1996年07月01日

フランスとアトランタ

 アトランタ五輪予選の総括と本大会の展望です。本大会でブラジルに惨敗するに決まっている、と言う論調については、西野氏と選手たちに謝罪しなければいけないかもしれません。ともあれ、当時から、どうしても西野氏を好きになれないのです。
 氏と同年代の実績を残している監督たちの多くは、皆現役時代に、自らの素質の限界に近いところまでプレイを極めたと思えるのに対し、西野氏は「ありあまる素質を活かし損ねた」と言う印象が強いためかもしれません。
 もっとも、ここ最近のガンバにおける氏の実績には敬服しているのは事実ですけれども。
(2007-7-24)


1. はじめに

1993年秋、ドーハ、
幸せの絶頂に突然殺される快感
1994年秋、広島、
理不尽な神に突然殺される快感
1996年春、シャーラム、
殺されそうになりつつも生き長らえる快感

 アトランタ五輪2次予選のサウジ戦は、本当に興奮する試合だった。日本の2得点はいずれも「日出づる国の若き王様」前園が僚友を巧みに使いながら決めた見事な中央突破、タフな国際試合ではなかなかお目にかかれない美しいゴール。サウジのゴールも「新しいマジェド・アブドラ」O・アルドサリの「恐れ入りました」鮮やかなヘディングシュート。そして、敵の猛攻を冷静にしのいだ川口の守備。
 サッカーの国際試合こそ人生最大の娯楽と考える私にとって(そして、多くの日本人にとっても)、これほど楽しめた(そして疲れた) 90分間はそうないのではないかと思わせる興奮と至福の時であった。一方、サウジアラビア人にとっても興奮と失望の90分間だったろう(しかし、彼らは3日後ゴールデンゴールと言うもっと興奮する機会を得た)。勝とうが負けようが、至福に転じようが失望に転じようが、タフな国際試合の観戦は本当に面白い。
 しかし、興奮していては評論にならない。本稿では、今回の五輪代表チームと西野監督について評価を行った上、フランスへ行く確率をいかに高めるかと言う観点から、日本にとってのアトランタオリンピックを眺めることを目的とする。
 なお、本稿では2次予選決勝の韓国戦の内容、采配についてはほとんど触れない。そもそも試合そのものの位置づけが曖昧であり、選手にとってモチベーションを持ちづらい試合だったからである。ただし、 20年以上サッカーを見続けてきた人間として、絶えず強国として我々の前に立ちふさがっていた韓国に対して、人材面で何ら遜色ないにもかかわらず、明らかな監督の作戦ミスで完敗したことに対する不快感は、相当なものであったことは言うまでもない。

2. サウジ戦

 準決勝を丁寧に分析して見る。西野氏はこの日の準決勝で、突然動いた。あれだけ拘泥していた3DFシステムを切り替え、ベッタリマンツーマンの4DF。一部報道では、勝負どころを捉えた好采配となっているが、本当にそうか。
 開始早々のビューティフルゴール後、日本は押されっぱなしになる。伊東と前園のポジションの交換にサウジは戸惑い続ける。しかし、各位が徹底したマンツーマンを指示されていたためだろうか、後方からの押し上げがないので攻めきれない。次第に最終ラインで止めきれなくなり、何度となくシュートまで持ち込まれる。リードはしていたものの、あれだけ押し込まれてしまっては、フォーメーションの切り替えがうまく言ったとは言い難い内容だった。
 後半、中田投入を聞いて、私は思わず手を打った。サウジにとって、この交代はきつい。同格のこの両チームの戦いでは、2点差がついたら勝負ありである。中田の恐ろしさは1次リーグで証明されており、彼がサウジから見た左サイドに張り付いたとすれば、そちらのサイドの選手を非常に上げずらくなる。しかも、開始早々中田は自分のサイドをえぐり、好センタリングを上げる。いよいよ、サウジは左サイドを使えなくなってしまった。
 その後の12分間の両チームの美しい攻め合いは、思い出すだけで楽しい。両チーム1度ずつの決定機のあとの前園の舞い。2−0、勝負ありだ。闘将セベルマウィが絶望的に点を仰ぐ。日本は後は時間が過ぎるのを待つだけでよいのだ。しかも、サウジはこの試合を落とした場合3位決定戦がある。無理はできないハズだ。事実サウジの攻めの勢いは止まった。
 さらに72分の中田のクリア、神までが日本に味方している。サウジはMFの中軸K.アルドサリをはずして攻めに出る(3位決定戦を見込んだ温存もあったろう)、この時点で日本は2枚交替カードを残しており、しかも守備的なポジションなら各所に使える秋葉と路木がいた。時計をただ進めるには絶好の状態である。
 一人で中盤を支えて疲労が目立つ広長を秋葉に替えてもよい。伊東と中田を後方に下げ、「放っては置けない」前園を前線に上げてもよい。サウジは城と中田を無視して自暴自棄の攻めに出ている。全てのイニシアチブは西野氏の手にあったのである。
 しかし...
 その後の15分間の興奮は、前述の通り忘れ難いものとなった。何もしなかった西野氏のおかげである。
 何故、西野氏は動かなかったか。大一番に興奮し我を忘れていたのかもしれない。いずれにせよ、終盤の大事なところで経験のなさを暴露してしまったことは否定できまい。内容はさておき、中田の起用などそれなりに考えられた采配だったことは認めよう、しかし、結果がよかったからと言って、試合全体を振り返ると決して好采配とは言えなかった。
 それにしても、本当に興奮した試合だった。が、観客を興奮させ結果が良好だとしても、単純に監督の采配がよかったとは言えないことも間違いない。

3. 五輪代表のチーム作り

 西野氏はチームの基本コンセプトをマンマークの2ストッパをベースにした3DFシステムに拘泥した。
 このやり方は、常時両サイドの選手とボランチがバランスを取りながら押上げる必要があり、肉体的に非常にきついフォーメーションだが、特にサイドのMFとCBに人材が揃えば攻撃的なサッカーが可能になる。言うまでもなくこのやり方で成功を納めたのは、90年の西ドイツである。ブレーメ、マテウス(私はこの2人の順番に少しく拘泥する)の2枚看板を軸に、コーラー、ブッフバルドの2CBを加え、6年の歳月をかけてベッケンバウアーが完成させたチームだった。特にこのチームで印象的なことは、上述の2枚看板以外の3人のMFは、ロイター、ベルトルト、ヘスラー、リトバルスキー、メラー、バイン、トーンと言ったプレイヤーを試合ごとに(そして試合中も)切り替えて、レギュラーを固定させなかったことである。いかに肉体的に厳しいやり方であるかを間接的に示している。常識的に考えれば、暑いところでの連戦には向いていないやり方である。
 何故、西野氏はこのやり方を採用することにしたのか。五輪代表が抱えている選手たちがこのやり方に適合していたのか。強いて言えば服部はこのチームのブレーメに、伊東がマテウスに相当するのだろうか。しかし、服部は1次予選はCBに起用されていたことから考慮すると、西野氏には服部の左サイド突破をチームの基本とする気はなかったようだ。他にも伊東を始めとして、西野氏が選んだ選手で3DFシステムで特別機能する選手は見受けられない。いったい、どの選手がいたので、このやり方を取ることにしたというのだろうか。私には、(何らかの信念で)最初から、このやり方をとることに決めていたようにしか思えない。
 さらに、右のサイドMFには全く適材が見当たらない。森岡は守備感覚のある攻撃的MFで確かに好素材だが、長い距離を疾走するタイプではないので、もっと前方のポジションの方が持ち味を発揮しやすいハズだ。しかも、昨シーズンの後半から明らかにコンディションがよくない(余談だが、ガンバのほとんどの選手が好調を常時維持できないのはチームの体質なのだろうか)。
 そして、とにかくこのやり方に合わない選手は徹底して排除した。しばしば取りざたされる平野は典型である。加えて、バックアップにもレギュラーと同質の選手を集めたのも西野氏の選手選考の特徴である。左MFは服部と路木、CBには(スイーパの田中を除けば)皆マンマーカ。 FWも皆ストライカタイプ。しかし、勝負事というモノは、リスクを覚悟して猛攻を仕掛けたり、逆に守りを固める必要が出てくる場合がある。2次予選前から、西野氏がそのようなケースでいっさいやり方を変えないことを、メンバーの選考が明言していた。いや失礼、明言していたように思えた。
 少なくとも、2次予選前、頑迷な選手選考には明確な信念が感じられたことは間違いない。信念を守るのは監督の一つの素養である。西野氏はサッカーに対する一つの考え方を持っているのだろう、と思っていた。
 とにかく、1次予選でタイを圧倒し、最終予選の1次リーグでもどの相手に対しても主導権を渡さないところまでは、(もともとの戦闘能力の差が他国とは歴然としていたが)このやり方は、うまくいっていた。そして、サウジ戦と韓国戦、同格の相手に突然西野氏は動いたのである。そして、マンマークを指示された守備ラインの選手たちはズルズルと後方に下がることを余儀なくされ、 2試合とも大苦戦を強いられたのである。やり方を変えるならば、そのための選手も前もって準備しなければいけない。最後の2試合のやり方をするならば、前述の選手たちの排除はいったい何だったんだろうか。そして、 2次予選前の頑迷なまでの態度は何だったんだろう。
 加えて、本大会用のメンバーも、従来の延長線上である(3人枠は別途論ずる)。サウジよりも格段に強いブラジル相手に「動かない」のだろうか。それとも既存のメンバーで「動く」のだろうか。
 2次予選前に私が感じた西野氏の信念は、ただ性格が頑固なだけだったのだろうか。

4. 西野氏の経歴

 西野氏への否定的な評価を記述してきたが、ここで西野氏の経歴を簡単に振り返ってみる。

かつて早稲田大学所属時代MFとして代表チームで何試合か出場した。特に、77年、アルゼンチンW杯1次予選の、ホームの韓国戦にて、強引な中央突破から何度かチャンスを作りかけた場面が印象的だった。当時、日本には(今の時代からは信じられないことだが)MFでテクニックを武器にゲームを組み立てられる選手はほとんどおらず、この試合での奮闘により西野氏は極めて有望な若手選手として周囲の期待を大いに集めたのだが...(全くの余談、今回の2次予選決勝、中盤を一人で支え奮闘した広長が後半パスを出す相手がいないのを見て何度か強引なドリブルによる中央突破からチャンスを作った。挙動の開始点が当時の西野氏はMFの比較的前方だった相違点はあるものの、私には19年前の西野氏と広長のプレイがとても似ているものに思えた。)
 その後、日立(現レイソル)に移籍した。日立の中心選手としては、そこそこの活躍をして、 85−86シーズンのJSLにて8試合連続得点という記録を作った。しかし、移籍後はほとんど代表に呼ばれる機会がなく、残念ながら有為な素質を活かしきれずに終わってしまった印象が強い。
 選手引退後、日立コーチを勤めたりしたが、(経緯及び当時の契約は不明だが)ワールドユース大会への進出に失敗した92年のアンダー20の監督を勤める。その後、現在の五輪代表監督に就任して現在にいたる。
 6月22日付朝日新聞によると、西野氏は(どのような立場かは不明だが)レイソルとプロ契約を、結んだとのこと。それまで西野氏は日立スポーツという会社の社員だったらしい。そもそも、氏はレイソルと言うチームで何か役職を持っているようには見えないし、もしプロ契約を結ぶとしたら日本協会とのような気がするのだが...
 以上から言えることは、西野氏は指導者としてはつい最近(五輪予選開催中を含めて)まで全くのアマチュアだったことである。したがって、このような人材に五輪代表の監督を任せると言うのは、雇用した協会側の大抜擢であり、責任を取るべきは協会側(組織的には強化委員会なんだろうか)と言うことになると思う。
 したがって、自らの本業(日立スポーツという会社内で、何が本業なのかは私は調べることはできなかった)を投げ打ち、全くのボランティアで五輪代表チームの監督を務めてくれた西野氏を批判することそのものが全く的外れなのかもしれない。

5. 滅茶苦茶なスケジューリング

 2次予選前から、日本の悩みはチーム自体のコンディショニングだった。 2次予選前は小倉の重傷を皮切りに、服部、森岡、松田、路木、白井、鈴木、田中、中田とコンディションを崩す選手が相次ぎ、2次予選そのものへの取り組みが危ぶまれたのは記憶に新しい。一方で、西野氏らスタッフが事前準備を含めて2次予選前後の準備、コンディショニングはとてもうまくいったと自画自賛をくりかえしていたのは奇妙だった。
 確かにシャーラムを視察する合宿は有効だったのだろう。また2次予選会期中のホテルなどの準備もよかったのだろう。ドクター、マッサー、栄養士などのサポートも万全だったのだろう。しかし、なぜここまで体調を崩す選手が連続したのか。
 スケジューリングに問題があったのではないか。シーズンオフ明けのトレーニングペースは妥当だったのだろうか。若い選手たちは、オフとなれば、生活のリズムを崩すこともあろう(今回の代表選手は全員まだ独身である)。それをプロ意識の欠如と批判するのは簡単である(事実川口はオフ直後でもベストコンディションだったと言う)。そして、長いスパンで見れば、このような時期のコンディショニングが選手生命を左右していくのかもしれない。
 しかし、代表チームのスタッフの仕事は、選手のプロ意識の低さを嘆くことではなく、選手を壊さずによい準備をすることである。特に代表チームで選手が負傷することは、単独チームの代表への協力を損なうことにもつながりかねない。小倉を壊されたベンゲル氏の気持ちはいかばかりだろう(ベンゲル氏がその後、ユースの合宿に福田が呼ばれた時、はっきりと不快の念を示したのは印象的である)。
 今後Jリーグが成熟するにつれ、代表チームでの負傷の金銭問題も表沙汰になる恐れもある。今回の代表チームのスタッフはその当りの問題に非常に無神経な態度を取っていたように思えたのは私だけだろうか。

 加えて、2次予選とほぼ同期したJリーグの開幕には開いた口がふさがらない。信じ難い愚挙である。
 第1に観客動員への悪影響である。例えば、川口個人のファンはJリーグ開幕直後は観戦に行かなかったのではないか。熱狂的なサポータたちは、Jリーグを忘れ、マレーシアに行ってしまったのではないか。イラク戦のTVを直後に控えた土曜日、かなりのファンがJリーグ観戦を控えたのではないか。
 第2に長い目でみた単独チームの代表への協力がおろそかになって行く不安がある。五輪代表選手の多くが単独チームでの中心選手である。比較的選手層の厚いチームはまだ救われるが、選手層の薄いチームはたまったものではなかろう。例えば、城のいないジェフは、城のいない五輪代表のようなものである。単独チームとの共存共栄は代表チームの基本的命題であるハズだ。
 第3に代表選手たちの生計問題がある。開幕時にチームにいないと言うことは、自動的にレギュラーポジションを危うくすることになる。これは、選手の生活に関わる大問題である。私の見る限り、白井、伊東、菊池、遠藤らは五輪代表に加わったがために、ポジションを失った。今後、このようなことを繰り返すと、代表への辞退者が続出しかねないのではないか。

 以上、スケジューリングの問題点を2点指摘したが、恐ろしいのはこれらに対する反省の弁が、何ら協会側から出されていないことがある。それとも、協会とJリーグ各チームの間にはそのような情報交換は実施されたが、表だった報道がなされていないだけだろうか。しかし、このような微妙な問題ははっきりと発表されないと、いらぬ誤解を生みかねない。

6. じゃあなぜ勝てたのか

 「でも勝ったではないか、いったい何を不満を言っているのだ。」と言われるかもしれない。
 そう勝因は、簡単である。選手の能力が高かったのである。西野氏は未経験なりに最善をつくした。2次予選への準備も、見当はずれな点もあったが順調になされた。しかし、勝因は単純である。前園がすばらしかったからであり、川口が完璧だったからだ。
 日本は選手の個人能力の高さ(ここでの個人能力とは、ボール扱い、肉体能力のみでなく、戦術的判断力などを含む)で勝ったのである。この高い個人能力を育てたのは、西野氏を始めとする、五輪代表チームのスタッフではない。
 直接的には、選手一人一人を育てたユース時代、少年時代の指導者たちのおかげであり、さらに大人の選手として完成に近づけたJリーグの監督たちのおかげである。例えば、鹿児島実業高校の松沢監督がもしいなければ、今回の五輪代表はどうなったかと考えると、なかなか楽しいではないか。
 別な表現をとるが、もはやサウジアラビア、韓国以外のアジア諸国で日本のサッカーに対して、個人能力で対抗できる国が、なくなりつつあることを示唆している。もちろん、中国、イラン、イラクの伝統国、ウズベクスタン、カザフスタンなどの旧ソビエト国も、(特にフランス予選では)巻き返しを図ってこよう。また、以前ほどではなかろうがオイルダラーを背景にしたUAE、カタールなどの中東の小国、かってない経済発展をとげているマレーシア、タイなどの東南アジア諸国も強化が進んでくるだろう。しかし、現状では、日本を含めた3強国と他国の差が明らかに開き始めているのは、ここ数年間のアジアの国際試合から判断される歴然たる事実である。(この件についてはこれ以上触れないが、将来日本がヨーロッパや南米の強国と互角に渡り合うためには決して単純には喜べないことと考えている。)
 そして、相手の個人能力がより高い(と予想される)オリンピック本大会で、このままのやり方が通用するのだろうか。

7. そしてアトランタ

 少し大上段に構えてみる。日本五輪代表は何のためにアトランタに行くのか。以下2つの理由に集約されることは、私のような一介のサッカーファンを含めて、日本中のサッカー関係者が同意するのではないか。

* とにかく勝つ
* 将来性のある若手に厳しい実戦経験を積ませる

では、上記の目的に対していかにアプローチするか。ここで、 3人枠について冷静に議論してみたい。
 報道によると、強化委員長の大仁氏あるいは西野氏が3人枠を採用しなかったのは、

* 今から、新しい選手を入れるとチーム作りが間に合わない(3人枠を用いない方が強い)
* オリンピックで若い選手に経験を積ませたい(ある程度の経験を積んだことのある選手には遠慮して貰う)

という2点を理由にしているようだ。この2つはそれぞれが、前述したアトランタの目的に一致している。かっこ内は私がそれぞれを意訳した文章である。もし、両氏がこの意訳を読むと「自分はこのような発言をしていない」と否定するかもしれない。しかし、冷静に日本語を解析すれば、この2つの理由と、3人枠の不採用は私の意訳を通じてのみ、繋がることになる。
 このうち、後者の理由は一つの見識である。A代表としてブラジルやらイングランドと(練習試合とはいえ)戦ったことのある選手に、今さらオリンピックでもなかろうと言うのは、一つの見識である。しかし、24歳以上で、 A代表の試合経験はあまりないが将来選考される可能性は残しており、現在の五輪代表選手より役に立ちそうな選手(例えば、浅野、田口、大嶽、名良橋、野口、山田、三浦文ついでに武田...)について、説明はつかないが。
 そして、前者の理由に関してだが、私ははっきり間違っていると指摘したい。試みに次の質問に答えていただきたい。

質問.井原がこのチームのセンターバックにいると、強くなりますか。

実に簡単に間違いを指摘できてしまった。確かに井原と比べては気の毒かもしれない。田中誠は読みと判断力に優れた好素材であり、予選突破の立役者の一人であることは言うまでもない。しかし、対人能力やフィードの精度を考慮した場合、井原を起用した方が、チーム力が向上するのは明らかなのである。田中が井原がチームに入ることで試合に出られなくなるならば、田中がその程度の選手であるだけのことである。田中が井原と並んで、アトランタでCBとして(他の選手を蹴落として)戦えるならば、フランス向けのA代表候補であると言うことだ。
 コンビネーションについても、井原ならば練習試合を1〜2試合こなせば、「部下」の特徴くらいすぐ理解してしまうだろう。そして、この問題が単純なのは、とにかく田中と井原を交換するだけで、一瞬のうちにチームが強化されてしまうことが誰の目にも明らかなことにある。
 これを、カズの起用で議論すると、少しく議論が混乱する。城、前園、伊東、中田らにいかにカズを組み合わせるかは、監督としてもやや創造的な仕事になり、簡単に結論は出せない問題に見える。しかし、落ち着いて検討を重ねれば、やはりカズがいた方がチームが強くなると言う結論は誰にでも見い出せるだろう。 3人と言うことにこだわると、議論が混乱するが、現状の五輪代表のメンバーを眺めて、強力で経験豊富な選手を一人ずつ考え、チームに加えた方が強くなるかどうかを丁寧に検討すれば、結論ははっきりしている。
 そう3人枠は是が非でも使用しなければならなかった。
 大体、井原、カズは別格としても、今のメンバーに経験豊富なA代表選手を加えて、チームを強化することは、監督の仕事ではないか。その仕事から逃げてしまっていては...

 私の主張に対して、感情的な反論はあろう。
「せっかく前園を中心として若い選手でまとまったチームが...」
いい大人の、サッカーを生業としている人々にこれほど失礼な発言もあるまい。
 加えて3人枠の不採用は、チーム力増強以外に、若手の経験と言う意味でも、暗い陰を落とす恐れがある。最高の経験とは何か。それは強力な相手に対して、十分な準備を行い、英知を結集して策を立て、勝利を目指して最善をつくすことにより、得ることができる無形の成果である。しかし、最初から自らのチームが不利なハンディをかかえて、最高の成果が得られるだろうか。前園や川口がプロ中のプロであることは間違いない。しかし、いくら彼らでも、ブラジル戦を迎えた心の底に、
「相手は3人枠を使っているのだから...」
と逃げの気持ちが生まれないとは限るまい。それでは、彼らに最高の経験を積んでもらえることができないではないか。
 シャーラムであそこまで見事に戦った彼らである。最高の経験を積ませてやりたいではないか。強力な補強をし最高の陣容で、 1試合ずつ勝ち進むことができたとすれば、彼らにどんなにすばらしい経験を積んでもらえたことだろう。

「ベベットらを加えた最強のブラジルを相手によくやったと思う...」

8. フランスへ(結論)

 五輪代表チームについて、様々な面から検討してきた。今まで検討した内容から分かる通り、私はアトランタでの(1次リーグは別会場か)望みはほとんどないと考える。西野監督以下が私の期待を裏切ることを願ってやまない。

 それでは、アトランタに向けてどうすればよかったかの提案を結論に替えて述べて、結びとしたい。
 予選突破後、西野氏には総監督か何かにご栄転願い、加茂氏を監督にすればよかった。先日、散々加茂氏を批判して何を今さらとおっしゃる方も多かろう。しかし、W杯に向けて加茂氏にまかせると決定したのならば、まかせるべきである。そして、アトランタはフランスへ向けての準備に用いるべきなのである。
 何故か。
 今のままでは、フランスへ向けて、ベストメンバーを揃えてまともな公式戦を戦うのは、秋口からになってしまう。そして、このままでは、加茂氏はベストメンバーを率いて初めての公式戦を、何とアジアカップで戦うことになるのである。ある意味でアジアカップという大会は、サッカー界ではオリンピックよりずっと格上の大会なのだが...
 それではW杯予選への準備状況を4年前(92年)のオフト氏のチームと比較してみよう。 92年のキリンカップで代表監督に就任したオフト氏は、キリンカップ、オランダ遠征、ダイナスティカップなどにて、わずか半年間でチームの骨格を作るのに成功していた。松永、柱谷、井原、堀池、都並、森保、ラモス、福田、吉田、カズ、高木...そして、アジアカップ制覇以降は歴史である。
 それに比べると、加茂氏は代表監督の就任期間そのものは長いが、前号でも指摘した通りまともにベストメンバーを召集したことはほとんどない。
 実際、現状でフランス予選でのレギュラーポジションを確保している選手が何人いるだろうか。井原とカズそして、おそらく前園の2+1人だけなのではなかろうか。もちろん、加茂氏A代表の現在のレギュラーの山口、本田、小村、柳本、相馬、森島、名波らは皆レギュラーの有力候補である。しかし、五輪代表の前園、城、服部、伊東、鈴木、松田、川口ら、加えて何となく加茂氏が選考を自粛していた平野、三浦などがチームに参入し始めた時のことを考えると、誰がレギュラーを確保できるのかは、現状では加茂氏ですら断定できないのではないか。
 はっきり言って、フランスへの準備は遅れている。救いは韓国も五輪代表とA代表を分割して強化していたことだが、彼らは当然のように3人枠を使っており、アトランタの後を明らかに考慮し始めている。そして、サウジアラビアは、セベルマウィも両アルドサリも既にA代表で、アミンやアルムワリドやマダニやファラータと共に戦ったことがあるのだ。我々が遅れて良いわけがないではないか。
 今取るべき手段は、加茂氏に少しでも準備の時間を与えることなのではなかろうか。
 「今さら、加茂氏に五輪代表監督兼任など頼めるわけないではないか」とおっしゃる方がいらっしゃるかもしれない。でも、そんなことはない。我らが財団法人日本サッカー協会には、幹部会と言う便利な組織があり、彼らが「五輪代表を加茂氏にまかせる」と決定すれば、万事が解決することは、つい最近証明されたではないか。幹部会諸兄も、2002年問題で自分の老後を心配する気持ちはわからないではないが、どうせサッカーで食わせて貰ってきた人々なのだから、日本サッカーにとって次のW杯開催地などよりずっと重要なフランスへの道を切り拓くことに専念していただけないものだろうか。
posted by 武藤文雄 at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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