大相撲が深刻な事態に襲われている。言うまでも無く、時津風部屋でのリンチ殺人事件である。
冒頭に述べておくが、この事件は、朝青龍サッカー騒動とは全く質が異なる。朝青龍騒動は、単なる相撲界内部の内輪もめであり、誰に迷惑をかけた訳でもない。朝青龍が内規(巡業期間はオフではなく活動期間である事)を破り、それが中田英寿と取り巻きの金儲けに巻き込まれた事で公になり、その後処理を朝潮(高砂親方)が誤っただけの話である。まあ、サッカー人としては、爾後に発表された中田英寿の空気が読めないコメントは感心しなかったが、大変残念な事に既に彼はサッカー界の人間ではないのだし。
しかし、今回の時津風部屋事件は異なるのは言うまでもない。これは殺人事件である。しかも、被害者の知人による密室内で行なわれた、陰惨な殺人事件なのだ。
北の湖のおじぎの角度が浅いのが話題になったが、北の湖にが対応すべき問題は、おじぎの角度ではなく、過去の状況の明示化と、それに伴う未来への展開であるのは言うまでもない。
双津龍(時津風親方)の解雇、北の湖以下の理事の自主減俸などの処置が決定されたが、相撲界が行なわなければならないのは、そのような「トカゲの尻尾切り」ではない。
(1)時津風部屋で何が起こったのか
(2)過去類似の事件はあったのか
(3)今後これらの事件を無くすために何をするのか
(1)を司法当局に任すのは(悲しい事だが)起こってしまった事ではあり、仕方が無いかもしれない。しかし、(2)、(3)は相撲界にしかできない事だ。既に世論は(2)を当然の事実と見なし始めている。このまま事態を放置したら、(2)は既定の事実と見なされ、相撲界に入門する人間はいなくなってしまうくらいの危機的状況なのだ。事は人の生き死にの問題である。「人の噂も七十五日」は通用しないのだ。
初代貴ノ花(故人、2代目貴乃花、3代目若乃花(先日離婚報道)の父親)引退時に、二子山部屋の稽古風景がテレビで放映された事がある。当時まだ横綱にはなっていなかった隆の里(鳴門親方)が若い衆を徹底的にしごく映像が映し出された。先日来テレビで再三採り上げられている「ぶつかり稽古」。凄まじい迫力にちょっと驚いた記憶がある。横でニヤニヤ笑っている2代目若乃花(間垣親方)も印象的だったが。ちなみに、「隆の里に『かわいがられていた』若い衆は、実は初代貴ノ花の内弟子で...」と言う噂があったが真偽は不明。
北の湖、三重の海(武蔵川)、藤ノ川(伊勢の海)らが今しなければならない事は、このような過酷な鍛錬が「あくまでも鍛錬である事」を示す事である。そして示せないならば、過去の問題点を可能な範囲で抽出し反省点を明確にして、「徹底した再発防止」を行なう事である。当然ながら、外部の監査的な対応も必要だろう(大相撲界には幸いにして「横綱審議委員会」と言う外部の人間の公的組織があるのだが)。
私は大相撲が大好きだ。大相撲の魅力は、鍛え抜かれた力士の個性的な対決と、伝統の様式美にある。
幾度か国技館の桝席で生観戦をした事がある。原色で彩られた土俵周囲の美しさ、土俵入り、仕切り、勝ち名乗りなどの伝統的な姿勢。一方で鍛え抜かれた力士の技巧。それぞれの力士は、皆全く異なる個性を武器にしており、それぞれの相対関係は一瞬の立会いの差や駆け引きで大きく変わる。それでも数年に1人登場する、大鵬、北の湖、千代の富士、2代目貴乃花、朝青龍などの、群を抜く天才。
個人的には様式美はさておき、個性の激突は、サッカーとの類似性を感じている。各個人の特長がすぐわかるのは、サッカーも相撲も全く同じ。元々、私は幼少時サッカーの事などロクに知らなかった。もしかしたら私のサッカーに対する執念は、大相撲のテレビ観戦が基礎になっているかもしれない。
このまま事態を放置しておくと、大相撲は消えてしまうのではないか。最近の北の湖の振る舞いを見ていると、その危機感の欠如に苛立つのだ。
2007年10月05日
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国技で全国放送とはいえ、学校問題と比較すると相撲協会は市町村の教育委員会レベルにも及ばず昔ながらの演歌の営業と似たような日本的興行で成り立っているテキ屋の元締めと同レベルというのが今回の殺人事件で明らかになりました。
出店と元締めという各々の立場で、出店の「内々の問題」になんで元締めが関わらなきゃいけねーんだ、という「組織論」とは別次元のお話。
3ヶ月前の殺人事件は朝青龍問題が起こる以前に消えかけました。以降、協会の対応はその時々でどちらに重点が置かれるのかがマスコミの報道といかに同調していたか。
にもかかわらず、未だ「会友」「フジへの規制」とメディアをコントールできると思っている協会。
ナカタ出演の番組に見えるように、独占した上にまともなインタビュアー・ジャーナリストを使わないメディア。
レベル低いもん同士でもそれぞれに後ろ盾があるので変らずでしょう。
三重の海 × → ○ 三重ノ海
伊勢の海 × → ○ 伊勢ノ海
角界の「かわいがり」については、活字化しているものでも、かなりすさまじい話が伝わっています。
大相撲は300年くらいやっていて、良い時と悪い時が交代で来ていて、悪い時はそれなりに柔軟に改革をしてきたのだが、今回の危機は明治維新直後のそれに匹敵するかもしれません。
新弟子が集まらない。
今回の事件も第一報の後、入門予定者のキャンセルがあったと聞きますし。
相撲に恨みはないが、このドタバタを横目でにらみつつ、体格と運動能力に優れた人材がサッカー(ついでにラグビーも,W杯もやってるし)に来てくれるように、視界は努力すべきだと思う。