2022年10月31日

東京五輪の失敗を再現するのか?反省を活かすのか?

 カタールのメンバ発表が近づいてきた。
 最終メンバをどのタイミングで絞るかは、ワールドカップの歴史でもとても微妙な問題。直前まで多めに集めて最後に絞ろうとすると、98年のように「外れるのはカズ、三浦カズ」となってしまう。一方で早めに絞ってしまうと、06年の茂庭照幸のように「南洋の休暇をとりやめて急遽帰ってまいりました」になってしまう。いずれの状況に陥っても、マスコミの好餌となり世間の耳目を集めるかもしれないが、チームの強化にはマイナスになる。難しいものなのだ。
 本稿では、これまでの森保氏の采配を冷やかしながら、最終メンバを予想しつつ、カタール本大会に想いを寄せてみたい。
 
 ともあれ。Twitterで幾度かつぶやいたが、森保氏のカタールへの準備には、既視感がある。最近に流行り言葉では再現性かw。守備的MFは既にギリギリに絞り込んでおり、煽れんばかりの数の攻撃ラインの選手の選考に迷う。その結果、チームの要の遠藤航が疲弊と前線の連係不足で、モヤモヤ感を残したまま、勝ち切れない。
 東京五輪直前の準備試合、ホンジュラス戦とスペイン戦。いわゆる後方のMF要員として招集されたのは、遠藤航、田中碧だけ。2つのポジションに2人のみ。一方で、攻撃的MFとFWはドラミ相馬、三好康児、三笘薫、堂安律、久保建英、前田大然、上田綺世、林大地、4つのポジションに対し8人の候補選手がいた。一応DFで選考された板倉滉、中山雄太、旗手怜央が中盤のバックアップ(もできる要員)と予想された。ところが冨安健洋の負傷もあって、大会に入り3人ともDFラインの定位置での起用となり、結果的に遠藤と碧はフル回転。2人が疲弊したことが直接要因となり、メダルを逃した。この年代には渡辺皓太、田中駿太、岩田智輝ら、中盤後方で活躍できそうなよい人材は多数いた。しかし、森保氏は最後の準備試合の時点で、早々に彼らに見切りをつけてしまい、遠藤と碧の消耗を招いてしまった。
 3ヶ月前の6月シリーズ。4連戦の最終チュニジア戦、冨安健洋と守田英正不在のため、ほぼ皆勤していた遠藤と吉田麻也のミスから3点を奪われ完敗した。守備的MF不足と冨安不在→板倉CB起用→遠藤ボロボロ。正に東京五輪の再現だったw。
 そして、今回の二連戦。このシーズンの編成を見る限り、後方のMF要員はレギュラ定位置2枚に対して遠藤、守田、田中、柴崎岳の4人しか選考していない、しかも柴崎は強度が大きな課題で、守備面でのリスクを抱えるのは言うまでもなく、ターンオーバしたエクアドル戦の苦戦要因となった。もちろん、負傷で選考外になった板倉はパラグアイ戦のようにMFでも十分使えそうだが、本大会では冨安とCBを組む可能性は高い。一方攻撃的MFとFWは4枚に対して、鎌田大地、原口元気、伊東純也、堂安、久保、前田、上田、古橋亨梧、町野修斗、三笘、南野拓実、ドラミ、合計12名。もしかしたら、森保氏は、この9月シーズン直前に負傷した、ジャガー浅野琢磨や、復調の評価著しい大迫勇也まで考慮しているのかもしれない。そうなると、53日前の今日時点で、ポジション4個に対して14人の候補選手がいることになる。守備的MFの見切りはとても早く、FWは最後まで迷い続ける。東京五輪前の再来ではないか。

 先日の強化試合を振り返ってみる。
 USA戦。久々に4-2-3-1を採用。USA首脳は、これまでの日本の基本布陣4-3-3を予想していたのかもしれない。前田大然と鎌田大地の2トップがいきなりフォアチェックで、圧倒的攻勢をとることができた。前半、危なかったのは、序盤右サイドのプレスをうまく回避され、左に展開されて好クロスを上げられた場面くらい。特に前田の繰り返される俊足プレスはUSAを悩ませる。USAもMFやサイドバックを加えて最終ラインを3人にしてつなごうとしたり、ロングボールで日本のラインを広げようと工夫する。しかし、USA前線選手はボールの受けの位置取りに工夫が少ないため、強引なロングボールは冨安が完封、精度に欠ける縦パスは幾度も遠藤と守田の餌食となる。そのため、USA陣内で幾度もボール奪取に成功。前半は鎌田の得点のみの1-0で終わったが、伊東、鎌田、久保が次々と好機を演出、GKターナーの再三のファインプレイがなければ大差にできていたかもしれない。
 余談です。6月の国立ブラジル戦、厳しいフォアチェックをしのぎ、持ち出そうとする度にフレッジとカミネーロに止められ、速攻の危機を迎える、ちょっとほろ苦い思い出だが、その恐怖を相手国に味合わせていると思うと気持ちがよかった。
 後半は、冨安を右サイドに出したために中央の強度が落ち、USAも前線の選手を代えて受けの位置取りを改善してきたため、前半ほど圧倒的な攻勢はとれなくなる。しかし、ここに来て代表に定着しつつある伊藤洋輝も落ち着いた守備を見せ危ない場面は作らせない。そして、68分両翼を堂安と三笘に代えることで攻勢を取り直す。75分三笘が作った絶好機は堂安は決めなければダメ、大きな反省点だ。終盤鎌田に代えて原口を起用し、5DFの守備固めオプションを試したところで、三笘が得意のヌルヌルドリブルから決めて突き放したのも愉快だった。冨安の復帰が大きかったが、過去の日本代表史を振り返ってもベストに近い内容の試合だった。
 エクアドル戦。スタメンを総取り替えすれば、バランスは崩れるのは当然のこと。そもそも、田中碧と柴崎岳でボランチを組むことそのものが健全な試合の取り組みとは言えない。2人は、共に落ち着いたキープや、長距離のパスを得意とするスタイルで、ボール奪取が本業ではない。幾度も語ってきたが、柴崎のロシアワールドカップでの鮮やかなロングパスは最高だった(残念ながら、それ以降柴崎はあの輝きを再現してくれていないが)。田中碧は、五輪代表で遠藤航や板倉のサポートを受け中盤の指揮官として君臨。ワールドカップ予選でも、遠藤と守田の献身の下、幾度も前線に鋭いパスを通して、本大会出場に貢献した。しかし、この2人並べても有効でないことは、試合をする前からわかっていたこと。このエクアドル戦は、柴崎ではなく遠藤と守田を45分ずつ起用すべきだった。結果的に本大会出場の26人に入ることを目指してる他の選手たち、特に前線で空回りを余儀なくされた古橋と南野が、何より気の毒に思えた。
 しかもエクアドルは、最終ラインの選手のつなぐ能力はUSAを凌駕していた。古橋と南野のフォアチェックに対し、後方を3枚にして落ち着いてかわし、前線にボールを供給。冨安不在の日本は第一波をはね返し切れない。さらに、第二波の中盤のデュエル合戦も、碧と柴崎ではボールを取り切れないことが多く、連続攻撃を許す。こうなると、裏抜けをねらう最前線の古橋亨梧によいボールが供給できず、いよいよ攻めあぐむ。結果、ピンチの連続となった。前半右サイドを崩されポストに当たるシュートを許し、終了間際にはCKからのピンチをシュミットがファインセーブ、かろうじて0-0でしのぐことに成功した。
 後半古橋に代えて上田綺世を起用。上田が前線でキープすることで、ペースを少しずつたぐりよせる。そして68分にようやく遠藤を起用し中盤を落ち着け、交代で入ったドラミの切れ味鋭いドリブルと、鎌田の変化で好機を掴むも決め切れず。逆に谷口が敵FWの妙技にPKを許すも、シュミットが止めると言った場面もあり、試合は0-0の引き分け。冨安と板倉と守田が不在、遠藤と麻也も僅かな出場時間と言う条件下で、ワールドカップ出場国を無失点に押さえたのは結構なことだ。
 選手個人と言う視点でも、本大会に向けて明るい発見もあった。USA戦で久保が左MFで攻守に渡り活躍できたこと。これまで、久保はこのチームで、鮮やかな個人技を発揮はしたものの、自分本位のプレイばかりでチームに混乱を招くことが多かった。しかし、このUSA戦では組織的な崩しにも、守備にもしっかり参画。スタメン久保、終盤三笘起用と言う流れが最もバランスがとれているようにも思えた。
 懸念されていた左DFも、USA戦では中山が90分間、守備を固めながら、左サイドからの攻め込み時は常に的確に押し上げを継続、この選手は攻守ともに圧倒的な能力を見せるタイプではないが、苦しい時間帯でも常に適切な一度理をしてくれる。一方で、エクアドル戦は大ベテランの長友が、さすがのプレイ。中央に絞ったカバーや、自陣での1対1の間合いなど老獪なプレイの数々、ここに来て圧倒的な存在感。酒井の体調に不安がある中、ブラジル戦での右サイドでの好プレイ含め、大したものだ。
 まったく誰が選考されるか、目処が立っているに見えないCF。「予想が難しい」のではなくて「目処がが立っているように見えない」のは残念だが、ここは多数の候補が揃っていると前向きに考えることにしよう。とは言え、前田の献身的かつ強引な前線刈り取りは魅力的だった。余談ながら、この前田の暴力的なフォアチェックに、約20年前の鈴木隆行を思い出したのは私だけだろうか。前田は鈴木に比べると、身長は大きくないため迫力にはやや欠けるかもしれないが、人相の悪さと執拗な疾走の繰り返しは同レベル、そして短距離奪取の速さは鈴木を凌駕するものがある。このような短距離疾走の速さは、欧州の大柄なCBが最も嫌がるものゆえ、ドイツやスペインに対し非常に有効となるだろう。
 エクアドル戦の終盤に起用されたドラミ相馬が切れ味鋭いドリブルを見せたのも頼もしかった。五輪でも大活躍し、韓国、エクアドルと言うワールドカップ出場国でも機能したこの小柄な異才は間違いなく本大会でも戦力となろう。ただ、久保がよかっただけに、ポジションのバッティングがあるのだが。
 そしてシュミット・ダニエル。PKストップも見事だったが、度々前線に鋭いフィードを入れ、高いボールへの強さも上々だった。さてドイツ戦のスタメン、権田の安定感をとるか、シュミットの特長をとるか、森保氏の決断を待ちたい。

 さて、それでは26人はどうなるか。一部選手の負傷報道が聞こえてきているが、そのような外乱がなければ、おおむね以下となるのではないか。
 まず確定メンバを推定する。GKは権田とシュミットは確定として、3人目は川島または谷。右DFは酒井と山根、左DFは長友と中山。CBは麻也、冨安、谷口、伊藤、そして板倉。MFは遠藤航、守谷、田中碧、原口、鎌田。負傷明けの板倉を、CB要員ではなくMF要員と考えれば、いわゆるドイスボランチを、遠藤航、守田、板倉で回して、勝負どころで田中碧を使える。このやり方をすれば、散々イヤミを語った選手森保一選考しない問題を解決できるように思う。そしてFW、右は伊東純也、堂安、左は三笘、久保、そして問題のCFだが、上記した傍若無人的活躍をした前田大然は決まりかなと思う。そして、森保氏はヴィッセルで調子を取り戻した大迫勇也を選ぶように思えてならない。ここまでで23人で残り3枠。
 この3枠を、瀬古、柴崎、旗手、南野、ドラミ、上田、町野、古橋、そして浅野が争う。ここから先は読みづらい。ただ、ここまでの選考を考えると、森保氏が大好きな柴崎はメンバ入りするだろう。(この森保氏の柴崎への極端な愛情は、本当に興味深い)。CFとしてもう1人上田か古橋(大迫が間に合ったので町野は選考外となるのではないか、あの強引なシュート狙いは魅力ですけれど)。そして、最後の1枚は南野かドラミ。
 私個人の好みとしては、とにかく点を取るのがうまい小林悠を入れたらとか、中盤で骨惜しみしない選手がもう1人欲しいから稲垣や川辺選べばよいのではないかとか思いはあるが、まあそれはそれ。

 散々森保氏には文句を語ってきたが、間違いなく氏は史上最強の日本代表を作りつつある。一方で、過去出場6大会と比較して、しんどいグループリーグに入ってしまったのも間違いないけれど。
 予選埼玉サウジ戦でワールドカップ本大会出場国にほとんど危ない場面を作らせず、キッチリ得点を奪う完璧に近い試合ができた。そして、USA戦では、決定機獲得頻度とピンチ少ないと言う意味では、サウジ戦以上の試合を見せてくれた。
 攻撃連係の練度には不満が残るが、伊東や三笘のように個人能力で決め切るタレント、鎌田や堂安のようにラストパスを操るタレント、田中碧のように崩せるパスを出せるタレントが揃っている。そして、こう言った攻撃タレントに対し、忠実な組織守備と切り替えの早さを徹底したのは森保氏の貢献だ。
 現実的に、ドイツもスペインも、USAやエクアドルやサウジや豪州よりは強かろう。また毎回よいチームを作ってくるコスタリカも非常に難しい相手だ。しかし、いずれの相手もブラジルほどは強くない。これだけのタレントが揃ったのだ、十分にやれるはずだ。
 そして、本稿冒頭でイヤミを語った再現性問題。考えてみれば、相手国は当然日本のことを詳細にスカウティングしているはずだ。森保氏がカタール本大会での歓喜のために、難敵スカウティングチームを混乱させるために伏線を打っていたのだとしたら…
posted by 武藤文雄 at 01:28| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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