何より、この難しい疫病禍下に、よい準備試合を企画した関係者に敬意を表したい。いわゆるインタナショナルマッチデイをうまく使って、本腰で金メダルをねらっている世界最強国を招聘。双方とも強化が難しい中、欧州と自国の選手を集め、2試合180分間強化試合を行えた。そして、我々サポータも、Jやアルゼンチンや欧州で世界最高峰をめざす野心的な若者たちの奮闘を楽しめた。
初戦はアルゼンチン各選手は長旅の影響をあまり感じさせず、球際の強さを発揮。日本はアルゼンチンにかまえられると、単調なロングパスや強引なドリブルを目指すことが多く、攻めあぐんだ。加えて、アルゼンチンの4DFの粘り強さは相当なもの、スコアこそ0-1だったが完敗だった。
ところが今日の第2戦は状況が一変。立ち上がりから、日本はハイプレスでアルゼンチンに自由を与えない。アルゼンチンもさすがで、激しいチェックを受けて立ち、球際の強さと各自の前進力で対応、見応えのある試合が展開される。
そう言ったせわしないくらいの試合で、圧巻だったのは田中碧。22人の若者の中で、ただ一人圧倒的な存在感を見せた。アルゼンチンの寄せが厳しいと、ペアを組んだ板倉なり、両サイドDFの古賀、原に早々にはたき、巧みにリターンを受ける。フリーで前にスペースがあればスッとドリブルで前進し、追いすがるアルゼンチン選手を押さえるコースを取り、ファウルを誘う。林や久保や相馬がよい位置取りに立つと素早く正確なパスを通す。
前半終盤の先制点。CBの瀬古がまったくのフリーで狙いすましたロングフィードから、売り出し中の林が見事な動き出しで抜け出しGKと1対1、ワンフェイントいれて見事なグラウンダの一撃。アルゼンチンは瀬古にプレッシャをかけられないだけでなく、最終ラインも中途半端に上げるでもなく、2CBのカバーリングもおかしかった。これは、その直前の田中碧がしかけた崩しがポイントだった。冴えわたる碧は、中盤で4人に囲まれながら、巧みな抜け出しから、バイタルの食野(だと思った)にいやらしい縦パスを通した。アルゼンチンDFは、この日本の攻撃をかろうじてかき出したが、それを2CBの町田と瀬古が拾ったわけだ。これだけ、中盤でバランスが崩れれば、前線のプレスも、最終ラインのラインも、そりゃうまくいかんわな。
今日の碧のプレイで唯一不満を感じたのは、後半アルゼンチンのストライカのガイチにミドルシュートを許した場面。自陣バイタル近くで、バルガスとガイチとのからみを止め切れなかった。あそこはキッチリと守って欲しかった。かつて、ベッケンバウアーやファルカンやレドンドやピルロは、あのような局面で、絶対にやられなかったよ。
来年のワールドカップ本大会、遠藤航、守田、田中碧のトレスボランチは確定なのではないかと思わせるプレイ振りだった。遠藤爺の再来と言うのは簡単だが、遠藤爺が日本の中盤に君臨したのは20代後半だった。碧はまだ22歳。まこと、めでたいことである。
まあ、Jリーグでの活躍を思い起こせば、この程度のプレイは当然なのかもしれないけれど。
碧の存在だけで、初戦とはまったく異なる展開となった。そのため、五輪に向けてのメンバ選定と言う視点では、この2試合目に起用された選手が、圧倒的に有利なことになってしまった。先制点を決めた林、原、瀬古、町田、古賀の4DFのタフな戦い、食野と相馬の献身。
ここで注目すべきは、2試合連続スタメン起用された久保と板倉である。
久保はプレイが雑なことが気になった。試合が終始日本ペースで進んだこともあり、アルゼンチンの守備がかなりラフ。さらにこの日お主審が手を使うプレイに甘いことはあって難しい状況だったことは理解できる。しかし、プレイを常にトップスピードで行おうとし過ぎるのだ。例えば、前線に残っていて後方からフィードを受ける場面で、敵DFのプレッシャからのがれようとして斜め後方に急いでダッシュし過ぎて、結果ボールがうまく収まらない。持ち前の変化あふれるドリブルやフェイント直後に、急ぎ過ぎるのか、パスが非常に雑になる。後半序盤、久保が見事に右サイドを崩し、相馬に出したラストパスの場面(直後相馬がシュートをポストに当てた)。ラストパスのボールは、相馬がトラップしやすいやや前方ではなく、僅かに後方に流れ、相馬は加速をシュートに乗せられなかった。とにかく、もっと丁寧にプレイしてほしいのだが。
考えてみれば、スペインリーグでも同様な印象がある。右サイドで相手を見事に出し抜いた直後に、味方へのパスが決まらない場面が多い。まあ、スピードと丁寧さのバランスは、どのような選手でも永遠の課題。まして、久保はまだ19歳で、このチームの中でも若いのだからしかたないのかもしれない。
ただし、この五輪代表でFWと攻撃的MFの議席は6枚程度だろう。そのうち1枚はオーバエージに使われる可能性がある。そして、FWは先制点を決めた林、今回もハードワークでがんばった田川。そして、負傷で選考外になったがJで実績を残している上田と前田がいる。さらに攻撃的MFは、(このチームは田中碧のチームなので、同じクラブの)三笘の選考は有力。そうなると、久保は堂安、食野、三好、相馬らと僅かな残り議席を争うことになる。
などと文句を言っていたら、CKから板倉に見事な2アシスト。マスコミがキャーキャー騒ぐのはさておき、やはりこの男は何か持っているのだろうな。
一方今日腕章を巻いた板倉。オランダでかなりの実績を残したとのことで相当期待していた。しかし…
初戦は失点時に、バルガスに簡単に抜かれた淡泊な対応に失望した。さらに、時折やらかすミスパスも相変わらず。これでは、ベガルタ時代に再三見せてくれた「俺たちの板倉」と変わりないではないかと、何とも嬉しいような悲しいような何とも微妙な気持ちを抱いたものだった。
2戦目は、すべてがうまく行った。田中碧と組んだボランチでは、碧に自由にプレイさせるように、位置取りを修正しながら、目の前の敵を刈り取ればよい。板倉はその献身を90分継続し、東京五輪本大会で田中碧と中盤を組む第一候補になってしまった。しかも、CKから2得点。セットプレイからよく点をとるのはベガルタ時代もそうだったから、やはり「俺たちの板倉」には変わりないのですけれど。
と、まことめでたくアルゼンチンとの協会試合を終えたわけだが。では東京五輪(開催されるとしたらですが)への準備は順調と言えるかと言うと結構微妙に思う。
元々、今回の五輪代表チームは予選がなく、さらにA代表との中途半端な混合強化を行なった事もあり、ベストメンバすら曖昧だった。そして、せっかく今回アルゼンチンを呼んだ強化試合を組んだが冨安、堂安、前田、上田らが不在。田中碧も1試合しかプレイできず、さらに今回選考外にもJで相当の活躍をしている選手がいる。このように厚過ぎる選手層から、どのように選手を取捨選択するのか。
贅沢な愉しみだと、ここは素直に喜んでおくか。