本稿は、五輪開幕2連勝を当然と捉え、それでも細かな点で監督批判をネチネチ言える時代が到来したことを喜ぶ、老サッカー狂の屈折した感情発露である。
初戦の南アフリカ。一部の選手がCOVID-19陽性判定となり、試合そのものの成立すら心配された。それもあったのだろう、5-4-1とガッチリ守備を固めてきた。日本はまずい奪われた方をして失点しないよう慎重に試合を進める。準備試合のスペイン戦で、再三強引な持ち出しに失敗して、敵の速攻を許した久保も無理をしない。それでも、田中碧が僅かな隙間を見つけて縦に通すパスと、堂安と酒井宏樹の連係で右に拠点を作って、左に展開する攻撃は効果的。幾度も三好が左でフリーになる。しかし崩し切れずに0-0で前半終了。
後半に入り、日本はさらに圧力を高めるが、GKウィリアムズが大当たりでどうしてもゴールネットを破れない。それでも55分を過ぎたあたりから、日本の左右の揺さぶりに、南ア守備陣がついていけなくなってくる。そして、72分ついに日本は先制に成功。左サイドから田中碧が正確なサイドチェンジ、右サイドでフリーの久保が、見事なトラップから鋭く中に切り込み、左足でファーサイドに強烈に決めた。再三の攻撃で、敵DFを中央に寄せておいて、パス能力に優れた碧、技巧と強引な得点意欲の久保、2人の個人能力で崩すことができた。
ここまでは完璧だったが、終盤南アの無理攻めに冷や汗をかくことになる。久保が先制する直前、日本は攻撃強化のために、林→上田、中山→旗手の交替を準備していた。ところが、待機中に先制に成功。当然作戦変更すべきだが、森保氏はそのまま交替を実施。そして、南アが無理攻めに来ているにもかかわらず、旗手と上田は漫然ともう1点をとりに行く。ここは、落ち着いてボールを回し敵を焦らすなり、敵を引き出して裏をとるなりしたいところだったのだが。事態改善のためか、森保氏は、堂安に代えて町田を左DFに起用、旗手を中盤に上げる。しかし、相変わらず上田も旗手も、さらにその前に交代起用されていた相馬も前に行きたがり、日本は前と後ろが分断された形になり、終了間際には危ないシュートを打たれる局面もあった。一体、森保氏は交代選手にどのような指示をしていたのだろうか。
続くメキシコ戦。日本は最高の前半。立ち上がりに酒井→堂安→久保と個人能力の高い選手の技巧がつながり先制。世界中のどんな守備陣でも崩せそうな攻撃ではないか。動揺したメキシコ守備陣に対し、林の巧みなポストプレイから、相馬が独特の長駆後の加速で切り裂きPK、堂安が冷静に中央に決めて突き放す。そして、前半半ばから落ち着いて引いて守り、危ない場面を作らせず、時に速攻を繰り出す。
そして後半、中山と酒井に完全に止められていたライネスとベガの両ウィングをメキシコが諦めた直後、日本の速攻が炸裂、フリーで抜け出しかけた堂安を倒され、バスケスは退場となる。この時点で事実上勝負は決したのだが、森保氏が稚拙な采配で事態を悪化させた。
局面を打開したいメキシコFWは日本に時間稼ぎをさせぬためにフォアチェックを継続、当然ながら人数の少ないメキシコの中盤には隙ができるから、航と碧は余裕をもってボールをつなげる。ところが、79分に投入された上田と三笘は何を考えているのか、そこから強引に攻めかける。この2人は2-0のまま試合を終わらせることではなく、明らかに自分で得点を奪う事しか考えていなかった。その後は、前線が急いではボールを奪われ、メキシコにファウルをとられ、セットプレイで危ない場面を作られる、と言う残念な展開の連続。さらに疲労が目立つ久保を交代させないのも不思議だった(旗手や橋岡に代えれば守備強化になったはずだ、それとも森保氏はどうしても3点差にしたかったとでもいうのか)。FKから失点し1点差とされたのは結果論。過程が悲しかった。そもそも、この試合のフィールドプレイヤの控えは、橋岡、旗手、三好、三笘、上田、前田。守備要員は橋岡だけと言う体制。そもそも、スコアが劣勢でどうしても点をとりたいときに、堂安や久保は代えづらい事を考えると、これだけ攻撃ラインの控え選手を並べたのはどう言うことなのか。
短い期間で6試合を戦い抜かなければならない大会。少しでも消耗を避けながら、試合をクローズすべきなのに、2試合続けて交替選手が点をとりに行ったのには呆れてしまう。準備試合ならば、選手のアピールも理解できなくはない。また、褒められたことではないが、開幕戦は選手も少し舞い上がったこともあったかもしれない。しかし、前の試合の反省がまったくなく、2試合続けて終盤バタバタしたのは何なのか。森保氏は何を考えているのか。
2連勝はやれやれだが、金メダルを目指すためには芳しい状態ではない。2次ラウンド進出はかなり優位だが、フランスはに2点差で負ける訳にはいかず、ターンオーバは取りづらい。(これまでのフランスの戦い振りを見る限り、戦闘能力で日本が上なのは明らかだが)。航、碧、酒井、堂安、中山と5人も警告を食らっている。さらに冨安負傷のために、板倉をCBに起用していることもあり、チームの強さの源泉とも言える航と碧の控えは全く不明瞭。消耗が多いこのポジションの2人を一切休ませず金メダルまでたどりつくつもりなのだろうか。
まあ、五輪の1次ラウンドで2連勝しながら、監督の采配詳細に文句を言えるのだから、幸せな時代になったものだ。そして、そのような詳細手違いがあっても、麻也とその仲間たちは粛々と勝ち進み、最高の色のメダルを獲得してくれるに違いない。
一方で、このような七転八倒を皆で経験していく事が、将来のW杯制覇につながるのは間違いない。ただし、その道のりは決して直線にはならない。紆余曲折を繰り返しながら、少しずつ前進するしかないのだ。フランスはワールドカップ創設を主導したジュールリメ氏の下、第1回大会から出場したが世界制覇に68年かかった。スペインは第2回が初出場なので76年かかっている。我々は初出場から、まだ23年、悠々と悩み続ければよいと思う。齢60歳の私は究極の果実を食べられないだろうが、それもよし。