1999年10月06日

楽観以外何もなし ー韓国戦の快感と五輪最終予選展望−

 シドニー最終予選直前に、トルシェ氏率いる五輪代表が、韓国にホームでもアウェイでも快勝した直後に、大喜びで書いた文章です。内容も素晴らしく、実に気持ちのよい連戦でした。
 考えてみれば、たかが五輪代表の準備試合に欧州でプレイしていた中田英寿が帰国してプレイしていたのは凄いなと。まあ、その後の中田英寿周辺のビジネスへの姿勢を考えるとなるほどとも思う訳ですが。

(2008年2月11日)


 確かにつまらない精神論で「油断禁物」 を説く人も多いようだ。しかし、選手たち全員が食中毒で倒れない限り (もっとも現在の選手たちが皆倒れても、吉原、藤本、 松田を軸にしたチームを急いで作れば予選突破は可能ではないか、 終盤には小野も間に合うし)、 我々は既にシドニーへの参加権を手にしたも同然と見る。韓国への2連勝、 カザフ対タイの内容を見て、それは確認された。日本から見て相対的にカザフ、 タイの戦闘能力は相対的に明らかに落ちる。 
 本稿では、韓国への2連勝(とにもかくにもこの隣国へのH&Aの2連勝は、 五輪予選とは切り離して素直に喜びたい)を軸に、 (議論するも無意味なように思える)五輪最終予選の展望を行う。 現状のA代表と五輪チームの錯綜とした関係、2002年への展望 (こちらは楽観的な気持ちではないのだが)は、 別な機会に論じたいと思う。 
 ただし、最初に断っておこう。 私の日本に対する楽観的な予想は当たった試しがないのだが...。

1.韓国に4点差と言う事実     
 そもそも偉大な隣国に対する屈折した私たちの想いは、 佐山一郎氏がサッカーマガジン9/29号で鮮やかに代弁してくれている。 特に遠藤のゴール以降は、 韓国との4点差と言う信じ難い事実に酔う実に甘美な30分間だった。 
 ゴールも素晴らしかった。小柄な酒井が、 技巧とフィジカルで大柄な韓国選手を打ち破って出した好パスを鋭角に打ち込んだ福田。 なんと美しい低い弾道だろう。 あのような鋭角に強力なシュートを決めるストライカは、 ドイツに行く前の奥寺以来ではなかろうか。 
 そしてあの4点目。いいように敵をゆさぶり、 最後は全くフリーの遠藤が冷静に決めた。 ここまで完璧に敵を崩したゴールはそうは生まれない。 96年夏のウルグアイ戦、山口、名波の崩しから前園のスルーパスが相馬に通り、 最後カズがヘッドで決めたあの美しいゴール。あるいは97年ソウル、 開始早々に中田を基点に名波、 相馬とつなぎ最後フリーの名波が冷静に叩き込んだあの完璧なゴール。 これらに匹敵する鮮やかなゴールだった。このゴールを、 「中田が敵を引き付けたから」 と言う安易な表現で語る人を私は心の底から気の毒に思う。 
 結果的に4−1で終わってしまい74年の日韓定期戦を「超える」 事は出来なかった訳だが、それはそれでいい。 それ以上の結果を今後に期待するタノシミが先に伸びたのだから。 ホンネでは相当悔しい。それにしても、明神の馬鹿たれ。

2.アウェイでの実力差     
 さらにソウルでの完勝。 確かに韓国がいくつかあった好機を決めていれば結果は違っていたかもしれない (それは東京でも同じであるが)。しかし、 双方に様々な運不運が交錯したこの試合だが、 最終的には両チームの現在の戦闘能力差が明暗を分けた試合だと見た。 
 前半の立ち上がり以外は、 中盤の戦闘能力差によりジリジリとペースをつかんでいた日本だが、 (A代表の時とは違い)五輪代表では采配が冴え渡るトルシェ氏が満を持して、 福田を起用し、中村を中盤の前に置いた以降は、ほぼ完全に試合を支配していた。 確かにあのゴールは韓国DFのミスが基点となった。しかし、 言い換えればそれまでの時間帯日本のパスワークに幻惑されて疲れきった韓国の守備ラインが、 得点モードに入った日本のプレッシャーに耐え切れず、 破綻したと言うことである。 
 それにしても、 U−23なりU−20チームでのトルシェ氏の采配の見事さには感服する。 ソウルでは終盤攻めに出た切れ味が鮮やかだったが、東京ではリードしながら、 ジリジリと守備的な布陣に切り替える巧みさに感心した。中でも、 酒井と明神の交替、小笠原の使い方にはうならされた。 この切れ味がどうしてA代表で...と言う愚痴は別途。 
 いずれにせよ、韓国は屈辱的にも、地元で単なる実力負けを喫したのだ。 強いチームがじっくりと闘い、(相対的に)弱い相手に勝ったのだ。かつて、 同じパターンで何回韓国にやられた事か。ざまあみろ。それにしても、 よくやった明神。

3.韓国への提案     
 韓国サッカー界には、 速やかに大学サッカーの廃止を勧めたい。 
 過去再三述べてきた事だが、 Jリーグが作られて日本代表チームの強化に直接役立った要因は2つあると考えている。 一つはジーコを筆頭とする、本物のトッププロの来日による刺激や学習である。 秋田や名波はジーコやドゥンガなしには、 あそこまでのレベルには到達しなかったろう。 そして今一つは、ユースクラスのトッププレイヤーたちが、 大学に進学せず、トップリーグへそのまま加入する事になったことだ。 5年以上前では(今では信じられない事だが)ユースクラス(つまり高校生) のトッププレイヤーのほとんど(名波、秋田、相馬らの世代まで)は、 大学チームへ加入していた。 
 不思議な事に、Kリーグがあると言うのに韓国では、 U−23のほとんどの選手が大学に所属している (日本以上に学歴社会であるためだろうか)。しかし、 選手の成長は練習でなく試合でなされるものだ。 若く有為なタレントがトップリーグでプレイしない痛手は大きい。 
 したがって、今回日本に苦杯を喫した選手たちを、 皆その責任を取って退学させてしまいKリーグのドラフトにかけるだけで、 一気に日韓の戦闘能力差は縮まるであろう。日本がワールドカップで上位進出、 そして未来のいつの日か優勝を狙うためには、隣国の韓国が強い方が都合がいい。 是非、鄭夢周氏の英断を望みたい。

4.中田に一言     
 東京での中田については、皆が絶賛している。 もちろんよい出来だった事は否定しない。中田の加入で、 小野や中村のゲーム作りにはない「展開の広さ」が加わった事も間違いない。 
 しかし、私は一言中田に苦言を呈したいのだ。それは、 この試合複数回にわたって、 足元にボールをキープし周囲をルックアップしている際に、 実に淡白にボールを奪われた場面があったことだ。 結果として失点にはつながらなかった。しかし、 1回のみならずこのような場面があった事実は否定できない。 困ったことに、日本のマスコミはこの問題を誰も取り上げないのだが... 
 もっとも、中田にすれば、ペルージャと異なり、 回りのチームメートの技巧が十分に信頼できるので、 思わず油断したのかもしれないが。

5.MFがフィジカルでも圧倒     
 「オフト以降」において、 日本は韓国にどのレベルの試合でも、それほど劣勢になることはなかった。 結果として、両国の闘いは、韓国がフィジカルのよさで日本を押し込むか、 日本が技巧の差で韓国をかわすか、が勝負の分かれ目になった。 
 典型的な例は97年東京でのワールドカップ予選である。 あの日のレフェリーは(今思い出しても腹が立つが) 地元に優位ではない極めてフェアな笛を吹いた。ただし、 その基準がボディアタックに対してかなり甘めだった。結果として、 名波が韓国選手に踏み潰され(つまりフィジカル面の差が強調され)、 加茂氏独自の交替劇などもあり苦杯を喫したのである。 
 ところが、この2試合を見る限り、 フィジカル面での遜色がほとんど感じられなかった。 特に中盤の攻防において、その印象は強い。中田、稲本、 そして労働者明神が「強い」のは当然の事として、遠藤はもちろん、 細身の中村、小柄な酒井も、ボディコンタクトで一切の遜色は感じられなかった。 
 特に上記したが、東京での1点めの酒井は忘れ難い。 CK崩れから腰の低いボールキープで守備者を吹っ飛ばしたからだ。 恥ずかしい話だが、私は翌朝のニュース画面を見るまで、 そのフィジカルの強さから、あのラストパスを出したのは稲本だと思い込んでいた。 酒井君、ごめんなさい。

6.今後の日韓関係     
 一般に 「今のU−23の選手たちは韓国への劣等感はない」などと言われている。 本当にそうだろうか。宮本、柳沢の時も、小野、高原の時も、 アジアユースでは韓国に苦杯を喫しているのだ (その後のワールドユースで韓国より日本がより上位に入っている事は事実だが)。 また中田でさえも、前回の五輪予選決勝で韓国にしてやられている (もっとも中田は監督が自分をまともに使わなかったからだと思っているだろうが)。 結果論として、韓国は何となく相性の悪さを感じる相手だった。 韓国に文句無く連勝したことそのものは、やはり「歴史的快挙」なのである。 初めての快感をやはり素直に喜びたい。 
 もっとも、上記の苦杯に共通している事は、 「負けてもどうと言う事ない試合」 だったと言う事でもあることは付け加えておく必要があろうが。 
 少なくとも現時点のU−23については、我々は完璧に韓国より優位にある。 今後、その時代ごとの選手の質(ブラジルの格言:サッカー選手は葡萄酒と同じ、 よい葡萄が多数取れる年もあれば、そうでない年もある)により、 同等の闘いを演じたり、片方が優位なこともあるだろう。日韓両国は、 (ブラジルとアルゼンチンのように)アジアの強国として、 完全に切磋琢磨する2強として君臨する時代が来たのだ。

7.五輪予選、負ける可能性     
 サッカーとは、偶然と必然が相見える、 極めて不条理な勝負事である。では、 不運が重なってシドニーに行かれない事はあるのだろうか。私はないと思う。 それほど日本は優位にあると思うのだ。 
 日本にとって(あくまでも相対的にだが)もっとも難しい試合は、 アウェイのカザフ戦だろう。しかし、既にカザフ対タイを見たわけだが、 戦闘能力ではカザフは(もちろんタイも)明らかに日本より落ちる。 
 カザフで気になるのは、同等レベルの複数チームを相手にした難しい1次予選を、 しっかり勝ち進んだ手堅さと、 ワールドユース出場などに見られる若年層強化に成功している点である。ところが、(絶対勝ち点3を上げる必要があると言う意味では日本戦より) 重要な初戦のホームのタイ戦に引き分けた以上、 カザフの望みはほとんどなくなったと言ってもいいだろう。10月9日のカザフ−日本戦で、日本になにがしかの不運が重なれば、 日本が思うように点が取れない状況はあり得るだろう(もちろん、 中田がいるのだから、カザフがそれほどは持ちこたえられないような気がするが)。 そうこうして、後半半ばすぎまでズルズル進み、日本DFが間抜けたミスをし (例えばラインを浅く維持する事に宮本が拘泥し、 あえなくウラをつかれるケースなど)、 不運な失点をしてしまう場合はあるかもしれない。そうなって、 思わぬ敗戦を喫するケースまでは否定しない (つまりアトランタの初戦でブラジルが喫した失敗の再現、 カザフと日本の間にはあそこまで戦闘能力に差がない事も事実ではあるし)。 しかし、もしそうなったとしても、それがどうしたと言うのだろうか。 その後の3試合を3連勝すればよいだけの話ではないか。それでトップ通過である。 
 タイについては、そこそこ守りを固めてきても、 最後の最後フィジカルで叩き潰す作戦を取ることができる。しかも、 技巧についても当方が上回っている事は言うまでもあるまい。 
 そして、上述のようにU−23において冴え渡るトルシェ采配。 
 つまり、シドニーに行かれない状況がどうしても思いつかないのだ。 
 後は、珍しく自分の予想が的中する事を祈って、 気楽に真剣勝負を楽しむ事としたい。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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