2024年04月14日

ベガルタ仙台30年の軌跡、執筆顛末

設立30周年を迎えた我がベガルタ仙台。特設サイトが作られ、「30年間の戦いとその舞台裏をみてきた関係者がそれぞれの視点で綴る『ベガルタ仙台 30年の軌跡』」と言う企画の第一弾を、不肖講釈師が担当。怪しげな雑文を書かせていただいた。

本件依頼を受けた時は本当に嬉しかった。愛するクラブの公式WEBサイトで、歴史を語らせていただけるのだから。
とは言え。
30年の歴史を短い文章、約5,000字でどうまとめたらよいのだろうか。

まず、編年体風にクラブの歴史を描写することを考えた。
「1980年代後半、ベガルタ仙台の前身の東北電力は…本格強化を始め…宮城県出身の大学生を中心に…」
「1993年にJリーグが開幕し、仙台にもプロサッカーチームをとの機運が高まり…ブランメル仙台と…」
「1994年の全国地域リーグ決勝大会で優勝し、JFL昇格を決め…」

上記のようなクラブ史の節目に、下記のような講釈を加えていけばよいか
「短期的なJリーグ昇格を目指したこともあり、Jリーグクラブから多くの優秀な選手を獲得し…」
「地下鉄終点駅近傍に球技用競技場を建築することも…」
「鈴木淳、リトバルスキ、オルデネビッツ、越後和男、ドゥバイッチ…」
「経営不振を考慮し、地元出身の高卒の優秀な選手を…千葉直樹や中島浩司がその典型…」

などと構成を考え始めた。しかし、私の文章の常だが、議論は必ず脱線方向に進む。
「当時のブランメルに限ったことではないが…即効的に強化を図ったクラブは、強引な選手加入で、チームそのものが混乱するのみならず…巨額の負債を抱えてしまい…」
「一方で東北新幹線開通に伴い、中央資本が大量に仙台界隈に流れてきた経緯から…知事と市長が逮捕されると言う前代未聞の…」
「考えてみれば、リトバルスキは1FCケルンで、オルデネビッツはブレーメンで、越後和男は古河電工で、日本人欧州プロ第1号の奥寺康彦とチームメートであり…」

そうなってしまうと、
「清水秀彦氏のチーム改革…マルコスの大奮闘もあり…感動のJ1昇格を決め…」
と書くあたりで、既定文字数を遥かに超えてしまいそうなことに気がついた。いや、脱線せずに重要なエピソードに触れていくだけでも、文字数越えが起こりそうだ。これでは30年史ではなく、10年史になってしまう(笑)。

と言ってですよ。
では文章を圧縮し、ただただ歴史的な流れを追えばよいのか。いや、私の責務は違うな(笑)。やはり、どうでもよいことを、ネチネチ・クドクドを語りながら、愛するクラブの歴史を語る必要がある。何がしかの講釈は必要だろう、脱線は身を律して防ぐようにする必要はあろうけれど。
そうなると、重要なことはクラブ史の節目を厳選し適切することだ。ところが、これは意外に難しい。例えば
「前の監督に1億円の違約金を払っても、呼びたかった元日本代表監督が、算数ができなくて入替戦出場を逃した」
と言うエピソードは、クラブ史に残る事件だとは思うが、講釈を垂れ始めると相当な情報量となる
「その元日本代表氏は若くして代表のレギュラーだったが、一時は自クラブでも定位置を失い、30過ぎてから代表の定位置を奪い返した、そして…」
と言った美しい褒め言葉はよいのだろうが、
「しかしその元日本代表氏が就任時に連れてきた新卒選手が…リーグ終盤に抜擢した20歳の若手選手が…そう考えると元日本代表氏には『感謝の言葉を…』、いや冗談じゃねえよ…」
と言った講釈を垂れないと文章としては完結しない(笑)。そうなると止まらないですよね。
「違約金監督氏は、日本でも相当な実績を持つ学究肌だったが…後年別クラブで相当な実績を挙げながら更迭されると言う不思議な…」
「後日、元日本代表氏は本事案についてのインタビューで、自分が算数ができないが故の失敗を理解できていないことが判明…」

と言った本格的脱線も起こしそうになってしまうし(笑)。

そう考えると、監督について言及して歴史を編むのも一案かと考えた。
「初代監督の鈴木武一氏は、塩竈一中、仙台二高を経て読売クラブで活躍した名手で…」
「チーム成績はもちろんクラブの経営が低調なタイミングで就任した清水秀彦氏は…各選手にプロとしての厳しさを叩き込むと共に…」
「あと一歩で入替戦出場に迫った前監督望月達也氏の下、コーチを務めていた手倉森誠氏は…取材陣に明るく東北弁で語りかけることで…遂には梁勇基を軸としたチームでACL出場を果たしてくれた…中でもユアテックでFCソウルに完勝した試合は…」
「2014年シーズン序盤前任の豪州人監督を引き継いだ渡邉晋氏は、まずは伝統の堅守を復活させた上…次第にチームのレベルアップを行い…チーム全体でボール保持を行う攻撃的サッカーを完成…2018年シーズンには天皇杯決勝まで…」

と言う基軸でまとめればよいかと考えたのだが。ここで、ついつい脱線したがる自分がいる(笑)。
「鈴木武一氏と中学、高校、読売クラブとチームメートだった加藤久氏は、1980年代半ば日本代表の主将を務めた、日本サッカー界のレジェンドオブレジェンド…加藤氏は日本協会協会委員長としても辣腕を振るったが代表監督選考問題で日本協会を追われ…」
「清水秀彦氏はまだ関西で行われていた1972-73年シーズンの高校選手権決勝、浦和市立高校のCFとして…法政大で活躍した後、新興チームの日産(現横浜マリノス)に加入後は…冷静な守備的MFとしてこの強豪を…」
「手倉森誠氏は双子の兄弟浩氏と共に…1985-86年シーズンの高校選手権の清水商業戦…故真田雅則氏、江尻篤彦氏らがいた…鮮やかな直接FKを決め、直後のアジアユース大会では井原正巳や中山雅史と共に…住友金属(現鹿島アントラーズ)では…」
「渡邉晋氏は、桐蔭学園出身。当時の桐蔭学園は李国秀氏の指導の下、知性を発揮する選手が多く…渡邉晋氏の他にも…例えば長谷部茂利氏は…」
「ベガルタでは何の実績も残せなかったアーノルド氏だが…プレイヤとしてサンフレッチェでは…日本サッカー史上最高の『ジョホールバルの歓喜』直後のイラン対豪州戦では…2022年W杯で豪州を率い、実に粘り強い戦いで2次ラウンド進出を…」

などと考えると、どうにもまとまらないのだよね(笑)。
清水氏にも、手倉森氏にも、渡邉晋氏にも、ただただ感謝の言葉を捧げたいのだが…

そうなると、やはり選手を讃えることが最適と思い立った。私たちに彼らが見せてくれたバトルこそ、私たちの30年の歴史なのだから。そのような迷走を経て決断しました。決断することは捨てること。自分の中で迷走を重ねて作り上げた結論が以下となった次第。そのような思いで文章をまとめたものです。
(1) 千葉直樹、菅井直樹、富田晋伍、そして梁勇基を讃える。
(2) 一方で「忘れられない場面」を語る(例えば、ウイルソンとイルマトフ氏の出会いの悲劇)
(3) 目立たないが、感謝の言葉を捧げたい選手を讃える(典型例は木谷とフォギーニョ)
(4) 黎明期に貢献してくれた大スター(鈴木淳と越後和男)には言及する


しかしながら、後悔の思いは多い。言及できなかったスターたちについて、もっともっと語りたかった。ドゥバイッチ、シルビーニョ、岩本テル、佐藤寿人、磯崎敬太、萬代宏樹、林卓人、鎌田次郎、角田誠、赤嶺慎吾、石川直樹、ハモンロペス、三田啓貴、渡部博文、島尾摩天、奥埜博亮、西村拓真、永戸勝也、椎橋慧也、石原直樹、そして何より平岡康裕。いや、もっと感謝の言葉を捧げるべきスターはいくらでも。このようなスター選手たちに、幾度感謝の言葉を捧げたことか。でも、彼らは職業人として自らの市場価値を最大限にするために、ベガルタに貢献し、そして去っていった。そう言うことなのだ。

今回、ベガルタ30周年と言うお祭りに参加させていただき、相応の文章は書きました。でも、もっともっと書くべきことは残っている、いやこれからも増えていく、改めて、そのような思いを強く感じた次第です。
昨日の山形戦の完勝についても、いくらでも語るべきことはあるのだしね。
これからも、愛する故郷のクラブについて、皆さんと語り合えること、それが最高なのですよ。

ベガルタ仙台。
ありがとうございます。
posted by 武藤文雄 at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月14日

アジアカップ2024、ただの愚痴です

 ドーハの屈辱。
 しかし、「屈辱」って、考えてみれば、随分な態度だと思う。だってイランですよ、イラン。32年前の超苦戦とカズの「魂込めた」一撃。31年前のドーハの痛恨。もちろん、人生最高の歓喜を味わったあのジョホールバル。アリ・ダエイやアジジやマハダビキアを筆頭とする尊敬すべき忌々しい名手たち。そして、今回のアズムンやジャハンバクシュらも彼らの系譜を継いでいた。
 2005年のドイツ大会予選で苦杯を喫した、あのアザディスタジアムの大熱狂、ペルセポリスや多くの博物館で楽しんだペルシャ帝国時代からの歴史の重み。そのイランにアディショナルタイムにやられて「屈辱」と語る姿勢、そのものが不遜に思えてくる。たとえ、私たちの目標がワールドカップ制覇だとしても。
 個人的にもすごく反省のある大会。アジア制覇は当然と考え、決勝あるいは準決勝以降は現地に行く計画だった。早々にアポイントを入れ、万が一早期敗退したらキャンセル料払うつもりで。ところが、情けないことに諸事情からその休暇調整がうまく行かなかった。もう、人生の目的と手段を誤り続けた情けなさの集大成感(笑)。このような情けなさが、今回の主要敗因ではないかと自惚れるサポータ心理と合わせて。

 伊東純也の離脱については論評のしようがない。ただ、戦闘能力が大きく下がったのみならず、現場の森保氏以下が精神的にダメージを受けたのは間違いなかろう。ここ最近の伊東は日本代表史上最高のFWと言っても過言ではない存在感だったのだから。加えて、離脱するしないと状況が二転三転したとの報道があったが、もしその報道が正しいのだとしたら、日本協会首脳の情けなさには失望しかない。
 特に田嶋幸三会長、この方はサッカーの意思決定が下手くそなことは皆が知るところだった。しかし、今回の事案で組織のトップとしても無能なことが判明した。本人の能力もそうだが、周囲に適切な助言をできる人も不在と言うことだな。もっとも、人材派遣会社の総務部門で活躍し、この手のことにかけてプロ中のプロの人が、比較的最近までは日本協会首脳にいたはずなのだが。

 まず強調したいのは、イラン線の前半は、日本にとっては笑いがとまらない結果だったことだ。
 イランは前半から強引に攻めかけきたが、冨安健洋を軸に危ない場面はほとんど作らせない。先方が前に前に出てくれば久保建英へのマークが曖昧になり、当方の速攻が機能する。もちろん、イランの最終ラインも強いから、そう簡単には得点は奪えないけれども。
 しかし、そうこうしているうちに守田英正が鮮やかに先制点を決めてくれた。左サイドに遊弋した守田が中央の綺世に正確なボールを入れ、上田綺世が敵DFの厳しいプレッシャに負けず正確なリターンを守田に返す。守田は見事な出足で敵DF2人をぶち破り、見事なシュートを決めた。イランからすれば、久保や堂安律の個人技、毎熊晟矢の押上げ、前田大然の無茶走り、そして綺世の裏抜け、このあたりまでは相当警戒していたのだろうが、よい体制でボールを受けた守田への対応までは準備対象外だったのだろう。日本は、選手の個人能力の質の高さで先制に成功したわけだ。
 こうなると、後半は相当楽観視できる。イランを引き出しておいて、逆種速攻から好機を多数作れることが期待できるからだ。事実、後半序盤に日本はイランの守備人数が不足しているところを突き、久保と綺世が好機をつかんでいる。日本の各選手の状態が正常ならば、普通に日本が追加点を上げて押し切る試合だったのだ。各選手の状態が正常ならば。

 板倉滉のプレイに「あれっ」と言う印象を持ったのは、先制前の20分過ぎに警告を喰らった時だった。イランが前線からの日本のプレスを好技で外し、モハマド・モヘビが毎熊晟矢の裏を突く。それに対応した板倉がかなり強引な当たりで倒した場面だ。モヘビはシャープなドリブルが武器の選手だが、ここ最近の板倉はこの手の場面の対応が非常に巧みになっており、「何もいきなりファウルで倒さなかくてもよいのではないか」と不思議に思ったのだ。その後も板倉のプレイはおかしい、簡単に裏を取られたり、出足で敵DFを封印できない場面が散見される。プレイが止まった時、板倉が足を気にしていているのが大映しになった。1/16ファイナルのバーレーン戦の終了間際に足を痛めていたのだが、その影響だろうか。
 私はハーフタイムで、板倉は交代すべきと考えた。明らかに本調子でなく、それが負傷要因の可能性が高いとしたら、必要なのは休養。そして、まだ準決勝も決勝も残っているのだし。しかし、森保氏は板倉をそのままプレイさせることを選択した。そして、55分に奪われた同点弾時の板倉のプレイには目を覆った。日本の自陣でのつなぎミスを拾われ、サルダル・アズムンが冨安を引きつけてスルーパス、カバーするべき板倉がなすすべなくモヘビに突破を許したのだから。センタバックが敵FWにあんなに簡単に突破を許しては、どうしようもない。失点は取り返せないが、板倉が本調子ではないのは、いよいよ明らかになった。
 さらに事態を悪化させたのは、オフサイドディレイの適用が不適切な副審の存在。明らかなオフサイドでも放置するため、的確にラインを上げていてもプレイが完結するまで、日本守備陣は安堵できない状況となる。あのような副審が介在すると、浅い守備ラインを築きづらくなる。質の高いサッカーを楽しむためにも、このような無能な副審の選抜は勘弁してほしいものだ。いや、少々怪しい副審でも真っ当に試合を楽しめるように、妙なルールの導入を避けるべきと言うのが、本質かな。
 ともあれ、どんなに副審がおかしくとも、私たちは勝たなければならない。そのための柔軟な対応こそ、監督に要求されるタスクだ。せめて、板倉に代えて、谷口彰悟を起用すれば冨安が敵FWをつぶすのに専念できただろう。あるいは高さがあり前に強い町田浩樹を起用すれば冨安がカバーリングに専念できただろう。しかし、森保氏は大然に代えて三笘薫を。久保に代えて南野拓実を起用するが、最終ラインはいじらない。何のために、これまで多くの選手を起用し、分厚い選手層を準備してきたのだろうか。敗戦後、「ロングボールに弱い日本」との報道を目にするが、調子が万全のCBを配していれば、ここ最近の日本がそのようなやり方を苦にしていなかったのは自明なこと。調子のよい選手を使っていればよかっただけなのだ。
 20分過ぎから、冨安は開き直った。ラインを上げるを諦め、ペナルティエリア内でイランの攻撃を受け止めることに方針転換。これで裏を突かれることはなくなり、最終ラインで冨安が圧倒的存在感でイランの攻撃を押さえる展開となる。冨安がここにいることで、イランは一見攻め込んでいるように見えるが、好機はつかめなくなった。
 けれども、このやり方には背反がある。結果として、日本は攻撃に厚みを欠くことになり、好機を掴みづらくなってしまった。さらに悪いことに、遠藤航の運動量が落ちるとともにデュエル負けも目立ち始め、イランのプレスを外せなくなり、前線によいボールを供給できない。75分過ぎから、守田が位置取りを後方に下げ、3DF気味の体制をとるが、毎熊と伊藤洋輝の両サイドバックが積極性を出せず前進できない。ベンチには菅原由勢も中山雄太も佐野海舟もいた。後方の守備を修正し、押上げの形さえ作り直せれば、前線には堂安、南野、三苫、綺世とタレントは揃っていたのだ。状況は改善できたはずだ。2010年代までは公式戦の交代選手上限は3人だったが、COVID-19以降、交代5人制が定着。チームのリズムが悪い時は、後方にフレッシュな選手を起用するのは定石になっているのだが。 

 一方で、森保氏が動かなかった理由を推測する。
 これまでの準備試合でも、バーレーン戦までの4試合でも、やはり冨安と板倉のコンビは、他のCBよりは圧倒的な能力を見せていた。アズムンやモヘビのような強力FWを抱える相手に対し、最強の2人に頼りたかったのではないか。
 しかし、過去の実績や好調時のプレイを期待して眼前の不調選手を放置するのは、いかがなものか。カタールW杯予選の敵地サウジ戦で、明らかな疲労からミスを繰り返していた柴崎岳を交代させずに引っ張り、柴崎の考えられないミスパスから失点した場面を思い出したのは、私だけだろうか。もっとも、板倉はあれだけ調子がおかしかったけれど、何とか試合終了直前まで凌いでいたのだから、大したものだとは思う。調子が悪いなりに、最後の最後まで戦い抜いた板倉のプロフェッショナリズムには感謝の言葉を捧げたい。そして、今大会早期敗退の責任の痛恨を忘れずに、2年後のW杯本大会で私たちに最高級の歓喜を提供してくれることを期待したい。
 また、後方の選手交代に消極的だったのは、延長戦を見据えていたのかもしれない。イランと日本は同じ中2日とは言え、イランはシリアとPK戦に持ち込まれ120分戦っていたし、平均年齢も高い。冨安が深く守るようになった以降、押し込まれてはいたが好機は許していない。このまま延長になれば、イランの運動量は落ちるはず。イランがどのような選手交代をしてくるのを見据えて、カードを切ればよいと考えたのではないか。
 しかし、あれだけ幾度もペナルティエリアに進出を許せば、偶然や不運で崩れることもある。そして、アディショナルタイムに、板倉が連続でやらかしてしまった。よりによって、挽回猛攻を行う時間すら残っていないタイミングで…「やらかすならば、もっと時間が残っている時に」と言いたくなったのだけれども。

 しょせんサッカーと言う競技は理不尽なもの、いくら努力や工夫を重ねたとしても、悔しい結果に終わることはある。増して、上記した通りイランは強いチームだった。けれども、今の日本代表の戦闘能力が史上最強であり、世界のどの国と戦っても、互角の攻防を演じるタレントが揃っているのは間違いなかったのだ。例えば、1/16ファイナルでイラン相手にPK戦まで粘ったシリアを、我々は先日のW杯予選で敵地で5-0で破っている。非公開の練習試合ではあるが、大会直前に決勝進出したヨルダンを6-1で破っている。
 やはり、采配負けだったのだ。当方が格段に高い戦闘能力を保持し、ベンチにはいくらでもすばらしいタレントがいたにもかかわらず、中心選手の不調を放置し、攻勢をとることも叶わなかったのだから。言い換えよう、史上最強のチームは、森保氏の采配ミスでアジア再戴冠に失敗したのだ。
 イラクやイランが日本に勝利し選手たちが感涙していた点を採り上げ、「熱量の差」と言う指摘もどうかと思う。日本の目標は優勝以外なく、ローテーション的な戦いをしながら、2次ラウンドに進出し4連勝することの確率を丹念に上げる必要があった。毎試合ベストを尽くすのは当然だが、選手たちが決勝での勝利を踏まえてプレイしたことを、否定するわけにはいかない。
 これはアジアの壁でも何でもない。単にサッカーの難しさなのだ。伊東純也の突然の離脱が不運だったことを割り引いても、森保氏は最強軍団を率いリアリズムを考慮しながら丁寧に戦おうとした。けれども、森保氏は試合途中で誰の目にも明らかになった改善点を放置すると言う致命的なミスを犯した。

 私たちは大魚を逸した。それでもアディショナルタイムまで帳尻を合わせかけた選手たちがすごかったと言うのかしれないけれど。
 森保氏の進退云々については、この稿で語るつもりはない。
 とは言え、森保氏は「冨安を抱えながら、2回もアジア制覇に失敗した監督」であることだけは、間違いない。
posted by 武藤文雄 at 23:28| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年01月07日

元日タイ戦、新しい選手の日本代表への挑戦について

 新年早々、能登半島地震とそれに伴う津波、羽田空港での航空機事故と、言葉にならない事態が連続発生。地震と津波については、被害にあった方々にお見舞い申し上げるとともに、今なお被災地で苦闘している方々の無事と、現地で救援や支援にあたっているプロフェッショナルの方々の成果を念じるしかありません。航空機事故については、何より旅客機の全員の無事に安堵し関係者の卓越した手腕に敬意を表します。一方で当該事故が地震の被災者支援目的の海上保安庁機の関与とのこと、一層やりきれない思いに襲われます。改めて、命を落とされた方々のご冥福を祈りたいと思います。

 遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
 今年は、もう少し作文の頻度を上げていきたいと思っているのですが。

 元日の日本対タイ戦を見て、最近の日本代表のように戦闘能力が相当充実していると、若手の代表デビューと言うものは難しいものだと考えさせられた。年初は、そのあたりを講釈したい。
 タイ代表は、アントラーズで格段の成果を挙げた石井正忠氏を監督に招聘(いや、あのレアル・マドリードを追い込んだ試合は興奮しましたよね)。近年充実の度合いが増す国内リーグの勢いの下、アジアカップでの上位進出、米加墨W杯の初出場を目指しての強化試合と言う位置付けになる。森保氏は、欧州のレギュラ格の選手があまり集められない状況下、若い選手にA代表出場の経験を提供しようとし、スタメンのうち3人は初めてのA代表。本日のお題でもある代表デビューの選手を多く並べた前半は、各選手の経験不足とタイDF陣の粘り強い守備もあり、0-0で終了。しかし、後半起用された堂安律が落ち着いたボール保持で圧倒的な存在感を発揮、次々と得点を奪い、終わってみれば5-0の快勝となった。

 スタメンを振り返る。現状のレギュラと言えそうな選手は、鈴木彩艶と伊東純也くらい(もっとも、決定的な選手がいないGKの鈴木と、超大エースの伊東純也を同列に語ってよいのかは、さておき)。後は中盤後方に起用された田中碧が純レギュラ。いわゆる2、3番手を争う、毎熊晟矢、町田浩樹、森下龍矢、佐野海舟、細谷真大に加え、初代表の藤井陽也、奥抜侃志、伊藤涼太郎が並んだ(田中碧のアジアカップ不選考については別に語りたいとは思う)。
 立ち上がりに、伊藤涼太郎が佐野海舟(だと思った)の縦パスを受け、見事なターンから落ち着いたシュートを狙うも、僅かに枠を捉えられず。これが入っていれば、状況は随分違ったことだろうが、タイの粘り強い守備に手こずっているうちに、日本は攻めあぐむ。大エースの伊東純也が幾度も見事な受けやフリーランを見せ、後方からの縦パスを受けて好機を作るが、あまりに攻撃が右サイドに偏重し過ぎて単調となる。こうなると、左からも攻めたいが、奥抜と森下の連係が悪く形にならない。それならば、前線で溜めを作りたいところだが、伊藤涼太郎はどうしても「見える成果」を出したかったのだろう、ラストパスを狙いすぎて、一層攻撃が単調になり、前半は0-0で終了。
 後半立ち上がり、奥抜と伊藤涼太郎に代え、中村敬斗と堂安を起用。堂安の起用は状況を飛躍的に改善した。堂安が、伊東純也と巧みにポジションを入れ替えながら、落ち着いて前線でボール保持し溜めを作る。それだけで、2.5列目の田中碧と佐野が前線に進出しやすくなり、パスの受け手が増え、攻撃に変化が生まれた。加えて、タイ守備陣も、前半からあれだけ連続的に守備を強いられてきたのだから疲弊。日本は完全に崩せるようになり、終わってみれば5-0の快勝。
 もちろん、堂安の存在感発揮のほかにもよいことは多数あった。細谷が前線でよくボールを引き出した、中村敬斗が相変わらず敵ゴール前で鼻が利くことを示した、佐野が相変わらずよくボールに触り有益なことを示した、など。終盤起用された南野拓実が、幾度も決定機を外しながら、最後の最後に帳尻を合せたのもご愛嬌だった(この南野の久々の得点が、アジアカップでのよいきっかけになることを切に望みたい)。

 さて、今日のお題の初代表選手のデビューについて。
 この日スタメンに起用された3人の他に、川村拓夢と三浦颯太が初代表としてデビューした。
 CBにスタメン起用された藤井は無難なプレイ。タイの散発的速攻を丹念につぶした。と言っても、日本が押し込みながらもバランスを崩さない戦いをしていたので、苦労して守備をする場面はほとんどなかった。
 守備的MFで後半から起用された川村拓夢は、菅原由勢のさすがとしか言いようのない短距離突破からの好クロスから得点を決めることに成功した。また、比較的短い時間帯だったが、落ち着いてよくボールを回して機能した。得点というわかりやすい成果を出すと本人の経歴にA代表1得点と言う記録が残るのは非常にめでたいことだ。
 同じく後半から、左DFに起用された三浦颯太も安定したボール扱いと押上げで攻撃を支えるとともに、少々間延びし始めた日本の中盤プレスをかいくぐったタイのボール回しにも的確に対応した。
 ただ、藤井にしても川村にしても三浦にしても、代表選手としての評価は、今後の活躍次第と言う事になるだろう。この日はあくまでもデビューして無難なプレイを見せてくれたところまでしか評価できない。
 一方で前線にスタメン起用された高速ドリブルが武器の奥抜と古典的な攻撃創造主の伊藤涼太郎。2人は上記した通り、空回り感したまま前半終了。後半立ち上がりに交代されてしまった。多くの人が思ったではないか。後半奥抜か伊藤涼太郎を残し、堂安と伊東純也と一緒にプレイさせれば、もっと得点やチャンスメークという具体的な成果が出たのではないか。あるいは、前半から堂安と伊東純也を並べ、奥抜か伊藤涼太郎のいずれかを起用していれば、彼らはもっと持ち味を発揮できたのではないか。経験が足りないタレントを複数並べるよりは、経験豊富な中核選手たちと若いタレントを使う方が、よい成果が期待できたのではないか。
 この2人のような攻撃タレントは、相手の戦闘能力が少々低かろうが、具体的成果を発揮してくれれば、本人の自信ともなるし、周囲のチームメートもそれを活かせばよいと共通認識ができるはず。例えば、このタイ戦でも中村敬斗は南野のシュートをGKがこぼすのをしっかりと詰め、点を決めてくれたが、トルコ戦、カナダ戦、タイ戦とこれだけ鼻が利いて枠を揺らす場面を見せてもらえれば、「何かを持っている」感が漂い、他のチームメートも「使いどころ」を理解できる、奥抜も伊藤涼太郎も、このタイ戦で中村敬斗のような「きっかけ」を掴んでくれればよかったのだが。
 この日デビューを飾った5人にとって厳しいのは、現在の日本代表は既に30人程度のラージグループが既に確立していることだ。したがって、彼らが次に起用されるチャンスがいつ来るのかどうかわからない。それでも、この5人にA代表としての経験を積ませたのは(1試合でも代表経験があれば、市場価値も少しは上がるだろうし)、森保氏のせめての親心と考えるべきか。考えてみれば、これだけ潤沢なタレントを抱えている森保氏なのだから、未経験な選手たちには「場」を提供するのが精一杯と言うことかもしれない。
 ただし、代表チームには常に新陳代謝が必要なことも間違いない。目先にアジアカップというタイトルマッチが控えているので、どうしても新しい選手の起用機会は限られる。しかし、代表の目標はあくまでも2年半後のワールドカップ制覇。新しく野心的な選手の登場は大歓迎のはず。後方の3人は、ともにJリーガ、J1で圧倒的な存在感を発揮すれば、森保氏のメガネに叶う機会が得られるかもしれない。一方で前線の2人は欧州でプレイしているわけだが、現地で評価され欧州のトップクラブで活躍する機会を得ることができなければ、常時代表に選考されるのは難しいかもしれない。もちろん、Jリーガの3人も見事なプレイを継続して見せてくれれば、欧州に活躍の場を移してしまうのかもしれないけれど。
 代表の中核への近道が、どこにあるのか、こればかりは誰にもわからない。

 数年前には、想像もできなかった潤沢なタレントを抱える日本代表。元日のタイトルマッチを見て、改めて代表チームの新陳代謝の難しさ、おもしろさを、考えた次第。
posted by 武藤文雄 at 23:37| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年12月31日

2023年10大ニュース

 恒例の10大ニュースです。日本代表は強いし、相変わらずJリーグはおもしろいし、よい1年だったとは思います。ただ、ベガルタサポータとしては、つらい1年でしたが、ベスト11にしても、10大ニュースにしても、ベガルタサポータ視点は切り離して語るのが楽しいので。
 まあ、ベガルタサポータとしては、下記の第4位で強調したことがすべてでしょうか。

1.日本協会とJリーグ当局、夏夏・年またぎ開催を強行
 いわゆる年またぎ開催へのシーズン制変更が困難なことについては、十数年前に随分と書いた。例えばこれ。現実的に大量の試合数をこなすためには、週中の平日に試合をこなすしかなく、そのためにはナイトゲームを行う必要があると言うこと。もし、年またぎのシーズン制を採用すると、北方のクラブでなくとも厳冬期(具体的には12月から3月)の客商売には大きな支障があり、観客動員視点で大きな損失が予想される。もちろん、日本海側の積雪地帯では厳寒期の外出は大きく制限されるから、そう言った地域をホームにするクラブとしては受け入れ難い変更なことは言うまでもない。シーズン制云々よりも、試合数をいかに減らすかが本質的な課題であることも当時指摘した。
 しかし、日本協会もJリーグ当局も、この十数年に渡り、上記の本質的課題を能動的に解決しようとせずに来た(例えば、欧州のスタジアムに見られる暖房システムの導入など、ハード面での改善など)。その上でACLがいわゆる年またぎ開催になったことを既成事実として、シーズン制の変更を強行しようとしている。しかも、J1のクラブ数を増やすと言う愚挙も加えてである。
 シーズン制の変更理由として、現状のシーズン制の継続では各クラブ(あるいはリーグとしての)収入増限界が理由になっているのもおかしい。厳寒期に試合をすることで収入が増えるとはとても思えないからだ。
 もちろん、欧州のトップクラブあるいは中東の一部クラブと、金銭的に戦うことは当面事実上不可能なことだ。そのため、世界のトップレベルの選手はもちろん、日本のトップレベルの選手をJにつなぎ止めるのが難しい現実はある。その中でどのようにサッカー界に入るキャッシュを増やすかは、極めて深刻な課題だ。しかし、その深刻な課題解決のためにやるべきことがシーズン制の変更ではないことは明らかなことだ。
 百余年の歳月をかけ、ようやく世界のトップと伍した代表チームを所有するに至った日本サッカー界。もし、報道通りシーズン制変更と言う残念な事態が強行されたとしても、Jリーグの観客動員が一時的に減少したり、よい選手の欧州以外流出が増える程度の被害で済むとは思っている。日本海側クラブの経営に決定的な痛手が生じることがないように祈ってはいるが。そのくらい今の日本サッカー界は磐石な基盤はできている。しかし、愚かな行為はするべきではないのは言うまでもない。

2.女子代表、世界最強チームを作りながら敗戦
 大変失礼な物言いとなるが、女子W杯の日本代表があそこまで強力なことは、まったく予想していなかった。こちらに書いたが、戦闘能力だけを見れば、正に世界最強の一角と言っても、言い過ぎではない程だった。それでも勝てないのはサッカーの常、それでもこれだけのチームを作ることができたのだ。特に戦術眼と技術に優れた若い選手が次々と登場している、女子代表の近未来は明るいものがある。女子の強化を推進した多くのサッカー関係者に改めて経緯と感謝を表したい。
 確かに世界一を獲得してから12年間、女子サッカーの環境改善はかなり進んだ。例えば、私が関与している神奈川県西部の女子サッカー環境は、小学生世代の女子選手を積極的に集めて試合機会を増やしたり、中学から大人までの一環したクラブが立ち上がったり、十数年前には考えられなかった環境整備が進んでいる。これが全国に広がっているかと言うと、まだまだなのはわかっているが。
 ただ、どうにも難しいのがトップレベルの観客動員。常に思うのだが、観客動員視点では、女子サッカーはすぐ隣に男子サッカーと言う強力な競合がある。観客にとって貴重な娯楽に割く時間を、どのようにして女子サッカーに向けることができるのか。そして、その通りWEリーグの観客動員の苦戦はよく知られている。しかし、一方で欧州や北米のトップレベルの女子サッカーの観客動員成功には驚くものがある。その秘訣をうまく整理して日本でも展開できれば、事態は解決するのだろうか。
 
3.浦和レッズ、3度目のACL王者
 レッズが堂々と3回目のアジア制覇。決勝ではサウジの難敵アル・ヒラルを振り切った試合は実に見事。初戦のアウェイゲームで開始早々連係ミスから失点するも、少ない好機を活かし同点として敵地での引き分けに成功。ホームの第2戦は見事な組織守備と少々幸運な得点でリードを奪い、最後までしっかりと守り切った。正に、大人の戦い。
 クラブW杯でも、メキシコのレオンに競り勝ち、マンチェスターシティにケンカを売ることはできた。ただ、もうチーム全体があそこまで疲労していては、どうしようもなかったけれど。
 それにしても、このクラブのカップ戦での強さには恐れ入る。もちろん、サポータの方々からすれば、リーグの再制覇は大きな目標なのだろうが、毎年のようにしっかりとタイトルを取り切るのだからすごい。

4.ルヴァンカップ城後寿の戴冠
 ルヴァンカップ決勝。開始早々、紺野和也の鋭い突破から福岡が先制。浦和が落ち着いて攻め返すが、福岡の組織守備がよく機能。さらに山岸祐也が最前線で巧みなボール保持を見せ、幾度も福岡の速攻が浦和守備陣を脅かす。そして、前半終了間際、またも紺野が輝き、2点差に。
 後半の浦和が攻める。交代出場した明本考浩が見事な個人技を発揮して1点差。その後の浦和の猛攻を福岡が押さえ切り(少々怪しげな判定もありましたが)、初戴冠。
 でもさ。城後寿がカップを上げる光景はすばらしかったよね。日本中の他クラブのすべてのサポータが、福岡のサポータたちに羨望した瞬間。

5.ヴァンフォーレ甲府ACL 2次ラウンド進出 
 昨シーズンの天皇杯王者の甲府が、ACLで堂々の2次ラウンド進出。しかもJ1昇格を視野に入れてターンオーバを採用しながらだからすばらしい成果だ。いずれの試合でも、中盤は互角以上の攻防を見せ、変化ある攻撃と組織的に連携した守備を披露。天皇杯制覇が偶然の賜物ではないことを、堂々と証明してくれた。
 J1とJ2の最大の差は、両ゴール前での精度にあると言われる。しかし、敵陣前ではピーター・ウタカと三平和司のベテランが知性の限りを尽くしたプレイで、アジアの強豪たちと伍して変化を作り、各選手が次々とネットを揺らした。
 多くのトッププレイヤが欧州に流出してもなお、Jリーグが極めて高いレベルのリーグ戦であることを、甲府が堂々と証明してくれた。

6.ヴィッセル神戸、J初制覇
 強かった。
 大迫勇也、山口蛍、酒井高徳、扇原貴宏とロンドン五輪代表が中核を占め、武藤嘉紀も好調をキープ、周囲を固める前川黛也、山川哲史、本多勇喜、井出遥也、佐々木大樹、汰木康也と言ったタレントが皆堅実に成長、若年層代表時ほど輝きが見られなかった齊藤未月や初瀬亮も輝きを取り戻した感があった。
 このクラブは、言うまでもなく約20年前に経営不振で苦しんでいた際に、地元出身の三木谷浩史氏が出資し多くの支援を行ってきた。三木谷氏の支援の下、多くのスター選手を呼ぶなどしていたが今一歩成果は上がらず。特に2014年以降は、三木谷氏の個人支援からいわゆるクリムゾングループの一員となり、バルセロナとの連携や、アンドレス・イニエスタやダビド・ビジャの招聘など多くの施策を行ってきたが、2019-20年シーズンの天皇杯制覇以外は決定的な成果を挙げることができずにいた。
 ここにきて、吉田孝行氏が全権を掌握。上記のベテラン達を軸に、知的労働者たちが輝くチームとなった。結果が出てみると、サッカー的には当たり前のことが証明された感があるけれど。選手吉田孝行は知性あふれるストライカだった。特にフリューゲルス最後の天皇杯制覇の決勝点など忘れ難い。
 でも、全盛期とは言えずとも、イニエスタの優雅な舞を幾度も国内で堪能したのだから、それはそれで楽しかったな。 

7.遠藤航のリバプール加入
 30歳になった日本代表の主将、遠藤航がこの年齢でリバプールに加入。当然のように毎試合の好プレイを継続し、中心選手として機能している。考えてみれば、ブンデスリーガでもW杯でもあれだけのプレイを披露してきのだから、これは驚きではない。
 ただ、このクラスのメガクラブへ、この年齢になってから加入できた日本人選手は記憶にない。過去多くの日本人選手は、早熟な選手(例えば、香川真司や冨安健洋のように)10代のうちに5大国のリーグに加入し経歴を積まないと、欧州CLの優勝を争うようなメガクラブへの加入が難しい感があった。これは、選手編成が必ずしもその年その年のチーム強化と言う視点だけでは決定されず、選手の転売益などの投資的な視点も考慮されたからだろう。したがって、長谷部誠や酒井宏樹のように。そのポジションで世界屈指の名手と言われても、メガクラブへの道が開かれづらかったためと思われた。だから、日本人選手の代理人の多くは、日本でほとんど実績上がっていないタレントを、無理に10代のうちに欧州で売りに出そうとしているるのだが。
 しかし、この遠藤の成功は、ベテランの域に達した日本人選手の有用性を示すもの、今後の欧州での各選手の活躍の場を広げるきっかけになるのではないか。

8.ドイツ戦の完勝
 気持ちよい完勝だった。
 点の取り合いでリードした前半。サネの好機を冨安が完全につぶす。後半立ち上がりに3DFへ切り替えてサネを止めに行った戦術変更。ドイツの攻めをいなしておいて終盤の加点。
 日本代表の好調の重要な要因は、カタールW杯で築くことができた各選手の自信だろう。ドイツもスペインも確かに強い。しかし、同様に日本も強いのだ。もちろん、これら強国から学び続けることは、今後も重要だろう。しかし、それらの強国で行われていることを盲信し、日本が積み上げてきた強化を全否定する必要はない。 

9.活字媒体の消失とネット媒体の使いづらさ
 年寄りの愚痴です。
 サッカー界に限ったことではないが、活字媒体の弱体化が進み、多くの活字媒体が廃刊やネット化を余儀なくされている。
 大概のサッカー情報は、ネット経由で入手可能。いや、何よりサッカーの本質である1次情報の試合の映像があふれるほどネット経由で入手できるのだから、ありがたい世の中になったものだ。
 しかしですよ。自分のクラブ(私の場合はベガルタ仙台)以外の試合情報の入手が、最近非常に難しくなっている。Google検索を行おうとすると、多くのサイトは広告収入狙いで相当数回クリックしないと目的情報には辿り着けないのだ。いや、何回画面を叩いても目的情報に到達しないことも多い。例えば、「今週末、おもしろそうなJリーグ以外の試合あるかな」とか「来週のドイツ対日本は、何時キックオフだっけかな」的なことを調べるのに、ものすごく苦労するのですよね。面倒な世の中になったのだ(笑)。

10.J1昇格プレイオフの非喜劇
 J1昇格プレイオフ。余談ながら、第1回現ルヴァン杯決勝と同じ対戦だと、話題になった。あれは31年前、日本が初めてアジアカップを制した直後のことだったな。カズに先制された清水終盤の猛攻、トニーニョのシュートが僅かに外れ勝敗が決した感が漂った時、オーロラビジョンに悔しそうな表情の、清水レオン監督が大映しになった。「ああ、セレソンの元主将が日本で監督しているんだ、」と妙な感動をした。「今まで経験したことのない素敵な時代が来るんだ」と言う何とも言えない予感。そして、その予感通り、30年以上に渡り、若い頃はまったく想像できない歓喜をいくつもいくつも味わうことができた。
 本題に戻ります。東京VのハンドによるPKで清水が先制。このハンドだが、東京Vが不当な守備をした訳でも何でもなく、ハンドと言うルール独特の運不運によるものだった。先制後の清水の守備は組織も強度を完璧に近かった。それに対して、東京Vも粘り強く遅攻を重ね、幾度か好機を掴むも崩せずアディショナルタイムに。分厚く守る清水は敵陣にボールを運んだので、定石通りラインを上げる。その瞬間、東京VにFW染野が裏をねらい、縦パスを受け抜け出しかける。しかし、突破したのは染野1人で、簡単に決定機にはつながりそうもなかった。しかし、清水DFが意図不明のスライディング、巧みなスクリーンで持ち出した染野が倒されPK、同点に。
 東京Vの久々のJ1復帰が話題となっている、早速横浜Mと開幕戦を戦うなど話題性ある演出も行われているようだ。実際、プレイオフでは私以上の年齢の(笑)サポータの歓喜する姿が印象的だった。一方で清水の悲劇、もうこんな負け方は防ぎようがない。無責任なライターが「清水の体質改善が…」などと語っているが、あんな負け方は体質をいくら改善したってどうしようもない。
 いわゆるオリジナル10クラブの明暗が分かれた訳だが、こう言う理屈で説明不能なプレイで来期の昇格が左右される理不尽さ。どうしてサッカーって、こう言った無常観を味わえるのだろうか。
posted by 武藤文雄 at 23:20| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年ベスト11

恒例のベスト11です。
ドイツを返り討ちにするなど、実に景気のよかった日本代表チームの中心選手と、Jで活躍したタレントを、いつものように偏見で選考しています。

GK
前川黛也
 神戸のJ1制覇を支えた安定した守備振り、A代表で唯一決定的タレントが不在のこのポジション。前川黛也が成長し、2026年大会で日本を支えてくれる可能性も十分にあると思っている。落ち着いたクロス処理と広い守備範囲と堅実なセービング。
 ここで改めて年寄りの繰言として、前川黛也のお父上の前川和也のアジア制覇について語らせていただく。
 1992年のアジアカップ準決勝中国戦、前半開始早々に先制された日本だが、後半落ち着きを取り戻し、福田正博、北澤豪の得点で逆転。ところがその直後、自陣前の混戦後にGK松永成立が意図不明のラフプレイで退場、オフト監督はこの緊急事態に北澤に代えてGK前川和也を起用した。その直後、中国の単調なクロスボールを、CBの柱谷哲二が意図不明のスルー、突然流れてきたボール処理を前川和也が誤り、日本は同点に追いつかれる。本件については、前川のミスとの記録は多いが、どう考えてても柱谷の判断ミスが致命的だった。1人少ない状況での難しい戦いとなったが、終了間際の堀池巧の鮮やかなクロスからゴン中山が美しい決勝点を決め、我々は決勝進出に成功、アジアチャンピオンに駆け上がった。本当に本当に嬉しかった。
 ともあれ、あの苦しかった準決勝中国戦、そして続く決勝サウジ戦、我々サポータに初めてのアジア王者を提供してくれたのは、お父上前川和也だったのだ。
 ご子息が改めてアジア王者の歓喜を提供してくれることを期待したい。

DF
菅原由勢
 ユース時代からエリート選手。2019年のU20W杯でのプレイもすばらしかった。ところが、韓国戦の直接的敗因となってしまった痛恨のミス。その後オランダの名門での活躍があったものの、カタールW杯の最終代表選考直前の負傷で選考外となった。
 こう言った不運を糧として、菅原は最高級の右サイドバックに成長した。このポジションは、内田篤人、酒井宏樹と、日本が常にトップレベルの選手の輩出が継続していた。ここに、内田、坂井と遜色ないタレントの、菅原が確立していること、素直に喜びたい

冨安健洋
その潜在能力からすれば、まだまだ不満は多い。また本人の課題とは言い難いが、負傷の多さはいかがなものか。
しかし、あのドイツ戦での完璧なプレイを見せられた以上、ベスト11には選んでおかないと。

谷口彰悟
カタール移籍後もコンディションを崩すことなく、トップフォームを維持。代表戦に呼ばれる度に堅実なプレイを披露。多くの日本人選手が欧州に戦いの場を移しているが、冨安や遠藤航のようなメガクラブで活躍の場を得ることができない選手が生涯年収を最大にする道筋は、谷口のように中東の金満クラブでのプレイではないかとも思える。それはそれで、複雑な思いにとらわれるけれど。

本多勇喜
ヴィッセルのJ初制覇を最終ラインで支えた。正直、この選手は今シーズンの大活躍までノーマークでした。瞬発力を活かした出足の鋭さ、落ち着いた守備対応、左足の精度。32歳となり、このようなタレントが登場するのだから堪えられませんな。

MF
遠藤航
30歳になってからリバプールのようなメガクラブへの加入し大活躍。考えてみればブンデスリーガでもW杯でもあれだけのプレイを継続してきたのだから、驚きではない。
ただし、こう言ったメガクラブを含めた欧州の一部クラブの編成は、戦闘能力の向上とは別に、選手の売買による利益創出も目的となっている。そうなってくると、日本人選手は、欧州市場への参画がどうしても遅くなり敬遠される傾向があった(だから、日本人選手の代理人の多くは、日本でほとんど実績上がっていないタレントを、無理に欧州で売りに出そうとするのだが)。しかし、この遠藤の成功は、ベテランの域に達した日本人選手の有用性を示すもの、今後の欧州での各選手の活躍の場を広げるきっかけになるのではないか。

守田英正
カタールW杯でも感じたのだが、守田は過去の日本サッカーがようやく生み出すことができた攻守両面で機動的に機能するタレントと言うことになるだろう。中盤後方から挙動を開始し、豊富な運動量で最前線あるいは両翼のサポートを忠実にこなし、時に得点も奪う。しかし、あれだけの頻度で前線に顔を出しながら、中盤守備で破綻もきたさない。
もちろん明神智和の全盛期に真っ当な代表監督がいれば、守田のように中盤を席巻するタレントとして日本代表で圧倒的な存在感を見せてくれた可能性はあっただろうが、まあぞれはそれ。
山口蛍や渡辺皓太と言ったJで秀でたプレイを見せた選手を選びたい思いもあったのだが、今年に関して言えば遠藤と守田がすばらし過ぎた。

紺野和也
あのルヴァンカップ福岡初戴冠の立役者。
ここ十年くらいで世界的流行(十年もの月日が経ったのだから、流行と言うのはおかしいか)となっている左利きの右ウィング。高速で頻度の多いタッチで俊敏性でキュッと中にも縦にも行ける。このような特長が明確なタレントは、チームとしてその異才をいかに活かせるかが重要で、福岡はこの小柄で勇気あふれるウィングにとって最適なチームと言える。これだけ目立った活躍をすると、他の金満クラブから声がかかりそうなものだが、来期も福岡でプレイするとのこと。このまま、この格段の才を活かす活躍が続けばA代表入りも見えてくるのではないか。

伊東純也
日本サッカー史上最高のFWなのではないかとの雰囲気が漂ってきた。
30歳になっても衰えない縦への格段のスピード、そしてトップスピードで長駆しながらブレないトラップの精度がすばらしい。あの高速下の高精度のボールコントロールを見ていると、伊東をトップ下にして久保を右サイドに配した方が、もっと日本は点をとれるように思うのは、私だけか。

三苫薫
川崎時代の活躍を考えれば、プレミアでの圧倒的存在感は不思議ではない。
ただ、私は意地が悪いので、この世界最高級のウィングプレイヤを、長期に渡り代表のレギュラとしてこなかった理由を、森保氏に問いたい。

FW
大迫勇也
やはり今年のCFは上田綺世でも古橋亨梧でもなく、このお方でしょう。優美なテクニシャンに得点力が戻ってきた。
ただ、私は意地が悪いので、この日本サッカー史上屈指の優美なストライカを、カタールW杯代表に選ばなかった理由を、森保氏に問いたい。

余談ながら…
百花繚乱の感がある代表の攻撃的MF。上記の通り、伊東純也は日本サッカー史上最大のFWではないかと思わせる存在感だし、三苫薫は世界屈指のウィングだ。そんな中、久保建英、鎌田大地、堂安律が並立し、凄絶なポジション争いを演じている。そんな中、最近の久保は東京五輪やカタールW杯での独善的が過ぎるプレイがなくなり、レアル・ソシエダでも代表でも見事な攻撃の牽引ぶり。鎌田のドイツ戦での気の利いたポジショニングは見事なものだった。代表での評価が落ちたと揶揄される堂安だが、序盤押し込まれていたトルコ戦で独特のキープで最初に作った好機で伊藤敦樹の得点を演出した場面など大したものだった。結構な時代になったものだが、やはりベスト11となると、ルヴァンカップ決勝の紺野和也かなと思いました。
posted by 武藤文雄 at 18:25| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年07月27日

ベガルタの伊藤彰氏退任問題について(精神論)

 いささか時間が経ってしまったが。ベガルタ仙台は、伊藤彰監督退任を発表。そして、後任はコーチングスタッフから堀孝史氏が昇格。さらに日をおいて渋谷コーチも辞任。伊藤氏退任後もつらい試合が続いている。まずは精神論を語りたい。

 整理しましょう。
 伊藤氏は事実上の成績不振による解任。
 指導者として多彩な経験を持ち、レッズやヴェルディで苦境時の短期監督経験もある堀氏が急場をしのぐ監督を引き受けてくれた(いや、堀氏はレッズで、アジアチャンピオン獲得したのだから日本屈指の実績と称えられるべき指導者だが)。
 また、伊藤氏のコーチングスタッフを複数回務めていた渋谷氏。辞任直後に古巣の大宮アルディージャのコーチに就任。これはこれで一つの別れと言うことだろう(大宮の監督が、昨シーズンベガルタの監督を務めていた原崎氏なのはさておき)。
 まずは、伊藤氏、渋谷氏に、我が愛するクラブの強化に心血を注いでくれたことに感謝を表したい。勝点を失った試合でも、伊藤氏が選手と一緒にサポータ席に挨拶に来てくれて、丁寧に頭を下げてくれたことは忘れ難い思い出となっている。

 残念ながら、伊藤氏退任は短期的には効果を生んでいない。退任以降、ベガルタ仙台は金沢、東京Vに連敗。天皇杯を除いた(そのあたりは後述する)伊藤氏退任前の5試合は2分3敗(勝点2、得点4、失点12、1試合平均とすると勝点0.4、得点0.8、失点2.4)、堀氏就任後の2試合は2敗(勝点0、得点4、失点6、1試合平均すると勝点0、得点2、失点3)。まあ、堀氏就任以降、改善もしていないが、その前もひどかった。最近の7試合で失点18(1試合平均2.6失点)なのだから。

 ベガルタの経営層としては、過去甲府で見事な実績を挙げた伊藤監督を昨シーズン終盤に迎え入れることに成功。さらに、このオフによい選手を多数集めることができた。伊藤氏が、甲府で作り上げた、しっかり組立てるサッカーをユアテックで再現。堂々とJ1復帰、さらにはJ1での成功を期待していたのだろう(いや、サポータもそう期待していました)。先日、社長交代が行われたのはさておき。
 しかし、思うに任せないのがサッカーの常。この切歯扼腕が、サポータ冥利と言うものだが、経営をしている方々は、そう悠長なことを語れなかったのかもしれない。悪い流れをとにかく変えて、少しでも今シーズンでのJ1昇格の可能性を高めようとする判断で、監督変更を決断したのだろう。
 もっとも。
 伊藤氏退任のタイミングも自嘲的に微苦笑したくなる。退任直前の試合は天皇杯名古屋戦。映像を観る機会がなかったが、J1屈指の強豪に敵地で引き分け(PK負けで次ラウンドに進めず)。さらにその数日前のリーグ戦の栃木戦は、引き分けに終わったし戦術的な課題もあったが、敵地で選手達がすさまじい気迫を見せた興奮させてくれる試合だった。このような良好な2試合直後に、それを率いた監督を退任させる意味があったのだろうか。いや、もっとハッキリ言いましょう。ベガルタ経営陣は、伊藤氏解任を栃木戦前に決めていたのだろうが、各種手続きに時間がかかり、伊藤氏率いるチームがよい試合を見せた後の正式意思決定になったのではないかと。悲しいくらいのスピード感の無さではないか。いや、邪推しているだけですけれども。

 その直後にチームを率いることになった堀氏、つらいところだ。

 一方で、これで過去4シーズンに渡り、1年以下で監督をクルクル交代させていることになる。一般論として、監督を頻繁に代えることがチームの強化や好成績にはつながらないのは言うまでもない。
 20年シーズン後J1下位低迷で木山氏を解任、21年シーズン終盤J2降格確定し手倉森氏を解任、22年シーズン後半に入ったところでJ1昇格が難しくなったところで原崎氏を解任、そして今年の23年シーズン半ばで伊藤氏を解任。こうやって整理すると、毎シーズン監督を解任しているのみならず、解任サイクルが短くなっているのだから、どんどん悪くなっていると語るべきなのか。
 もう20年近く前になるか。清水秀彦氏の自転車操業でJ1昇格、その継続が叶わなくなりJ2降格。それ以降の数年間の迷走が懐かしく思い出されるな。算数のできない監督とか、後日セレソンとなる優秀なタレントがいてもとか。そして、あの磐田の夜の涙。
 以降の望外の大成功は、手倉森誠氏、渡邉晋氏と言う、格段の指導者に長期を委ねたことにあったのだが。

 ともあれ、身も蓋もない一般論。サッカーの監督人事は永遠の酒の肴。何が正しいか正しくないかは、結果論で語るしかない。そもそも監督人事とチームの成績の関係は非線形。よい監督とよい選手を集めれば好成績を収めることができるとは言えないところが、とにかく厄介なのだ。もちろん、戦闘能力が充実していた名古屋やG大阪をJ2に陥落させた直接要因となった監督が無能だったのは間違いない。しかし、ここまで質の低い監督が登場する事例は極めて稀だろう。
 どんな優秀な監督でも、チームとの相性というものがある。過去Jリーグの多くのクラブで成功を収め、今では、日本協会の重職を務めている名将が、北京五輪で大変残念な監督振りだったのが、典型的事例。
 
 繰り返そう。過去実績のあるよい監督を招聘し、よい選手を多数補強。それでも勝てない。さらには、経営層の短期的視野から、さらに事態が悪化する。これこそ、サポータ冥利。だからサッカーはやめられないのだ。
 でも俺は絶対に諦めない。まだ間に合う。堀さんよ、選手たちよ。今から丹念に勝点を積み上げ、来季はJ1で戦おう。
posted by 武藤文雄 at 23:29| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年02月19日

Jリーグ30周年

 Jリーグ30周年。
 62歳の私だが、人生の半分近くJリーグがある生活を続けていたことになる。いや、物心ついた後と言う視点ならば、もう半分以上だな。
 気がついて見れば、全国ほとんどの地域でプロフェッショナルのサッカークラブが存在。日本中の仲間が毎週末、病膏肓w愛するクラブの上下動を堪能する事態とあいなった。言い換えれば、何より楽しいサッカーと言う娯楽が、日本中に広がり多くの地域の人々の週末の楽しみになったと言うことだな。若い方々には理解できないかもしれないが、90年代以前日本にはそのような娯楽がまったく存在しなかったのだ。プロ野球や相撲は、地方都市への娯楽提供と言う視点は全く欠落していた。Jリーグが、日本の文化すべてを大きく変えたと言っても、言い過ぎではない。このあたりは過去も随分語ったきたし、今後も語っていくつもりだ。
 そして、我がベガルタ仙台は明日の敵地町田戦が開幕。飲みながらSNS見ていると、全世界のベガルタサポータの友人たちが、みな町田に集結するみたいだ。友との再会、圧倒的に強化された愛するクラブ、町田の方々のホスピタリティ。もうワクワク感が最高で堪えられない。妻と「よし、明日は鶴川駅から1時間歩くぞ!」などと盛り上がるのも楽しい。
 しかも多くのクラブはこの金曜土曜で開幕試合体験済み、多くの友人が既に初戦を戦い、己のクラブの歓喜と痛恨を嬉しそうに語ってくれているから、単純にうらやましい。
 ああ、我慢できない。

 考えてみれば、こんな緊張感はあのクロアチア戦以来ではないか。あのPK戦後、一歩一歩階段を上がって競技場を去る時の胸の張り裂けそうな思い。
 Jリーグ30周年視点で考えて見れば、日本代表も、J開幕前年の92年アジアカップ制覇以降、常にアジア屈指の強豪となったわけだ。そして、W杯でも上下動はあったものの着実に地位を築いてきた。そして、ドーハでは、世界のどんな強豪とも互角に戦うことができた。だからこそ、あのクロアチア戦の悔しさは癒えることはないのだけれども。

 もちろんJリーグができず、大昔のJSLが継続していても、日本代表がアジア予選でモタモタしていも、私はサッカーを存分に楽しんでいたことだろう。勝とうが負けようが、サッカーは最高だからだ。
 でも、サッカーを楽しむ友が多数いてくれて、世界中の仲間に自分のクラブと代表チームをポジティブに自慢できるに越したことはない。
 何回でも何回でも言う。
 こんなステキな人生を楽しむことができるなんて、若い頃想像すらできなかった。

 ともあれ、まずは突然金満クラブとなった町田を叩き潰すのだ!
posted by 武藤文雄 at 00:29| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月03日

新潟医療福祉大のオナイウ情滋を楽しむ

 ベガルタに入団するオナイウ情滋が所属する新潟医療福祉大が、元日に行われた大学選手権決勝戦(対桐蔭横浜大)に進出。国立競技場で観戦した。情滋応援団として、ベガルタサポータの仲間たちと一緒に応援できたのも楽しかった。さらに偶然、我々の席のすぐそばに、新潟のジェフ入団決定済みの小森飛絢を応援するジェフサポの方もいて、それも嬉しかった。
 大学サッカー観戦は久々、1試合だけの観戦で大学サッカー云々と語るのは危険なので、あくまでも大学トップレベルの1試合を見ての感想について講釈を。

 一言で言って、相互の狙いが、とにかく単調なのに驚かされた。
 お互い、中盤でつなげる技巧もタイミングの理解もあるのに、負けるのを怖がってか、縦にロングボールを蹴ってしまう。一方、守備側は裏を突かれるのを怖がり、ラインを上げ切れない。結果的に不正確なロングボールが両サイドに飛べば、それなりに好機となる。
 そうこうしているうちに、前半、FK崩れから情滋がミドルシュート、敵DFに当たったこぼれを大柄なストライカの田中翔太が詰め、新潟が先制。情滋のシュートは、少々当たり損ね感があったが、とにかく枠に飛んでいたのだから、よしとしようか。
 直後、左サイド(新潟から見て)を崩され中央混戦から同点とされる。桐蔭の2トップはフロンターレ行きが決まっている山田新(川崎ユース出身、来季から出戻りが決まっているわけだな)と、ホーリーホック入りが決まっている寺沼星文。ペナルティエリアにボールが入ると、この2人のボールコントロールがよく、それだけで好機を作られてしまう。序盤から左サイド(新潟から見て)で巧みな位置取りをする井出真太郎(横浜Mのユース出身)への対応に苦慮していたが、完全に崩されてしまった。
 その後、新潟はサイドバック神田悠成のロングスローを、CB秋元琉星がすらしCB二階堂正哉が決めて突き放す。3人とも青森山田出身なのには、なるほど感がありましたが、とにかく、2-1で前半終了。

 新潟は後半序盤は、リードして落ち着いたのだろう。短いパスを中盤でつなぐようになる。特に左サイドで丁寧につないで、桐蔭守備をひきつけてサイドチェンジ。情滋がフリーでボールを受け、幾度か好機を作る。もっとも、情滋はフリーのミドルシュートが枠に飛ばなかったり、中央突破を試みながら身体を入れ損ね簡単にボールを奪われるなど、ベガルタサポータからすると「おい、こら」と言う場面も見受けられたw。いや私が「もっと、がんばらんかい!」と思わず語ると、周りのベガルタサポータの方々が、楽しそうに失笑してくれたけれどw。
 ところが、新潟は後半半ば以降、勝ちを意識したのだろうか、落ち着いてつなぐことがなくなり、再び縦パスに頼ることになってきた。そうなると、結果的に桐蔭に簡単にボールを渡し、幾度も攻め返されることになる。上記の通り、桐蔭の2トップは技巧も持ち堪えも巧み。簡単に桐蔭にボールを渡し、前線に差し込まれると、それだけで危ない場面となってしまう。そうこうしているうちに、75分過ぎに同点とされる。
 同点となれば、少しは落ち着くかと期待したが、その後も同様の展開。新潟が単調なロングボールを蹴り、そこから桐蔭が好機をつかむ時間帯が継続する。それでも試合は同点のまま進み、アディショナルタイム。桐蔭の決定機を新潟GK桃井がファインセーブ、その直後のCKもしのぎ、桃井のゴールキック。ここでまったく時間は残っていないのに、桃井は単純にロングボールを蹴ってしまう、それを跳ね返され、桐蔭の逆襲速攻、エース山田に強烈な一撃を食らった。試合運びとすれば、あまりに稚拙。若い学生チームとすれば、やむを得ないのだろうか。
 桐蔭関係者(川崎や水戸の関係者もそうでしょうが)からすれば感動的勝利だったことでしょう。新潟関係者としては、たまったものではありませんでしたが。

 オナイウ情滋は、ボールを持てば多彩な攻撃の起点になれる。強引に縦に抜け出した直後、少々体勢が悪くとも高精度の右クロスを上げることができる。敵DFがウェイティングしようとすると、「縦に抜け出すぞ」と脅しDFの腰を引かせた上で、中に切り返したり、周囲にパスを出したり、色々な変化も作れる。また、右足のインフロントキックで蹴るプレイスキックも魅力的。球足は速いし、相当カーブもかかるし、精度も中々だった。しかし、少なくともこの試合ついては、ボールに触る回数が少な過ぎた。もちろん、桐蔭も情滋を相当警戒していたのは間違いない。しかし、エースなのだから、もっともっとボールにからみ、勝利に貢献しようとすることは責務のはずだ。情滋本人の受けのアイデアと周囲への要求それぞれに課題があったのだ。大学サッカーでの最後の最後の試合で、情滋はそこまで自分を活かすための工夫までは築き上げることができなかった、と言うことなのだろう。
 さらに言えば、守備面での不満も多かったのだが、まあいいや。まずは得意のプレイの頻度が少なかったことが課題だな。そして、この決勝戦程度しか、攻撃面で貢献できなかったのを見ると、ベガルタですぐに定位置を奪ったり、効果的なプレイをするのは簡単ではないように思える。

 などと、若い選手に愚痴を語るのは、何とも言えず楽しい。願わくば、私の見立てがはずれていることを。まずはしっかり休み、気持ちも体調も整え、キャンプに向かって下さい。
posted by 武藤文雄 at 22:01| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月31日

2022年10大ニュース

 恒例の10大ニュースです。カタールワールドカップについて、まだ何も書けていないので迫力に欠けることこの上ないのですが、今年の重要事項を自分なりに整理しました。11、12月にワールドカップを堪能してしまうと、あまりにその影響が強すぎるのですけれど、何とかまとめました。

1. 日本代表ベスト8 ならず

 できればこの正月休みのうちに、日本代表についても、ワールドカップ全体についても、まとめたい。

 今はただ、クロアチア戦の苦杯は、とにかく悔したかったと言うことだけ。今回こそは、今回こそは、と思ったけれど勝ち切れず。とにかく悔しい。繰り返すが悔しい。何度でも言うが悔しい。ドイツやスペインはやっつけたけど、悔しいのだ。

 一方で。今は私は62歳、何となく大会前から、死ぬ前に一度はベスト4を体験できるのではないかと思っていた。そして、それを希望ではなく、確信できたのがこの大会かなとは思う。たとえ、それが錯覚で自惚れだとしても。

 でも、延長前半の三笘のシュートが、もう少しポスト寄りに飛んでいればとは思うけれど…

2. ヴァンフォーレ甲府の日本一

 日本で最も歴史の古いクラブチームの一つ、ヴァンフォーレ甲府が天皇杯制覇、初めての日本一の栄冠を獲得した。歴史的偉業と語られ続けるべきだろう。

 甲府の前進の甲府クラブの事実上の設立は1965年と言う。甲府クラブは1972年のJSL2部設立時に参加以降、常にJ1、J2、JFL、JSL2部のいずれかで戦っている。設立は読売クラブより古く、継続的に活動している純粋なクラブとしては神戸FCと並ぶ歴史を誇る。もちろん、日本中にあるいわゆる学校のOBチームで、より古い歴史を持つクラブはあるかもしれないが、トップリーグで高い続けている歴史は圧倒的だ。特に90年代後半、プロ化を決断した直後に大きな経営危機を迎えるが、関係者の血の滲むような努力で回避。人口が決して多くない地方クラブとして自立に成功。さらに複数年にわたりJ1で戦うなど、日本中の地方クラブの象徴とも目標とも言える存在となっている。

 またカタールで戦った日本代表のエース伊東純也は、甲府でプロのキャリアをスタートさせたことも特筆されるべきだろう。

 その甲府が天皇杯制覇。それもサンフレッチェ広島と戦った決勝の勝ち方が鮮やかだった。先制に成功するが終了間際に追いつかれて延長に。延長でも丹念に守っていたが、116分にチームのレジェンド山本英臣が痛恨のハンドでPKを与える。そのPK河田晃兵が止めPK戦に。PK戦で最後に山本が決めると言う劇的勝利。

 来シーズン、甲府はACLを戦える。「J2で苦しい戦いになる」とか「ACL出場権をカップ戦王者に与えてよいのか」と、サッカーをわかっていない輩が余計なことを言うが、言いたい奴には言わせておけばよい。難しいシーズンにはなろうが、国際試合で戦う権利は、勝者にしか与えられないのだから。

 この決勝戦ですっかり悪役となってしまったサンフレッチェ広島。こちらは森保監督時代に3回J1制覇をしているが、カップ戦は幾度か決勝進出はあったが優勝はなかった(もっとも、前身のマツダ(東洋工業)時代には1960年代は複数回天皇杯制覇しているが)。今回も決勝で苦杯を喫し、「またか」感ががあった。しかし、1週間後に行われたルヴァンカップ決勝セレッソ戦、セレッソに退場者が出たこともあり、アディショナルタイムの連続得点での逆転勝利。劇的なルヴァンカップ制覇となったのも付記しておこう。


3. 横浜マリノスと川崎フロンターレの覇権争い

 ここ数年、優勝争いを演じている両チーム。今年は横浜Mが川崎を振り切った。疫病禍下でACLも合わせて戦わなければ難しいシーズン。

 韓国に快勝するなど実に気持ちよい優勝を演じてくれたE-1東アジア選手権の中軸は今年の横浜M、水沼宏太や岩田智輝の知性あふれるプレイはすばらしかった。老人としては、30歳過ぎて日本代表に到達した水沼宏太に、かつての水沼貴史の面影を見て感涙ものだったのだが。

 もっとも、川崎サポータはこのチームの中核は谷口彰悟だったと語り、カタールの日本代表は、谷口の他に、板倉滉、山根視来、田中碧、守田英正、三笘薫と川崎出身選手が中軸だったと主張するだろうが。

 リーグ戦が終わってみれば、この2チームの後ろに、新監督スキッベ氏が機能した広島が続き、監督問題で苦労したが優秀な選手を多数抱える鹿島が続いた。まあ妥当な結果なのかなとは思う。海外への選手流出が続くJリーグだが、丹念にクラブの経営規模を拡大し、丹念な強化を継続しているチームが常に上位をうかがっている。野心的に上位を目指す各クラブにも、適切な目標が提示されている形態は健全な状況に思える。


4. J2山形対岡山戦再試合

 J2モンテディオ山形対ファジアーノ岡山戦で、主審のルール適用ミスがあり、Jリーグ当局は再試合と裁定した。私はこの裁定が間違っていないとは思うが、サッカーのルールと裁定が非常に難しくなったものだと嘆息した次第。上記リンクは非常によく整理されており、経緯は以下だと理解できる。

 (1) 主審がルール誤適用をして山形GKが退場、山形は約80分間10人での戦いを余儀なくされ敗戦

 (2) Jリーグ当局がIFABに問い合わせたところ、「ルール誤適用の場合は『主審の試合決定が最終』とは言えない」と回答受領

 (3) ルール誤適用についてJFAもJリーグも規定なく、試合成否決定という重要事案なので理事会で議論し、再試合とした

 実はこの誤適用となったルール追加は約2年前のこと。キーパがゴールキックやFKをペナルティエリア内で蹴り、それがミスにつながり敵が決定的チャンスを掴んだ場合などに、キーパが他選手より先にボールに触ったら警告なり退場(退場はDOGSOのケース)と言うもの。一方で、バックパスを手で受けた場合は従来通り敵に間接FKが与えられるだけで警告も退場にもならない、とも同じ条項内で明記されている。そして今回は後者のケースにもかかわらず退場と誤適用してしまった。余談ながら、当時少年サッカーのコーチ仲間とこのルール変更が話題となり「そんな難しいこと、いちいち覚えてられないよねえw」と語り合ったものだった。

 まず、私のような年寄りは「前者だろうが後者だろうが、そんな稀にしか起こらないことはルール化せず、主審の判断に任せてしまえ」と言いたくなる。しかし、昨今のルールの考え方は、全世界で?極力判定基準を揃えようとするもの。結果的に、本件のようにやたら細かい項目を考慮してルール化することになる。ついでに言うと、得点や決定機の阻止の退場についてはDOGSOを満たした場合と条件を具体化したのも、審判の仕事をやたら難しくすることとなっている。私のような底辺の4級審判員には、あまり縁のない世界だが、トップレベルの審判の方々には同情を禁じ得ない。

 さらに、私のような年寄りは「主審の試合決定が最終であるべきだろう」と言いたくなる。しかし、ルールを詳細化することで、今回のように「後から考えたら誤適用」となるケースが出てくる。そうなると、「試合の最終決定を誤った判断をした主審に任せてよいのか」問題起こってしまい、今回のような騒ぎに発展してしまう。誤適用により主審の最終決定をくつがえす事例にはこんなことがあった(当時私も講釈を垂れた)。以降、ルールが一層複雑化しているのは言うまでもなく、このような事例が世界中で増えているのかもしれない。

 加えて、私のような年寄りは「さてJ当局は、このような誤適用がシーズン終盤日程に余裕がない時に起こったならばどうしたのだい?」と言いたくなる。しかし、これはただ私が性格が悪いだけのことだな。誤適用で不利益をこうむった山形が負けていた以上、Jリーグ理事会が当該決定をしたことは正しいのだろう。

 それにしても、厄介な時代になったものだ。


5. 名古屋グランパス虚偽報告

 名古屋は、保健所の指導がなかったにもかかわらず、活動停止の指導があったと虚偽報告を行い、チェアマンに7/16に予定されていた川崎フロンターレ戦を中止させた。後日、それが判明、Jリーグ当局からけん責と罰金200万円の処罰が発表された。

 上記リンクから、名古屋が行ってしまった虚偽報告と経緯を具体的に記載しば部分を抜粋するとおおむね下記となる(以下の抜粋では「名古屋グランパス」をすべて「名古屋」に読み替えた。
(前略)真実は管轄保健所から指導を受けたものではなく、名古屋の対応方針を是認されたものにすぎないのに、新型コロナウイルス感染者の多発により管轄保健所から同日から3日間の活動停止の指導を受けた旨をJリーグに報告し、チェアマンをして(中略)同試合の中止を決定させた。
 さらに上記リンクでは、名古屋の日程遵守義務回避疑念を厳しく追及している。
(前略)「Jリーグ新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」(規約第3条の2)においては(中略)各Jクラブが虚偽を述べないことが大前提となっているところ、本件名古屋の行為はこの前提を揺るがすものである。(中略)公式試合は予め一部のJクラブのみが不利な日程にならないよう調整して日程が組まれており、特別の事情がない限り変更され、または中止されないことが原則である(中略)。そのため、各Jクラブは公式試合の日程遵守義務を負っているところ、虚偽報告により安易に日程遵守義務を回避したとの疑念を他のJクラブ、サポーター等に抱かれかねない事態を招いたことは、Jリーグの信用を大きく毀損するものである。
 ただし、J当局の調査によると、情状を考慮すべき点もあるとのこと。
一方で、弁護士等も交えた(中略)への聞き取り調査に基づき、名古屋が虚偽の報告を故意に行ったとは認められず、(中略)名古屋側が示したチームの活動停止の方針に保健所側が異議を唱えず、(中略)他クラブの直近の事例からしても、当時の名古屋の陽性者の広がりからすれば保健所から指導があり得ると考えても不自然とはいえない。また、その後の調査によれば、(中略)当時、名古屋はエントリー下限人数をもともと満たせていなかったことが客観的に明らかであるために、虚偽報告の有無にかかわらず、結果的に開催可否判断への影響が限定的であった。
 以上より、譴責と200万円の罰金が妥当との結論になったようだ。弁護士を交えた客観調査で、チーム内の実情は感染者が相当数出ていた。そのため、虚偽報告がなくとも、最終的にチェアマンが試合中止を判断した可能性が濃厚だった。そのため、虚偽報告は論外だが、結果的には同じ結論に至ったと言うことらしい(いつも思うが、Jリーグ当局は、もう少しリリースをわかりやすく書いて欲しいのだがw)。ただし、今回たまたま対戦相手が、ACLにも出場し日程的に非常に厳しい戦いを演じていた相手が川崎だったこともあり、日程遵守義務を回避した虚偽報告は、川崎を含めた関係各部門にも相当な迷惑をかける事態だった。そのために性悪説をとなえ、名古屋が意図的に川崎戦を回避したのではないかとの揶揄も飛んだが、まあそれはなかったと言うことだろう。



 疫病禍下のリーグ戦を継続するのは、本当に難しいことが顕在化した事件と言えよう。J当局が上記の情状を考慮し、けん責と200万円罰金と言う処罰を決定したのも間違いとは思わない。本件については。

 しかし、昨年の10大ニュースの筆頭でも議論した浦和への意味不明の懲罰とのバランスがまったく取れていない。事務手続きのミスはあったものの、結果的に誰にも迷惑をかけていない浦和は試合をなきものにされた。一方、(結果論からもしれないが)虚偽申告で多くの関係部門に迷惑をかけた名古屋は200万円の罰金にとどまった。

 21年の浦和への裁定が間違っていたのだ。今からでもよい、Jリーグ当局は当時の誤りを認めるべきだろう。

6. ACLレッズ決勝進出と声出し罰金問題
 浦和レッズがACLの決勝に進出。

 それにしてもこのクラブの最近のカップ戦の強さには恐れ入る。15年天皇杯決勝進出、16年ルヴァン制覇、17年ACL制覇、18年天皇杯制覇、19年ACL決勝進出、21年天皇杯制覇、そして今回のACL決勝進出。20年は疫病禍が最も厳しい年だったので、天皇杯が特殊レギュレーションで行われたので例外的な年。そう考えると、毎年のように必ずカップ戦で決勝進出しているのだから、さすがだ。日本最大のサポータ集団に支えられた勝負強さとでも言おうか。実際、浦和のサポータの大声援はすばらしいと思うのだよね。もちろん、浦和サポータの友人と会話していると、彼らの悩みは深い。クラブの経済力を考慮すると、常にリーグ戦でも上位を争い、栄冠を掴むのを当然と思っているのだろうから。まあ、それはそれでステキな悩みですよね。

 ところが、そのサポータ集団の一部をクラブが制御できない残念な事案から、2000万円と言う多額の罰金が浦和に課せられた。一部のサポータがマスクなしで、複数回声出し応援を行ったと言うものだ。カタールワールドカップを典型例に、海外ではマスクなしでの声出し応援が許可されている。しかし、その是非はさておき、Jでは声出し応援は禁止されていた。これはJ当局に賛同せざるを得ない。J当局の裁定を抜粋しておく。
(前略)声出し応援の禁止等のガイドライン遵守をはじめとする秩序維持にはサポーターの強い自律が必要であって、クラブには、これを促すための不断の改善努力が求められる。短期間のうちに(中略)秩序を損なう行為を阻止できなかったことは重く受け止めざるを得ない。かかる状況はJリーグ全体への社会的信用の低下につながるものである(中略)、今後Jリーグも浦和と共に再発防止に向けて対応するものの、浦和が再び(中略)懲罰事案を発生させた場合、無観客試合の開催又は勝点減といった懲罰を諮問する可能性があることを付言しておく。
 一部のサポータの暴走をクラブが複数回止められなかった事実は重い。これは前項で述べた昨シーズンの不合理な裁定とは無関係な話である。

 あのすばらしいサポータ集団の一部に困った人々がいる残念な事態、何とか解決してほしい。


7. ジュビロの国際契約違反

 事象としては単純だが、情報の多くが公表されていないので、非常にわかりづらい事件となっている。ともあれ、アジア王者となった実績もある歴史あるクラブが、事務手続きで決定的なミスを冒したわけで相当な事件である。

 ジュビロが契約したファビアンゴンザレスが、その前にタイの別クラブと契約していたとの疑惑が濃厚。結果的に二重契約を行なったジュビロが、FIFAから常に厳しい制裁の決定を受領。ジュビロが、それを不服としてCAS(スポーツ仲裁裁判所)に異議申し立てを行なった。ジュビロは、このリリースで、本件の詳細について、スポーツ仲裁裁判所(CAS)における審理に影響を及ぼす可能性がございますので、回答を控えさせていただきます。と言及している。そのため、本件の経緯や詳細については、第三者の我々にはよくわからない。しかし、結果的にジュビロの異議申し立ては却下されたと言う。

 この手の二重契約を防止するために、移籍の際に国際移籍証明が徹底されている。ここで引用したのは、日本協会のものだが、当然ながら他国でも同様の対応がとられているはず。どこかで大きな間違いが生まれたのだろうが、よくわからない。起こしてしまったことはしかたがない。改めて、何が起こったのか、どこで間違いがあったのか、適正な情報公開を期待したい。説明責任としての責務もあるし、これが再発防止につながる。


8. サッカー中継の将来、ABEMA

 ワールドカップの放映権をABEMAが獲得したと聞いた時、「また新しい有料配信サービスにカネを払わなければならないのか」と思った。ところが、全部無料だったのには驚いた。考えてみれば、ABEMAで試合を見ている間、ハーフタイムや試合の合間には、そこから流れてくるCMを見ているのだから、民放テレビと同じではないか。「そうか配信サービスも無料での観戦は可能なのか」と改めて勉強した感がある。

 カタール滞在中は、把握できなかったが、本田圭佑氏らの若々しい解説が、ABEMAでは好評だったとのこと。帰国後、準々決勝以降ABEMAの配信を楽しんだけれど、提携しているTV局の優秀なアナウンサ、豊富な解説陣、何ら既存のTV局と変わりなかった。本田圭佑氏の解説は松本育夫氏、松木安太郎氏の系譜を継ぐ本能型の解説でおもしろかった。故岡野俊一郎氏を起点とする、岡田武史氏・反町康治氏・戸田和幸氏・中村憲剛氏の流派だけではつまらないからね。いや、NHKが拘泥してるサッカーの魅力を矮小化するアテネ五輪代表監督のような外乱が登場しない分、安心して楽しめたかな。

 冗談はさておき。我々はサッカー中継を見られればよいのであって、方式や媒体はどうでもよいのだと、改めて痛感した。今後のサッカー中継がどうなっていくのか、注視していきたい。


9. 山下氏ワールドカップ主審選考と女性審判のこれからと三笘の1mm

 ワールドカップの審判として、山下良美氏が選考された。

 山下氏はJ1及びACLの主審経験があり安定した判定は評価されているが、日本人の主審としてはトップとは言えない存在。また、大会では第4審を複数回務めたのみで、笛を吹く機会は訪れなかった。女性の優秀な審判と言うことでワールドカップの審判団に下駄を履かせた評価で選考されたが、現地での事前準備で笛を吹くところまでの評価を得られなかった、と言うことだろう。いささか失礼な評価となるが。ただし、女性審判と言う視点では、ドイツ対コスタリカをステファニー・フラパール氏を主審とする女性審判団が裁き、上々の評価を得た。

 性別にかかわらずサッカーに携わってくれる人が増えるのは大歓迎だ。副審の場合は瞬間的な守備ライン上下動や逆襲速攻に対応する必要があるため、脚力の面から女性のハンディキャップがあるかもしれない。しかし主審ならば、展開の予測や位置取りの工夫やトレーニングによる運動量確保で、極端に不利になることはないのではないか。女性でトップレベルの審判を目指す人がもっと増えて質の高い経験を積めれば、上記のような失礼な表現が不要となる時代も来るだろう。

 そう考えてみると、今大会話題になった画像処理による判定がトップレベルのサッカーに定着してくれば、女性副審でも脚力の弱点がカバーされる。個人的にはVARは相当改善の余地があると思うが(画像処理によるライン判定と、複数審判の連係による反則判断が、将来あるべき姿だと思うが)、技術の向上が間違いなく審判に必要な要素を変えていく。女性の審判進出もその一例だろうが、サッカーも変わっていくのだろう。
 その典型が、あのスペイン戦の三笘の神業だったのだろう。三笘の1mmと言う歴史に残る妙技を、新技術が支えてくれたのだ。


10. 高校選手権決勝、青森山田対大津の両監督

 約1年前となってしまったが。

 高校選手権決勝は青森山田対大津。幾多の名選手を輩出した大津が、はじめて選手権の決勝にたどり着き、この世代で圧倒的強さを誇る青森山田と対戦。非常に興味あふれる試合となったが、4-0と青森山田の完勝。大津はまともにシュートにすら持ち込めなかった。

 大津平岡和徳氏と青森山田黒田氏は日本のユース世代指導者としては代表的存在。平岡氏は巻誠一郎、植田直道、谷口彰悟、黒田氏は柴崎岳と言ったワールドカップ代表選手を育てている。

 平岡氏は、言うまでもなく帝京高校出身。高校選手権で創意工夫を凝らした采配で勝ち切ることに執念を燃やし結果を出してきた古沼監督の弟子にあたる。しかし、この決勝では、特別な工夫すら行わず、戦闘能力で優位に立つ山田にまともに戦いに行き、木っ端微塵に粉砕された形となった。およそ、古沼先生の弟子とは思えない淡白な采配だった。もっとも、平岡氏は、トッププレイヤの育成や選手たちの人間教育に主眼を置き、師匠と異なり選手権での上位進出には拘泥していないのかもしれないのかもしれない。

 一方で、このシーズンオフ、青森山田の監督を長年勤めていた黒田氏の町田ゼルビア監督就任が発表された。黒田氏率いる山田はプレミア、高校選手権など幾度も日本一を獲得、采配の実績は格段。また、青森山田中からの一環強化に見られる組織作りも相当の手腕。ユース世代の指導者として格段の成果を挙げていた黒田氏が、大人のクラブを率いるのは、大変興味深い。類似例としては、市立船橋で格段の成果を挙げた布啓一郎氏が思い起こされるが、トップレベルの指導者のキャリアメイクとしてどのようなことになるか、注視していきたい。
posted by 武藤文雄 at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年ベストイレブン

 どうしても、今年はカタールワールドカップのメンバが中心となります。ただ、東京五輪に続き、この大切な大会をベストで迎えられなかった冨安健洋は選んでいません。また、ドイツ戦とスペイン戦で見事な得点を決めた堂安律も、コスタリカ戦とクロアチア戦は不満なので選びませんでした。この2人への要求はこんなものではないのです。

GK 権田修一
 ドイツ戦、スペイン戦、難しい時間帯、よくもまあ守り切ってくれたと思います。細かい部分を言えば不満はありますが、やはり今年の日本のGKと言えば今年は権田でしょう。

DF 酒井宏樹
 クロアチア戦75分以降の知性の限りを尽くした戦いを見ると、やはり右DFはこの選手です。浅野の裏にボールを出すだけになった単調な攻撃に変化をつけようとした尽力は忘れられません。

DF 谷口彰悟

 ワールドカップでの大活躍は言うまでもなし。E-1東アジア選手権での圧倒的存在感も格段でした。予選でも麻也、冨安不在時に何も不安を感じさせませんでした。カタールでタップリ稼いでください。今まで、本当にありがとう。

DF 板倉滉
 スペイン戦の先制を許した痛恨のポジションミスはありました。しかし、それ以外はほぼ完璧な守備。もちろん、予選でのすばらしい守備も忘れられません。列強に対して、冨安との2CBで留め切る姿を見るのが楽しみです。

DF 中山雄太
 予選での充実を含め、メンバ選考された直後の重傷は本当に痛かった。森保監督は、3DFを採用しサイドMFに三笘薫を抜擢する奇策で上位進出を果たしました。しかし、中山がいれば、三笘をもっと前で使えたはずです。

MF 遠藤航
 カタール直前負傷の情報が流れましたが、大会が始まってみれば、俺たちの遠藤航でした。中盤でのタフなボール奪取、落ち着いた前進。何と頼りになることか。

MF 岩田智輝
 E-1東アジア選手権での活躍、J制覇への貢献を考えると、カタールの26人に入るのではないかと思っていました。横浜Mでは最終ラインで使われることが多く、Jの最優秀選手にも選考されたわけですが、一番魅力を発揮できるのはMFだと思います。セルティックでの活躍を期待。

MF 守田英正
 日本サッカー界がようやく作り上げることができた、攻守に戦い続けることのできるMF。イタリアの名手、タルデリ、デ・リービオ、ガットゥーゾを彷彿させるタレント。

FW 伊東純也
 2021年日本代表のエースは、2022年本大会もやはりエースでした。予選のサウジ戦の得点とアシスト。カタール本大会でも幾度右サイドをえぐってくれた事か。さらに3DFのサイドMFとして起用されると、シャドーに入った堂安と美しい連係も見せてくれました。

FW 前田大然
 2002年に鈴木隆行が見せてくれた日本伝統の守備的CF。あの献身がスペイン戦の逆転劇を演出し、クロアチア戦の先制弾を決めてくれました。他の国ではまったく考えられない異次元のストライカに育って欲しい。

FW 三笘薫
 ドイツもコスタリカもスペインもクロアチアも、皆三笘の突破を警戒しまくっており、それでも三笘は幾度も突破を成功させました。3DFのサイドMFで守備もあそこまで見事に演じられるのも驚きでしたが、もう少し前で攻撃に専念して欲しかったかなとも思います。
posted by 武藤文雄 at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする