2007年07月14日

能力で圧倒、不思議な失点、凄い審判団

 試合そのものは順当過ぎる内容と結果。

 試合前に強がりを語っていたメツ氏も、現実がわかっていたのだろう。立上りに思い切り仕掛けて先制点を狙ってきた。先制する事で、初戦終盤に星を落とした日本の焦りを誘おうとしたのだろう。終わってみれば、UAEが勝利を収めるためには、先制逃げ切りは唯一の手段だったように思える。
 しかし、立上り約15分のUAEの無理攻めをしのいだ日本が、セットプレイから先制して勝負は事実上ついてしまった。ショートコーナーのトリックプレイから中村が左をえぐったプレイだったが、UAEも警戒はしていたのだろうが、少々集中した守備でも、あの中村と高原の動きは捕まえられないと言う事か(さらにその外にフリーで巻も入り込んでいたな)。先制してすっかり落ち着いた日本のボール回しはUAEを完全に圧倒。2点目はきれいだった。、憲剛の展開を受けた加地が、外に走りこんだ啓太をおとりに使って、好クロスを上げる。高原が正確なボールコントロールから完璧なシュート。3点目のPKはやや微妙な判定ではあったが、遠藤がフリーでボールを受けたところで勝負ありと言う事か。
 後半も開始早々に敵の退場があり、日本は左右を広く使った展開でペースを掴む。ところが、ほとんど危ない場面なく迎えた後半半ばに日本は突然の失点を食らう。この失点については後述したい。
 その後、高原、中村の両エースに代えて羽生、水野を投入するが、ちょっと選手同士の意図が揃わず、バタバタしてしまった。しかし、遠藤が全軍をスローテンポに落とし、3−1のまま試合をクローズした。
 一言で語れば、戦闘能力で単純に圧倒した試合だった。

 以下雑感を。

 3−1で勝った事で総得点数により、次の試合地元ベトナムと引き分けでもベトナムより上位に立てる。現実的に日本がベトナムと引き分ける状況はあまり想像できないが、同時刻に行なわれるカタール−UAEの進捗によっては、「無理をしない」と言う選択肢も取る事ができると言うもの。皆が、暑さと湿気でほとんど動けなくなっていた事を考えれば、終盤無理をしない判断をした遠藤はさすがだ。この日の遠藤は、いよいよ中村、憲剛との連携も円滑化し、見事な活躍。終盤アップになった時の表情は、暑さで本当に苦しそうだったが、いよいよ中心選手としての風格も漂ってきた。
 唯一交代出場した水野はアピールをしたがっていたが、自分のクロスを叩き込むべき巻があそこまで消耗していたのではどうしようもなかった。オシム氏としては、終盤消耗した巻を代える予定だったのかもしれないが、啓太の負傷で最後まで引っ張る事になったのかもしれない。それにしても、あれだけ高温多湿で、準備期間も少なく、ピークを大会終盤に持っていかなければならないのだから、厳しい大会だ。
 エースの高原は凄いね。2点目のトラップの見事さには、本当に恐れ入った。カズ以来、釜本以来と言う表現が聞こえてきた。高原については、大会後半にじっくりと書く事にしたい。

 失点場面。
 起点は中村俊輔、チーム全体のボール回しから右サイド全くフリーで抜け出した中村、中に切れ込んでシュートを打つ事も、深くをえぐる事も可能だった。そして、中村の選択は、大きく逆に展開しさらにUAE守備陣を揺さぶる事だった。これが「過ぎたるは猶及ばざるが如し」だった。
 僅かにコースが狂ったボールを逆サイドのUAE選手がかろうじてヘディングで触る。そして後半から起用されていたA・モハメドがUAE陣を向いてボールをキープしようとしたところで、憲剛が厳しいプレッシャをかける。TV映像で見ている分には「よく守備をしているよいプレイ」に見えた。しかも場所もUAE陣の結構深いところだった。ところが、A・モハメドは鋭いターンで憲剛を一気に抜き去ると突然加速。「おー、さすが後半から出てきた元気な選手だ」とノンビリ見ていたのだが、日本は誰も彼を追いかけない。「ん?」と見続けていると、3対3になっている。日本の守備は阿部、中澤、啓太の3人が敵の2FWを見ていたのだから、誰も戻らなきゃそりゃ3対3になるよな。かくして失点。実に珍しい失点だった。
 中村が逆サイドに展開した時に、逆サイドになった加地は絞っていなければいけなかったのだろうが、あれだけ暑くて中盤を制している状況で、そこまで要求すべきなのか。憲剛も確かに軽率だった。またも国際経験の浅さと言う事か(今回の経験も幸いにして大怪我にはならなかったし、アジアカップ、アジアチャンピオンズリーグ両制覇に向けて、着実に国際経験を積んでいると言っておこう)。やはり、中村が凝り過ぎたのがいけなかったと言う事か。う〜ん。繰り返すが、実に珍しい失点だった。

 で、審判。
 まず主審。相も変らぬアジアモードの主審。Jリーグでは杓子定規な笛を吹きカードを乱れ飛ばす主審に悩むのだが、このような主審を見ると改めてJリーグの主審がありがたく思えてくるから怖い。不公平だとか、ラフなタックルを取らないとかの問題ではない。むしろ、この日の主審は両軍に対して公平な笛だったし、危険なプレイには厳しく対処しようとしていた。しかし前半、駒野が削られた場面が典型だが、タックルの足がボールに行っているのか、足に行っているのかを見極める技術がないのだ。それでも、日本選手が幾多のラフプレイで削られた判定については「審判能力の低さ」でまだ我慢できる。しかし、PKのボールを好みの位置に置き直した中村へのイエローカードには、怒りや笑いを通り越して脱力した。少なくともこの警告に対しては日本協会は抗議すべきなのではないか。でも、あのPKを提供してくれたしなあ。しかし、マタルは3回くらいレッドカードを食らうプレイをしていたし。
 そして、凄かったのは第1副審。複数回に渡るオフサイドに対する見間違えや、直前での危険なタックルを見落としは許そう。しかし、縦に走るのに専心し、中央を見ないのには、はっきり言って感動した。我々4級審判員がいつも悩む「複数の角度をどう見るか」と言うレベルの副審を、アジアカップで見る事ができるとは。

 とは言え、戦闘能力で圧倒した第2戦。暑かろうが、敵が汚かろうが、審判がおかしかろうが、何があろうが勝つのだ。我々が一番強いのだ。
posted by 武藤文雄 at 23:45| Comment(13) | TrackBack(1) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>この日の遠藤は、いよいよ中村、憲剛との連携も円滑化し、見事な活躍。
見事なゴールを2度も決めた高原を差し置いてMOMに選ばれましたね。余程関係者に評価されたんでしょうか。
遠藤は好きな選手ですが、正直これといった良さがわからないですね。終盤チームをコントロールしていたのが遠藤だったというのは素人の私にもわかりましたが、無理しない選択をするのが、簡単そうに見えて案外難しいのでしょうか。解説の山本氏もやたら褒めてましたが。

それはそうと、佐藤寿人にもっと試合に出て欲しいです。なぜか出場機会がないですよね。
日本人では珍しくここ3年ぐらいコンスタントに点を取ってる貴重なFWなのに。巻より佐藤寿人が見たいよ。
Posted by at 2007年07月15日 01:08
>高原、中村の両エース

高原には全く同意なのですが、素人の私から見たら、過去の実績やこれからの活躍はさておき今回の俊輔は全く必要の無い選手だと思いますが、どうでしょうか。
Posted by 通りすがりです。 at 2007年07月15日 01:31
武藤さん、憲剛のプレーぶりについてコメントが欲しいね。
結論から言うと、彼はワールドクラスで得点を決められる選手じゃないのでは、と、最近疑念を持っています。守備と展開のプレーヤーなのかと。

まず、シュート体勢に入るのが遅い、さらにフィニッシュの形にバリエーションがない。前を向いてスペースがあれば素晴らしい技術を見せるのだが、バイタルエリアからよりゴールに近い地点では、いわゆる「普通の」選手になってしまう。

コロンビア戦の美しい崩しから憲剛のフィニッシュに至る場面。遠藤のラストパスが「ゆるく」て、相手DFにコースを消されたが為の「枠をはずした」シーンかと思っていましたが、このエリアは彼の「場所」ではなかったというのが正しいような気がしてきました。どうですか?
Posted by yoshida at 2007年07月15日 01:34
憲剛は攻撃面はカタール戦と比較してかなり改善されているように思えます。カタール戦はピッチコンディションとの折り合いがつけられなかったのか、ミスが多くてちょっと酷かったです。それでも日本代表のボランチとしては不満ですけどね。中田ヒデや名波が見せてきたプレーには遠く及ばない。

