2008年01月31日

仕上がりが早過ぎるのが唯一の心配

 とにかくオシム爺さんが、あそこまで回復した事を喜びたい。あのオーロラビジョンに映った笑顔を見る事ができたので十分だ。試合前には「この寒い中、衆人の中に登場しTVカメラが向けられるのはいかがか」とも思っていたが、考えてみれば医師団が観戦を許可したのだろうから、素直に回復を喜ぶべきなのだろう。ご本人だって、この試合は現場で見たかったよな。あの笑顔を見る事ができたのだから、これ以上の贅沢を言う事が無いように己を律したい。

 チリ戦との大きな違いは2点。チリと異なりボスニアは組織的なプレスがやや弱かった事。そして、内田がこの日は勇気を見せて再三敵陣に進出した事だ。内田が前進する事ができたのは、経験の賜物なのか、敵のプレスが弱かったためなのかは、議論が別れるかもしれないけれど。とは言え、結果的にこの2点により、すっかり余裕を持った憲剛が面白いようにロングパスを繰り出し、日本ペースに。A代表2試合目でこれだけできれば、内田は評価すべきだろう。で、タイ戦は内田なのか、加地なのか、極めて興味深いな。しかしねえ、あの30分過ぎに憲剛のサイドチェンジからフリーで抜け出した場面ではシュートを打てよ。あの元日の一撃を君は忘れてしまったのか。
 巻は不運の負傷で早々に交替。しかし、この日の調子も悪くなかった。相変わらずゴリゴリと身体ごとのしかかる前線での頑張りは非常に有効。大久保の直前でボールキープしていたDFに対して、後方から素晴らしいウェーブの動きで大久保を追い越し、プレスをかけに行った場面は、正に面目躍如。この頑健なFWは、アジア中を悩ませ続けるに違いない。
 巻に代わって入った山瀬(おそらく岡田氏は、タイ戦のオプションとして後半アタマあたりから高原あたりに代えて山瀬を入れた布陣にする構想だったのではないか、それが巻の負傷で早まったのだと見た)。2得点1アシストと大活躍だった。チリ戦終盤に起用された際は、目立った引き出しを見せる事ができなかったが、この日は遠藤と憲剛が組み立て、高原がキープし大久保が突破する状況で、彼らのど真ん中から挙動を開始して最前線に進出するプレイを要求され、見事にその期待に応えた。惨敗に終わったアルゼンチンワールドユースで最も質の高いプレイを見せ、岡田氏率いるコンサドーレで活躍していた頃は、この日のような2列目からの前進が魅力的な選手だった。しかし、レッズ、マリノスと言ったトップクラブに移籍するやキックのタイミングや溜めが格段に成長、自らが展開する選手として機能していた。ために、「2列目からの前進」と言う若い頃からの特長が前面にあまり出てこなくなっていた。しかし、売り込み時代の恩師の下でプレイしたこの日は、かつての良さを、格段に向上した技巧と言う基盤の上に見せてくれた訳だ。2得点とも、周囲の演出により、全くフリーの状態で落ち着いて決めたもの。しかし、全くのフリーでボールを受ける位置取りの良さ、そしてその状態で冷静で正確にボールを敵陣に流し込む技巧の高さは大したものだ。大体、日本代表史上において、全くフリーのシュートを確実に決める事のできる選手は非常に少なかったではないか。期待は高まる。
 大久保は序盤はトップ下で、巻交替後はトップでそれぞれ能力を発揮した。2試合で無得点は不満だし、少し動き過ぎて敵陣から離れてしまうのも気になったが、とにかく後方から良好なフィードを受ければ、突破に入れるのは魅力的。この男が高原と2トップを組むのは、ジーコ就任直後2003年の灼熱のコンフェデレーションカップ以来か。随分時間がかかったが、そろそろ完成して欲しいものだ。
 久々の楢崎も上々のプレイ。と言う程活躍の機会はなかったのだが。とは言え、前半の阿部の信じがたい大チョンボ後の敵シュートを冷静に処理した場面は絶品。安定感も十分、岡田氏はタイ戦にどちらを選ぶのか。しかし、あの阿部にはビックリしたね。さすがの中澤も他の選手なら「万が一」を想定するかもしれないが、最も信頼するパートナの阿部があんなおバカをするとは思っていなかっただろうな。
 終盤起用された播戸。あの時間帯まで日本の猛攻で疲労困憊していたボスニアDF陣に襲いかかった。日本のMFがボールを持って前を向いた瞬間に敵DFラインぎりぎりでボールを要求するストライカ。2点目は播戸の狡猾な動きで敵CBが無力化、後方から進出した山瀬は大久保のスルーパスを楽々受ける事ができた。3点目は、羽生交替直後で敵DFの集中が切れかけたところで、今野の高精度クロスを敵CB2枚引き連れて競り勝ち、山瀬に落とす事に成功。正にスーパーサブの面目躍如。高原、大久保、山瀬と言った正当な攻撃タレントに対しながら、巻のプレッシャに辟易し、疲労を重ねた敵DF陣が、終盤起用された播戸に粉砕されるストーリが完成しつつある。
 1−0でリードした場面で当然のように起用された今野。守備を固めるオプション要員であるのに加え、DF各ポジションに負傷が出た場合の貴重なバックアップ(いや、水本も見たいのだけれどもね)。しかし、起用されるとこの男はバックアップにとどまらない。再三見事なインタセプトを見せ、強烈な押上げを見せる。幾度か好機の起点になり、とうとう3点目の起点にもなってしまった。たまにはスタメンで見たい。
 となると、初めて代表チームで腕章を巻いた啓太についても語らなければなるまい。この男には腕章がよく似合う。常に戦い続け、プレイでチームメートを鼓舞できる希有な人材。堂々たるキャプテン振りだった。しかし、私は敢えて啓太に腕章を任せる選択をした岡田氏に疑問を呈したい。啓太は腕章を巻いても巻かなくとも、常に最大限のプレイを見せる。それよりは、代表の腕章を巻く事で一層の自覚を持ちアジア最高峰の選手である事を証明して欲しい選手がこのチームには複数いる。そのようなタレントに腕章を託してもよいのではないか。繰り返すが、啓太は素晴らしいキャプテンである。しかし、啓太はキャプテンを務めなくても素晴らしいのだ。

 まあ上記したチョンボを除いて阿部は堅実に守備を固めていた。高原はまだ重そうだが、タイ戦には合わせて来るのだろう。駒野は相変わらず堅実にサイドを固め、崩し続けた。遠藤も少し重めだが、相変わらず汚い仕事もきれいな仕事も、しっかりこなす。憲剛はピークが早過ぎるのが心配になるが、あれだけの高精度なサイドチェンジやロングパスを通してくれるのだから、不満はない。中澤は、高原がまだ重いとよく見て取り、先代エースストライカの役割をしっかり果たしてくれた。
 文句を言う筋合いではない事はわかってはいるが、新監督でここまで短期的にチームが仕上っているのが、理屈抜きに何か心配になってしまうのが、唯一の心配か。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(5) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
良くもなくば、悪くもない。
今のところは、まずまずというところでしょう。

単純に宮本が阿部に変わっただけかもしれないですが、阿部を本職ではないCBで使う以上、あのような事は織り込んでおいた方がよさそうです。

千葉の連中、特に、巻は(使いどころが)試合展開に左右されるので、本当に使い方次第です。

Posted by 徒然 at 2008年02月01日 12:05
別に岡田さんは啓太を発奮させようとしてキャプテンマークを渡したわけじゃないと思いますが。
Posted by beat at 2008年02月01日 18:28
幡戸 ではなく 播戸 だと思われます。
お時間ある時に訂正してあげて下さい。
Posted by ジュビサポ@ベガ市在住 at 2008年02月01日 19:18
いつも楽しく拝見させていただいております。


2点目の大久保→山瀬の場面。
オフサイドポジションからゆっくり戻るバンドと
入れ替わるように飛び出した山瀬。

見た瞬間に武藤さんのこちらのエントリを思い出しました。

http://hsyf610muto.seesaa.net/article/32758918.html

代表でも練習してたんでしょうか。
Posted by at 2008年02月02日 01:08
未だに阿部をCBが本職でないから…という方は多いですが、
もはやCBとしての経験と実績は、それなりの日本人DFよりも遥かに豊富な選手です。
そもそも阿部は最初にジェフでレギュラーとったときもストッパーでしたし、
そういう素質と能力を若い頃から持っていたわけです。
だから、そんなエクスキューズはダメでしょう。DFとしてきちんと正当な評価すべきです。


>徒然さま
千葉の連中、とは?
今の代表に千葉の選手は巻しかいないのですが。
Posted by at 2008年02月02日 17:53
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック