2006年04月05日

関塚隆

 エルゴラッソ2006年4月5日号発売に掲載いただいた、関塚隆に関する文章です。

 本文にも書いていますが、もし全盛期と言っても過言ではなかった86年の重病による長期離脱がとても残念でした。当時の日本には珍しく、強さと速さと判断力のバランスが取れていたストライカでした。
(2007-9-27)



 川崎フロンターレの我那覇和樹が好調だ。元々、バランスの取れたストライカだったが、今シーズンに入りプレイの選択眼(シュート、キープ、突破などの選択の判断)が、一層適切になってきているように思える。そして、我那覇のプレイ振りを見ていると、約20年前に本田技研で活躍していたストライカ関塚隆のプレイ振りを思い出すのだ。

 関塚隆の名が知られるようになったのは、78年、関塚が八千代高校の3年生の時だった。八千代はこの年インタハイ準優勝、高校選手権3位の好成績(チームメートに、現女子U20代表監督の今泉守正氏がいた)。関塚は力強いドリブルが武器のウィングフォワードとして活躍、ユース代表候補にも選出された。
 関塚は、一浪を経て早稲田大学に進学、名将宮本征勝監督に出会う。当時の早稲田は、関塚が浪人を余儀なくされた事でわかる通り、推薦入学枠は限られており、優秀な選手を集める事ができなかった。そのような状況下で、宮本監督は関塚、吉田靖(現U20代表監督)、神戸清雄(元グアム代表監督)などの限られた有力選手を中心に、高校時代無名だった選手たちを厳しく鍛え、活動量と厳しい当たりを軸に良いチームを作った。関塚は高校時代の力強いドリブルに加え、ボールを持っていない時に非常に長い距離を走り味方のパスを受けて得点を決めるプレイが格段に上達、精神的にも粘り強いプレイで大学のトッププレイヤとして評価された。

 関塚は早稲田卒業後、宮本氏が監督に転進していた本田技研に加入。ルーキーシーズンの84年からセンタフォワードとして活躍、いきなり11得点(10チーム2回戦総当り)を上げる活躍(得点王レースの2位)で新人王に輝く。本田加入後、フィジカルが一層強くなり、プレイの選択眼が格段に向上した。
 85年に神戸で開催されたユニバーシアード代表にも選考され、2得点を決める活躍で、4位入賞に貢献する。このチームは地元開催と言う事もあり、大学卒業後の選手も相当数招集されている事実上のB代表チーム。チームメートには鈴木淳、松永成立、松田浩、勝矢寿延などがいた。
 85−86年シーズン、本田は勝矢−メシアス(80年代JSLを代表する名MF)−関塚の縦のラインを軸に、宮本氏が集め鍛えたフィジカルとスピードにすぐれた選手たちが周囲を固め、3位と好成績を収める。関塚自身も10得点と活躍。精神力、スピード、フィジカル、技術とバランスが取れたストライカに成長、A代表への選考も噂されるようになった。
 けれども、さらなる飛躍を期待されて臨んだ86−87年シーズン、関塚は脊椎分離症と言う病魔に襲われ戦線離脱。手術、リハビリを含め約1年を棒に振る事になる。20代半ばの全盛期の1年を失った事は痛恨で、ついにA代表入りは叶わなかった。
 復帰した関塚は、その後も本田で安定した活躍を見せる。90−91年シーズン、宮本氏の後任の今井雅隆氏に率いられた本田は、北澤豪、黒崎久志、本田泰人などの優秀な若手選手の活躍で再び3位に入るが、既にベテランの域に達していた関塚の出場の機会は相当減ってしまった。そして、シーズン後30歳で現役引退。JSL最終ゴールは、そのシーズンの終盤、上位争いをしていた日産との直接対決での終了間際の決勝点だった。

 引退後、関塚氏は早稲田大学の監督を経て、宮本氏が監督を務める鹿島、清水のコーチを歴任。その後、鹿島にコーチとして復帰、幾多の栄光に貢献する。そして04年シーズン、J1復帰を命題とする川崎フロントは、長く鹿島のコーチとして実績を積んでいた関塚氏を監督に招聘する。川崎フロントの慧眼はたちまち証明される。関塚氏率いる川崎は、圧倒的な強さでJ2を制覇し、J1復帰を決めたからだ。関塚川崎の勢いは止まらない。J1復帰後も川崎は見事なサッカーを見せ、上位を伺っている。
 関塚氏に宮本征勝氏の薫陶が相当な影響を与えてきた事は間違いない。そして、今の川崎も、チーム全体が献身的に戦うこと、活動量と強さを活かす事など、宮本氏直伝の良さが見受けられる。箕輪のパワフルな守備は勝矢を、中村憲剛の巧みな組立はメシアスを、そして我那覇のバランスあるストライカぶりは関塚をそれぞれ思い起こさせてくれるではないか。ただし、宮本氏は、技術のある選手をやや軽視する傾向があった。しかし、関塚氏は違う。ジュニーニョ、マルクスと言った技術的に高度な選手をも、巧く使いこなし、質の高いサッカーを見せてくれている。
 名将直伝のサッカーに、新たな知見を付け加えた美しいサッカーを見せる関塚隆氏の今後に注目していきたい。
posted by 武藤文雄 at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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