逆に守備面。いくら東南アジアの気候等を考慮しても、手を抜いているとしか思えない怠慢プレーが多く見えます。相手はアジアの中堅レベルだから助かっていますけれど、アジアのトップ、そして世界レベルの相手と戦った時に彼をボランチに置いておくのは危険ではないかと思わされました。
Posted by at 2007年07月15日 03:52
寿人は裏を狙うタイプのFWだから引いた相手には使いづらいんじゃ無いですかね。
Posted by at 2007年07月15日 03:53
1つお聞きしたいんですが、3点目のPKになった場面。

結果的にPKをとってくれたから良かったんですが、あの決定的な場面を軽く決められない遠藤選手、たまたまその前のプレーでPKの判定だったからイイようなものの、手で触ってインプレーだったら一発レッド出されてもおかしくない高原選手にはちょっと残念でした。

遠藤選手には、あれだけフワリとしたパスだったらダイレクトに叩きこめ…というのは酷なんですかね。それか広島アジアカップで高木琢也選手が決めたような胸トラップから地面に落ちる前にシュートに持っていくとか。

高温多湿で大変なのはわかってますが、あの場面はキッチリと流れの中で決めてほしかったです。

---------

1、2点目はまことに見事な得点でした。2点目の高原選手のビューティフルゴールは素晴らしかったです。ドイツW杯前の親善試合、対ドイツ戦での2点目のように、やや窮屈な体勢でも速く、コンパクトに振りぬけていました。
Posted by ランキン at 2007年07月15日 06:13
カタール戦といい、UAEの1点といい、自分も守備面が不安です。ベトナムはまだしも、トーナメントに入ってからを考えると失点がかなり怖いです。
Posted by at 2007年07月15日 07:26
憲剛について。確かに世界レベルでの戦いで未知数なのは否めないですね。だけど「代表」でのというだけでなく、俊輔、遠藤との競演で「遅咲きプレーヤー」はまだまだ気後れしているようにも見えます。
長丁場での闘いを通してボクはもうすこし見守りたい気持ちがあるんですが。
Posted by 空き缶 at 2007年07月15日 09:10
>直前での危険なタックルを見落としは許そう

いや、いくらなんでもありえないっすよ、あれは。
あの試合、試合内容うんぬんより、ホントに選手に怪我がなくって良かったという感想が第一です。
誤審は多少(というか、かなり)覚悟してましたけど危険なレイトタックルをあそこまで放置するレベルの審判のはびこる大会なら、
正直無事敗退して帰ってきてもらってもかまわないという気持ちです。
まあ、何をいまさらな話であるのは百も承知なんですけどね。
アジアはW杯を開催するようになってもこういう底上げが全くなかったのかとため息
(その辺川渕と鄭に期待しても仕方ないわけですけど)。
でも壊されてからでは遅い。
武藤さんもそうだと思いますが我々は代表ファンであると同時にJのファンでもあるので。

ちなみに、遠藤は武藤さんのブログを読んでいるのかもしれませんね(笑)。

Posted by とし at 2007年07月15日 10:37
↑の方に同じく
>直前での危険なタックルを見落としは許そう
ってのは気になりましたね。

接触や疲労によるケガはスポーツにはつき物だと思いますが、悪質なプレーによるケガはしてほしくないですね。
Posted by at 2007年07月15日 16:43
守備は中沢が頑張っていますね
あの読みと高さは素晴らしい
帰ってきてくれて本当に良かった
問題は攻撃の形ですかね
Jで脅威になっている駒野の右サイドからのクロスを見たい
でも加地がいるからなぁ…
Posted by at 2007年07月15日 17:32
加地がいるからというより左サイドがいないから…。
Posted by at 2007年07月15日 18:22
ジャッジの巧拙とはちょっと違う話かもしれませんが。

カタールはベトナムと引き分けだったけど、日本戦で退席処分になった監督はベンチに入れなかったんですよね、多分。退場になって次戦出場停止になってた選手もいたし。

日本対カタールを見てて、日本対UAE戦でも開催国向けにそういう配慮(?)があるかも、と危惧していたので、日本に退場や累積警告でのベトナム戦出場停止者が出なかったのはなにより、と思いました。

あとは、今夜のホテルの食事とか部屋の空調とかにも気をつけてほしいなー、と願っています。
Posted by p at 2007年07月15日 23:16
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