2007年12月22日

拡大トヨタカップ 2007年12月16日の満喫 その2 欧羅巴対南亜米利加

 ボカとトヨタカップと言えば、00年、01年、03年とカルロス・ビアンキ氏に率いられたチームが、欧州の金満クラブに対し、知的かつ陰険に守備を固め、リケルメの巧技(03年はテベス、ただし負傷で終盤に起用されたのみだったが)を軸にしたカウンタで悩ませた印象が強過ぎる。さらに拡大トヨタカップになった以降の2年間、サンパウロ、インテルナシオナールと言うブラジルの名門が素晴らしい組織守備で、リバプール、バルセロナの欧州の巨人を完封している(この欧州の2大名門クラブは未だ「世界一」の栄冠を獲得していていないのだ!)。
 となれば、この日もエトワール戦で見せた組織的な守備で、ボカがミランをいかに悩ませるかと言う試合を予測していた。その予測はよい方向に完璧に裏切られた。ボカが攻めに出たのだ。
 トヨタカップの歴史を振り返っても、90年代半ばボスマン判決以降欧州の金満クラブが大量に選手をかき集めるようになる前を含め、「攻め」に出たチームは数少ない。81年のジーコのフラメンゴ、85年史上最高のトヨタカップのアルヘンチノス・ジュニアーズ、そして92,93年のテレ・サンタナのサンパウロくらいではなかろうか。むしろ80年代は南米のチームは、欧州よりも戦闘能力が高い事が多かった。それにも関わらず、しっかりと守備を固め確実に勝利を狙うチームが多かったのだ。これは上記のビアンキ氏のボカや、ここ2年のブラジルの名門の「戦闘能力は劣るが工夫で対抗するために守備を固める」策とは全く異なるものだった。
 と言う事で、ボカの「攻め」には驚かされた。いかにもアルゼンチンらしい、角度をつけた短く強いパスでミランの強力MFのチェックを外し、最終ラインまで攻め込む。アンブロジーニ、ガットゥーゾの厳重な守備網を抜け出したところで、セリエAのクラブも欧州チャンピオンズリーグのトップチームも、パスの精度が崩れてしまう。ところが、ボカの各選手は中盤の密集を抜け出した後も精度が崩れないのだ。ネスタとカラーゼを前に、ギリギリのスペースを狙った突破を挙行、パスのタイミング、ちょっとした溜め、そして強さと精度、相当数の「後一歩」の場面を作った。このボカの攻撃は見ていて本当に面白かった。
 78年のメノッティ氏が作り上げた芸術、85年のホセ・ジュディカ氏率いるアルヘンチノス、94年ディエゴ麻薬が明らかになる前のアルフィオ・バシーレ氏が作り上げた超攻撃的なチーム。アルゼンチンが本腰を入れて攻撃的なサッカーを試行した時の美しさは、何とも言えないものがある。そして、この日のボカはそのような偉大な先達を思わせる意欲でミラン陣内に攻め込んだ。さらに短いパスでの攻め込みを有効にするのはしっかりした押し上げ、ミランがはね返しても適切な読みでこぼれ球を拾い、連続攻撃を仕掛ける。
 強いチームに対して、攻撃的に戦い敵にペースを渡さないように攻め切ってしまうのは、1つの有力な策である。ただし、攻め切る事ができれば。そして、ボカの意欲は素晴らしかったし、野次馬としてはその美しい攻撃を愉しめたのだから、文句を言う筋合いはないのだが、ボカのこの日の相手はイタリアの名門中の名門だった。攻撃的なチームが攻め切る事が最も難しいイタリアの。

 前半20分あたりまでボカの美しい攻撃に感心しながらも、あの前掛り振りは、典型的な敵カウンタの好餌になるのではないかなあと思い始めた。もちろん、しっかりとした押上げがあるのでそうは悪い形ではボールを奪われないのだが、何せカカなのだ。ボカのゾーンディフェンスは4DFの前にトレスボランチの形で選手が並ぶのが特徴だが、短いパスでの攻め込みには4,5人の人数をかける必要があるし、そこをフォローするために押し上げれば、どうしてもきれいな7人のラインは崩れる事がある。その僅かなバランスの崩れをカカは巧みな位置取りで突く。そして、イタリアのトップ選手達はボールを奪った瞬間の切替の早さは世界一、そのカカの一瞬を逃さない。それでもボカの守備は相当数残っているのだが、1度フリーになったカカは簡単には止められない。
 1点目はカカの突破をかろうじてブロックしたが、こぼれ球を拾われ、逆サイド側に逃げる動きをするインザギをキッチリと視野に入れられてしまう。それにしてもVTRで幾度もこの場面を見直したが、カカは一体いつインザギを視野に捉えたのだろうか。
 2点目はインザギの狡猾なつぶれから。このようなセットプレイの嫌らしさも正にイタリア。
 3点目に至っては、ガットゥーゾ?の縦パスをカカが受けた時は2対5くらいの状態。それでもフリーで縦に入るカカの強烈な突破、外に開いてボカDFを引き付けるインザギの巧妙な動き。何かカカが挙動を開始した瞬間に点が入る気がしたが、本当にそうなっちゃった。カカ凄いな。
 4点目は完全前掛りに対する速攻で、もうどうしようもない。
 結局ボカは攻め切れなかった事と、インザギの老獪な動きを止められなかった事が敗因となった。カカをとめられないのはある意味どうしようもないし。そう考えると、多くのタレントが欧州に流出してしまっているアルゼンチンのクラブが、純アルゼンチン風攻撃サッカーで欧州金満クラブを破るのは難しいと言う身も蓋もない結論になってしまうが。確かに立ち上がりのボカの攻撃は本当に美しかったが、ネスタとカラーゼを大慌てさせるまでには至らなかった。最後ペナルティエリアに入るところで、もう一工夫が足りないのだ。前半の同点弾はショートコーナを巧く使った狡猾なプレイだったが、
 あの85年のアルヘンチノスにしても、若きスーパースター候補クラウディオ・ボルギ(候補で終わってしまったのはあまりに残念だったのだが、あの素晴らしいボルギがガエタノ・シレアやアントニオ・カブリニを真っ青にするのを見られた私達は本当に幸せだったのだ)、翌年このアルヘンチノスとは全く正反対の守備的なサッカーで世界チャンピオンになるチームの中核を担ったセルヒオ・バチスタ、78年ワールドカップ当時は精力的なサイドバックだったホルヘ・オルギン(この試合では老獪なセンタバックを務めた、後にアビスパの監督として来日)、と言ったアルゼンチンのトップ選手がいたのだ。パタグリアもパレルモも素晴らしい選手だがその域には達していないと言う事だろうか(もっともエトワール戦の得点時のパレルモの裏を突くパスは凄かったけれど)。
 しかし、野次馬としては、この日のボカのサッカーはとても興奮させられるものだったし、ブラジルのトップスターを前面に押し出すミランのイタリア風逆襲速攻も存分に堪能した。本当に面白い試合だった。
posted by 武藤文雄 at 23:50| Comment(1) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも楽しく拝見しております。

> カルロス・ビアンキ氏に率いられたチームが、欧州の金満クラブに対し、知的かつ陰険に守備を固め

べレスを思い出しますねえ。もっともあのチームは、知的でも陰険でもなく、守ってカウンター一発!あとはゲームを壊すだけのチームだったような気がします。
奇しくもミランが相手でしたね。あの時のミランは酷かった憶えがありますが。

ちなみに今回ミランがアルゼンチンのクラブに勝てた理由は「コスタクルタがいなかったから」です!

センスのないジョーク、お許しを。
Posted by へたれ京都サポ at 2007年12月25日 01:25
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