この映画は、約50年前の作品だが、本当におもしろい。米国のフリーウェイ、明らかな殺意を持って超大型タンクローリーが、1台のセダン車を襲ってくる。ただ、それだけの1時間半なのだが、まったく飽きさせず興奮させられる小品だ。中学生のとき、仙台のいわゆる2番館でこれを見た興奮は忘れらられない。
後日、「ジョーズ」や「未知との遭遇」を見て、「スピルバーグさんって、すごい映画監督だな」と感心していたら、その出世作が「激突!」と聞き、「なるほど!」と思ったのは懐かしい思い出だ。さらに余談ながら、「激突!」の主役は、デニス・ウィーバー。後日NHKで放映されたバカ刑事ドラマの「警部マクロード」シリーズの主役だ、
ともあれ。
大事なことは、この若きスピルバーグ氏が演出した、自家用車と超大型タンクローリーの1時間半にわたるバトルの題名が「DUEL」と言うことだ。
ハリルホジッチ氏が日本代表監督時代、記者会見でよほど「DUEL!、DUEL!」と叫び続けたためだろうか。いつのまにか、日本サッカー界に「DUEL」と言う単語が定着した感がある。
ちなみに、「duel」と言う単語を英英辞典で調べると下記の意味が出てくる。
a fight with weapons between two people, used in the past to settle a quarrel
a situation in which two people or groups are involved in an angry disagreement
二者が戦う状況を示す単語だが、深刻ないきさつが前提となるようだ。正直言いますが、ハリルホジッチ氏が、「DUEL!、DUEL!」を叫び始めたときは、まだこの単語を知りませんでいた。慌てて英英辞典で調べて上記を確認し、日本語に訳すと「一騎討ち」が妥当な翻訳かな、と思ったりした。
ただ、ハリルホジッチ氏が、「日本選手のDUELが物足りない」と、ワーワー叫ぶのを聞きながら、もう一つ氏が何を不満に思っているのか、具体的なイメージがつかめずにいた。氏の「DUEL不足」を、多くの取材者が「日本選手はフィジカルが弱い」と理解して伝聞していたが、過去の国際試合を見れば自明な通り、日本選手が欧州南米の強豪にフィジカル差でやられたことは少ない。フィジカルの鍛錬不足は論外として、我々の敗因のほとんどは、知性や技術で、相手に上回れたことだったからだ。
欧州やアフリカで、幾多の実績を積み上げてきたハリルホジッチ氏が、単に日本選手のフィジカルに文句を言うとは思えなかった。と言うより、元々の対格差を議論するならば、そりゃアジアの選手は欧州やアフリカの選手に比べれば、劣勢となるのはしかたがない。東アジアの平均身長や体重は、欧州やアフリカのそれと比べれば低いのだから。
一方で、氏が代表合宿で、選手のフィジカルの数値面に文句を言ったのは別な議論だ。氏は代表監督であり、個々の選手を鍛えるのは各クラブに託すしかない。期待した数字が得られなければ、文句を言いたくもなるだろう。
今更語ってもしかたがないが、ハリルホジッチ氏がロシアワールドカップ直前に更迭された。結果的に、氏が最終的に何を目指していたのかは、永遠に闇の中である。
今日、50年前にスピルバーグ氏が作った「激突!」の原題が「DUEL」だと知った。外国語を理解するのは難しい。しかし、英語を母国語にするスピルバーグ氏のこの名作の題名が「DUEL」と知り、何かつかめたような気がする。この映画「DUEL」からは、とにかく何があっても、この1対1の戦いに勝たなければならない切実さを感じることができたからだ。欧米人にとって「DUEL」とは、そのような意味だったのだ。
ハリルホジッチ氏が代表監督在任中に、それを知っていればもっと氏の発言を楽しめたのにと、ちょっと残念。彼が「DUEL!」と叫ぶ度に、このスピルバーグ氏の名作をイメージすればよかったのだ。私たちの代表選手に対し、ハリルホジッチ氏は1対1において、「何があっても相手に負けない」執着心を期待していたのではないか。
【関連する記事】
「今そこにある危機」なんか「クリア&プレジデントデンジャー」ですよ。
ところで、なんで日本はずっと「技術とスピード」で負けるんでしょうね?