2008年02月19日

安田理大の「またぎ」

 安田理大が、嬉しそうな表情でフィールドに入ったてから、まだ数分しか経っていなかった。安田が左サイドで「またぎ」を見せた時。何か言葉にならない「期待」を感じた。そして、その「期待」は見事に的中した。新進気鋭の若者が、堂々とした個人技でA代表マッチのデビューを飾るなど、そうは見る事のできない。あの伸び切りの姿勢からのセンタリングの軌跡を思い起こすだけで、この試合の映像を見た価値は十二分にあった。

 北朝鮮は先日敵地でヨルダンに勝っているのだから、そう弱いチームの訳がない。66年のワールドカップでの成果を含め、アジアでは屈指のサッカー強国の歴史を持つ。伝統的に縦に出て行く速さを持つ選手が多く、個々の選手の判断力も中々だ。問題は、国策のためだろうが、ワールドカップ予選やアジアカップなど重要なタイトルマッチを棄権する事が多く、選手がしっかりと試合経験を積めない事にある。しかし、ここ最近の傾向として、日本で生まれ育った選手がチームに独特のリズムを与え、変化をつける事がチーム強化につながっている感がある(80年代に北朝鮮代表で活躍していた在日選手が、外から見てもあまりプレイスタイルが他の選手とは違う印象を感じさせなかったが、最近の選手には「違い」を感じるのは何故なのだろうか)。
 そう考えれば、主軸の多くを欠くこの試合が、決して楽なものにならない事は容易に想像できた。テレビのアナウンサのヒステリックな連呼については諦めているが、各種の報道やBLOGでも試合前後に北朝鮮を完全に見下げた表現を見受けられるのはいかがなものだろうか。また「北朝鮮が中国より弱い」と言う表現もよくわからない。ワールドカップ本大会の歴史云々とまで言う気はないが、最近の実績だけを考慮しても、とても「中国>北朝鮮」と言う不等式は書けないと思うのだが。
 ともあれ、引き分けと言う結果は残念だったし、内容も不満が無いわけではなかった。しかし、川淵会長や一部のマスコミ関係者やブロガ達が、この試合に非難轟々なのは理解できない。上記の安田のまたぎも、逆サイドの内田の奮戦も、遠藤の技巧的なゲームメークも、存分に私には愉める試合だったのだが。

 立ち上がりに敢え無くCK崩れから鄭大世に中央突破され失点。
 まず、鄭の巧みな反転を許した水本は猛省を。確かに鄭はよい選手だし、この試合への意欲も十分。しかし、同じリーグ戦でクセもわかっている選手に、ああも易々と鄭にやられた水本は自覚が足りないとしか言いようがない。水本への期待は単に若手の有力なCB程度ではない。南アフリカで闘莉王と中澤のいずれかをベンチに追いやる事なのだ。あの1点を食らった場面で交代させるくらいの懲罰を与えてもよかった位だ(岩政も体調不良との情報も聞いたので、代わりがいないような気もするが)。以降も2度ほど、水本は鄭に入れ代わりを許し、中澤の助けを求めた場面があったのも気に入らない。
 一方の得点場面以降も、鄭はワントップでボールをよく収め見事な活躍、完璧に北朝鮮の中核として活躍した。フッキの復活で、フロンターレでは控えに回るのではないかと言われているが、関塚氏にも相当なアピールになったのではないか。鄭の調子が継続すれば、2010年北朝鮮の「44年振り」が現実的な目標となってくるだろう。唯一の不安は、昨シーズン天皇杯準決勝まで戦ったにも関わらず、2月中旬のこの時期にここまで体調がよくて大丈夫かと言う事くらいか。

 日本は序盤劣勢を余儀なくされた。
 要因はチームのバランスが悪かった事だろう。憲剛が発熱したと言う事で、中盤は啓太、遠藤、羽生、山岸、トップは田代と播戸。前の6人に技巧派が少な過ぎる事で、立ち上がりに北朝鮮が元気良くプレスをかけてきたのをかわし切れなかった事にあったと見た。山瀬の体調も今一歩だったようだが、せめて前田を開始から出していれば、問題は随分と解決したと思うのだが。こうなると、オシム氏以降1度も招集される機会がない小笠原が気になってきたりして。
 少々バランスが崩れたこの布陣で戦った事で、羽生と山岸の差が一層明らかになった。
 山岸はもう厳しいのではないか。よく動いて引き出そうとするのだが、受けようとする場所が敵陣近くではないのでクサビ的な効果は薄いし、オープンで受けても勝負をしようとしないし。確かに大久保や山瀬や羽生に無い体重と言う魅力のある選手なのだが、気が弱いのだろうか。いっそもう1枚下げて、人材難の左サイドバックに起用するのも一案か。案外大枚をはたいて山岸を購入したフロンターレの狙いはそこかと、好調の鄭大世を見ながら思ったりして。
 羽生は存在感をアピール。この選手は山岸と異なり、ボールを引き出してからシゴトをはっきりと狙ってくれるので機能する。もう少しシュートやラストパスを急がずに蹴るリズムを身につければ(これは20代後半に入ってからも可能なはず)非常に面白い存在になると思う。山瀬との並用なども面白いと思うのだが。

 とは言え、遠藤が冷静にボールを散らす事で、日本がペースを次第に確保する。遠藤は、憲剛がいない分、溜めも展開も一手に引き受ける事になり、古典的なゲームメーカとして活躍。何の脈絡もないが、74年のオヴェラーツを思い出した。啓太がボンホフ、羽生がへーネス。
 評価されるべきは内田。A代表4試合目でようやく地位を確保した感。守備面では、早い位置取りの修正を見せ、前進しても再三攻撃の起点となっていた。重要な事は、啓太、遠藤、羽生らが内田が右サイドでキープした際に、しばしば追い越しなり後方のフォローアップを、機能的に行なっていた事。これらの動きは、タイ戦までは思うように見られなかったのだが。内田は、ようやく海千山千のタレントの信頼を得たとも言える。
 一方逆サイドで加地が慣れぬ左サイドで苦戦を継続していた。前半の加地の苦闘を見て「幾ら何でもこれは無理だろう」と思っていたのだが、岡田氏はヒネリを加えてきた。安田を山岸に代え、MFで起用したきたのだ。以降の加地の活躍は面白かった。ドリブルで中に進出するのが好きな安田と巧くバランスを取り、時に左サイド、時にセンタバック、時に啓太をカバーするボランチ。昨年のナビスコ決勝で、西野氏が3DFの一角に加地を起用したのを、ちょっと思い出した。日本には珍しい脚力と身体の強さを前面に出せるこのタレントは、岡田氏の下相当多用な労働で貢献してくれそうな息吹を感じる事ができた。若い頃はその守備の拙さで我々を悩ませたタレントがこのように成熟してくるのは実に愉しい。一方で、加地のフラストレーションは相当だろうな。終盤まで難しい仕事をさせられ、ようやくライバルでもある駒野が起用され「得意の右サイドに行ける」と思ったら、駒野が右サイドに。案外今シーズンは、岡田氏と西野氏が、競って加地に色々な仕事を強要するシーズンになるのかもしれない。
 もっとも、岡田氏が安田を1枚前に起用したのは、単に負傷者続出だったためのようにも思えるが。

 トップで起用された3人。
 播戸はよかった。時に両翼に開き、好機を演出。内田を軸にした右サイドからのクロスにも巧く合わせ、再三好機を掴んだ。とにかくこの選手は、常に敵陣を狙い、工夫する姿勢が素晴らしい。素早いクロスが、田代には合わず、播戸に合いそうになるのは偶然には思えない。播戸としては、「敵DF陣が疲弊する終盤までフィールドにいられれば」と思った事だろうが。
 田代は微妙。後半半ばに前田が準備した時は、当然田代が代えられると思っていたのだが、岡田氏は田代をフィールドに残した。岡田氏がこの試合を「テスト」として捉えていたのがやくわかる采配振りだった。このあたりまでは、後方からのフィードを受ける際の打点の高さ、左右に流れた際のボールキープの2点は評価されたが、とにかくシュートまで行こうとしない姿勢が不満だった。しかし、終盤は田代は相当強引に好機を狙っていた。巻のポストプレイと矢野の前進能力を具備するとも見れるプレイ振りだった。韓国相手にどこまで持ちこたえられるか、シュートまで持っていけるか、見てみたい選手だ。
 前田の負傷は心配だが、とにかく治療を。この選手は少ない起用時間で着実に点を取っている。これは、山瀬と共に高く評価されるべき。共に技術が正確で、落ち着いて(急がずに)ボールをさばけると言う特長の賜物か。

 安田に戻ります。
 あの「またぎ」から、必ずしも足の速くない選手が突破して、身体をギリギリに捻った左足のセンタリング。「ある人」を思い出しませんでしたか。ただ、そうなるとトップに使わなければならないのだが。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(10) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
たしかに北朝鮮↓の風潮は、使えないfifaランキングを基準に報道するマスメディアに一因はあるかと思いますね。

それでも、北朝鮮のGKは(毎度ながら)ひどい!。安田のセンタリングからの失点も、ほぼ彼の責任。
Posted by 徒然 at 2008年02月20日 16:29
岡田氏も同じ人を思い出したのでしょうか?
次の試合FW起用みたいですね。
Posted by 通りすがり at 2008年02月20日 19:19
中国戦はラグビー、いや格闘技でしたね。安田は内臓にダメージなければいいんですが・・
武藤さんの講釈に期待しております。

北朝鮮の審判は最低でした。何か貰っているのかな。
Posted by moon at 2008年02月20日 21:47
 内田も安田も、中国にチンチンにされてたってことは分かったw
Posted by mo at 2008年02月20日 21:50
そんな武藤さんには安田のブログ18日の「俺。」を読むことをおすすめします。初めて読んだ時、感動して眠れなくなり、澤選手のループシュートを夜中の放送で見て、さらに眠れなくなりました(笑)。彼は、Jリーグの申し子なんだな、と思いましたよ。文章書くのもうまいですしね。

ただ、感動したあとの最後のスコアが間違っていて一気に脱力してしまうのはご愛嬌かな。怪我をした今読むとかなり切ないかも。

安田に鶴。
Posted by HOP at 2008年02月20日 22:01
韓国対北朝鮮を今見ました。
北朝鮮のGKさん、
一昨日、悪口言ってごめんなさい。
Posted by あらら at 2008年02月21日 00:04
「あの人」の不幸は、そのトップ起用にあったんじゃないかとたまに思います。
ブラジル時代同様、サイドで勝負しつづけた方が彼は幸福だったんじゃないかと...
Posted by パヴァーヌ at 2008年02月21日 01:13
左ウイングでなくなったのは彼にとって幸福ではなかったかもしれませんね。
ただ、トップが不足していたのも事実。
また、トップに起用されたからこそ未だに現役なのかもしれません。
Posted by 79年組 at 2008年02月21日 02:33
山岸は、サイドバックよりもむしろFWで使った方がいいと思いますぜ。
もう俺ぐらいしか庇う人いないだろうけどね。


それはともかくもうこの大会はいいよね。やめやめ。
ねえ川渕さん。ねえ。
Posted by at 2008年02月21日 14:44
横レス失礼します。
>> HOP さん

>そんな武藤さんには安田のブログ18日の「俺。」を読むことをおすすめします。
同感です、自分も読んで彼を好きになりました。

でも、下記の部分..
>ただ、感動したあとの最後のスコアが間違っていて一気に脱力してしまうのはご愛嬌かな。
ここは、私は「結局(その後は)0−0で」の意味と思って読んでました。
ただ彼のキャラからして、多分「素で間違った」or「分りにくいボケ入れ」、のどちらかでしょうね^^;

とにかく、新エントリー「ニィハオ。」を読みほんとに安心しました。
(練習まで出たというのは、また予想の斜め上でしたが)
Posted by とおりすがり。 at 2008年02月22日 11:44
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