遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
今年は、もう少し作文の頻度を上げていきたいと思っているのですが。
元日の日本対タイ戦を見て、最近の日本代表のように戦闘能力が相当充実していると、若手の代表デビューと言うものは難しいものだと考えさせられた。年初は、そのあたりを講釈したい。
タイ代表は、アントラーズで格段の成果を挙げた石井正忠氏を監督に招聘(いや、あのレアル・マドリードを追い込んだ試合は興奮しましたよね)。近年充実の度合いが増す国内リーグの勢いの下、アジアカップでの上位進出、米加墨W杯の初出場を目指しての強化試合と言う位置付けになる。森保氏は、欧州のレギュラ格の選手があまり集められない状況下、若い選手にA代表出場の経験を提供しようとし、スタメンのうち3人は初めてのA代表。本日のお題でもある代表デビューの選手を多く並べた前半は、各選手の経験不足とタイDF陣の粘り強い守備もあり、0-0で終了。しかし、後半起用された堂安律が落ち着いたボール保持で圧倒的な存在感を発揮、次々と得点を奪い、終わってみれば5-0の快勝となった。
スタメンを振り返る。現状のレギュラと言えそうな選手は、鈴木彩艶と伊東純也くらい(もっとも、決定的な選手がいないGKの鈴木と、超大エースの伊東純也を同列に語ってよいのかは、さておき)。後は中盤後方に起用された田中碧が純レギュラ。いわゆる2、3番手を争う、毎熊晟矢、町田浩樹、森下龍矢、佐野海舟、細谷真大に加え、初代表の藤井陽也、奥抜侃志、伊藤涼太郎が並んだ(田中碧のアジアカップ不選考については別に語りたいとは思う)。
立ち上がりに、伊藤涼太郎が佐野海舟(だと思った)の縦パスを受け、見事なターンから落ち着いたシュートを狙うも、僅かに枠を捉えられず。これが入っていれば、状況は随分違ったことだろうが、タイの粘り強い守備に手こずっているうちに、日本は攻めあぐむ。大エースの伊東純也が幾度も見事な受けやフリーランを見せ、後方からの縦パスを受けて好機を作るが、あまりに攻撃が右サイドに偏重し過ぎて単調となる。こうなると、左からも攻めたいが、奥抜と森下の連係が悪く形にならない。それならば、前線で溜めを作りたいところだが、伊藤涼太郎はどうしても「見える成果」を出したかったのだろう、ラストパスを狙いすぎて、一層攻撃が単調になり、前半は0-0で終了。
後半立ち上がり、奥抜と伊藤涼太郎に代え、中村敬斗と堂安を起用。堂安の起用は状況を飛躍的に改善した。堂安が、伊東純也と巧みにポジションを入れ替えながら、落ち着いて前線でボール保持し溜めを作る。それだけで、2.5列目の田中碧と佐野が前線に進出しやすくなり、パスの受け手が増え、攻撃に変化が生まれた。加えて、タイ守備陣も、前半からあれだけ連続的に守備を強いられてきたのだから疲弊。日本は完全に崩せるようになり、終わってみれば5-0の快勝。
もちろん、堂安の存在感発揮のほかにもよいことは多数あった。細谷が前線でよくボールを引き出した、中村敬斗が相変わらず敵ゴール前で鼻が利くことを示した、佐野が相変わらずよくボールに触り有益なことを示した、など。終盤起用された南野拓実が、幾度も決定機を外しながら、最後の最後に帳尻を合せたのもご愛嬌だった(この南野の久々の得点が、アジアカップでのよいきっかけになることを切に望みたい)。
さて、今日のお題の初代表選手のデビューについて。
この日スタメンに起用された3人の他に、川村拓夢と三浦颯太が初代表としてデビューした。
CBにスタメン起用された藤井は無難なプレイ。タイの散発的速攻を丹念につぶした。と言っても、日本が押し込みながらもバランスを崩さない戦いをしていたので、苦労して守備をする場面はほとんどなかった。
守備的MFで後半から起用された川村拓夢は、菅原由勢のさすがとしか言いようのない短距離突破からの好クロスから得点を決めることに成功した。また、比較的短い時間帯だったが、落ち着いてよくボールを回して機能した。得点というわかりやすい成果を出すと本人の経歴にA代表1得点と言う記録が残るのは非常にめでたいことだ。
同じく後半から、左DFに起用された三浦颯太も安定したボール扱いと押上げで攻撃を支えるとともに、少々間延びし始めた日本の中盤プレスをかいくぐったタイのボール回しにも的確に対応した。
ただ、藤井にしても川村にしても三浦にしても、代表選手としての評価は、今後の活躍次第と言う事になるだろう。この日はあくまでもデビューして無難なプレイを見せてくれたところまでしか評価できない。
一方で前線にスタメン起用された高速ドリブルが武器の奥抜と古典的な攻撃創造主の伊藤涼太郎。2人は上記した通り、空回り感したまま前半終了。後半立ち上がりに交代されてしまった。多くの人が思ったではないか。後半奥抜か伊藤涼太郎を残し、堂安と伊東純也と一緒にプレイさせれば、もっと得点やチャンスメークという具体的な成果が出たのではないか。あるいは、前半から堂安と伊東純也を並べ、奥抜か伊藤涼太郎のいずれかを起用していれば、彼らはもっと持ち味を発揮できたのではないか。経験が足りないタレントを複数並べるよりは、経験豊富な中核選手たちと若いタレントを使う方が、よい成果が期待できたのではないか。
この2人のような攻撃タレントは、相手の戦闘能力が少々低かろうが、具体的成果を発揮してくれれば、本人の自信ともなるし、周囲のチームメートもそれを活かせばよいと共通認識ができるはず。例えば、このタイ戦でも中村敬斗は南野のシュートをGKがこぼすのをしっかりと詰め、点を決めてくれたが、トルコ戦、カナダ戦、タイ戦とこれだけ鼻が利いて枠を揺らす場面を見せてもらえれば、「何かを持っている」感が漂い、他のチームメートも「使いどころ」を理解できる、奥抜も伊藤涼太郎も、このタイ戦で中村敬斗のような「きっかけ」を掴んでくれればよかったのだが。
この日デビューを飾った5人にとって厳しいのは、現在の日本代表は既に30人程度のラージグループが既に確立していることだ。したがって、彼らが次に起用されるチャンスがいつ来るのかどうかわからない。それでも、この5人にA代表としての経験を積ませたのは(1試合でも代表経験があれば、市場価値も少しは上がるだろうし)、森保氏のせめての親心と考えるべきか。考えてみれば、これだけ潤沢なタレントを抱えている森保氏なのだから、未経験な選手たちには「場」を提供するのが精一杯と言うことかもしれない。
ただし、代表チームには常に新陳代謝が必要なことも間違いない。目先にアジアカップというタイトルマッチが控えているので、どうしても新しい選手の起用機会は限られる。しかし、代表の目標はあくまでも2年半後のワールドカップ制覇。新しく野心的な選手の登場は大歓迎のはず。後方の3人は、ともにJリーガ、J1で圧倒的な存在感を発揮すれば、森保氏のメガネに叶う機会が得られるかもしれない。一方で前線の2人は欧州でプレイしているわけだが、現地で評価され欧州のトップクラブで活躍する機会を得ることができなければ、常時代表に選考されるのは難しいかもしれない。もちろん、Jリーガの3人も見事なプレイを継続して見せてくれれば、欧州に活躍の場を移してしまうのかもしれないけれど。
代表の中核への近道が、どこにあるのか、こればかりは誰にもわからない。
数年前には、想像もできなかった潤沢なタレントを抱える日本代表。元日のタイトルマッチを見て、改めて代表チームの新陳代謝の難しさ、おもしろさを、考えた次第。