ラグビーワールドカップ、日本代表はアイルランドとの死闘を制して、19対12で見事に勝ち切った。試合内容もすばらしいものだった。
4年前の南アフリカ戦の歓喜は、10回に1回起こせるかどうかの勝利を引き寄せた番狂わせ感があった。しかし、今回の勝利は違う。強いチーム同士が、がっぷり四つで戦い、瞬間瞬間の判断に上回った方のチームが、戦闘能力で勝利した試合だった。ジャパンは戦闘能力でも、先日まで世界ランク1位だったアイルランドと遜色なかったのだ。
私としてはこの大会観戦2試合目。最初はオールブラックス対スプリングボックス戦。少なくとも、観戦した4か国の戦闘能力には、あまり差がないように思えたのだが。
もちろん、ジェイミー・ジョセフ氏も、リーチマイケルとその仲間たちも、勝負はこれからなのは、わかっている。スコットランド戦はもちろん、サモア戦も、簡単な試合ではないだろう。でも、彼らはきっとやってくれることだろう。
簡単に試合を振り返っておこう。
20分までに2トライを奪われ、3-12、相当難しい試合になってしまう雰囲気があった。しかし、30分過ぎだったか、自陣での相手ボールスクラムでペナルティを奪い、流れは完全に変わった。敵陣でのプレイが増え、田村がペナルティキックを2本決めて3点差で前半終了。
後半も攻勢をとる。幾度も幾度も攻め込むが、アイルランドの守備も固く、どうしても最後の5mが破れない。それでも、手変え品変え攻め込む。決勝トライは敵陣深いところで得たマイボールスクラムから、よい球出し、幾度も押し込んで、最後は両センタの妙技から、福岡が抜け出した。これは、どんなチームでも防げないだろうと思える、何とも見事な変化だった。
その後、幾度から自陣に攻め込まれるが、強烈なタックルで22mライン近傍で幾度求める。アイルランドもさすがで、ジャパンの激しいタックルを食らっても、とにかくボールを落とさない。そのような攻防が続いたが、後半ジャパン守備陣は崩れず、とうとう押し切った。
ともあれ、この試合、唯一残念だったのは、80分過ぎ、負けているアイルランドがキックで試合を切り、試合終了を選択した事。絶叫で応援していた我々は「アレ?」と、すぐに歓喜を味わえなかった。これは試合終了後に当のキックをしたカーベリが、7点差以内の勝ち点1の確実な確保を目指した、と発言しているらしい。やはり、ここはジャパンがマイボールを外に蹴りだして、明確な歓喜を味わいたかったところだが、贅沢は禁物だろう。まあ、アイルランドも、これ以上執拗に当たってくるジャパンと戦いたくなかったのかもしれないけれどw。
それにしても、会場のエコパの雰囲気はすばらしかった。特に逆転以降、アイルランドが力を振り絞って攻め込んで来て、ジャパンが必死に我慢を重ねた時間帯。地鳴りのように巻き起こった「ニッポン!チャ!チャ!チャ!」は、間違いなくジャパンの選手たちを奮い立たせたはずだ。そして、選手たちの奮戦がフィードバックとなり、我々をさらに奮い立たせる。22年前のジョホールバル、17年前の横浜国際を思い出した。コールリーダを軸に、試合の流れと変化を考えながら、ありとあらゆる歌とコールとチャントを駆使するユアテックもいいが、このようなシンプルな声援も悪くない。
ほんの少しだけど、自分も勝利に貢献できたかなと思っている。一緒に絶叫していた息子曰く、ロシア戦のスタジアムの声援と拍手はすばらしかったが、いわゆるコールは今一歩だったとのこと。なので、前半から、節目節目で「ニッポン!チャ!チャ!チャ!」を始め、回りを巻き込んで行くようにした。そして、前半半ばあたりから、「ニッポン!チャ!チャ!チャ!」は前後左右広範なブロックに広がり、試合終盤には大きな声援のうねりとなった。上記したリードした後、アイルランドに攻め込まれた時間帯は、立ち上がってスタンド後方まで煽ったりもした。何か、30数年前、サッカーの代表を応援するために、周囲を巻き込んだ時代を思い起こして懐かしかった。眼前に行われている競技の質も、周囲の観客の量も、当時とは全く違っていたけれど。
「ニッポン!チャ!チャ!チャ!」は、日本サッカー狂会創始者の故池原謙一郎先生が、発明されたのは、よく知られたことだと思う。
池原先生からは、直接幾多の薫陶を受けることができた。中でも、忘れられないのは、87年ソウル五輪予選時の議論。当時、中国戦のアウェイゲームを応援に行ったのは、我々好事家数十人程度だった。一方、クウェートで行われた男子バレーの予選は100名を超えるファンが現地で応援したと言う。サッカーは出場できず、男子バレーは出場できたのは結果論だが、その年の忘年会で、あれこれそれについて議論していた時のこと。私が「我々はバレーに負けている」と語った。すると、いつもは我々の議論をニコニコとおだやかに聞いている先生にたしなめられた。「そもそも、勝ち負けは韓国なり西ドイツやブラジルと争うものですよね。また、競技の人気度の比較をするにしても、海外の試合を応戦に行った人数で語るのはいかがなものですか。本質的には、競技人口なり、合理的な組織が作られているかで、語られるべきではありませんか」と。
私も歳をとった。当時、そのような教えをくださった先生と、ほとんど同じ年齢となっている。
そして、このアイルランド戦。天国の池原先生に、ちょっと嬉しい報告ができると思っている。先生が発明された「ニッポン!チャ!チャ!チャ!」は、ラグビーと言う異なるフットボールに広がり、世界最強国を戦闘能力で粉砕することに成功しました、と。
2019年09月29日
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