ルヴァンカップ決勝、FC東京2-1柏レイソル。
多くの関係者が苦労に苦労を重ね、この決勝戦が成立した。
延期となったこのルヴァン杯決勝だけではない、Jリーグ、天皇杯、そしてACL。この疫病禍の下、よくもまあ、シーズンすべてを無事終えられたものだと思う。すべての関係者の皆さんに感謝したい。
サポータを含む両軍の関係者、Jリーグ当局、それぞれの方々にとっては、COVID19で延期し苦労を重ねた決勝戦と記憶される試合となるのかもしれない。それはそれで貴重で大切な記憶となるだろう。
一方で私はこの試合を「レアンドロと森重の決勝戦」と長く記憶することとしたい。
レアンドロの先制点。
まず左オープンに飛び出すすばらしいオープンへの走り込みから始まった。自軍左サイドに飛んだロビング、左サイドバック小川が競り勝つと信じ、左サイドに開いて、見事に受ける。この受けが格段で、利き足の右でキープに成功、右インサイドでグッと縦に出し、マークしているヒジャルジソン〈だったと思う)を振り切り、ペナルティエリアに進出。応対したCB大南と山下には直前の縦突破の残影があったのだろう。大南は明らかに縦を警戒し、山下も縦をカバーに入る。ところがレアンドロは、今度は右アウトサイドで中に切り返す。この切り返しが絶妙、大南をカバーした山下も一気にはずし、右足で振りが速いグラウンダのシュート。必ずしも強いシュートではなかったが、振りの速さとコースが絶妙、ボールはネットを揺らした。「レアンドロの個人技」と言うのは簡単だが、受けのうまさ、縦突破の精妙なボールタッチ、横突破で2人を外す、正確なグラウンダのシュート、4つ見事なプレイを連続したのだから恐れ入る。
テレビ桟敷で愉しんでいた立場としては、解説していた内田篤人氏が、「レアンドロは乗ると本当にすばらしい、ただ性格が…」と語ったのが、この美しい得点への一層の彩りとなったわけだが(でも、この内田氏の蘊蓄を聞くことができたことよりも、このレアンドロのシュートを現地で見られて方々への羨望の方が強いな)。
前半早々にリードした東京は、4-5-1でブロックを組み丁寧に守備を固める。リードした東京は、1トップの永井の高速かつ広範なフォアチェック、アンカーの森重を軸にインサイドハーフの東と安部が何とも気の利いたプレイで、柏のエース江坂への有効ボール提供をさえぎる(長駆の後、しっかり仕事ができる安部は、今シーズンJリーグ最大の発見の1人と言ってもよいかもしれない)。江坂にボールが入った瞬間の森重がまた絶妙、江坂にシュートや突破を許さず、オルンガやクリスティアーノへのパス供給もさえぎる。
加えて、右ウィングの原大智が機能した。いわゆる4-5-1あるいは今風の4-3-3の右ウィング、守備に回っては数十メートルの疾走を繰り返し、攻撃に入った時はスペースを巧みに活かし、いやらしいところに飛び込みシュートを狙う。大柄で強さのあるフォワードが、献身的に攻守に貢献する。そう言われてみると、30数年前に同じ名字の献身的で得点力あふれるストライカがいたのと言うことを思い出した。ただ、30数年前の原は、今の原ほどボール扱いはうまくなかったし、身長も10cmくらい低かったけれどヘディングはずっと強かった。今の原は、もっとヘディングの鍛錬は必要だな。
かくして、柏はほとんど好機をつかむことができず前半を終える…はずだったが、試合は予想外の展開となる。
柏の同点ゴール。
CK崩れのこぼれ球が浮き球になったところで東京GK波多野に対して、柏主将の大谷が体を寄せる。波多野はこの大谷の狡猾なプレイに惑わされたのだろう。難しいフィスティングではなかったはずだが、目測をあやまったか、ボールに的確に触れず。バーに当たったボールを、瀬川が落ち着いて決めて同点となった。この手のビッグゲームでは、滅多に見られないミス、若いゴールキーパーの経験不足と言うにはあまりにも軽率だった。ベテランGK林の負傷離脱がこういうところに聞いてくるとは。
もっとも、FC東京が優勝した今となっては、このミスは波多野にとっては最高の失敗経験となったかもしれない。波多野の大成を期待したい。
同点に追いついた後半、柏は有効な攻撃が増える。
オルンガが左右に動いて、東京の4DFを揺さぶり、江坂もよく動きボールを引き出す。セットプレイから決定機をつかむなど、攻撃の質は格段に上がった。
一方で、森重がすばらしかった。特に江坂が巧みにサイドに開いてボールを受けても、無理な追い込みはせずに、丁寧にディレイ。江坂は工夫を重ねるが、オルンガに有効なパスは出せない。
長谷川監督は65分過ぎに東→三田、原→アダイウトンと交替。これだけの大駒をベンチに残しておけるのは、選手層の暑さの賜物か。
アダイウトンの決勝点。偶然に上がったロビングが微妙に守備ラインの裏へ飛ぶ。狙いすましたラストパスではなかったことが、東京に幸いした。柏の左サイドバック古賀は的確に対応していたのだが、偶然のボールゆえボールへのアプローチが一瞬遅れた。アダイウトンのすばやいトーキックを褒めるしかあるまい。
考えてみれば、この日の3得点は、いずれも微妙なDFの対応不首尾によるものだった。J終了後の2週間と言う微妙な間隔が、選手の守備感覚に影響したのかもしれない。
東京にリードされたところで、ネルシーニョ氏が3枚替え。大谷から三原、瀬川から神谷、この2つは、元気な選手の投入と言う意味で理解できるが、エースの江坂に変えてストライカ呉屋の起用は驚いた。たしかに、森重を軸にした見事な守備に、江坂はここまで沈黙していた。老獪なネルシーニョ氏は「今日は江坂ではない」と考えたのだろうか。このあたりの、果断な決断はいかにもこの老監督らしいなと思った。しかし、あくまでも結果論に過ぎないが、この江坂の交替は失敗だった。結局、柏はオルンガに高いボールを入れるしかなくなり、森重が固める守備を崩すことはできなかった。
レアンドロの鮮やかな得点と、森重の知的守備を愉しめた決勝戦だった。
改めて、この決勝戦を実現し、今シーズンの全日程を終えることができたことに感謝したい。そして、来シーズンは、降格もW杯予選も(やれるのかわからんが五輪も)こなさなければならず、もっと厳しくなる。
などと、今から悩んでもしかたがないな。まずは、皆で休みましょう。
2021年01月05日
この記事へのコメント
コメントを書く