2022年12月25日

富田晋伍との18年

 富田晋伍が引退する。
 18年間に渡り、ベガルタ仙台一筋で戦い続けてくれた戦士。ベガルタゴールド以外のユニフォームを着る事なくトップレベルのプレイを終える富田。言葉にならないほどの感謝を、微力ながら日本語化させていただきたい。

 富田のプレイは何がすばらしかったか。
 言うまでもなく、中盤でのボール奪取能力だ。ただし、この奪取能力が、独特の魅力を持っていた。常に中盤で位置取りの修正を行い、敵の進出経路を予測し、自らのプレイエリアに入ってきたところで躊躇せず身体を張りボールを奪取、常識的だが正確なパスで味方につなぐ。富田の最大の特長は待ち構えて躊躇せず奪いしっかりつなぐところにあった。
 ボール奪取を武器するMFには様々なスタイルがある。例えば遠藤航、自ら能動的にボール奪取のために飛び出し、身体を当て合い、ボールと敵の間に自らの身体を入れボールを奪取。そのまま強引に前進を継続する。例えば明神智和、豊富な運動量で敵に幾度もからみ都度攻撃を阻止し、ボールを奪うやあちらこちらに展開する。一方上記の通り、富田のスタイルは待ち構えて躊躇せず奪いしっかりつなぐやり方。似たスタイルの選手を探すと鈴木啓太だろうか。鈴木啓太の方がパス精度は高かったが、ボール奪取力は富田が上回っていたのではないか。躊躇せず奪うと言うとアルゼンチンのマスケラーノを思い出す。富田のパスの精度やタイミングは、さすがにこの南米の大巨人の足下にも及ばない。しかし、ボール奪取の妙は紛れもなくこの名人を彷彿させるものだった。
 富田はチーム戦術への柔軟性も高かった。ACLに出場した手倉森政権の頃は、分厚い守備からの速攻の起点となっていた。この頃は富田は敵からスッとボールを奪い、素早く梁勇基や菅井直樹や朴柱成にボールを渡すプレイが光っていた。角田誠と富田のドイスボランチが、いかに他クラブを苦しめたことか。一方で、渡邉晋氏が采配時のポゼッションを軸としたサッカーでも十分に機能した。渡邉氏が指向するサッカーは様々な変遷があったが、前線に通すさりげないパスや、後方でフリーとなったDFにロングフィードを出させるパスを、富田は巧みに操った。奥埜博亮、三田啓貴、野津田岳人らと組む中盤は魅力的だった。
 もう少し上背があれば、代表チームに選考された可能性もあったかもしれない。国際試合だと、どうしてもこのポジションだと高さが欲しくなるからだ。ただ、あの躊躇せず奪う能力は、富田が短躯で重心が低いが故に完成したもののようにも思える。もちろん、サッカーにはヘディングと言う重要な要素があり、上背は高いに越したことはない。しかし、サッカーの能力要素を個別に整理すれば、背が低いことがメリットになるケースもあるのだ。もっとも富田は的確な位置取りで、ヘディングも決して弱くはなかったけれど。

 2005年シーズン富田がベガルタに加入したきっかけが、あの都並敏史監督にあった。そのあたりは、引退記者会見で富田自身が言及していたし、よく知られたことだ。ただ、都並氏は不思議なことに、この富田をサイドバックとして抜擢した。しかし、富田は、足が速いわけでもなく、角度のあるクロスを蹴るのがうまいわけでもなく、長駆を繰り返せるタイプでもない。なぜ、都並氏が、富田をサイドバックに起用したのは本当に不思議だった。
 当時のベガルタは毎シーズンJ1復帰を目指し迷走を繰り返していた。毎シーズン監督交代を繰り返し、一貫性ある強化が叶わず、再三空振りを繰り返すこととなった。都並氏の招聘もその一つ。さすがに、日本代表選手として豊富な経験を積んできた都並氏が算数ができないとは思ってもいなかったけれども。
 ともあれ、そんな事ははるか昔のこと。都並氏は監督としての姿勢も能力も残念なものだったかもしれない。けれども、私たちは富田晋伍をたっぷりと18年間にわたって堪能できた。改めて都並氏にも感謝したい。

 2009年シーズンにJ1に復帰して以降、ベガルタは高橋義希、和田拓也、金眠泰と言った能力の高い守備的MFを補強した。言わば、定位置争いで富田のライバルとなる選手たちだ。しかし、彼らは短期間ベガルタに在籍したのみで、他クラブに移籍する。そして、移籍後にすばらしい活躍をすることになる。これは、彼らの能力の高さを的確に評価したベガルタフロントの慧眼と、彼らとの定位置争いに負けなかった富田の存在感を示している。柏レイソルで中心選手として活躍する椎橋慧也。2020年シーズンにベガルタで定位置を確保した後、レイソルに移籍した。しかし、この2020年シーズンは富田が重傷を負い、リーグ戦登場の機会がなかった。椎橋はベガルタに在籍した4シーズン、毎年少しずつ出場機会を増やしていたが、富田が元気な間は完全に定位置を奪う事はできなかったのだ。言い方を変えれば、富田は定位置争いのライバルだったこう言った選手達に対して大きな壁となることで、彼らの成長にも大きく貢献したことになる。

 富田の18年間。上記したがJ1再昇格を目指しての迷走時代、富田や梁をしっかり育てJ1への昇格、考えられない自然災害、ACL出場、経営規模拡大が叶わず毎シーズンの苦闘、天皇杯決勝進出、疫病禍における経営危機、J2降格。思えば色々なことがあった。そして、幾多の喜びと悲しみを味わう事ができた。
 改めて富田晋伍と言う我々のレジェンドが引退する報を聞き、まず大きな空虚感を味わった。そして、幾多の喜びと悲しみを思い出し、整理できない感謝の念が交錯した。無数の感謝を整理していると、不思議なことに喜びばかりの記憶に満たされてきた。目をつぶれば、多くの待ち構えて躊躇せず奪いしっかりつなぐプレイを思い起こす事ができる。そのすべてに感謝の言葉を捧げたい。富田が敵からボールを奪ってくれた分だけ、私は喜びを味わえたのだ。

 富田晋伍さん、本当にありがとうございました。18年間積み上げた無数のボール奪取に乾杯。
posted by 武藤文雄 at 18:59| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月31日

東京五輪の失敗を再現するのか?反省を活かすのか?

 カタールのメンバ発表が近づいてきた。
 最終メンバをどのタイミングで絞るかは、ワールドカップの歴史でもとても微妙な問題。直前まで多めに集めて最後に絞ろうとすると、98年のように「外れるのはカズ、三浦カズ」となってしまう。一方で早めに絞ってしまうと、06年の茂庭照幸のように「南洋の休暇をとりやめて急遽帰ってまいりました」になってしまう。いずれの状況に陥っても、マスコミの好餌となり世間の耳目を集めるかもしれないが、チームの強化にはマイナスになる。難しいものなのだ。
 本稿では、これまでの森保氏の采配を冷やかしながら、最終メンバを予想しつつ、カタール本大会に想いを寄せてみたい。
 
 ともあれ。Twitterで幾度かつぶやいたが、森保氏のカタールへの準備には、既視感がある。最近に流行り言葉では再現性かw。守備的MFは既にギリギリに絞り込んでおり、煽れんばかりの数の攻撃ラインの選手の選考に迷う。その結果、チームの要の遠藤航が疲弊と前線の連係不足で、モヤモヤ感を残したまま、勝ち切れない。
 東京五輪直前の準備試合、ホンジュラス戦とスペイン戦。いわゆる後方のMF要員として招集されたのは、遠藤航、田中碧だけ。2つのポジションに2人のみ。一方で、攻撃的MFとFWはドラミ相馬、三好康児、三笘薫、堂安律、久保建英、前田大然、上田綺世、林大地、4つのポジションに対し8人の候補選手がいた。一応DFで選考された板倉滉、中山雄太、旗手怜央が中盤のバックアップ(もできる要員)と予想された。ところが冨安健洋の負傷もあって、大会に入り3人ともDFラインの定位置での起用となり、結果的に遠藤と碧はフル回転。2人が疲弊したことが直接要因となり、メダルを逃した。この年代には渡辺皓太、田中駿太、岩田智輝ら、中盤後方で活躍できそうなよい人材は多数いた。しかし、森保氏は最後の準備試合の時点で、早々に彼らに見切りをつけてしまい、遠藤と碧の消耗を招いてしまった。
 3ヶ月前の6月シリーズ。4連戦の最終チュニジア戦、冨安健洋と守田英正不在のため、ほぼ皆勤していた遠藤と吉田麻也のミスから3点を奪われ完敗した。守備的MF不足と冨安不在→板倉CB起用→遠藤ボロボロ。正に東京五輪の再現だったw。
 そして、今回の二連戦。このシーズンの編成を見る限り、後方のMF要員はレギュラ定位置2枚に対して遠藤、守田、田中、柴崎岳の4人しか選考していない、しかも柴崎は強度が大きな課題で、守備面でのリスクを抱えるのは言うまでもなく、ターンオーバしたエクアドル戦の苦戦要因となった。もちろん、負傷で選考外になった板倉はパラグアイ戦のようにMFでも十分使えそうだが、本大会では冨安とCBを組む可能性は高い。一方攻撃的MFとFWは4枚に対して、鎌田大地、原口元気、伊東純也、堂安、久保、前田、上田、古橋亨梧、町野修斗、三笘、南野拓実、ドラミ、合計12名。もしかしたら、森保氏は、この9月シーズン直前に負傷した、ジャガー浅野琢磨や、復調の評価著しい大迫勇也まで考慮しているのかもしれない。そうなると、53日前の今日時点で、ポジション4個に対して14人の候補選手がいることになる。守備的MFの見切りはとても早く、FWは最後まで迷い続ける。東京五輪前の再来ではないか。

