2008年04月16日

ホッケー五輪予選(下)

 大体ホッケーの公式戦を、真剣に見たのは生まれて初めて。せっかくの機会なので、引き続き雑感を。

 各競技のルールの成り立ちの問題。
 昨日、オフサイドがない事を述べたが、このあたりの競技ごとのルールの相違を考えてみた。各競技のルールは長年にわたりその競技を積み重ねる事で、「このくらいの制限にすると試合をやって(あるいは見ていて)面白い」と言うバランスで成り立っていると思う。
 たとえばラグビー。ボールを自在に手で扱える。長いパスをしたいならば蹴ってもよい。手でボールを保持している選手からボールを奪うのは容易でないため、下半身につかみかかりなぎ倒す事でボールを奪う(倒されたらボールは放さなければならない)。つまり守備者は敵を抱え込む事が許される。また、キックを含めパスの自由度が高いので、オフサイド(待ち伏せ)は厳しく、ボールより前の選手のプレイ参加は相当制限されている。ボール保持者の自由度が高いだけに、守備者にはかなりの自由なプレイが、攻撃者には待ち伏せに対する制限がある訳だ。
 一方のホッケー。オフサイドがない事により、待ち伏せ攻撃が可能。そのため、守備ラインは相当後方に引く事になり、中盤のスペースは比較的自由になる。おそらく、オフサイドありにすると(比較的最近までオフサイドがあったかのような記事も見たのだが)、中盤でのプレッシャが厳しくなり過ぎて、ボールを前に運ぶのが困難になるのだろう。また守備者は、あくまでもスティック対スティックの戦いで、身体を当てる事は相当制限されている。つまり、ボール保持をするのが簡単ではないために、守備者の行為の制限は厳しく制限され、かつ待ち伏せも許容されている。
 そして、足でボールを扱うサッカーは、ラグビーとホッケーの中間の許容値を持つ競技なのだ。守備者は肩を当て、身体を入れる事は許容される。待ち伏せは、敵が2人残っていれば許される。要は競技への制限は、ラグビーとホッケーの中間になる。
 それぞれの競技のルールは、お互いを横にらみして決められた訳はないのだから、「ラグビーの手>サッカーの足>ホッケーのスティック」と言う難易度の相違が、必然的にそれぞれの競技の「落とし所」を決めて行ったのだろう。こう言うのって、面白いと思いませんか?

 全く別な競技力と言う本質的問題。
 ドイツと日本の差は何だったのか。ずばり、技術それも非常にレベルの高いところでの技術の差だったのではないかと思うのだ。
 例えば、昨日述べたように、日本は前半結構攻め込んだ。シューティングサークル(ゴール前の半円、その中からのシュートしか得点にならない...つまりミドルシュートがないのだ)に入った頻度は、日本の方が多かったのではないか。これは、日本選手の運動量と速いパス回しが有効で、サイドに早く展開ができた事、さらにそれを受けたサイドの選手がしばしば正確なダイレクトパスで(要はパスをワンタッチで)前線につなげた事が奏功したと思う。しかし、そこまで攻め込みながら、最後シュートを決め切れなかった。これは、ドイツのGK(これが往時のマイヤーみたいに、でかいくせに反応が速い)とCB(と呼んでいいのだろうか、とにかく強い、K・H・フェルスターとかコーラーとか)を破る事ができなかった事による。日本のFWも非常に俊敏なのだが、最後ゴール前でGKを打ち破るためには、速く流れるボールを僅かなスペースで捉える必要があるのだが、ギリギリのところで技術がそのスピードに追いつかず、よいシュートが打ち切れなかった。
 また後半、やや日本の運動量が落ちてくると、中盤のゲームメーカ(リトバルスキーのように回転しながら間合いを取るのが抜群に巧い)のボールをどうしても奪取できない。そこで持ち込まれてしまうので、攻め返す頻度が極端に落ち、日本ゴール前の攻防の時間が増え、結果的にゴール前で反則を犯し、ペナルティコーナを多数回与えてしまった。
 ここからは素人の妄言。日本選手の技術も相当なレベルにあるとは思ったが、ドイツに勝つためには、もはや「選手の能力を最高レベルに引き上げる」と言う、最も困難な事しか残っていないような気すらした。もっと小さなスペースでボールを扱える俊敏なストライカ、キープ力のある敵の中盤エースを自由にさせず同等の展開が可能なMFが必要に思えた。つまり、ロマリオとドゥンガ。
 言い換えれば、世界最強のドイツに対しこれ以上の試合をするためにはは、選手の能力をギリギリ、ロマリオ、ドゥンガクラスまで引き上げるしか残ってない所まで、戦ったように思うのだ。コンディショニングにしても、作戦にしても、現状の日本が出来る限りの全てを出す事ができたのではないか。そう考えると、試合終了時の選手の落胆、テレビの解説者(前代表監督だそうな)の、悔しさを噛み殺した、試合終了後の「やれる事は皆やったのだが」と言うコメントは、それぞれ非常な重みを持ってくる。

