テレビ桟敷でたっぷり堪能させていただいたが、まことに見事な娯楽。すばらしい戦いを演じてくれた富樫勇樹と仲間たちに感謝したい。
1990年代半ばから2010年代半ばまでの約20年間、日本バスケットボール界は絶望的な状況に追い込まれていた。そのあたりは、友人でもある大島和人氏がこちらで、鮮やかに文章化してくれている。同書を読んだ時、私が感じたのは吐き気だ。同書に実名で登場するバスケット人、上記絶望的な20年間日本のバスケットボール界を牛耳っていた幾人か。彼らば、バスケット界の発展ではなく、己の権益のためだけに見苦しい活動を繰り返す。さらには、後年もそれらを恥じることなく語っている。
私も散々サッカー界の権力者を批判してきた。例えばこれとかこれね。もちろん、前者の方はバスケット界に超大貢献したのですけれどもね。
しかし、同書に登場する絶望的なバスケット人の質の低さはそんなものではない。日本バスケットの発展など何も考えず、己の短期的権益しか考えていないのだ。さらに言えば、Bリーグが設立し、日本バスケット界の立て直しが進んでいるにもかかわらず、当時の活動を恥じていない。正直言うが「ああ、サッカー狂でよかった、バスケットの方々はどんなにつらかったことか」と再確信したのが、正直な読後感だ。もちろん、同書にはすばらしいバスケット人も登場する。長年日本協会とJBLを支えた吉田長寿氏や、bjリーグに参画した滋賀レイクスターズ社長の坂井信介氏など。
今大会の成功は、これら悲しい過去の歴史を完全に払拭するものとなることだろう。
大会前から、消息通には悲観的な予測が渦巻いていたようだ。
日本の目標は、五輪出場権獲得。そのためには、アジアの出場国でトップの順位になることが必要だと言う。このレギュレーションは、直接対決がないだけに、組み合わせ抽選の運不運が大きい。ところが、日本のグループはドイツ、フィンランド、豪州と、強力国がズラリ。一方で、ライバルとなる中国、フィリピン、イランなどは、日本と比較して楽なグループに入ったとのこと。そのため、彼らがベスト16に入るリスク?もそれなりにあった模様。さらに、全アジア国が下位順位決定戦に回ったにしても、日本は1次ラウンドで全敗のリスクが高く、ライバル諸国は1勝する可能性が高いなど、かなり悲観的予測の文章を目にした。
実際、初戦のドイツ戦は63-86で完敗。チームのねらいの3ポイントシュートが外れてはリバウンドを奪われ、結果的に攻撃機会をドイツに提供することになり、じりじりと点差を広げられてしまった。
しかし、2戦目のフィンランド戦。98-88で、鮮やかな逆転勝利。第1クォータこそリードしたものの、第2クォータに逆転される。その後も終盤までリードされる。しかし、第4クォータ、大エースのホーキンソンに加え、河村勇輝と富永啓生が冴え渡り、第4クォータ単独では35-15、正に鮮やかな大逆転。ドイツ戦で空席が目立ったチケットコントロールが改善され、満員となった沖縄アリーナ。ブースターたちの熱狂的声援が、富樫勇樹と仲間たちを支えたのは感動的だった。考えてみれば、沖縄は日本では屈指のバスケットが盛んな地域。日本中、ほとんどの地域で、プレイヤ人口はサッカーが最大だと思われるが、沖縄だけはバスケットのプレイヤ人口が、サッカー以上に多いのではないかと言われている地域だ(笑)。言うまでもなく、ゴールデンキングスは現状のBリーグ王者だし。
3戦目の豪州戦、89-109で敗れた。ともあれ、負けたとは言っても、フィンランド戦で負傷し思うように活躍できなかった渡邊雄太がフル回転。渡邊とホーキンソンを軸に、この強豪に堂々と渡り合ったが、相手が強かった。それでも後半(第3クォータ+第4クォータ)のスコアは52-54、互角の攻防を見せてくれた。
その結果、日本は1勝2敗で、下位順位決定戦に回った。しかし、1次ラウンドを終わってみれば、日本を除くアジア諸国はみな全敗。日本だけが、1勝しており、かなり優位な状況で下位順位決定戦に対応することとなった。上記の悲観的予測は、無事?外れたわけだ。
ベネズエラ戦は、86-77の勝利。
最終スコアを見ただけではこの試合の感動は伝わらない(笑)。第3クォータ終了時点で、53-62。攻防そのものは互角の展開だったが、大エースのホーキンソンのシュートが決まらないこともあり、点差を詰めることができない。複数回、後一歩で追いつける2、3点差に詰めたことはあったが、その都度突き放される。イヤな雰囲気は第4クォータ半ば過ぎまで継続した。
この苦しい試合を救ったのが、大ベテランの比江島慎だった。第4クォーターだけで17得点を決める超人的活躍。あと2分しか残っていない時間帯から逆転に成功した。最終スコアの11点差だけ見ると、この試合の興奮は理解できない。バスケットのおもしろさでしょうな。ちょっと、うらやましい(笑)
そして最終のカーボベルデ戦。勝てば五輪出場権獲得。正直言うのですが、世界中ほとんどの国は、サッカーを通じてどんな国なのか、ある程度知っているつもりだった。しかし、カーボベルデがどこにあるのかは、この大会で戦うまで知識がなかった。そうかアフリカ西部の島国、大航海時代に発見された無人島だったのか。エンリケ航海王子か。
今大会はじめて(笑)、序盤からリードを奪い優位に試合を進める日本。ところが、気持ちよくテレビ桟敷で試合を楽しめたのは、第3クォータまでだった。73-55で迎えた第4クォータ、突然日本に点が入らなくなり、どんどん点差が詰まってくる。多くの報道は、五輪出場権獲得が眼前に迫った故のプレッシャによるものと議論されている。一方で、私のようなシロートからすると、渡邊とホーキンソンを引っ張りすぎ(結局この2人はこの試合40分間フル出場だったとのこと)、彼らが疲労困憊だったが痛かったように思えた。これだけ点差が開いていたのだ、3ポイントを無理に狙わずとも、敵ゴール下に進出し2点ずつ点をとって点差を広げられないことが重要。ところが、敵ゴールに進出し個人能力で得点を奪える渡邊とホーキンソンが疲弊してしまい、どうにもやりようがなくなってしまった。気がついてみたら、終了間際には74-71の3点差まで詰められてしまう。しかし、この苦しい局面を打開してくれたのは、やはり大エースのホーキンソンだった。ホーキンソンが、終盤あと1分のところで連続ゴール、気がついてみたら9点差とするのに成功。歓喜の五輪出場権獲得とあいなった。いや、めでたい。
それにしても、ホーバス監督の手腕は見事だった。
東京五輪時の女子監督での銀メダルもすばらしかったが、今大会のチーム作りも鮮やか。3ポイントを軸に、上記のスター達と守備力が高いスペシャリストを組み合わせ、目標を達成してくれた。まあカーボベルデ戦終盤の采配は不適切だったと思うが、まあそれはそれ。
ホーバス氏が最初に来日したのは、プレイヤとして2000年だったと言う。その後、指導者として2010年に再来日。その後も女子の指導を中心に指導者として経歴を磨いたと言う。言い方を変えれば、冒頭に述べた暗黒時代でも、日本のバスケット界はホーバス氏のような有為なタレントを受け入れる土壌はあったことになる。上記したように当時、バスケット界には残念な首脳も多かった。しかし、心ある優秀な方々も現場には多かったと言うことが、このホーバス氏の大活躍で理解できた。
今大会の成功は、そのような心あるバスケット人達の勝利と言うことだと思ってる。
パリ五輪には、八村塁も参加することだろう。ホーバス氏率いる最強の日本代表が、どこまで上位進出できるのか。五輪の楽しみが一つ増えたのが嬉しい。