 先日の強化試合を振り返ってみる。
 USA戦。久々に4-2-3-1を採用。USA首脳は、これまでの日本の基本布陣4-3-3を予想していたのかもしれない。前田大然と鎌田大地の2トップがいきなりフォアチェックで、圧倒的攻勢をとることができた。前半、危なかったのは、序盤右サイドのプレスをうまく回避され、左に展開されて好クロスを上げられた場面くらい。特に前田の繰り返される俊足プレスはUSAを悩ませる。USAもMFやサイドバックを加えて最終ラインを3人にしてつなごうとしたり、ロングボールで日本のラインを広げようと工夫する。しかし、USA前線選手はボールの受けの位置取りに工夫が少ないため、強引なロングボールは冨安が完封、精度に欠ける縦パスは幾度も遠藤と守田の餌食となる。そのため、USA陣内で幾度もボール奪取に成功。前半は鎌田の得点のみの1-0で終わったが、伊東、鎌田、久保が次々と好機を演出、GKターナーの再三のファインプレイがなければ大差にできていたかもしれない。
 余談です。6月の国立ブラジル戦、厳しいフォアチェックをしのぎ、持ち出そうとする度にフレッジとカミネーロに止められ、速攻の危機を迎える、ちょっとほろ苦い思い出だが、その恐怖を相手国に味合わせていると思うと気持ちがよかった。
 後半は、冨安を右サイドに出したために中央の強度が落ち、USAも前線の選手を代えて受けの位置取りを改善してきたため、前半ほど圧倒的な攻勢はとれなくなる。しかし、ここに来て代表に定着しつつある伊藤洋輝も落ち着いた守備を見せ危ない場面は作らせない。そして、68分両翼を堂安と三笘に代えることで攻勢を取り直す。75分三笘が作った絶好機は堂安は決めなければダメ、大きな反省点だ。終盤鎌田に代えて原口を起用し、5DFの守備固めオプションを試したところで、三笘が得意のヌルヌルドリブルから決めて突き放したのも愉快だった。冨安の復帰が大きかったが、過去の日本代表史を振り返ってもベストに近い内容の試合だった。
 エクアドル戦。スタメンを総取り替えすれば、バランスは崩れるのは当然のこと。そもそも、田中碧と柴崎岳でボランチを組むことそのものが健全な試合の取り組みとは言えない。2人は、共に落ち着いたキープや、長距離のパスを得意とするスタイルで、ボール奪取が本業ではない。幾度も語ってきたが、柴崎のロシアワールドカップでの鮮やかなロングパスは最高だった(残念ながら、それ以降柴崎はあの輝きを再現してくれていないが)。田中碧は、五輪代表で遠藤航や板倉のサポートを受け中盤の指揮官として君臨。ワールドカップ予選でも、遠藤と守田の献身の下、幾度も前線に鋭いパスを通して、本大会出場に貢献した。しかし、この2人並べても有効でないことは、試合をする前からわかっていたこと。このエクアドル戦は、柴崎ではなく遠藤と守田を45分ずつ起用すべきだった。結果的に本大会出場の26人に入ることを目指してる他の選手たち、特に前線で空回りを余儀なくされた古橋と南野が、何より気の毒に思えた。
 しかもエクアドルは、最終ラインの選手のつなぐ能力はUSAを凌駕していた。古橋と南野のフォアチェックに対し、後方を3枚にして落ち着いてかわし、前線にボールを供給。冨安不在の日本は第一波をはね返し切れない。さらに、第二波の中盤のデュエル合戦も、碧と柴崎ではボールを取り切れないことが多く、連続攻撃を許す。こうなると、裏抜けをねらう最前線の古橋亨梧によいボールが供給できず、いよいよ攻めあぐむ。結果、ピンチの連続となった。前半右サイドを崩されポストに当たるシュートを許し、終了間際にはCKからのピンチをシュミットがファインセーブ、かろうじて0-0でしのぐことに成功した。
 後半古橋に代えて上田綺世を起用。上田が前線でキープすることで、ペースを少しずつたぐりよせる。そして68分にようやく遠藤を起用し中盤を落ち着け、交代で入ったドラミの切れ味鋭いドリブルと、鎌田の変化で好機を掴むも決め切れず。逆に谷口が敵FWの妙技にPKを許すも、シュミットが止めると言った場面もあり、試合は0-0の引き分け。冨安と板倉と守田が不在、遠藤と麻也も僅かな出場時間と言う条件下で、ワールドカップ出場国を無失点に押さえたのは結構なことだ。
 選手個人と言う視点でも、本大会に向けて明るい発見もあった。USA戦で久保が左MFで攻守に渡り活躍できたこと。これまで、久保はこのチームで、鮮やかな個人技を発揮はしたものの、自分本位のプレイばかりでチームに混乱を招くことが多かった。しかし、このUSA戦では組織的な崩しにも、守備にもしっかり参画。スタメン久保、終盤三笘起用と言う流れが最もバランスがとれているようにも思えた。
 懸念されていた左DFも、USA戦では中山が90分間、守備を固めながら、左サイドからの攻め込み時は常に的確に押し上げを継続、この選手は攻守ともに圧倒的な能力を見せるタイプではないが、苦しい時間帯でも常に適切な一度理をしてくれる。一方で、エクアドル戦は大ベテランの長友が、さすがのプレイ。中央に絞ったカバーや、自陣での1対1の間合いなど老獪なプレイの数々、ここに来て圧倒的な存在感。酒井の体調に不安がある中、ブラジル戦での右サイドでの好プレイ含め、大したものだ。
 まったく誰が選考されるか、目処が立っているに見えないCF。「予想が難しい」のではなくて「目処がが立っているように見えない」のは残念だが、ここは多数の候補が揃っていると前向きに考えることにしよう。とは言え、前田の献身的かつ強引な前線刈り取りは魅力的だった。余談ながら、この前田の暴力的なフォアチェックに、約20年前の鈴木隆行を思い出したのは私だけだろうか。前田は鈴木に比べると、身長は大きくないため迫力にはやや欠けるかもしれないが、人相の悪さと執拗な疾走の繰り返しは同レベル、そして短距離奪取の速さは鈴木を凌駕するものがある。このような短距離疾走の速さは、欧州の大柄なCBが最も嫌がるものゆえ、ドイツやスペインに対し非常に有効となるだろう。
 エクアドル戦の終盤に起用されたドラミ相馬が切れ味鋭いドリブルを見せたのも頼もしかった。五輪でも大活躍し、韓国、エクアドルと言うワールドカップ出場国でも機能したこの小柄な異才は間違いなく本大会でも戦力となろう。ただ、久保がよかっただけに、ポジションのバッティングがあるのだが。
 そしてシュミット・ダニエル。PKストップも見事だったが、度々前線に鋭いフィードを入れ、高いボールへの強さも上々だった。さてドイツ戦のスタメン、権田の安定感をとるか、シュミットの特長をとるか、森保氏の決断を待ちたい。

 さて、それでは26人はどうなるか。一部選手の負傷報道が聞こえてきているが、そのような外乱がなければ、おおむね以下となるのではないか。
 まず確定メンバを推定する。GKは権田とシュミットは確定として、3人目は川島または谷。右DFは酒井と山根、左DFは長友と中山。CBは麻也、冨安、谷口、伊藤、そして板倉。MFは遠藤航、守谷、田中碧、原口、鎌田。負傷明けの板倉を、CB要員ではなくMF要員と考えれば、いわゆるドイスボランチを、遠藤航、守田、板倉で回して、勝負どころで田中碧を使える。このやり方をすれば、散々イヤミを語った選手森保一選考しない問題を解決できるように思う。そしてFW、右は伊東純也、堂安、左は三笘、久保、そして問題のCFだが、上記した傍若無人的活躍をした前田大然は決まりかなと思う。そして、森保氏はヴィッセルで調子を取り戻した大迫勇也を選ぶように思えてならない。ここまでで23人で残り3枠。
 この3枠を、瀬古、柴崎、旗手、南野、ドラミ、上田、町野、古橋、そして浅野が争う。ここから先は読みづらい。ただ、ここまでの選考を考えると、森保氏が大好きな柴崎はメンバ入りするだろう。(この森保氏の柴崎への極端な愛情は、本当に興味深い)。CFとしてもう1人上田か古橋(大迫が間に合ったので町野は選考外となるのではないか、あの強引なシュート狙いは魅力ですけれど)。そして、最後の1枚は南野かドラミ。
 私個人の好みとしては、とにかく点を取るのがうまい小林悠を入れたらとか、中盤で骨惜しみしない選手がもう1人欲しいから稲垣や川辺選べばよいのではないかとか思いはあるが、まあそれはそれ。

 散々森保氏には文句を語ってきたが、間違いなく氏は史上最強の日本代表を作りつつある。一方で、過去出場6大会と比較して、しんどいグループリーグに入ってしまったのも間違いないけれど。
 予選埼玉サウジ戦でワールドカップ本大会出場国にほとんど危ない場面を作らせず、キッチリ得点を奪う完璧に近い試合ができた。そして、USA戦では、決定機獲得頻度とピンチ少ないと言う意味では、サウジ戦以上の試合を見せてくれた。
 攻撃連係の練度には不満が残るが、伊東や三笘のように個人能力で決め切るタレント、鎌田や堂安のようにラストパスを操るタレント、田中碧のように崩せるパスを出せるタレントが揃っている。そして、こう言った攻撃タレントに対し、忠実な組織守備と切り替えの早さを徹底したのは森保氏の貢献だ。
 現実的に、ドイツもスペインも、USAやエクアドルやサウジや豪州よりは強かろう。また毎回よいチームを作ってくるコスタリカも非常に難しい相手だ。しかし、いずれの相手もブラジルほどは強くない。これだけのタレントが揃ったのだ、十分にやれるはずだ。
 そして、本稿冒頭でイヤミを語った再現性問題。考えてみれば、相手国は当然日本のことを詳細にスカウティングしているはずだ。森保氏がカタール本大会での歓喜のために、難敵スカウティングチームを混乱させるために伏線を打っていたのだとしたら…
posted by 武藤文雄 at 01:28| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月23日

