2024年12月31日
2024年10大ニュース
1. アジアカップと史上最高の日本代表
米加墨W杯予選開始後の日本代表の強さは際立っている。考えてみれば、当たり前の話のように思えてくる。
全ポジションに欧州の高いレベルのクラブで常時出場している選手が揃う。そして、カタールW杯後、森保氏がしつこく選手たちに要求しているボールを奪われてからの守備。交通事故を許さない板倉滉や町田浩樹の守備個人能力の高さと谷口彰悟の経験(しかも、日本サッカー史上最高の守備者の冨安健洋が負傷離脱中!)。世界のどこに出しても自慢できる遠藤航の中盤守備と守田英正の運動量と手数の多さ。これまた世界最高の両翼と言いたくなる伊東純也と三笘薫の両翼。しっかりと守備をしながら、好機を量産する鎌田大地、久保建英、南野拓実、中村敬斗そして堂安律の妙技の数々。さらにトップに上田綺世と小川航基の成長。アジアカップ時は少々不安定だった鈴木彩艶の成長。欧州で地位を確立ている旗手怜央、古橋亨梧、菅原由勢、橋岡大樹、瀬古樹らに、ほとんど出場機会がないのだから恐れ入る。
森保氏は、多くの選手を試し、分厚い選手層を誇るチームを作ってきた。上記の通り、いずれの選手にもボールを奪われてからの守備を徹底し、ラージグループを見事に作り上げてきた。その結果、上記した技巧と判断に優れた攻撃的タレントも、常に献身的努力で守備を行うのだからすばらしい。
それでも、アジアカップでは苦杯を喫した。タイトルマッチの勝負は、様々な運不運によるものがある。しかし、イラン戦の敗戦は、単に体調不良の板倉を引っ張り交代しなかったことにあった。もちろんイランは強いチームだったが、当方が最前を尽くし損ね苦杯を喫したのだから、間抜け極まりない敗戦だった。全責任は森保氏にあった。悔しいな、今思い出しても。
また、氏の采配を見ていると、チームとして機能するメンバが一度固まると、采配が硬直化する悪癖がある。カタール予選での柴崎、カタール本大会での浅野、そして同じくカタールで行われたアジアカップでの板倉。10月埼玉の豪州戦で直前の敵地サウジ戦で疲弊した選手を引っ張り勝ち切れなかったのも類似の悪癖が要因と見るべきだろう。
加えて、2026年に年齢的にどのようにピークを迎えるバランスが取れた選手層に持ち込むのかも難しいところ。高井幸大、藤田譲瑠チマ、細谷真大らパリ五輪世代の選手を加えたいところだが、20代半ば以降の選手層が厚過ぎて、中々試す機会が作れないと言う贅沢な悩みも厄介だ。
いずれにしても、2024年のアジアカップを制覇できなかったことは、長い日本サッカー史においての痛恨事として記録されるべき残念な事件と明言しておきたい。
2.改めて最強国であることを示した女子代表
パリ五輪。女子代表はすばらしいサッカーを見せ、USA戦でもほぼ完璧な守備と変化あふれる攻撃で、あと一歩まで追い込みながら、何とも言えない不運で敗退した。2023年の豪州NZW杯に続く、痛恨の敗戦だった。
大会を通じて不運だったのは負傷者の連続。大会前に左サイドDFの遠藤純が重傷で選考外、初戦で右サイドDF清水梨沙が負傷で離脱。同ポジションの北川ひかると守屋都弥が負傷で中々体調が整わず、CBの古賀塔子やFWの宮澤ひなたや清家貴子を起用する苦しい布陣が続いた。北川と守屋が両翼を支えたナイジェリア戦とUSA戦は、すばらしいサッカーを見せてくれた。ただ2人のバックアップ不在ゆえ、USAとの延長で疲労困憊した北川が、オフサイドラインギリギリから抜け出されたロッドマンご息女に一撃を決められてしまったのだから、もうどうしようもなかった。加えて、林穂之香も大会序盤には間に合わず将軍長谷川唯を常時中盤後方で使わざる得なくなったこと。そして、澤穂希感を漂わせている藤野あおばも体調不良でフル出場できなかったのみならず、あのブラジル戦の終盤、PK奪取と鮮やかなダイレクトミドルシュートを決めた谷川萌々子もその後使えなかった。
これらのコンディショニングを含めての勝負ゆえ、敗戦は受け入れなければならないが、ベストメンバが組めれば十分世界一を再現できそうなチームだっただけに残念。それがサッカーなのかもしれないが。13年前に世界一となった以降、欧州各国の強化が進んだこともあり、世界一の奪還は容易なことではない。しかし、これだけのタレントが揃っているだけに、近い将来への期待は大きい。初めての外国人監督の下、短期的成果を期待したい。
もっとも、観客動員が思うように進まないWEリーグや、中学高校の受皿不足などの、女子サッカーの本質強化については、少しずつの改善は見られるが、決定的な解決策が見出せない悩みも大きいのだが。
3.ヴィッセル神戸の2冠と2連覇
J1は終盤、ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島、町田ゼルビアの3強が覇を競ったが、終盤戦での安定感でヴィッセルが逃げ切った。前川薫也、マテウス・トゥーレル、山川哲史、酒井高徳、扇原貴宏、井手口陽介による安定した守備(山口蛍や齋藤未月の負傷離脱がダメージとならなかった選手層の厚さとも言い換えられる)、大迫勇也、武藤嘉紀、宮代大聖、佐々木大樹らが並ぶ強力攻撃陣。潤沢な資金で集めた元日本代表選手や比較的無名だったタレントを厳しく鍛え抜いた吉田孝行監督の手腕もすばらしい。
天皇杯でも、丹念に勝ち抜いた神戸が、決勝でガンバ大阪を下し2冠を達成。決勝は重苦しいタイトルマッチ決勝らしい試合となったが、すばらしい守備を見せていたガンバの大黒柱中谷進之介が、90分間でたったの1回神戸佐々木に出し抜かれた場面で、大迫が美しいターンからのラストパスを通して勝負を決めた。今シーズン鮮やかなプレイを見せていた宇佐美貴史が負傷で決勝に出場できなかったガンバは非常に不運ではあったけれど。
2004年に神戸出身の三木谷浩史氏が個人オーナとしてチームを支え、2014年から楽天の子会社となったヴィッセル。まあ、過去は色々野次馬にとっては楽しいチーム作りが行われたこともあったが、ここに来て安定した資金力と適切な強化が両立した見事なチーム作りを見せてくれるようになったと言うことか。
元々、神戸は歴史的なサッカーどころ。潤沢な資金力と併せ、日本いやアジアのサッカー界を牽引する期待は大きい。
4.スペインと互角に中盤戦を演じた五輪
パリ五輪の男子の敗戦も、また悔しいものだった。そして、ものすごく悔しい中でほんの少し嬉しかったのは、0-3での苦杯ではあったが、スペインとほぼ同等のボール保持戦を演じ、決定機数もほぼ同じ。西欧の強豪国と世界大会で互角の試合内容だったと言う意味では、歴史的な試合だったとも言える。カタールW杯や東京五輪では、ボール保持に拘泥せず最終ライン勝負に持ち込んで勝ち切ったのだから。
この五輪チームは、アジア予選で幾多の危機をしのぎ(1次ラウンドの中国戦はDF西尾の軽率な退場、早期韓国戦でセットプレイ対応ミスで敗戦など)、粘り強く予選を勝ち抜いた。さらに本大会1次ラウンドでも、失点リスクを少なくしながら慎重に戦う、いわゆる「タイトルマッチ向き」の戦いを実演。堅実に勝ち進んでくれたのだが。すばらしいチームだったことを忘れないようにしたい。
また、この五輪は予選を含めて印象的な事案が多かった。
まず韓国の本大会出場失敗。この隣国は、1986年メキシコW杯予選で我々を破った以降、W杯は10回、五輪は9回、それぞれ連続出場していたのが途切れたけだ。しかも、連続出場を阻止したのは、韓国人監督申台龍が率いた進境著しい東南アジアの雄インドネシア。一つの事件だった。
1次ラウンド最終戦でイスラエルに完勝したのも、我々年寄りには感慨深かった。1970年代イスラエルはアジア連盟に加盟しており、世界大会予選で幾度も完敗を喫していた。当時、イスラエルは韓国よりも高い壁だったのだ。そのイスラエルに対し、既に2連勝で準々決勝進出を決めていた日本は、勝たなければならないイスラエルを冷静にいなし、終盤決勝点を奪う完勝。正に半世紀における日本サッカー界の向上を示す試合となった。
スペイン戦での細谷の幻の同点弾も忘れ難い。画像処理技術によるオフサイド判定は、最新技術適用の一つの成果だが、あの場面は「オフサイドの趣旨:敵陣での待ち伏せ攻撃」でも何でもないものだっただけに、理不尽さは格段だった。現状のルール下では、オフサイドとなったのはしかたがないこと。しかし、あの細谷のオフサイドは、今後のサッカールールの変更のきっかけとなるのではないか。
5.広島と長崎の新スタジアム
広島、長崎に、新しい発想の球技専用スタジアムが作られた。トラックがなく屋根も備えられているので、サッカーを見やすいのは当然のこと、さらにいずれも市の中心部に位置し交通の利便性も格段。しかし、この両競技場の特質はそれだけではない。
