中国戦の勝利は完璧なものだった。正直言って、女子代表が中国相手にここまで完璧な勝利を収めるなんて、過去もなかったし、予想もしていなかった。私が過去記憶している女子代表のベストゲームは、アテネ五輪のスウェーデン戦ではないかと思っているが、あの試合を凌駕するような試合だった。90分間、技巧と知性で完璧に中国を圧倒できたのだから。
今大会はどうにも都合がつかず、女子代表の試合は最終戦まで見る事ができていなかった。私の理解では(今思えば非常に安易な思い込みでの)東アジアのランキングは、北朝鮮と中国は日本を上回り(その差の多くは選手のフィジカル差だけなのだが、どうにもその差が大きい)、韓国よりは明らかに上と言うもの。初戦の北朝鮮戦の勝利は終盤の逆転劇で、よほど痛快なものだったようだが、一方で相当劣勢な試合だったとの報道だった。
そして迎えた最終戦は地元中国との対決。日本はここ最近中国に勝った事はあるが、押され気味の試合を巧くまとめたと言う印象が強い試合振り。敵地と言う事もあり、引き分けでも優勝と言う状態ではあったが、楽な戦いにはならない事が予想された。
ところが試合が始まってみると、内容でも中国を圧倒。ボランチの澤、阪口の早い展開を起点に、柳田、近賀が攻め上がりサイドの数的優位を作る。荒川と永里(永里の切れ味、切り返しの速さ、がアジアのトップになった事が今大会最高の成果ではないか、この速さが欧州勢に通用してくれれば)の大きな動き。宮間(宮間が流れの中で、あの技巧を活かせるようになった事は今大会2つ目の成果に思える、この技巧が欧州勢に通用してくれれば)を発揮できるようにの高精度のパスと、大野の狡猾さで、中国の浅いラインがボコボコになる。男子同様判断力に欠け、男子と異なりラフプレイをする訓練を受けていない中国の選手達は、どうしてよいのかわからなかったのだろう。ただ、日本の選手を追いかけ回すだけだった。
0−2になった後半、長身選手を増やし空中戦に活路を見出そうとした中国だが、ハーフラインを超えたところで起点すら作れないのだから話にならない。むしろ、中国は彼我の実力差を考慮し、(例えば先日の埼玉でのタイ代表のように)引きこもって守備を固めて日本の焦りを誘うべきだったろう。しかし、過去の戦歴を考慮すれば、ここまで戦闘能力差が開いているとは予想しようがなかったと言う事か。
過日私は女子代表の課題として、若くて技巧的な選手達が持ち前の技巧をエゴイスティックに発揮する事ではないかと述べたが、永里、近賀、宮間、阪口、大野らが正にそれらの課題を解決した大会と言えるのかもしれない。
また、今大会は長年代表の中核を務めていた宮本が不参加、下小鶴が負傷離脱、加藤(酒井)、池田(磯崎)が控えに回る事が多かった。それでも、若手が十分にその穴を感じさせない活躍を見せた事は、重要だと思う。一方で、山郷がレギュラを再び奪うなど、純粋によい意味での定位置争いが激しくなっているのだろう。
では、アテネでの好成績はどうかとなると、上記のエントリでも述べた肉体能力差を、いかに知性と技巧で埋めるかと言う話になろう。少なくとも、中国は圧倒するが、北朝鮮には相当苦労するレベルまで来た女子代表だけに、非常に面白い戦いができると思う。と、同時にもしそれなりの成績を上げる事ができれば、上司代表は世界のサッカー界で他国と全く異なるアプローチを行っていると言う意味での評価も期待できるように思う。
川淵会長が、女子代表選手へのボーナスをはずんだとの報道を目にした。どうせ、男子への出費がなくなったのだし、女子代表史上初めてのタイトル獲得だったのだから、もっと奮発してもよかったと思うのだが。
将来日本の女子サッカーを振り返る時に、この初優勝が、男子における92年ダイナスティカップと同じ扱いになる事を祈る。
2008年02月26日
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それにしてもケチですね。