選手森保一を呼ばない森保一監督

 ワールドカップ前の貴重な準備試合、USA戦を迎える。
 先日、森保氏がセンタフォワードをどうするつもりなのかと講釈を垂れたが、今日は今回選考のメンバを俯瞰しながら、(おそらく皆が最も気にしている)守備的MF選考について講釈を垂れたい。今大会よりメンバ総数が、23人から26人に増えた。森保氏の現状の基本布陣は4-3-3だから、GK3人、DF8人、MF6人、FW6人(これで合計従来の23人)に、あと3人をどう組み合わせるかが、常識的な選考方法となるのだろう。
 一方で今日のお題の守備的MFについて。選手森保一は、運動量が豊富で、敵選手にうまくからんでボールを奪い、落ち着いて味方につなぐのが格段にうまい守備的MFだった。格段にフィジカルが強いようには見えないが、敵攻撃に対する予測力が格段に高く、敵にからんでスッとボールを奪い、攻撃の起点となる。最近の選手ではフレッジや稲垣祥をイメージしてもらえばよいだろうか。本稿では、代表監督としての森保氏が、最も思い入れの深いであろうこのポジションに対して、どこまで深く考えているのかが見えてこないことに対する愚痴を語りたい。
 
 まずGK。ここは権田修一、シュミット・ダニエル、川島永輔、谷晃生の4人が選考。森保氏の信頼厚くここ数年安定した守備を見せている正キーパの権田。フィードの精度が高く権田とは長所の異なるシュミットが第2GK(ベガルタサポータとしては、この欧州遠征で従来以上の高さを見せて欲しいところだが)。第3キーパを大ベテランの川島と若い谷が争う。中東という独特の文化の国、初めて11月開催、試合間隔も短いなど、今大会は未知のことが多いだけに、ここは語学堪能で経験豊富な川島の選考が妥当か。
 DFは、右が酒井宏樹と山根視来、左が長友佑都と中山雄太、中央が吉田麻也、冨安健洋、谷口彰悟、伊東洋輝、そして瀬古歩夢。ブンデスリーガで大活躍していながら直前に負傷した板倉滉が外れた。伊藤は6月シーズンで長時間使われ、貴重な左利きで左DFにも起用可能で再度選考された。瀬古は板倉の代替招集。東京五輪では冨安、板倉らの後塵を拝し出場機会を得られなかったが、CBとのしての才能は疑いない。冨安と板倉の20代半ばのCBコンビを世界中に見せびらかすのは楽しみだだった。しかし、もしこの2人の体調が整わなくても、大ベテランの麻也、先日のA3で韓国相手に格段の存在感を見せた谷口、そして潜在力は疑いない伊藤と瀬古が控える。過去いずれのW杯でもセンタバックの層の薄さに悩んでいたとは思えないタレントの厚み、よい時代になったものだ。
 サイドバック、大ベテランの長友が、先日のブラジル戦で右サイドで「さすが」としか言いようないプレイを見せ状況は格段に好転した。常に選手層の薄さに悩まされていた左サイドは長友、中山、伊藤と3枚タレントがいる。右サイドは酒井、山根、長友に加え、もちろん冨安を回せる。欧州で活躍している菅原由勢や橋岡大樹でさえ、この選手層の厚みから選考外になってしまった。これはこれで、すごい事だと思う。
 報道によれば、板倉は本大会に十分間に合いそう。瀬古は逸材とは言え、準備の合宿で麻也や谷口を凌駕する能力を見せない限り、この欧州遠征で起用されるかすら微妙で、本大会メンバ選考は難しかろう。そして、DFを8人とするか9人とするか、もし8人となると最後の一枠を山根、中山、伊藤が争うのだろうか。贅沢なものだ。

 中盤については、今日の本題なので後述する。

 右FWは、大エースの伊東純也、左足で多くの変化を演出する堂安律、何かしらの潜在力に期待したくなる久保建英。左FWは、最前線のタレントとしては欧州で最も高い評価を受けている南野拓実、予選でも幾度か決定的な仕事をしたヌルヌルドリブラの三笘薫、先日のA3で大活躍した短距離ドリブルの切れ味あふれるドラミ相馬勇紀。これまた3人ずつの選考。もちろん、いずれのタレントも魅力的だが、森保氏はどうやって絞り込むのだろうか。常識的には大エースの伊東純也を最大限に活かすためのタレントをどう選ぶかだと思うのだが。例えば、伊東と堂安を併用するのだろうか、それとも併用せずに試合終盤攻撃の変化をつけるために伊東の代わりに堂安を起用するのだろうか、もしそうならば久保は不要なのではないか、云々。
 さらにCFに至っては、先日散々講釈を垂れたが、このポジションは何も決まっていない。誰が中核なのか、控えをどうするのか、変化をどう付けるのか。今回の欧州遠征では、選考直前に負傷したジャガー浅野拓磨が外れ、前田大然、古橋亨梧、上田綺世に加え、町野修斗の4人が選考された。ここに来て、嬉しい誤算だがJで大迫も復調してきている。改めて断言するが、この欧州遠征に至っても、森保氏は選択(言い換えれば捨てること)を決断していない。しかし、このポジションの枠は最大3枚なのだ。いや、4-3-3にこだわらず、4–2-2-2と言う選択肢をとるならば、南野や堂安や久保や鎌田のトップ下起用の選択肢があるだろうから、CF枠は2枚かもしれない。
 そして、このUSA戦とエクアドル戦は、攻撃の連係を磨くのに最高の機会。選考した前線の選手たちすべてにプレイ機会を与える余裕などないはず。森保氏が、状況ここに至っても選手選考を絞り切れない現状にイヤミを語りつつ、今後の氏の選手選考に注目していきたい。

 そして、今日の本題のMFについて。 
 4-3-3の布陣を基本とするとしたら、3人のMFの主軸は言うまでもなく、遠藤航、田中碧、守田英正。遠藤はシュツットガルトで主将を務め、ブンデスリーガシーズンベスト11にも選考された実績を持ち、格段の体幹の強さを生かしたボール奪取と落ち着いた展開はすばらしい。田中は中盤後方から、視野の広さと正確な技術を活かし、敵の守備を飛ばしたパスと緩急の妙で試合を作る。ファルカン、レドンド、ピルロ、デ・ブライネと言ったタレントを目指して欲しいのですが。守田は切り替えの早さと豊富な運動量を軸に、常識的だが長短のパスも上手、フロンターレ時代の田中との連係も強み。この3人で組む中盤が、ドイツやスペインにどのくらい通用するのかを想像し実感するのは、カタール大会の大きな楽しみの一つとなっている。
 この3人の控えだが、常時予選でも選考されていたのは柴崎岳と原口元気。柴崎については後述する。原口は、ロシア予選から代表の中心選手、森保政権になってからは貴重な控えとして活躍を継続。予選でも試合終盤によく起用され、献身的な上下動と厳しい当たり、さらに若い頃からのドリブルのうまさに加え、最近ではラストパスの妙も見せてくれる。そして先般の6月シーズンには鎌田大地が久々に選考され、ブンデスリーガでも高く評価されている攻撃力の片鱗を見せるのみならず、インサイドMFとして組織的な守備も上々だった。そして、今回の欧州遠征で、旗手怜央が改めて選考された。旗手のセルティックでの活躍はすばらしいし、フロンターレでのサイドMF(あるいはサイドバック)としての、いかにも静岡学園出身らしい技巧と知性に疑いはない。
 さて、誰もが思っているだろうが問題は柴崎だ。まず言及しておく必要があるが、ロシアでの柴崎はすばらしかった。セネガル戦で左サイド長友に通した60mクラスの超ロングパス(その後、長友とのシザースパスでフリーになった乾が得点)、ベルギー戦で右サイド原口のフリーランにピタリと合わせた40mのグラウンダのスルーパス。この2つのプレイだけで、柴崎は日本サッカー史に残る存在となった。もちろん、長谷部誠との連係から落ち着いたボールキープでの試合コントロールも見事だったけれども。
 森保氏は代表監督就任以降、柴崎は常時メンバとして選考し続けている。試合によっては主将も託したこともあった。けれども、柴崎はこの4年間、あのロシア大会のような目の覚めるようなロングパスを見せてはくれていない。それどころか、最終予選の初戦ホームオマーン戦、柴崎は有効な組み立てやチャンスメークをできぬまま時計は進み、試合終盤疲弊したところで敵に決勝点を許してしまう。さらに敵地サウジ戦では、後半、疲労の色が顕著な柴崎は再三ミスパスを連発ピンチを招く。それでも森保氏は柴崎を引っ張り、運命のバックパスミス。日本サッカー史に残る珍場面と言えるだろう。敵地オマーン戦は守田の警告累積出場停止に伴い、柴崎は久々にトレスボランチでスタメン起用されたが、冴えないプレイ。前半で交代させられた。最終予選、柴崎はほとんど活躍できなかったのだ。
 ここで改めてMF勢を並べてみる。レギュラは遠藤、田中、守田。控えに原口、鎌田、柴崎、そして旗手。遠藤や守田のようにボール奪取や敵を潰すのが得意は控え選手は選考されていない。中盤でボール奪取を主眼とする役目の選手は、豊富な運動量が要求され、累積警告による出場停止の可能性も高い。実際、東京五輪では、遠藤航と田中碧を中盤後方に並べる布陣を基本としながら、この2人の控えがおらずほぼフル出場(このポジションのバックアップと目されていた板倉滉がCBにレギュラ起用されたこともあったが)。大会終盤に入り、2人の疲弊もあって、メダル獲得に失敗した。3位決定戦で疲労困憊ながら献身する遠藤の姿は美しかったけれど。また先日の6月強化試合、最後のチュニジア戦でも、遠藤の疲労は顕著でそこが敗因の一つとなった。言い換えれば、森保氏は1年前の東京五輪での失敗経験を、この6月シーズンに活かせなかったのだ。
 では、このポジションにタレントが少ないかと言うとそうでもない。川辺駿、稲垣祥、橋本拳人、岩田智輝と言ったタレントは、森保氏率いる日本代表に選考され、起用されれば充実したプレイを見せてくれた。しかし、今回の欧州遠征では選考されなかった。イヤミな言い方になるが、森保氏就任以降の約4年に渡り、柴崎は彼ら4人より充実したプレイを見せてくれただろうか。
 もちろん、森保氏がしたたかな準備をしている可能性は否定しない。例えば、遠藤と田中は確定として、3MFのもう1人は鎌田か原口を起用し、常に守田をベンチにバックアップとする、あるいは板倉はCBに使わず、常時ベンチに置きバックアップとする、等々。
 グダグダと講釈を垂れてきたが、不思議なことは柴崎を招集し続けることではない。守備的な能力の高いMFを、レギュラーの遠藤と守田しか呼ばないことなのだ。その代わりと言っては何だが、毎回FWの選手はベンチに入りきれないくらい呼んで、特にCFは本大会出場確定という選手がわからないことだ。繰り返すが、森保一のようなタレントをもう1人呼んでおくべきではないのだろうか。