広島は自治体が、長崎は民間企業が、それぞれ設立主体だが、両競技場とも試合のない日も様々な娯楽が楽しめる施設を具備している。そのため、観客動員増はもちろん、サッカー以外でも多くの人々が楽しむ場となっていると言う。私も先日のJ1昇格プレイオフで長崎スタジアムシティを訪ねたが、試合観戦とは別に買物や宿泊を楽しむ人々も受け入れ可能な環境に感心した。さらに、試合がない日はスタンドが開放され、競技場そのものが遊戯場となる発想も見事なものだ。
まだ、一部のJクラブの本拠地は、市の中心街から遠く、駐車場からの脱出に時間がかかり、屋根がなく、陸上トラックの湾曲部の外側では真っ当に試合展開が見えない。そう言った悲しいスタジアムからの脱却を改めて考える必要があるだろう。この2都市の成功事例を、多くのJクラブも学びたいものだ。
また、競技場とスポーツの連携というと、やはりプロ野球のファイターズやイーグルスが参考となる。両チームとも地域自治体に相当な負担をしてもらいながら、野球という娯楽と関連の集客で地域に大きな還元を行っている成功例だ。もっともファイターズについては、その前に使っていた競技場との関係が微妙で、それはJリーグにも絡む話なのだが。我々サッカー界も、この野球の両球団のように、少々図々しく(笑)地域の税金を活用させていただく発想も学ぶ必要があるかもしれない。このあたりは、地域に根ざすスポーツクラブが集まって欧州や南米で自然発生的に育ってきたサッカーの世界と、独占ビジネス権を各都市に販売することで発達してきた野球に代表される北米のスポーツの考え方の違いもあるのだが、まあそれはそれ。
残念ながら2024年は世界平和と言う視点では芳しい年ではなかった。しかし、奇しくも80年前に第二次世界大戦で極端な被害に遭った両都市が、平和の象徴とも言うべきスポーツの世界で、新しい成功事例を積み上げたことを記憶しておきたい。
6.町田ゼルビア黒田監督の舌禍
観戦しやすく便利な競技場の話題となったところで、残念ながらそれとは対照的な競技場に悩む町田ゼルビア。J1へ初昇格し、潤沢な資金力を活かし、堂々と優勝争いにからみ、見事な成績を収めた。改めて拍手を送りたい。
ところが、このクラブについては、他クラブ関係者から色々非難される事態となってしまった。曰く、ロングスローがけしからん、時間稼ぎが目に余る、どうしたこうした…まず、ロングスローも時間稼ぎもルール上認められていることで、それで非難されるのはおかしなことだ。また、話題になった敵にPK時にボールに水をかける行為だが、これもルール上は問題ないこと。ただ、PKはサッカーの中でも非常に特殊な状況ゆえ、キッカーとGK双方がプレイしやすい環境準備は、広義の主審の仕事の一つなので、状況によっては主審の何がしかの干渉はあってもよいだろう。これら一連の活動はそれだけのことだと思っている。
しかし、事態を混乱させたのは、やはり黒田監督の舌禍だろう。これは黒田氏の経歴、高校サッカーの名将だったことの影響だったと思う。高校サッカーと言うのは少々特殊な社会でプロサッカーチームとは異なる環境におかれている。取材者も相手を慮り、監督の発言にも適切なフィルタリングを行う伝統がある。黒田氏は、そこを勘違いし言葉の選択や発言趣旨が不適切となり、プロサッカーの取材者におもしろおかしく切り取られてしまったと言うことに尽きるのではないか。
ともあれ、町田の戦績、黒田氏の手腕がすばらしかったことは間違いない。ただし、あの競技場の不便さと見づらさはどうしようないけれど。
7.J3からの降格
2014年にJ3が結成され、全校リーグがJFLと合わせて4部制になって初めて、J3からJFLに降格するクラブが登場することになった。従来は、スタジアムなどの昇格要件を満たしJFLで好成績を残したクラブがJ3に昇格できるレギュレーションだったが、とうとうJ3のクラブ数が増え、降格クラブが登場することとなった。プロフェッショナルを志向するサッカークラブが順調に増えていると、素直に喜びたい(降格の当事者の方々は大変だろうけれど)。日本中津々浦々にプロフェッショナリズムを導入したクラブがあり、各地域のサッカーをリードしていくことが、W杯制覇のためには必須事項だと思うからだ。
一方で、前々項でも述べたが、もう少し競技場への要件は厳しくしてもよいような気もしてくる。ただそれを厳しくすることは普及の妨げになりかねない。難しいものだ。
8.首都圏クラブの充実とファジアーノ岡山のJ1初昇格
上記した町田ゼルビアのみならず、12年ぶりにJ1に復帰した東京ヴェルディもJ1で6位と上々の成績を収めた。来シーズンのJ1陣容は、首都圏9、関西圏4、名古屋圏1、その他6と言う配分となった。即断は禁物だが、ここ数シーズンの傾向として首都圏のクラブ数が少しずつ増えている。これは当該クラブの努力が最大要因だが、首都圏(言い換えると大東京圏)と言うベネフィットを活かし、大規模なスポンサー獲得が容易と言う外的要因もある。ゼルビアの大躍進は、その顕れと言っても過言ではかなろう。
特に24年シーズンは、Jリーグ当局が首都圏クラブを中心に、国立競技場開催などのキャンペーンを行ったのも影響したかもしれない。
一方で首都圏クラブは、地方都市クラブと比較して、地方TV局や地域新聞などの露出が少ないと言うハンディキャップも抱える。また、2025年にはファジアーノ岡山が20余年の歴史でとうとうJ1昇格にこぎつけた。これは、地方のクラブでも健全な経営を行い、適切な強化を継続すれば成功すると言う格好の事例だろう。前項のJ3からの降格と合わせ、日本サッカー界の充実は着実に進んでいる。
9.中東サッカー界とのかかわり
過去5回のアジアカップ開催地は、東南アジア4国:1、豪州:1、UAE:1、カタール:2。そして次回はサウジアラビア。W杯も2022年カタールに続き、2034年のサウジアラビア開催が決定した。ほとんどのタイトルマッチが、いわゆるアラビア半島の産油国で行われている。これだけ広いアジアなのだ。もっとバランスよく各国で行われることが健全と考えるのは私だけではないだろう。
加えて、サウジアラビアはオイルマネーを駆使した公的基金で世界中のトッププレイヤを同国リーグにかき集めている。結果的にサウジアラビア代表の弱体化が言われているが、元々大して強い国ではないので(笑)それは問題ないが、残念ながら観客動員も知れたものとのことだ。世界中のトッププレイヤが盛り上がらない競技場で戦うことが、果たしてよいことなのだろうか。
またカタールが帰化選手や、少数選手を今風の指導で鍛えて、W杯で惨敗したのも記憶に新しい。このカタール惨敗は、我々日本代表がアジアカップでちゃんとカタールを叩きのめして、「サッカーとはこう言うものだ」としっかり指導すべきだったのだから、当方の責任なのかもしれないが。
何を言いたいかと言うと、これらの中東オイルマネーが世界のサッカー界の生態系を崩していることが健全とは思えないと言うことだ。アジアのサッカー界のバランスは完全に崩れてしまっている。別に彼らと対立する必要はないが、このままでよいのかは考え続ける必要があるのではないか。「いやあ、あの強烈なキャッシュ攻勢ですからね、どうしようもありません」と、言ってしまえばそれまでなのですが。
10.賀川浩氏逝去
尊敬してやまない恩師が亡くなりました。齢99歳。ご冥福を祈ります。
若い頃、暗記するまで読み込んだサッカーマガジンのコラム。ボール扱いとそれをどのように使うべきかと言う判断。W杯本大会のクライフやベッケンバウアの妙技や、日本リーグでの釜本邦茂や彼を止めようとする守備者との駆け引き、それらを中学生、高校生だった私たちにわかりやすく解説し、明日の練習への目標を提示してくださいました。
自分のプレイ、子供への指導、そしてサッカー観戦すべてに参考となる言葉の一つ一つが、どれほど自分の血となり肉となったことでしょうか。
長じてから直接お会いした折の薫陶の数々。釜本のボール扱いやキックにインパクトを例にとり、今の選手たちの長所短所を、澱みなく語っていただきました。森島寛晃のゴール前への飛び込みについて「トップスピードでゴール前に入り、一泊置いて、さらに再加速するじゃないですか」と私が語った際に、「そりゃ、いいところに目を付けはったな」と褒められたのは一生の宝物です。「なぜカズの前だけにボールがこぼれるのか」を語り合ったのも最高でした。最後は「まあ、運やな」ともおっしゃっていましたが。
人類が産んだ最高の玩具であるサッカーの楽しみ方と文章化を具体的に教授下さった大先輩でした。
恩返しのために、もっともっと一生を費やしてサッカーを楽んでいきます。ありがとうございました。
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック