めるが、ベガルタは崩し切れない。それでも、ベガルタは終盤起用した大ベテランの梁が丁寧なボール回しを継続、そして、アディショナルタイムに、蜂須賀の逆サイド展開を、中野が頭で折り返し、中央飛び込んだ石原のダイビングヘッドで決勝点。美しく感動的な得点だった。
 最近の試合では、流れが悪い時間帯は、西村の単身ドリブルによる前進でペースを取り戻すことが多かったが、その西村が不在となる初めての試合で、ゆっくりした丁寧な展開で、試合終盤に相手を崩し切れたことはとても重要だ。西村に対して、「お前がいなくても、俺たちは問題なくやれるよ」と伝えて、送り出すことができたことになるのだし。

 ともあれ。送り出す方は何とかなるにしても、送り出される方はいかがか。私からすれば、心配山積である。
 CSKAモスクワは、まごうことなき、ロシアの伝統的なトップクラブ。ここでプレイしたと言えば、言うまでもなく本田圭佑であるが、本田はCSKAに移籍した2010年には、既にオランダで相応な実績を上げ、代表でもほぼ定位置を確保していた。日本人選手が現在所属するクラブで、CSKAに一番ランク的に近いのは、長友佑都が所属するトルコのガラタサライあたりに思う。8年前の本田にせよ、今の長友にせよ、西村からすれば、はるかかなた格上の存在なのは言うまでもない。まだ一度のA代表経験も、いや若年層代表の経験すらない若者が、定位置争いに加われるものなのだろうか。
 また、ロシアと言う国には、言葉の問題も大きい。英語が通じる場所が限定的のみならず、キリル文字は読むのも難しい。モスクワのような大都市でも、庶民が通うレストランのメニューのほとんどはキリル文字。プライベートな時間に、西村は食事をとるのも簡単ではない国で、働くことになるのだ。極東の島国からやってくる若い選手に、CSKAがどのような通訳を含めたサポートを提供してくれるのだろうか。
 そもそも、西村が強力なFWとして、Jで評価されるようになったのも今シーズンから。昨シーズンは、ナビスコでニューヒーロー賞を獲得したが、若手期待のFWがようやく常時試合に出るようになったと言う段階。そして、今シーズンは完全に中心選手の座を確保し、継続的な活躍をしてくれるようになった。けれども、まだまだ課題は山積。シュートを打てる場所にいるのに味方へのパスを選択してしまうこともある。ドリブルで完全に抜け出したGKとの1対1でのシュートの精度も改善の余地が多い。また、時々ファーストタッチを雑にしてしまい、味方の速攻の好機を台無しにしてしまうのも散見される。加えて、格段の俊足とか長身とか技巧とか目に見える明確な武器があるわけでもない。このような選手が、ロシアのトップクラブで、すぐに活躍できるのだろうか。

 一方で、西村の何がよいかと言うと、ボールを受ける位置取りのうまさと、長駆した後にもう一仕事できる点だ。
 西村はベガルタでは、トップ、シャドー、インサイドMFのいずれかで起用されてきた。ポジションにより、守備のタスクは異なるが、これら異なるタスクをしっかりとこなした上で、マイボールとなるや否や、いわゆる質の高いオフザボールの動きで、敵DFやMFの間隙で斜め前を向いてボールを受けられる位置にすぐ入る。この攻撃に転じたときの位置取りと身体の向きが非常によいのだ。
 また、今シーズン得点を重ねているのも、ゴール前に入る位置取りのよさがポイントになっている。特にここ2カ月は、チームメートがラストパスを狙うタイミングを計ったかのようなタイミングで、敵DFよりわずかに早く核心的な場所に加速して入るのが、実にうまくなった。なので、センタリングに合わせたダイレクトシュートや、思い切りのよい反転シュートが、再三ネットを揺らすようにになってきたのだ。
 さらに、脚力も魅力的だ。ハーフウェイライン手前あたりで、よい位置取りでボールを受けるや、そのまま高速ドリブルで30m程度の前進後、またぎなどの大きなフェイントから突破をこなせる。長い距離を走った後に、俊敏性を活かすもう一仕事ができるのだ。
 これらを考慮すると、西村と言う選手は、欧州のある程度のレベルのクラブにとっても、使い勝手がよいように思うのだ。与えられた守備のタスクを如才なくこなし、ボールを奪うやよい位置取りが可能、長駆をいとわずボールを運び、ペナルティエリア内で敵が嫌がる場所に進出できる。監督の意図さえ理解できれば、試合出場の機会は比較的早くやってくるのではないか。CSKAのようなレベルのクラブは、選手に対する個人戦術の要求レベルは、それなりに高いはずで、西村の特長はその高い戦術レベル対応できそうなところにある。そのうえで、まだ課題が残っているファーストタッチや、ドリブルシュートや、プレイ選択を、すこしずつ改善していければ。そして、西村は、この3年半、ベガルタでそうやって個人技術を少しずつ磨いて今日の地位をつかんだのだ。いま私が述べた西村の長所に、CSKAが目をつけてくれたのだとしたら、すばらしいのですけれども。
 、欧州の中堅どころのクラブは技巧に優れた選手を確保しづらいので、日本の若い攻撃タレントが、重宝されてすぐに起用されるケースをよく聞く。古くは中田英寿や中村俊輔であり、最近では久保裕也や堂安律がそう言った好例に思う。それに対して、その国のトップチームの場合、比較的タレントを集めやすいこともあり、相当レベルの高い日本人選手でも出場機会を得られないこともある、たとえばバーゼルにおける柿谷曜一朗が、そのような不運と遭遇したと思っている。
 まあ、ベガルタサポータの贔屓目かもしれないけれどもね。

 この西村の移籍劇で、ベガルタサポータの私は、またサッカーの新しい楽しみを得ることができた。
 海外のクラブの映像を丁寧に追いかけたいと言う思いを抱くのは、カズがジェノアに、あるいは中田がペルージャに、それぞれ移籍して以来だろうか。いや、西村がCSKAで定位置を確保し、さらなる上を目指すようになり、現地でベガルタゴールドをまといながら応援できたら、どんなに素敵だろうか。いや、日の丸とヤタガラスを胸にした西村がワールドカップ本大会で躍動する姿を見ることができたら。
 決して簡単な道ではないけれど、愛するクラブの若き選手が、自らの努力で新たな道を開拓してくれた。おめでたいことだ。西村拓真の成功を切に祈るものである。
posted by 武藤文雄 at 17:46| Comment(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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