 29年前のドーハ、W杯最終予選。
 サウジ、イラン、北朝鮮、韓国、イラクとの6カ国総当たりで、上位2国がUSA本大会に出場できるレギュレーションだった。最終戦前に2勝1分1敗でトップに立っていた日本だが、最終イラク戦の終了間際にCKから追い付かれ本大会初出場を逃した。
 重要だったのは第3戦の北朝鮮戦、3-0でリードしていた日本だが、終盤森保一はつまらないファウルで警告を食らい、続く韓国戦は出場停止。韓国戦は、森保の位置にラモスを下げ、北澤を起用する布陣が当たり1-0で勝利を収めることができた。しかし、最終イラク戦、韓国戦で運動量を要求されるポジションに起用された33歳のラモスは疲労困憊、2-1と突き放すゴン中山へのアシストは見事だったが、試合終盤まったく動けなくなってしまった。あの同点ゴールとされるCKは、イラクの攻撃を一度森保が止め、ラモスにパス。ラモスは自陣でのボールキープを狙うべきだったが、敵陣への縦パスを選択し、それを奪われた速攻から提供したものだった。
 もし、あの北朝鮮戦の終盤、森保がつまらないファウルを冒さなかったら。あるいは、ハンス・オフト氏が、森保の適正なバックアップ選手を選考できていたら。
 29年後、監督森保一が同じ街で戦う真剣勝負。遠藤と守田に加えて、選手森保一のようなタフな選手を招集すべきに思うのは私だけだろうか。
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2022年09月07日

原崎監督更迭劇に思う

 本業の11時から始まった重要な会議は結構重苦しい内容、今後の展開のための議論が錯綜したのを何とか整理し、昼休みを迎えた。「さて、ちょっと暑そうだから、外に食べに行くのをやめて社員食堂に行こうかな」など考えながら、何気なくスマフォを叩いたら、ビックリするようなニュースが飛び込んできた次第。
 とにもかくにも、J2降格と言う難しいシーズンに監督を引き受けてくれて、ここまで多くの選手の特長を活かした攻撃サッカーを見せ、上々の成績を挙げてくれた実績。ここまでの原崎前監督の功績を讃え、感謝したいと思う。ありがとうございました。
 そして、今後の氏の指導者生活が成功することも祈りたい。ただし、ベガルタ戦以外でだが。
 フォギーニョと中島のコンビによる強くて前線に精力的に飛び出す中盤。氣田、名倉、加藤、真瀬、内田らサイドプレイヤの精力的な上下動。富樫と中山を軸にした強さとシュートのうまさが際立つ最前線。ベテラン遠藤が見せる魔術。特に氣田や皆川など、昨シーズン手倉森前監督が、あまり機能させられなかった選手が、原崎氏の下でよく化けてくれたのは大いに讃えられるべきだろう。

 半世紀近くとなるサポータ人生、これは自分にとっては、2003年のベガルタ清水秀彦氏更迭と2018年の日本代表ハリルホジッチ氏以上の超ビックリ更迭劇となる。
 清水氏の時は、(少々失礼な言い方になるが)当時のベガルタフロントへの助言者があまり信用できず、「何か妙なことが起こらなければよいが」的な思いがあった。そのため、発表を聞いた時の驚きはそれほどではなかった。
 ハリルホジッチ氏の時は、さすがに驚いた。上記リンク先で延々と講釈を垂れた通り、田島会長の判断がまったく理解できなかったからだ。ただ、当時から会長の言動を見聞きする限りでは、氏にとっては日本代表の好成績以上に何か重要なことがあるのだろうと言う諦念はあった。これはこれで不愉快だが、田島会長はルールにのっとって選考された協会会長だし仕方がない。今日見せてくれている彼なりの努力を、現役の選手時代に発揮して欲しかった思いはあるけれども。1975-76年の高校選手権決勝での、浦和南対静岡工業戦、浦和の大エース選手田島幸三の鮮やかな2得点に憧れたサッカー狂としては。

 けれども、今回の原崎氏更迭は、まったく予想外だった。ここに来ての4連敗、勝点勘定的にも相当厳しくなっているし、チームの沈滞感も相当なものがあるのだろう。しかし、シーズン当初から原崎氏が見せてくれたサッカーは魅力的で、成果も出ていた。原崎氏更迭の判断は、J1復帰と言う短期目標、J1再定着と言う中期目標、国内トップクラスのクラブと言う長期目標、いずれにとってもマイナスにはたらいてしまうのではないかとの不安も大きい。
 確かに、攻撃志向を徹底するためだろうか、守備麺の課題は多かった。自陣から無理せずに抜け出すべきなのに逆襲速攻を無理にねらい、急ぎ過ぎて、逆に敵にボールを奪われてしまうケース。セットプレイでのファーサイドやライン前の守備。両サイドバックを前線に送り込み、押し込んだところで散見される、ミスパスから決定的な逆襲を許す。
 もちろん、これらが解決してくれれば嬉しいが、いずれも選手個々の判断力に起因する課題。各選手の知性のレベルアップは監督にとっても最も難しく時間のかかる仕事。ここまで素敵な攻撃的サッカーを見せてくれた原崎氏に、たとえ時間がかかってもこれらの修正を期待するのは、十分理に叶っている。原崎氏だって、Jを率いるのは初めての経験、この難しい状況を打破してくれれば、我々は格段の監督の入手に成功すると期待していた。
 正直言って、私は今シーズン、いや今後も原崎氏と一緒に戦いたかった。

 一方で。私はベガルタの佐々木社長を信頼している。社長就任以降最大の課題だった債務超過問題を解決の目処を立て、大口を含めたスポンサを丹念に増やし、原崎氏にチームを託し上々の成果を上げてきた。クラブやチームの詳細な内実は、我々サポータには理解できない。クラブ内、チーム内の詳細を検討した上、佐々木社長はこの重い判断を下したのだろう。佐々木氏の判断には敬意を表したい。そして、公認の伊藤彰監督の実績は中々のものがあるのも、また確かだ。

 その上で。
 我々がやれることは簡単。伊藤新監督、そして梁勇基とその仲間達を熱狂的に応援すること。そして、シーズン終了後にJ1復帰に歓喜すること。まずは次節敵地大分戦、難敵が相手だが勝点3獲得を期待したい。
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2022年09月03日

ベガルタいかに立て直すか

 先日、ベガルタのJ1自動昇格への楽観論をまとめたところ、以降思わぬ3連敗。2位新潟と勝点10差がついたのみならず、岡山にも抜かれ4位に落ちてしまった。私が悪かったのだろうか。ともあれ。ここは正念場。ここからの立て直しを期待し、改めて楽観論の講釈を垂れることにしたい。
 勝点勘定が極めて厳しくなったことは否定しない。しかし、一般論として、残り試合数≒逆転可能勝点と言われている。残り9試合で勝点10差、まだまだ諦める段階ではないことは強調しておきたい。
 加えて3連敗を振り返ると、それぞれの3試合の課題はまったく異なる。言い換えれば、チーム全体が構造的な不振に陥ったわけではなく、個別の課題を一つずつ修正すればよい。また、試合内容を見た限り、それぞれの課題は修正の方向に向かっている。勝負はこれからなのだ。

 まずホーム大宮戦。序盤押し込みながら崩し切れず、大宮にCKを許す。そのCK、しっかり跳ね返したこぼれを、F ・カルドーゾがいかにも彼らしい淡白なヘッド、ゴール前に戻されたボールを決められた。さらにその直後、キックオフからのボールを跳ね返され、慌ててボールを奪いに行きかわされ、逆襲を許し右サイドを簡単に突破され2点差。その後、やや上滑り的に攻めるものの、好機を決め切れない。ひどかったのは守備で、大宮につながれると、強引に奪いに行っては外され、自滅気味に攻め込まれる。3失点目もそう言った形からだった。大宮の集中守備は中々見事だったが、逆サイドを突けば崩せているのだから、何を慌てたのだろうか。あれだけ慌てたのは、大宮へのリスペクト不足としか言いようがなかった。後半、立ち上がりから3人を交代し、遠藤と中島を軸に落ち着いて攻め返し、1点差まで追い上げたがそこまで。さすがに3点差を追いつくのは難しかった。
 もっとも、後半の攻撃は変化あふれ非常によかった、特に2点目は中島の鮮やかなボール扱いと遠藤の知性あふれる位置取りによるもので、美しさは格段だった。
 
 続く敵地群馬戦。群馬の精力的なフォアチェックと、中山と富樫不在のため前線に起点を作れず苦戦。皆川が左右に精力的に開いてボールを受けるが、氣田、名倉が揃って体調不良なのか、フォローが遅く孤立。さらに久々スタメンの金太鉉が決定的ミスを連発。劣勢を挽回しようとするフォギーニョもコンディションが悪そうで、再三自陣でボールを奪われる。それでも、PKを小畑が止めるなどもあり、0-0で前半をしのぐ。しかし、後半序盤に連係ミスから失点すると、いよいよ状態が悪くなる。幾度も群馬の鋭い逆襲に苦しめられ、よくもまあ0-1で試合を終えることができた、と言う内容だった。FWが2人欠場したことと、MF陣の疲弊、守備の中軸金太鉉の絶不調、これだけ悪いことが重なると、ちょっとどうしようもなかった。
 この3連敗、唯一生参戦できたのはこの試合だったが、屋根のない競技場で、雨の中の重苦しい敗戦だった。けれども、身体が利かない中で奮戦する大好きフォギーニョ、サポートが少ない中で単身打開を図る中島、味方の度重なるミスを冷静にカバーする平岡、こう言った選手たちの奮戦を応援できたのだし、悔しい敗戦だったからこそ、現地にいられてよかった。余談ながら、我らが遠藤と群馬の細貝の、中盤での虚々実々の駆け引きも本当におもしろかった。幾多の栄光を掴んだ2人が、30代半ばとなり、故郷のクラブのために知性の限りを尽くして戦っている。

 続く、ホーム千葉線は、中山復帰で前線で拠点ができ、中盤でのしつこさも戻り、各選手の体調もよいようで、前節よりは格段に改善され安心して見ていられた。ただ前半から、ボールを奪うと前に急ぎ過ぎる傾向があり、千葉の戻りの速さから攻め切れず。速攻し切れない時に落ち着いてじっくりボールを回したいところだった。一方で、主審の判定がやや仙台に有利な感もあり、複数回セットプレイの好機があったが崩し切れない。ところが後半序盤、千葉に押し込まれた時間帯に、前半から気になっていた無理な持ち出しで、逆に連続攻撃を許し、そこからのCKで失点。さらに、落ち着いて分厚い攻めを展開していたところでミスから逆襲から決定機を許し、一度しのぐもののロングスローから追加点を許し、そのまま0-2で敗戦。2つの失点は、いずれもニアでフリックされ、ファーの選手をフリーにしてしまったもの。当方が幾度もあったセットプレイを決められず、一方で似た形から2失点してしまっては苦しい。
 ただ、後半から起用されたフォギーニョ、名倉は前週の不振から脱した感があった。また何より、ここ最近まったく昨日していなかったF・カルドーゾも相応に機能した。底は脱しつつあることは実感できた。

 幸いにして、明日(もう今日か)のユアテック水戸戦は、疫病禍後ホーム初めての声出し応援試合。試合内容も底を脱した状況、最高の環境ではないか。己が参戦できない情けなさはさておき、ベガルタにとっては間違いなくよい兆候。仲間達の熱狂的声援の下での歓喜をDAZNごしに楽しめる。
 繰り返すが、勝点勘定が厳しいことは否定しない。しかし、それがどうしたと言うのだ。この程度の苦境は、過去幾度でも体験してきたではないか。今こそ、ベガルタ関係者すべてが、往生際の悪さを発揮し、粘り強く反転すべき時が訪れたのだ。
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2022年08月21日

センタフォワードがいっぱい

 ワールドカップが近づいてきた。
 中3日の試合、直前の準備期間がほとんどない、欧州はシーズン真っ只中を中断、現地が観光の魅力に乏しい(これはピッチ上は関係ない自己都合、でも重要)など、過去にないワールドカップ。非常に展開が読みづらい。さらには、次回から出場チーム数が増大するから、「もしかしたら本質的に楽しいワールドカップはこれが最後かもしれない」などの思いもある。
 とは言え、わからないことや悪いことばかり考えても意味がない。近づきつつある世界最大のお祭りを自分自身が楽しむためにも、少しずつ代表チームのことを書いていこうと思う。

 先日の東アジア連盟E-1選手権、韓国に3-0で快勝したのは嬉しいし、従来代表経験が少ないJリーグのトップスターが活躍したのは、まことにめでたかった。とは言え、見事に活躍した各選手だが「カタールへの道」は遠い。今の代表チームは過去4年間の強化が奏功し、いずれのポジションも既に相当分厚い選手層となっているからだ。
 右サイドバックとしてすばらしいプレイを見せた小池龍太、このポジションには酒井宏樹、山根視来と予選で実績を残した選手が2人いる。さらに、森保氏に再三招集された実績ある室屋成、オランダでかなりの評価を受けている菅原由勢、東京五輪でこのチームの中心選手の多くとプレイ経験ある橋岡大樹も控える。既に実績があり海外経験が豊富な選手が5人いるポジションで、小池が「カタールへの道」を獲得するのは、非常に難しい。
 水沼宏太は知性あふれる位置取りと全軍を奮い立たせるリーダシップを発揮、優勝に大いに貢献した。しかし、右FWは伊東純也・堂安律がいて久保建英の選考も危ういほど。これまた相当苦しいと言わざるを得ない(水沼宏太については、あまりに思い入れが大きい選手だけに別に講釈を垂れたい)。
 もちろん、ポジションによって状況は異なる。左FWの有力候補は、三笘薫と南野拓実の2人のみだった。だからE-1で大活躍しMVPを獲得したドラミ相馬勇紀はこの2人に割り込む可能性がある。
 既に実績ある選手が多数いるところに加えて新しい選手が候補として出てくるのは結構なこと。ただ現実的には、多くのポジションでは、負傷がなければおおむね誰が選ばれるか、ある程度予想はついている。

 ところが、現時点でまったく誰が選考されるかわからないポジションがある。センタフォワードである。
 言うまでもなく、このチームのこのポジションは大迫勇也が起用されることが多かったが、ここのところ体調を崩している。そのため、今年6月のブラジル戦を中心とした連戦に選考されたのは、浅野拓磨・古橋亨梧・前田大然・上田綺世の4人。4人とも起用されれば、そこそこのプレイを見せているが、他の選手より決定的に優位に立つ活躍を見せていない。その他に過去、森保氏は、北川航也・オナイウ阿道・鈴木武蔵らを呼んだこともあったが、最近は選考外。そして、先日町野修斗がE-1で活躍して、候補に名乗りを上げた。町野はよく点をとったのみならず、韓国戦で敵DFの詰めが甘いと見るや強烈なミドルシュートを枠に飛ばし、前線でしっかりボールを収めた。欧州クラブ在籍選手不在の韓国とは言え、このアジアの宿敵相手に、これだけのパフォーマンスを見せたのだ。町野の能力は、国際試合でも存分に期待できると言ってよいだろう。
 これほど多士済々のCF候補から誰かを選ばなければならない状況など、過去のワールドカップではまったく考えられなかった。まずは素直に優秀な候補選手が多数いることを喜びたい。
 しかし一方で、事前準備試合はUSA戦・エクアドル戦とあと2試合しかない。ここに至っても、攻撃の中心のこのポジションに誰が選ばれるかまったくわからない。さすがに間に合うのか心配になる。繰り返すが、準備試合はあと2試合しかないのに。

