2021年01月27日

高校選手権決勝2020-21

 決勝戦が点の取り合いからPK戦にもつれ込む激闘になった高校選手権。まずはこの疫病禍の下、無事大会を終えられたことに、関係者すべてに敬意を表したい。

 決勝戦。前半、戦闘能力的に優位を伝えられた青森山田に対し、山梨学院はみごとな対応を見せた。テレビ桟敷で見ていた限りでは、最前線でのフォアチェックと後方の分厚さと、両サイドの裏を突く速攻が両立。右サイドの裏を突き、逆サイドに振った展開から、広澤が絶妙なトラップから決め先制。余談ながら、山梨の先制点を決めた広澤は、我が少年団の教え子の中学時代のチームメートなのじゃw。そういう意味でこの一撃は嬉しいものだった。試合終了後に山梨長谷川監督が自慢していたが、センターバックの藤原をマンマークをする策だったのか。山田は急ぎ過ぎで単調な攻撃が目立ち、1-0のまま前半終了。
 しかし、ハーフタイムを経て青森は落ち着きを少し取り戻す。急ぎすぎた攻撃を改善し、アンカーの宇野がよくボールを触るようになる。当たり前の話だがセンターバックの球出しをフォワードが押さえに行けば、アンカーへのケアはおろそかになる。宇野は仕事が途切れない選手で、DFラインに入ってボールを受け、他のMFにさっさとボールを散らし、スルスルと後方に動きフォローする。その位置取りが絶妙で、山梨の激しいプレスがズレ始める。そして、ロングスロー崩れから57分に山田が同点に追いつく。
 さらに山田はしたたかさを見せる。山梨の先制点を決めた広澤がスパイクの交換のためピッチを去り1人少なくなった山梨の守備の薄さを突き、右サイドを崩し逆転したのだ。山梨にとっては痛恨のミス。
 勢いに乗って攻めかける山田の猛攻にさらされるも、山梨は丹念に守る。山梨で感心したのは、どんなに山田のプレッシャーがきつくても、ボールを奪って逆襲するのに無謀な縦パスを使わないこと。藤原を軸にした山田の中央守備は非常に強いので、安易な縦パスは山田にボールを再提供し連続攻撃にされ一層つらくなることを、山梨各選手が的確に理解していたわけだ。余談ながら、山梨は前々日の準決勝帝京長岡戦では、押し込まれた場面で大胆な縦パスをねらっていた。相手によって戦い方を変えられるのだから大したものだ。
 山梨の同点弾、素早くセットプレーをつなぎ、笹沼がいやらしいスルーパスで好機を演出、ゴールキーパーとセンターバックがそれぞれ必死に跳ね返そうとしてこぼれたボールを、冷静に野田が決め同点に追いついた。どんな厳しいプレッシャにさらされても、丁寧なパスをねらった山梨の面目躍如たるものがあった。
 追いつかれた山田は猛攻をしかける。セットプレーから藤原のシュートがポストを叩き、終了間際には仙石がグラウンダのクラスを全くフリーで外すと言う場面もあった。このあたりは、まあ運と言うものだろう。
 2-2のまま、試合は延長に入る。山田の選手達は、延長に入り最後の力を振り絞り、「前に前に」と進んだ。この山田のあくなき前進意欲は、山梨にとっては幸運だったと見る。結果的に山田の攻撃は単調なものとなり、この日大当たりだったGK熊倉と、集中を切らさない山梨の守備陣に読みやすいものになったのだ。この延長の20分間、山田の前線の各選手がもう少し冷静だったら、あそこまで「前に前に」ではなく、もっとゆっくり攻めることができたと思う。何より、山田にはボールを散らし、変化をつけることができる、宇野がいた。「前に前に」急ぐ選手の1人でも「このまま勢いで前進するより、宇野で一拍おいて変化を付けた方がよい」と気がつけば、延長の20分間に山田が得点するのはそれほど難しいことではなかったと思う。黒田監督もそのようなことは百も承知だったろう。けれども、どんな優秀な演出家がいても、踊りを踊るのは踊り子なのだ。PK戦時、大映しになる黒田監督の悔しそうな表情に、監督業の難しさを改めて感じた。
 PK合戦。おそらく両チームは、それぞれのキッカーの癖やGKの特徴など、綿密なスカウティングを行っていたはずだ。山梨がこの大会3回目のPK戦、私は山田優位かと思っていた。しかし、山田には「PKに持ち込まれてしまった」と言う思いがあり、山梨はよい意味で自己顕示力の強いGK熊倉がいた。

 戦闘能力と言う視点からすれば、山田はJユースを含めたこの年代では最強のチームの1つ、毎シーズンJリーグユースと伍してプレミアリーグでも上位を占めているのが、その証左。各選手のテクニック、局面の判断力、鍛えられたフィジカル、もともと素質に恵まれ、向上意欲も強い選手たちが、黒田監督の下よく鍛えられている。
 この強豪にいかに対するかが、この高校選手権の各チームの課題だったともいえる。山梨が見せてくれた答は簡単なもの、局面の技巧で対抗すると言うものだった(実施するのはとても簡単ではないのですが)。山梨は後方を固め、CBに厳しいプレスをかけて山田の展開を狭くした。その上で両サイドバックの裏を突いて速攻をかけ、敵陣に持ち出しても急がずに丁寧に崩しをねらった。先制点、逆サイドからのグラウンダのセンタリングを受けたときの広澤の正確無比なトラップ。2点目、バックラインとゴールキーパーの中間に通した笹沼のなんともいやらしいスルーパス、ボールがこぼれてきてフリーだったとは言え、ゴールカバーに入った藤原が処理しずらい頭の横をねらった野田の正確なシュート。もちろん、このやり方はリスクがあり、前線に人数をかけて崩しを狙えば、ミスが起こると逆襲速攻を食らう。それでも山梨は、このやり方を110分間やり切った。山田はそれでも、相当数回の決定機をつかんだがネットを揺らしたのは山梨と同じ2回にとどまった。もはや、そこはサッカーの神様の思し召しなのだろう。
 昨年決勝、セットプレーから0ー2とリードされた静岡学園は、伝統とも言うべき各選手の個人技で、山田のプレッシャーを外し終盤逆転に成功した。同じく昨年の準決勝、帝京長岡は各選手の技術であと1歩まで山田を追い詰めた。
 日本代表がブラジルやスペインに勝とうとするときの手段を示唆しているものだと思う。

 今大会もベスト4に進出した矢板中央のベンチには、あの帝京高校の名将古沼先生がいらした。一方山梨学院のベンチには、ミスター山梨サッカーとも言うべき横森先生がいらした。お二人が、70年代以降の日本サッカーを礎を築いてくださったことを言うまでもあるまい
 一方で青森山田の黒田監督が、着々と見事なチームと人材を輩出しているのは言うまでもない。さらには、長谷川監督のように教員の資格を持ちながら、色々なチームを適切に強化ししているプロの指導者もすばらしい。
 各チームが見せてくれた鮮やかな攻防に、改めて日本サッカー界の厚みを感じた高校選手権だった。
posted by 武藤文雄 at 00:09| Comment(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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