 あれだけ興奮し落胆し勉強にもなった。本当にいいものを見せていただいたと思う。
posted by 武藤文雄 at 23:27| Comment(4) | TrackBack(0) | サッカー外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
どの競技もその最も困難な事を地道に積み上げていくことが最も重視されるべきだと思います。
劇的にチーム力を上げるものは所詮魔法でとけてしまえば何も残りませんしね。
トップが方針をころころ変えるせいで、世代間で育成法の継承がうまくいってないのが我が国の困ったところです。(悪かった面の改善には目がいっても良かった面の継続には無頓着なイメージ)
黄金世代は偶発的に生まれたものではないはずなのですが。
Posted by てん at 2008年04月17日 07:39
サッカーの、それもベガルタが昇格するちょっと前くらいからしか知らないサッカーファンにとって、武藤さんの講釈はとても有難いものです。

今回のように、他の競技とルールというかオフサイドみたいな話を解説いただいたりすると、家族に、我が言葉のように話せて有難い。笑

また、ヴェルディ−マリノス戦のような、今、現在のゲームをとっかかりとして、それに関連する過去の逸話や、関係する人物やそのほかの事象について紐解いてくださるのも、広がりを得られて有難いです。

今回はエルゴラッソを買わなきゃ。
Posted by まるこう at 2008年04月17日 10:19
ルールに関してはプレーヤーの技術向上も考慮に入れるべきではないかと。

オフサイドは元々は「守備側プレイヤーが3人いれば」でした。
現代サッカーでこのルールだとほとんど点を取れないんじゃないかと
思われますが、最初は戦術・技術双方の問題でこれでも
点が入ったわけですね。「2人いれば」に変更されたのは、
サッカーは1925年、ホッケーは1972年。ホッケーのほうが
半世紀近くより厳しいルールで戦っていたことになります。

確かにしっかりキープするのは足裏まで使えるサッカーのほうが
有利かもしれませんが、正確にパス・シュートを打つことに関しては
手の延長上で行うホッケーのほうが楽です。(スティックならぬ
クラブを使うゴルフでは100ヤード先の目標にピンポイントで
落としたり出来る!)だから、最初はサッカーより厳しい
ルールでも点を取れていたものが、守備側のプレスがキツクなるにつれて
取れなくなってきて、ついにはオフサイドルール自体を
廃止することになってしまったのではないでしょうか。
サッカーだってオフサイドルール自体は残っているものの、
攻撃側に有利になるよう変わってきていますよね。

あと、ゴールの大きさもオフサイドルールに影響しているでしょう。
サッカーのように大きなゴールではペナルティエリア内で
待ち伏せされるとやりたい放題されてしまいますが、
ホッケーの小さなゴールならGKが立っているだけで
ゴールの半分近い面積をカバーしています。だから、
待ち伏せしてもサッカーよりは御利益が無い。結局、
オフサイドルールがあろうが無かろうがゴール前で
左右に振ってGKの位置をずらしてやらないと有効なシュートは
打てないので、オフサイドルールを廃止しても競技の面白さに
支障が無かったのではないでしょうか。オフサイドルールの無い
フットサルでも、キチンと守備を崩さないと点を取れないのと
一緒です。

ちなみに、オフサイドルールが無くてGKもいないバスケットボールでは
やりたい放題できるかというとそんなことはなく、「攻撃側選手は
フリースローレーン内に3秒以上留まることは出来ない」という
制限が付いています。3秒留まれないということは2秒なら
留まっていいということで、サッカーのFWがオフサイドラインを
出たり入ったりして駆け引きするのと同様に、バスケの
(センター)フォワードはフリースローレーンを出たり入ったりして
駆け引きするわけです。どんな競技でも、ゴール前でやりたい放題は
許されず、点を取るためには何らかの駆け引きが必要になるように
設計されているわけですね。
Posted by masuda at 2008年04月17日 23:18
非常に興味深く読ませていただきました。
武藤さんのコラムに刺激されて、他の球技のオフサイドルールも調べてみたのですが、オフサイド・ルールこそが、スポーツの個性を形成しているものだと実感しました。長文になりますがコメント欄、失礼いたします。

1.オフサイドが無い。どこにパスを出しても良い。
 例) バスケ、ハンドボール、フットサル、フィールドホッケー
 ボールを奪ったら、一気に相手ゴール前に殺到する。背が高く、スプリント能力に優れた者が有利となる。

2.守備側の2番目に後ろの選手よりゴールに近い位置にいて待ち構える人にパスを出してはならない。
 例) サッカー
 守備側がオフサイドラインを決めるので、攻撃側との"駆け引き"が重要。オフサイドトラップや2列目からの飛び出しなどの戦術が生み出された。

3.一人だけパスを出しても良い。
 例) アメフト
 クォーターバックが司令塔として君臨する。
 他のプレイヤーは彼のサポートに徹する。

4.前にいる人にパスを出してはならない。
 例) ラグビー
 自分でボールを持ってドリブルで敵陣を突破するか、横に展開して手薄なサイドを突破する。ただし、最近は前にパスを出しても良いキックを多用する事で戦術が変化しつつある。

5.場所によってオフサイドルールが違う 
 例1) ホッケー、水球
 ボール(パック)より先にゴール前のエリアに入ったプレーヤーはプレーしてはならない。(あるいは進入自体禁止されている)

 例2) ラクロス
 ゴール前のエリアに入る事のできる人数には制限がある。
Posted by kagura at 2008年04月18日 22:18
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