 そもそも森保氏の謎の一つは、大迫不在時にどのような攻撃を狙おうとしているのかがよくわからないことだ。大迫は後方からのボールを収めるのが格段にうまいから、チームはそれを基軸に攻撃をしかけることができる。しかし、そのようなタイプではないCF、例えば浅野や前田を起用しても、森保氏は周りの選手に戦い方を変えるような指示をしているようには見えない。加えて、大迫とは別なタイプのCFと周囲の選手の連係を積極的に築こうとしているようにも見えない。ただ、自チームで好調なCFを連れてきて試合に出しているだけに思えてならないのだ。
 森保政権初期に大迫のバックアップとしてよく選考されていた北川は、アジアカップ前の準備試合で南野や堂安のような攻撃の中心選手とプレイする機会がほとんど与えられなかった。そのため、大迫が負傷したアジアカップでは、得意の鋭い動き出しを見せてもよいパスがもらえず、中々機能しなかった。
 先日のE-1中国戦に起用された売り出し中の細谷真大。この試合で細谷は、周囲の選手と中々連係がとれなかった。それでも、後半に入り、ようやく脇坂や野津田と呼吸が合いはじめ、幾度か好機をつかめるようになった。そうやって得点の匂いを感じせてくれたところで交代となってしまった。ここで交代するならば、何のために、この大会に細谷を呼んだのだろうか。
 これまで森保氏率いる日本代表が追い込まれた試合を振り返ってみる。具体的には、W杯予選の敵地サウジ戦・先日のチュニジア戦が挙げられる(W杯予選ホームオマーン戦は先方に先制されたのが試合終了間際だったので、どうしようもなかったので、これには含まない)。この2つの試合で、森保氏は終盤選手交代を行うが、ベンチに残っている攻撃タレントをただ並べ変えているようにしか見えず、終盤攻撃を活性化できなかった。そもそも、森保氏の公式戦での逆転勝利はアジアカップのトルクメニスタン戦とウズベキスタン戦くらいしか記憶にない。そしてこの両試合とも後半の比較的早い時間帯に(特に選手交代せずとも)逆転したのだから、スタメンの戦闘能力差で勝ち切った試合だ。
 もっとも、森保氏が率いているのはアジア屈指の強豪国、常識的には守備を固め、先制したら確実に勝ち切る試合運びが主体となる。どうしても逆転したい試合などは、中々遭遇しない。逆転勝利が少ないのは、リードを奪われた頻度が少ないからで、むしろ評価すべきかもしれないので、そこは誤解しないでいただきたい。だからこそ、「ホームベトナム戦はしっかり逆転しろよ」と言いたくなるが、まあそれはそれ。うまく行かないから、サッカーはおもしろいのだし。
 森保氏に批判的な文章を続けてきたが、逆転ではないがW杯予選のホーム豪州戦の交代策を述べなければ、森保氏への批評としてはフェアではなかろう。直前に敵地でサウジに苦杯し、勝点3が必達だったこの試合、70分に同点とされた後、前線に伊東・古橋・浅野を並べ(同点前に大迫→古橋と交代、同点後南野→浅野と交替)、疲労気味の豪州DF陣の粉砕に成功した。これは、森保氏の試合終盤の冴えた采配と評価すべきだろう。言い方を変えると、本当に追い込まれると、この監督は冴えるのかもしれないな。本大会でも期待しよう、できればコスタリカ戦やスペイン戦ではなく、2次ラウンド以降で。
 繰り返すが、これまでの森保氏の采配を見ていると、CFと言うポジションに誰を置き、その選手の特長を活かした攻撃をどのように行うか、まったくわからない。逆でもいい、例えば中盤の中核は田中碧、攻撃の突破口は伊東として、この2人が作った好機を活かすために、他のポジションあるいはCFをどうするか、と言う思考がまったく見えてこないのだ。
 思い起こせば、森保氏は広島の監督時代は佐藤寿人という格段なCFを所有し、全選手が寿人に点を取らせることで意思統一がとれているチームを作った。森保氏は、前任のペトロビッチ氏が作った寿人に点をとらせるチームの守備を大幅に改善、具体的には、ボールを奪われてからの切り替えを早くした上で、不用意に大量の選手が前線に上がるのを修正。その結果、守備は格段に改善され、一方で寿人は点を取り続け、森保氏はJ1の複数回制覇に成功した。そして日本代表監督としての森保氏は、チーム黎明期の大迫や、広島監督当時の寿人のような確固たるCFが登場するのを、ただただ待っているようにしか見えない。自らは何の工夫も行わずに。

 私なりの妄想を語る。例えば、敵が中央を固めており、伊東と三笘を両翼に配して彼らの個人技によるサイド突破から点を取ろうとするならば、短い距離の速さで中央のDFを出し抜ける前田や、屈強な欧州や南米のDFにマークされても身体を利かせられるオナイウが有用だろう。例えば、敵にリードを許し、8人なり9人で後方を完全に固められてしまったら、上田や町野のように持ち堪えられるCFを起用し、その後方で狭いスペースでボールを扱える南野や堂安(先日E-1で活躍した西村拓真でもいい)に支援させて、敵陣近くで拠点を作るのが有効だろう。何より上田と町野は僅かな空間をもらえれば強シュートがあり、敵CBを引き付けることができる。また、田中や堂安や鎌田大地の才気、伊東や三笘の個人技で好機を作るから、とにかくネットを揺らす選手が欲しいと言うならば、大ベテランの小林悠と言う選択肢もあるかもしれない、小林ならば田中や三笘との連係も期待できる…
 もちろん、以上は私の妄想に過ぎません。何回でも言うが、ドイツ戦より前に、森保氏にはUSA戦とエクアドル戦の2試合しか残されていない。この2試合で選手個々の特性の新しい組み合わせを作り込むのは現実的ではなく、今さら、オナイウや小林の選考は現実的ではないだろう。
 カタールのCF候補は6月に選考された浅野・古橋・前田・上田、それに復調すれば大迫、そしてE-1の韓国戦で猛威を奮った町野の6人のいずれかだろう。先日の4連戦を見た限りでは、森保氏は浅野と古橋を高く評価しているようだ。予選の敵地豪州戦、6月連戦初戦パラグアイ戦、最終戦チュニジア戦で浅野をスタメンに起用している。一方、古橋は一番重要なセレソン戦のスタメン、苦戦に陥ったチュニジア戦で後半浅野に代えて起用された。浅野が再三単身で豪州守備網を切り裂きかけたこと、ブラジル戦の古橋は守備に奔走していたが強豪相手に機能したことは、それぞれ間違いないし。ただ、森保氏が浅野や古橋を起用して、この2人の特長を活かすような布陣を敷いたことも、田中や伊東ら中軸の特長を活かすようにこの2人を動かしたことは記憶にない。これまでクドクドと講釈を垂れてきた通り。
 いずれにしても、森保氏は、この2連戦前に、候補選手を3人程度に絞らなければならない。「絞る」という言葉を言い換えると「捨てる」と言うことだ。9月シリーズ前に、森保氏は誰を捨てる決断をするのだろうか。

 改めて語るが、過去の日本代表を振り返っても、これだけ有為なタレントが揃ったワールドカップは初めてだ。同時に、カタールに向けてCFに誰を起用するか目鼻が付いていないのも、また確かだ。森保氏には、自分の眼力に自信を持ち、最適と判断する選手を絞り込んでほしい。その絞り込みに、森保氏なりの強い意志があればあるほど、ドーハの超歓喜が近づくはずだ。森保氏にはこの街で29年前の悲劇の復讐を果たしてもらわなければならないのだ。
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2022年08月13日

ベガルタJ1復帰への道筋

 J2も全42試合中30試合を終え、あと12試合。終盤戦に入ろうとしている。
 首位横浜FCが勝点57、得失点差+13、2位のアルビレックス新潟が勝点56、得失点差+24、そして我がベガルタ仙台が勝点55、得失点差+20で3位。4、5、6位のファジアーノ岡山の勝点・得失点差が48・+12、Vファーレン長崎が47・+6、ロアッソ熊本も47・+4。このあたりまでが自動昇格権の2位以内に入れる可能性があるチームだろうか。
 ベガルタとしては、残り12試合粛々と勝点と得失点差を積み上げ、2位以内に入ることに向け全力を尽くすこととなる。何とも重苦しい残り2ヶ月半の間、胃が痛くなるような週末を、ライバルクラブ関係者と共に楽しむことになる。正にサポータ冥利に尽きる充実した日々ではないか。
 もっとも、勝とうが負けようが、調子がよかろうが悪かろうが、毎シーズン「サポータ冥利に尽きる」と講釈を垂れている私が言っても、説得力がないかもしれないがw。

 簡単に今シーズンのベガルタのこれまでの戦いを振り返ってみる。
 まずは、ベガルタ強化部門の慧眼。
 降格した昨シーズンのメンバから、スウォビィク、アピアタウィア、上原、関口、西村と言った中心選手が抜けた。一方で降格し予算も厳しかろう状況で、杉本、若狭、金大鉉、内田、デサバト、大曽根、名倉、鎌田、遠藤、中山と実効的な選手の補強に成功し、それらの選手がみなチームに貢献している。さらにリーグ開幕後に中島も獲得。加えて、先日若狭が重傷を負った直後に佐藤瑶大を獲得。もはや中島はチームの大黒柱だし、佐藤もすぐCBとして出場している。今シーズンの強化部門の手腕は見事しか言いようがない。
 もちろん、原崎監督の手腕も讃えられるべき。
 4–2-2-2あるいは4-2-3-1の並びでサイドMFが中央に絞りサイドバックを前に出すのが基本布陣。前線からの組織守備で中盤でボールを刈り取り、ショートカウンタを仕掛ける。序盤戦はこう言った速攻が目立ったが、シーズンも1/4過ぎたあたりから少しずつ、最終ラインから執拗にボールを回し敵DFのズレを誘った遅攻も有効になってきた。
 昨21年シーズンのベガルタ。序盤戦の守備崩壊や外国人選手補強失敗などもあり、攻撃の道筋を作り込むことができず、J2降格。選手の入れ替わり以前に、チームの基盤から再構築しなければならない状態だった。したがって、J2の上位争いに加わるまでには相当時間がかかるのではないかと、私は危惧していた。実際、開幕戦のホーム新潟戦は0-0だったが、チームの成熟度の差は著しく、引き分けは幸運と言う内容だった。ところが、その後のチームの進歩はすばらしく、上記のように組織的な速攻と遅攻を使い分けることのできるチームを比較的短時間で作り上げることに成功した。
 しかも、序盤戦から、目先の結果にとらわれることなく、ローテーション気味に選手を起用。現状の登録選手でまとまった試合出場がないのは、第4GKの井岡と、このオフに重傷を負った松下のみ。登録選手ほとんどを戦力化することに成功、結果的に負傷者や疫病感染者が出ても、決定的な影響なく試合に臨めている。リーグ序盤から、シーズン終了時点の歓喜を目指す姿勢が貫かれてきたのだ。
 夏季の移籍期間では上記の佐藤以外に新規獲得はなかったが、これも現状の選手層が充実している賜物。実際いずれのポジションも穴はない。もし補強するとしたら現状の選手を凌駕した能力の選手を求めることになる。そのような選手と言うと、J1で中核を担っているようなタレントとなり、現実的ではない。それよりは、シーズン終了後に、J1復帰祝いとして各選手やスタッフにボーナスを提供する方がよほど健全なカネの使い方と言うものだ。

 ではここから、いかに抜け出し、J1自動昇格を目指すか。
 陳腐な言い方になるが、このまま1試合ずつ丁寧に戦いを続ければよい。既に我々の攻撃力はJ2最高だ。総得点60がトップと言う結果もそうだが、手変え品変え、多くの選手が関与する攻撃内容は相当なレベルに達している。もちろん、勝負ごとだから相手がある。先方も、スカウティング、当方準備を外す工夫、試合中の駆け引きなど、様々な手を打ってくる。だからこそ、シーズン序盤から原崎氏が指向していた、多士済済のタレントを併用させるやり方は、一層有効になってくるはず。いずれのポジションにもタイプの異なる交替要員がいるのは効果的だ。
 そして何より、もうすぐ松下が戻ってくる。これ以上の補強があろうか。松下の復帰により、一気にオプションが広がる。フォギーニョ(あるいはデサバト)と中島のドイスボランチが現状のチームの基軸。ここに松下が加わり融通無碍の変化あふれる展開や前線へのラストパスが加わる。もちろん中島を一列上げる選択肢が増えるから、攻撃面で最も頼りになる遠藤の疲弊を防ぐこともできる。
 
 とは言えちょっと気になるのは、原崎氏が「残りすべての試合を全勝する」的な発言をしているような報道を散見することだ。そりゃ、残り12試合勝点36とれば、昇格は間違いないですよ(新潟との直接対決も残っているし)。けれども、常識的に考えれば全勝せずとも優勝あるいは2位の獲得は決して不可能ではなく、ここから大事なのは徹底したリアリズムのはずだ。もっとも、原崎氏が選手達に向かって、「絶対全勝!」的な精神論を語るのも「勢い付け」と言う意味では有効だろうし、そもそもマスコミ受けしそうな発言をすることも監督の責務かもしれない。原崎氏自身も本気で12戦全勝が昇格ラインとは思ってもいないだろうが。
 リアリズムの徹底と言う視点から言うと、チームとして疲労が重なり、中盤で敵を止められなくなった場合の戦い方にもう一工夫ほしい。そのような展開となったら、もう少し後方でゆっくりとボールを回せないだろうか。
 例えば、敵地町田戦。攻守のバランスがよく、セットプレイをしっかり決めたこともありアウェイながら3-0とリード。ところが、交代策が遅れたこともあったが、中盤のバランスが崩れた終盤、ボールキープもままならなくなり、3-2に追い込まれかろうじて逃げ切った。大量リードしていたのだから、DFとMFは後方に引いて落ち着いてボールキープしたいところだった。
 例えば、敵地琉球戦、前半リードし2点差以上に突き放す好機もつかみながら決めきれず。結果的に同点で終盤を迎えた。守備を固めた琉球に対し、終盤突き放そうと無理に攻め込もうとして、逆に全軍が間伸び、再三逆襲速攻から決定機を与えてしまった。GK杉本のファインセーブがなければ勝点ゼロに終わってもおかしくなかった。敵が引いて待ち構えていたのだから、引き出す工夫が欲しかった。
 例えば、敵地山口戦。おそらく疫病の影響だろうか、控えにユースの山田をいれなければならない厳しい布陣。先制を許すも前半のうちに逆転に成功。その後2点差にできそうな好機もあったが決めきれずに迎えた終盤戦。後から投入した控え選手も体調がよくないようで、ノーガードの攻め合いにしてしまった。再三のピンチも杉本の候補でしのいだが、アディショナルタイムに(よりによって!)渡部博文に同点とされ、その後も危ない場面が再三、「勝点1を獲得できてよかった」と言う試合にしてしまった。控え選手の体調も今一歩だったのだから、後半半ばで無理をせず引いてリードを守りに行く手段もあったのではないか。
 要は状況が難しくなったら、無理をせずにボールを回し、前に出て行かない勇気を持ちたいと言うことだ。双方が疲弊した試合終盤だ、敵の前線でのプレスも甘くなるはず。それでも敵が前線でボールを刈り取りに来たら、フォギーニョやデサバトのさばきから、金太鉉や中島や蜂須賀そして松下の精度高いロングボールで裏を狙えばよい。そのような展開下でベンチに温存していた皆川を起用すれば一発の裏抜け狙いはもちろん、オープンでの拠点も作ってくれるだろう。終盤苦しい時間帯に自陣で多くの時間を費やすやり方は精神的には楽ではないが、今のベガルタ各選手の判断力があれば十分にこなせると思う。

 そうやって、勝点も得失点差も丹念に丹念に積み上げていく。極端な言い方をすれば、結果的に勝点3が取れなくとも負けるよりは引き分けの方がずっとよい、負けたとしても点差を詰める、冷静に冷静に考え、少しでも少しでも勝点と得失点差を積み上げる。残り12試合、1試合あたり約95分と考えれば約1140分、この約1140分間をそうやって綿密に綿密に戦い抜けば、J1復帰は必ずついてくる。
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2022年05月18日

続 赤鬚のフォギーニョ

 最近作文をサボり過ぎていたと少し反省しました。短くてもよいから少しは頻度を上げるようにします。

 さて、ここのところ好調なベガルタ。前節はツエーゲン金沢に4-1で快勝、自分のクラブの大勝、それだけで最高だったのは、言うまでもない。
 加えて嬉しかったのは、私の大好きな赤鬚のフォギーニョが来日初得点、それもいきなり2得点を決めてくれた。もちろん、贔屓選手の連続得点は喜びも格段。しかも、2つの点の取り方が、タフファイトを得意とするこの赤鬚らしいものだったのだから、堪えられなかった。

 前半互角の攻防ながら、35分過ぎ自陣からの遅攻で崩して得たFKを中島が強烈に決めて先制。
 そして迎えた後半、圧力を加えてきた金沢の猛攻をかろうじてしのいだ49分。左DF内田が自陣でボールを奪い、中島が左サイドで前進する氣田へ。氣田は中央富樫につなぎ、富樫が見事なターンで逆サイド加速して前進する名倉へ。この富樫の展開で、ベガルタは手薄な逆サイドからの速攻スタートに成功した。少し前進した名倉は、落ち着いて中央遠藤にラストパス。遠藤は、いかにもこの男らしい優しいボールコントロールから、ターンして得意の左足シュート。しかし、惜しくも敵DFのブロックに防がれる。そのボールがこぼれ、帰陣しつつあった金沢MF2人の中間にこぼれたところに、我らがフォギーニョが襲いかかる。いかにも、この赤鬚らしい加速でボールを確保し、ペナルティエリア内に進出。敵DFのカバーが遅れるとみるや、やや外側の自分のシュートレンジに1歩ドリブル(と言うよりは「ボールを丁寧に置き直した」と言う表現が正確か)、立ち足の左足を鋭角に踏み込んで低いインステップキックで逆サイドネットに蹴り込んだ。トラップからシュートの流れは見ていて気持ちよいくらい、本人の意図を感じた。決して足が速い訳でも、精妙なボール扱いを誇る訳でもないこの守備的MF。長駆前進力と丁寧なボール扱い、本人の特長を完璧に活かした得点だった。シュートが決まった時、攻めに絡んだ氣田・富樫・名倉・遠藤の4人がペナルティエリア内外に進出、金沢の4DFはその4人を捕捉中。一方帰陣した金沢MFは3人いたが、フォギーニョの勢いに完全に置いていかれ何もできなかった。フォギーニョは5対7の数的不利を打ち破ったのだ。

 続く60分過ぎ。ベガルタ陣内で金沢右DF松田陸から中央でパスを受けたボランチ藤村に、フォギーニョが襲いかかる。そしてボール奪取に成功、10mほど前に位置取りしていた冨樫に縦パスし、ダッシュで前進。冨樫は落ち着いた溜めから、左サイドを疾走する氣田に好パス。この時点でベガルタは、氣田と遠藤が残っていた金沢の2DF(松本と庄司)に対して、2対2の形を作ることに成功した。正にボランチボール奪取から、トップの好ターンと言う絵に描いた速攻。フォギーニョの前進開始時に、松田陸も藤村も同様に高速で帰陣しようとしたが、冨樫の溜めにつられ、2人とも減速してしまった。そのため、フォギーニョは藤村より数m敵陣に近いところを疾走する状態となった。ここで勝負あり。トップに残っていた遠藤は、フォギーニョの高速前進を見て、左サイドに流れ氣田の縦パスを受ける。この時点で、氣田について外に流れた松本は無力化。残るは遠藤とフォギーニョ対庄司の2対1。中央をルックアップした遠藤は、もうこの時点で全身に喜びを表したかのような雰囲気で、強く正確なグラウンダのラストパス。庄司は何もできない。赤鬚はゴール前4mの距離で左足インサイドキックで誰でも決められるようなシュートを決めた。シュートそのものは簡単だったが、ボール奪取力と躊躇せず高速前進を継続した決断力、これまたこの守備的MFの卓越した特長が完璧に発揮された得点だった。

 2得点とも、この大好きな赤鬚の高速長駆の前進が活きたと言う意味では共通点がある。しかし、発揮した持ち味は、上記の通り異なる得点。贔屓選手(最近の流行り言葉では「推し」と言うのかな)の能力をじっくり堪能できた快勝。まこと、サポータ冥利に尽きる試合だった。ああ、現地にいたかった。

 ついでに言うと、いずれの得点も遠藤と赤鬚によるもの。この2人のボール扱いの精度を比べると、遠藤の方が格段に上なのは言うまでもない。格段に上手な日本人の演出で、タフで頑張るブラジル人が見事な得点を相次いで奪った。よい時代になったものだ。日本サッカーの向上と、ブラジルサッカーの奥深さ。
 この2人の連係を思いながら、6月6日はセレソン戦を堪能できる。繰り返すが、よい時代になったものだ。

https://www.youtube.com/watch?v=2G2MK9w6HcE
posted by 武藤文雄 at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月15日

2022年サッカーはどこまで正常化するか

 遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。最近筆が重くなって、なかなか更新できませんが、ゆるゆると講釈を垂れていこうと思います。

 約2年間、疫病禍に襲われたこの世界。国内外、関係者の多大な努力で何とかサッカーを楽しむことができていた。幾度も語ってきたが、関係者の丹念な努力の賜物、改めて感謝したいと思う。
 残念ながら、年が明け新変異したオミクロン株により、状況が再び悪化したようだ。高校選手権準決勝関東一高の出場辞退、ラグビーリーグワンの開幕戦中止。日本国内での陽性者増加も悩ましいが、欧州主要国では10万人オーダの日次新規陽性者増加とのこと、「だったらマスクぐらいしろよ」とも言いたいが。声を出して応援できる環境に羨望しているだけかな。
 そもそもCOVID-19対応は科学的に何が正しいのかよくわからないのが厄介。ここ最近の陽性者増加が、我々の正常な生活に対してどのくらい深刻なリスクなのか、それを客観的に示してくれるマスコミ報道がどれなのか判別し難いのが大きな悩みとなっている。

 先ほど「関係者の努力」と簡単に述べたけれど、すべてのサッカー人の「努力」には感謝の言葉もない。
 国内の若年層の公式戦、Jリーグを頂点とする国内のトップレベルの試合、各種国際試合、それぞれのレベルで、それぞれのリソースを駆使しながら異なる対策が行われてきた。
 国際試合での帰国時の「バブル対応」、ACL奮闘直後にJの各クラブが相当な苦労をしていたのは記憶に新しい。また月末に行われるワールドカップ予選のバブル対応について、先日ヴィッセル神戸の実質オーナの三木谷氏が噛み付いたのもごもっとも。
 国内トップレベルの試合で陽性者が出た場合の適正対応、何か起こる度にマスコミがおもしろおかしく語る中での難しい対応だった。Jリーグ当局が早々に立ち上げたプロトコル。プロ野球との連係を早々に立ち上げた政治的手腕もすばらしかったが、早々に明確なルールを作り、丸々2年運用継続をおこなった手腕は尊敬に値する。もっとも、その延長で湘南対浦和を無効試合にしてしまった痛恨時も表裏一体なのかもしれない。賞賛するしかない業績と、非難するしかない業績。
 上記した今年の高校選手権の準決勝の悲劇ほどではないが、約1年前の高校選手権でチームメートが競技場ではなく学校での応援を余儀なくされたのも残念だった。いや、それ以上に大きな大会でもやむを得ず中止の判断が行われたケースも多かった。それでもサッカーは、相応の組織力があり、多くの人々の献身的努力により、他競技よりは中止の悲劇を防ぐことはできた。
 グッとレベルは下がるが、底辺の少年団でも本当に大変だった。中でも大事な少年団最後の大会が中止になった時の子供たち、そしてずっと自分の子供とその大会に向けて準備を進めてきた父親コーチの失望を見るのは、それぞれつらかった。それでも子供たちは小学校を卒業した以降も無限のサッカーライフが待っているが、父親コーチには次はない。14年前とは異なり、彼らは人生の歓喜を味わえなかったのだ。

 また幾度か語ったことがあるが交代人数が増えた新ルールは、サッカーを大きく変えた。活動量が激しいポジションは交代を行うのが前提の戦い方が当たり前になっている。長期のリーグ戦でも、短期決戦一発勝負でも、監督の作戦と駆け引きがやたら複雑になったこのルール変更。年寄りとしては抵抗感もあるが、サッカーの新しい側面を見せてくれている。もっとも、このルール変更にまったく対応することができてない代表監督を抱えているスリルも中々なのだが。
 
 そして、サッカー観戦で声を出せないつらさは格段だ。

 そうこうしながら2年近い月日が流れた。
 冨安健洋、遠藤航、田中碧、伊東純也らがいるだけに、どんなに代表監督が愚行を重ねても出場権獲得はまったく問題ないと思っている。
 しかし、俺はカタールに観客として行けるのだろうか。我々は、あと約10ヶ月でノンビリと観光旅行を楽しめる世界を取り戻すことができるのだろうか。
posted by 武藤文雄 at 00:39| Comment(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年11月21日

私はベガルタ仙台の将来を楽観視している

 J2降格が決定した。
 今の感情を日本語化すると、どうなんだろう。空虚感と言うのだろうか。
 類似の感情は幾度か経験ある。2009年シーズンの入替戦の磐田、2003年シーズンの降格決定、1993年のドーハのアルアリスタジアム。もちろん悔しいし悲しい、胸が張り裂けそうだ。でも、胸は張り裂けそうだが、物理的に何かを失ったわけではない。誰かが肉体的に傷ついたり、もちろん命を落としたりもしていない。多額の資産を失ったわけではない。
 改めて思う。それでもここまで感情が揺さぶられるのだ。改めてサッカーのすばらしさを感じている。 

 今シーズン、ベガルタ仙台にとって最も重要な活動は、将来に渡りクラブとして存続できる体制再構築だった。そして、クラブは昨シーズンの債務超過問題を1年前倒しで来年度までに解決する目鼻を立てた。佐々木社長以下、ベガルタ仙台はその最大目標はしっかりこなしてくれた。また地味ながら、スポンサの増加や、広報活動の充実など、過去思うように進められなかった活動も、一定以上の成果を出している。
 そして今シーズン、2番目の目標はJ1残留だった。残念ながらそれに失敗したわけだ。
 J2降格は、クラブとしては衝撃的な出来事だが、クラブを未来永劫存続させるための、最優先とされる活動は成功しつつあることは忘れてはいけない。もちろん、この降格に伴い、直接ベガルタに関与している方々の収入などに残念な影響がある恐れはある。そのような方々に一介のサポータが無責任なことは語れないが、もっとも重要なのはクラブの永続的存続なのだ。

 元々、J1クラブの中では経営基盤の小さいクラブ。戦闘能力が優れた選手を集められているわけではない。また、上記した債務超過問題もあり、前向きな投資(特に補強面)が行いづらい状況もあった。数年前より改善されているとは言え若年層チームからの選手補強も、まだまだ不十分だ。
 その中で、約10年前に我がクラブで格段の成果を残し、五輪代表監督としても成果を見せた手倉森氏に託した今シーズン。結果は出なかった。
 J1残留に失敗したチーム戦略での失敗要素は、いくつも挙げられる。
 4-2-2-2を基本布陣としたが、いわゆる攻撃的サイドMFは、関口大老と新人の加藤以外のタレントは機能しなかった。移籍加入した氣田と秋山、シーズン中チームを去ったクエンカとマルチノス、潜在力は高そうだが負傷ばかりのオッティ。今シーズンも目立った活躍できなかったユース出身の至宝佐々木匠。シーズン前期待したタレントの多くが機能しなかった。終盤、中原や西村をこの位置に起用し機能させるに成功したのは確かだが、あまりに泥縄だった。湘南に先制点を許した場面、敵主将の右MF岡本がまったくフリーで前線進出しているのに、左サイドMFの西村は遥か彼方に位置取りしていたのが典型だった。
 中盤戦で、引き分けられる試合にもかかわらず、試合終盤に無理に勝ちを狙いに行き勝ち点を失ったのも痛かった。敵地札幌戦や、ユアテック福岡戦、清水戦がその典型。開幕直後は、様々な要因でチーム力が上がらず惨敗を繰り返す時期があったが、4月以降はいずれのチームと相応の戦いができるようになっていた。この3試合の終盤を丁寧に戦い、1試合でも勝ち点1を拾うことができていれば終盤戦の様相は随分と変わっていたはずだ。
 終盤、残留争いチームとの直接対決にことごとく敗れたわけだが、一方で神戸や名古屋など上位を争うチームとは相応の戦いができていた。これは最近の潮流となっているスカウティングによる各試合の対策が不十分だったとしか言いようがない。
 しかし、上記のような戦略不備は、一方で将来を見据えた各選手の成長・チームとしての基盤戦闘能力向上に寄与した可能性もある。来シーズンはJ2での戦いを余儀なくされるし、今シーズン経験を積んだ中心選手をどこまで保持できるかの問題もあるのだが。

 J2の戦いは非常に厳しいものがあるだろう。J1経験あるクラブがJ3に降格する事例もあるし、短期のJ1復帰が容易ではないことは自明のことだ。またCOVID-19影響で、基盤観客動員数が大幅に減ってしまった回復からの再スタートとなる。クラブ経営、若年層育成、補強、やらなければならないことは無数にあるだろう。、多くの企業の合同経営体制、曖昧な責任体制など、経営の根底にかかわる問題も山積している。多くのサポータが、悲観的な発言をしているのは理解できなくもない。
 けれども、私は楽観的だ。何故ならば、上記した通りベガルタ仙台の経営層は、今シーズン最大の難題を解決しつつあるからだ。直近の問題に対し、優先度をつけた実績を挙げている経営陣は信頼できる。
 ともあれ、サッカーなのだ。目先の試合に勝つことが重要なのは言うまでもない。まず今シーズンのまずは残り2試合、どのような戦いを行い、結果を出せるか。まずはそこに注目したい。この2試合をしっかり戦うことができるかどうかは、来シーズン、いや将来のベガルタにとって重要なはずだ。

 改めて、12年に渡りJ1を維持し、ACLも経験させてくれたすべてのベガルタ関係者に感謝したい。
 今シーズンも、ここまで結果も内容も思わしくない試合が多かったが、私としてはサポータ冥利に尽きる経験を積むことができた。残り2試合を丹念に戦うベガルタを楽しみにしている。そして来期は来期で、じっくりとベガルタを楽しめる。
 故郷にプロサッカークラブがあり、毎週末その奮闘を楽しむことができる。どんなに空虚感に襲われても、私は幸せだ。
posted by 武藤文雄 at 23:54| Comment(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする